序
むかしむかし、それはそれは立派なお屋敷で暮らす王子様とお姫様がおりました。2人はとても仲良しで、いつも笑顔が絶えない素敵な夫婦でした。
やがて2人のあいだに子どもが生まれ、幸せな毎日がやってくると誰もが思ったそんな時、王子様が謎の病に侵され、とうとう天国へと旅立ってしまいました。
かなしみに涙を流すお姫様には、無邪気な笑顔を見せる娘たちの姿が唯一の救いでした。
時が経ち、娘はとてもしっかり者のかわいい女の子になりました。女の子の名前は『ういか』。初夏に生まれた太陽のように明るい女の子。
「やーいやーい、まじょはこのまちからでていけー」
お姫様の正体が魔女であるという噂が流れ始めたのはちょうどそんな時でした。
どうしてそんな噂が流れたのかは分かりません。次第に立派なお屋敷にカラスが飛びまわるようになり、お屋敷の空気がガラリと暗くなっていきました。
町を歩くことすらできないほどに村人たちからの野次が絶えず、とうとうお姫様と娘のういかはお屋敷にこもるほかなくなってしまいました。
ホウキを手に庭を掃く毎日。
幸せだったあの日はどこに行ったのでしょう。
掃き掃除を終え、屋敷の中に入るとういかは薄暗い部屋に入りました。
部屋には真っ白なベッドがぽつんとひとつ。その上に青白い顔のお姫様が寝ていました。
包まれた布団が上下にゆっくりと動いています。お姫様の口から吐かれた吐息は今にも途絶えそうなほど弱々しく、その姿は謎の病に侵された王子様と重なりました。
ういかはお姫様に言いました。
「おかあさん、どうしてみんなおかあさんのことをまじょってよぶの?」
お姫様はそれには答えず、ういかに謝るばかりです。
「ごめんね、あなたにまで嫌な思いをさせてしまって」
「そんなことない! ただ……ういかは、おかあさんのことをわるくいわれたくないの」
「お母さんはね、何も悪く言われているなんて思っていないのよ」
お姫様の言葉にういかは首をかたむけます。
「けど! まじょなんていうのよ? わるくいってるにきまってるわ」
「ういか……、あなたに話さなきゃいけないことがあるの」
お姫様は、これまで口を閉ざしていた真実をういかに話しました。
そして……全てを話し終えると、満足そうな笑顔のまま王子様の元へ旅立っていきました。




