下
「おはようあおい」
「……ここ、は」
「病院だよ」
「私……なんで」
「あおいストーカーに襲われたんだよ」
「……ストーカー?」
「ほら、先週あおいに告白してきた男の子。あいつがあおいを廃工場に監禁したみたい。振った腹癒せに襲ったって……ほんとバカみたい」
「……まじで」
「まじじゃ」
「……そういえば最近誰かにつけられてる気がしてた」
「ちょ!? それをなんで言わなかったの!」
「……ごめん」
「ほんとだよ。あおいモテモテなんだから」
「ほとんど女子にだけどね」
「あはは、そうだね」
「……ういかが助けてくれたの?」
「うん」
「どうして場所が分かったの?」
「……私とあおいは繋がってるから」
「えー? 何それぇ」
「あおいの両親……私知ってるよ」
「……え。知ってるって……どういう……こと」
「……知ってたの、ずっと前から」
「どこにいるの!?」
「……もういない。もう亡くなってる」
「そう……なの」
「うん。お父さんはあおいが生まれてすぐに。お母さんは11年前に」
「……11年前。それって……」
「うん。私のお母さん」
「……え」
「私とね、あおいはね、姉妹なの」
「…………」
「血の繋がった姉妹なんだ」
「……何……言ってんの?」
「11年前、お母さんがね、亡くなる前に何もかも話してくれたんだ。私たちの一族のこと」
母は私にこう言った。
あなたには双子の妹がいる。生まれてすぐにあなたと妹、どちらかを手放さないといけなかった、と。
「手放すって……なんで?」
母の一族は代々娘をひとりしか授かってはいけない。もしもふたり以上授かってしまうと……一族は滅びてしまう。
「滅びる……」
「つまり、みんな死ぬってこと」
「……意味、分かんないんだけど」
「……詳しいことは私も分からない。だけど、お母さんがあおいを施設に送ったのは私たちの為だった。お母さんは一度だってあおいのことを忘れたことはなかったから」
一族の死を防ぐためにあおいを手放した。私じゃなく、あおいを。
「じゃあ、私かういかが施設に送られるのは生まれた瞬間から決まってたってこと……?」
「……うん」
「それで、手放したのがたまたま私の方だった……」
「……うん。ずっと黙っててごめん」
あおいはしばらく口を閉ざした。私に目を合わさず、じっと窓の外を眺めて。
そして、あおいはフッと微笑んだ。
「そっかぁ。良かった」
「……え?」
「施設に送られたのがういかじゃなくて良かった」
「……あおい」
「じゃあ私、ういかのことお姉ちゃんって呼ばなきゃだね」
「……あおい」
平気なふりをするあおいは、施設にいたあの頃と同じだった。
「あおい……あおい……」
私はあおいの華奢な身体を抱きしめた。ギュッと、苦しくなるくらい。
「ちょっとういか!? 急に何す──」
「泣いていいんだよ、あおい。あおいは頑張りすぎだよ。私の前でだけは頑張らなくていいよ」
「……えぇ、もうういかぁ。へへへ……、何だよもう……、ういッ……うぅう……ぐす、うい……かぁ……。うわぁああああああん」
あおいは私の肩に顔を埋めて泣いた。今まで我慢していた分、たくさんたくさん。
私たちは、ひとりじゃない。
遠い昔、女しか生まれない一族がいた。
一族は、ある日大罪を犯した。
怒った神様は一族に天罰を下した。
一族の繁栄を防ぐため、子をふたり以上生んでしまうと「死」を与えるという罰を。
一族は呪いを背負って生きることとなった。
神に背いた一族は、やがてこう呼ばれるようになった。
悪魔に従属する女賊……「魔女」と。
「ういか、あなたは初夏に生まれた太陽の様に明るい子。そして妹のあおい、あなたは初夏に咲く花の様に美しい子。お母さんはあなたたちを愛しているわ。離れていても、私たちは繋がっている。ういか、あなたは必ずあおいと出逢う。そしたら、あなたがあおいを助けてあげるのよ。なんたって、ういかはお姉ちゃんなんだから。お母さんはずっと見守っているから。ういか、あおい、元気でいてね」




