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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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士官学校附属高校編6

 今日は研究所でのシミュレーションでなく、オーバーホールが終わった『タロース』の試運転をするため、月面基地にやって来た。テオ博士たちは先に基地入りして観測機器などの取り付けをするそうだ。現地集合のためエレカーで指定された場所付近の停車場に着くとヴァレリーが出迎えてくれた。

「お待ちしておりました。」

「ありがとう。ヴァレリー。」

 俺はヴァレリーの案内で軍基地の入口へやってきた。支給されている身分証を呈示し基地内に入る。更に『タロース』が格納されている格納庫にやってきた。『タロース』は大分形が変わっていた。量産機の『クロウ』に似ている。

「『タロース』の形が変わってるな。」

「はい。前の形だと目立つので『クロウ』に似せたと聞いています。」

 今更の気がするが、人民軍が再び見ても前の物と同型機だとはすぐにはわからないだろう。

「中身は変わってないの?」

「一部機器を置き換えたと聞いています。観測機器も最新になります。」

 ほうほう。その変えた機器の確認をするための試運転だな。

「あちらに更衣室があるのでパイロット・スーツに着替えて下さい。」

「わかったよ。」

 俺は更衣室に行き、用意されていたパイロット・スーツを着込んだ。パイロット・スーツには観測機器が取り付けられており、通常の物とは違うようだ。パイロット・スーツは民間の船外服より高い分、かなり動き易く作られている。着替え終わったので『タロース』の元へ行く。

 『タロース』は格納庫の壁に作られた乗降用の通路にコックピットを向けて立っている。月は重力があるので無重力状態の施設と作りが違うことが多い。俺は感心しながら階段を登り、コックピットの前までやってきた。コックピット前にはヴァレリーが待っていた。テオ博士たちの作業は終わっているようだ。

「グレン。準備はできているので搭乗してください。」

「わかった。『タロース』の実機は久しぶりだな。」

 普段研究所でやっているシミュレーターは、『タロース』を模して造られているとのことなので操縦感覚に違いはないだろう。俺はコックピットに座って座席調整をした。ヴァレリーも乗ってきてハッチが閉まった。コックピットに乗り込むとテオ博士から通信が入った。

《これから『ヘーニル』の試運転を開始する。準備が出来次第エアロックに向かってくれ。》

「了解。」

 そうそう。『タロース』の正式な愛称は『ヘーニル』と言うらしい。北欧神話とかいうものの神様だとか。全然慣れない。

「発進シークエンス開始。」

「発進シークエンスを開始します。」

 俺の視界の端にチェック項目が出てはOKとなり消えていく。この間イグノア設定した設定も元に戻っていた。まぁ当然か。

「発進シークエンス完了。オールクリアです。」

「了解。コネクト開始。」

「コネクト開始します。」

 俺の視界がコックピット内から基地内の壁へと変わった。俺は格納庫内を歩き、エアロックへ向かう。エアロックは四角い部屋でスペース・トルーパー4機ほどが入れる大きさだ。扉が閉まり空気が抜かれていく。その間にこの部屋はエレベーターよろしく上昇しているとのことだ。上昇が一旦終わり、空気を抜き終わると天井部分のハッチが開いていく。そしてもう一枚のハッチがあり、それも開くとその先には青い星と黒い空が広がっていた。更に床は上昇し、『ヘーニル』は月面上に立った。録画映像では何度も見たことがあるが生まれて初めて<マンホーム>を生で見た。

「あれが<マンホーム>。」

「はい。人類発祥の地です。」

「ヴァレリー。拡大して見せてくれ。」

「拡大します。」

 空に浮かぶ<マンホーム>は通常の倍率だとそこまで大きくなかったが、拡大をすると海と陸地らしきものが見えた。青い球体の周りにはぐるりと円がある。

「あの円は?」

「<リング>ですね。衛星軌道ステーションです。」

「じゃあ<マンホーム>から生えてる黒い線が軌道エレベーター?」

「はい。そうです。」

 あれが軌道エレベーターと<リング>か。<マンホーム>から宇宙への玄関口。

《感動しているところ悪いが試運転に入ってくれ。》

「あ、了解。」

 テオ博士に注意され、俺は試運転に入った。


 俺は地面を蹴るとそのまま上昇するように思考した。すぐに月の重力を振り切り『ヘーニル』は宇宙へと飛び出した。

 

「ヴァレリー。『タロース』なんか変じゃない?」

「どこがでしょうか?」

 なかなか『ヘーニル』呼びに慣れない。

「なんかレスポンスが良い気がする。」

「部品を替えたからでしょうか。」

「そうかもしれないな。」

 試運転の試験項目は順調に消化されていった。たまに<マンホーム>を見たり、月面の方を見たりする。<シリンダー>生まれの俺に取っては両方珍しい景色だ。ずっと見ていても見飽きない。これだけでも月に来た価値があるというものだ。いつかは<マンホーム>にも降り立ってみたいものだ。

 

《お疲れ様。試運転項目は全て完了したよ。》

「了解。帰投します。」

 試運転の項目は全て完了した。特に問題は見当たらなかった。俺は上がってきたエアロック・エレベーターに戻ってきた。着陸すると床がゆっくり沈んでいきハッチが閉まる。そして元の格納庫に戻ってきた。俺はコックピットを乗降廊下に接続するとコネクトを解いた。

「グレン。お疲れさまでした。」

 視界がコックピットに戻ってくるとヴァレリーが迎えてくれた。

「ヴァレリーもお疲れ様。」

「今日の作業は全て完了です。」

「了解。寮に戻って課題の続きをやるよ。」

「わかりました。基地の外までお送りします。」

「頼むよ。」

 初めて来た基地なので道順が覚束ない。俺はパイロット・スーツを着替えるとヴァレリーに入口まで送って貰い、エレカーで寮に帰り着いた。

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