士官学校附属高校編7
食堂で昼食を摂っているとニコニコしながらクリストフがやってきた。
「グレン君。美人のガールフレンドが居るらしいね。」
ん?俺の近しい美人と言えばヴァレリーだろうがどこでそんな情報を?
「ガールフレンドではないね。」
そもそも人間じゃない。
「ほう。ではどんな関係なのかな?」
なんだろうな。パートナーと言うと誤解されるだろうし。
「ビジネス・パートナーってとこかな。」
回答がクリストフの興味を惹いたようで表情が少し変わった。
「そのビジネスの内容を聞きたいね。」
「軍の機密事項なんで黙秘する。」
クリストフはお手上げのポーズを取った。軍の機密だと言われたら士官候補生は何も言えないだろう。俺は以前からクリストフが計画内容を知っているとのではないかと思っていた。アルベルトがライバル視していることから考えて、クリストフの親族も軍の相当な地位に居るのではないだろうかと思っている。それでいて計画の内容を知らないとすれば、うちの命令系統とは別命令系統に居る偉い人ということだ。恐らくライバルに当たるのだろう。ライバルが何をしているか知りたいと思うのは当然なのでそう思っている。
「じゃあ今度そのビジネス・パートナーを紹介してよ。」
「俺の一存じゃなんとも言えないね。」
「そうか。残念だなぁ。」
クリストフは余裕の笑みを絶やさず頷いた。何かよからぬことを考えてそうだ。
翌週の休み。いつも通り俺は寮監に外出許可を出し、エレカーで研究所に向かった。研究所の停車所にはヴァレリーが出迎えてくれた。
「おはよう。ヴァレリー。」
「おはようございます。グレン。」
俺たちは並んで研究所の中へ入って行った。
「博士。おはようございます。」
「おはよう。グレン。では早速始めよう。」
今日のシミュレーションのシチュエーションは月面での戦闘だった。小さいとはいえ重力がある中でのスペース・トルーパーの運用は無重力状態とは少し勝手が違った。何もしなければ月面に引き寄せられるのである。飛び続けたりする場合はヴァレリーが補正してくれるが、推進剤の消費は激しくなる。月面は凹凸があるため地形を上手く利用して戦う必要がありそうだ。
シミュレーターでは1対1では遅れを取ることはまずない。相手の攻撃を避けながらどんどん距離を詰めていく。ある程度の距離での射撃の刺し合いならばこちらはほぼ避けられる。そうなると相手はジリ貧でこちらの射撃がいずれ当たるか、隙を見て距離を詰めプラズマ・ブレードで切断する。
《1対1だと相手の反応速度を上げた方がいいね。次回までに調整しておくよ。》
難易度が上がりそうだ。そして5対1は相変わらず厳しい。3対1ぐらいだとなんとか1機を落とせるのだが、それ以上になると手数の問題で避けきれない。
5対1が終わるとヴァレリーが俺の手を取って、ナノマシンの調整をする。ヴァレリーを見つめ合うのは慣れない。恥ずかしくなってくる。
「そう言えば学校でヴァレリーのことを聞かれたよ。」
「私のですか?どこで知ったのでしょう?」
そう言えばどこで知ったんだろうか。普段はこの研究所に居るわけだから前回の月面基地で誰かに見られていたということだろうか・・・。ありえる。ヴァレリーは目立つ。
「前回の月面基地でじゃないかな。俺と一緒に居たって言ってたから、研究所以外だとあそこしかないはず。」
「そうですか。基地の方はたくさん居ましたしね。」
その基地の情報をクリストフがどこから仕入れたかが問題だ。あいつは本当に得体が知れない。その後3対1をやって今日のシミュレーションは終了となった。最後の3対1は改心の出来で相手の動きが良く見えた。『タロース』の操縦にも慣れてきたのかもしれない。
翌日の昼食時アルベルトに呼び止められた。
「この娘は誰なんだい。紹介してくれないか。」
アルベルトが差し出した端末には俺とヴァレリーが並んでいる画像が表示されていた。昨日の研究所前で隠し撮りされたようだ。
「この画像はどこで手に入れたんだ?」
俺が驚きを隠さずに聞くと
「クリストフから回ってきた。」
と言われた。あいつは隠し撮りの趣味まであるのか。そうこうしていると他の同級生たちはおろか、寮の上級生までが集まりだした。
「俺にも紹介してくれ。」
「この娘の姉妹でもいいぞ。」
「ちょっと待って。待って下さい。」
俺は押し掛ける人たちを制止しながら、
「よく考えて見て下さい。この娘は美人すぎるでしょ。ガイノイドですよ。ガ・イ・ノ・イ・ド。」
それを聞き周囲はさらにざわめいた。
「じゃあ貸してくれ!」
「俺も!」
「俺が先だ!」
状況が悪化した。士官学校には当然女性も居る。女生徒たちの視線が冷たい。
「俺のじゃないですよ。軍のです。」
「ぐ、軍のものだって?」
皆に動揺が広がる。
「俺の物ではないので貸せません。」
「なんで軍がこんなガイノイドを持ってるんだよ。」
「そうだ。何目的だよ。」
「機密なので言えません。」
動揺は更に広がって行った。そこでチャイムが鳴り午後の授業が始まる時間となったため、生徒たちはそれぞれの授業へと移動していった。その日の授業が終わる頃には様々な憶測が飛び交うカオスな状況になった。




