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Dream Diver  作者: 葱間鶏肉
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 電車の中にいた。見慣れない景色だった。普段使わない電車に一人で乗っていた。周りには何人か、やはり見知らぬ人が座っており、一様に下を向いていた。チカチカと電気は明滅していて、不気味だと感じる。車体は古く電光掲示板はない。どこへ向かっているのか皆目見当もつかない。

 なんとなく、進行方向から後ろの方へと座った。学校の座席でも後ろを好む方だ。全体が見渡せるだけでなく、多くの人の死角に当たるそれは、誰にも見られていない安心感が生まれる。こんなに不気味な車内で、死角がある前方の席なんて、まっぴらごめんだ。

 暖房とは違う、生暖かい空気が流れてきた。前方の扉が開いて、大柄な男がゆらりと現れた。顔には猿のお面があり、服装がかろうじて駅員と思えるものだったが、なんともふざけているかのようだった。

 窓の外は、夜なのかトンネルの中なのか。何も見えず、闇がそびえている。

「次は活け造り、活け造り」

 機械的で無機質な声が車内に流れる。しかしそれは、行き先を表すものではない。猿面はコツコツと靴底をならして、近寄っていく。その腰には、なにか刃物がぶら下がっていた。ぶわっと汗が出る。普通ではない。脳内で警鐘がなっていても、恐怖からか身体は動かなかった。

 一番前の席に座っていた男の横で、猿面は止まった。くたびれたスーツの男は微動だにせず、猿面は腰にぶら下げてある刃物を手に取る。それを大きく振り上げ、思いっきり振り落とされた。首は飛び、噴水のように赤黒い液は噴出した。数滴顔にかかったが、温かく、鉄臭い。血だ。まぎれもなくこれは血だ。理解をしてしまえば、この猿面が何をしようとしているのかはすぐ理解できた。

 人間の男を、刺身のように捌いて、アナウンスの通りに活け造りにするつもりなのだ。

 体は動かなくても、瞼を閉じることはできた。早く終われ、そう願うことしかできなかった。ぐちゃぐちゃと音がしていたが、それもやがて止んだ。恐る恐る目を開くと、血の跡こそあっても、肉塊は見当たらなかった。手品か何かのようにその男はきれいに消え去っていた。

 猿面は、ちらりとこちらを見て、踵を返して去っていった。どっ、と疲れた。

「またのご利用をお待ちしております。」


 断続的に響く機械の音で目が覚める。あれはどうやら夢だったらしい。当たり前だ、ありえない。あんな殺人が許されるわけもないし、男が無抵抗なのもおかしかった。そうだ、あれは夢であり、現実ではない。誰も死んでなんかいない。ドクドクと逸る心臓も、徐々に落ち着いていくようだった。めったに悪夢を見ないのだが、久しぶりに見た夢がこんな後味の悪いものだとは、今日はあまりツイていない。星座運勢も最下位かもしれない。

 時計は、朝七時を指している。制服に着替えて、支度をしなければ。ベッドから降りるとき、きしむ音がした。

 昨日のうちに教科書は鞄へ入れてある。多少ベッドが乱れているけれど、帰ってきたときに整えればいいか。ワイシャツを羽織って、ズボンのベルトを締める。なんだかまだ眠い。目をこすりながら部屋を出ると、味噌汁の香りが漂ってきた。朝の匂いだなぁとぼんやり思う。

 鏡に映る自分の顔は、なんとなく疲れているようで、髪は大きく跳ねていた。水で濡らして治るだろうか。寝ぐせをつけて学校に行くのはさすがに抵抗がある。歯ブラシに歯磨き粉をつけて歯を磨きつつ、右手はずっと髪を撫でつけていた。頑固に跳ねる。重力に逆らって跳ねて、君は大変ではないのかね。それでも髪は天を指したままだった。ワックスで固めるのも高校英でやるにはなぁ。うがいをする頃には髪もあきらめることにした。

 リビングへ行くと、テーブルの上には焼き鮭、卵焼き、白米、味噌汁がすでに並べられていた。母さんはテレビに釘付けで、トレンドとかを確認している。いまだに流行を気にしているようで、俺なんかよりずっと若いと感じる。流行なんてすぐ過ぎ去るし、服装に関していえば似合う似合わないの問題だってある。流行に流されるのは好きではない。

「おはよう、母さん」

「ああ、おはよう尚哉」

 あいさつしても反応は薄く、やはり一心不乱にテレビを見続けている。俺は椅子に座って、手を合わせてから食事をとる。鮭の塩気は白米と相性が良く、ほぐしてから白米の上にかけて一気にかき込むのが好きだ。ふわふわの卵焼きは、しょっぱい方が好きで、塩分の取りすぎといわれたとしても醤油を数滴かけて食べる。味噌汁には茄子と玉ねぎが入っていた。なめこやワカメの方が好き。かつおだしの風味がする味噌汁を口に含み、穏やかな時間を過ごす。

 トレンドの紹介が終わると、ニュースが流れる。政治家の話や、芸能情報。どれも興味はわかなかったけれど、唯一、気になるニュースがあった。

 サラリーマンの男の肉が数枚に捌かれて遺棄されたというニュースだ。

 写真は、夢の中のあの男によく似ていた。

「物騒な事件ね」

「……まったくだね」

 朝ご飯が不味くなった。流し込むように食べたけれど、味がわからない。残すのは悪いから、作業のように口に運び続けた。犯人はいまだ見つかってない、どころか、手掛かりもないらしい。どうにもオカルト的だ。


 高校二年生ともなると、登校時の桜に新鮮な思いはなくなる。今年もたいそう立派に咲きましたね。粗末な感想で、この程度なら小学校一年生でも言えそうだ。基本一本道の通学路で一年以上通い続けていれば、やはり何も言えない。相変わらず道は細いし、この時間はすでに朝練がある学生などはさっさと学校へ行ってしまっている。

 そんなことよりも頭の中を占めているのは今朝のニュースと夢のことだった。あれは正夢だったというのだろうか。そんなはずがない、正夢ならば俺は目撃者でなければならない。しかし昨晩は自室のベッドでぐっすりだ。宿題も忘れて熟睡していたというのに、面識もないサラリーマンの殺害を目にしているはずがない。あたりまえだ、そもそも電車の中で人が殺されてたまるか。ニュースでも家よりはるかに遠く県を飛び越えた先でのことだと言っていた。茂みに隠されるように放置されていたようだが、埋めていなければ当然臭う。朝の犬の散歩をしていた老人が見つけたらしく、心中察するに今の俺と同じく動揺していることだろう。

 所詮夢なのだと放置するには、奇妙にも一致している箇所がある。殺された男の顔も、殺害方法も、夢の中で見た通りなのだ。正夢や予知夢ではとやはり考えてしまう。堂々巡りだ。

 意味がない夢で、偶然似た顔の男が夢に出たに過ぎない、そう考える方が、気が晴れるようだった。気にしすぎても滅入る。

「やっほう、尚哉くん! 素晴らしい朝だと思わないかね?」

「空気の読めないお前の頭は素晴らしいと思うよ、明日香」

 朝からハイテンションで挨拶してきた明日香は、ヒマワリのように笑みを浮かべて、鼻歌交じりに隣を歩く。家も近く、去年から同じクラスなのだが、いつも楽しそうだと思う。何も聞かなくてもあれこれと喋りだす、鳥のようにやかましいから、ひそかにインコと呼んでいる。

「褒め言葉として受け取るよ。尚哉くんは元気がないね?」

「まぁ、ちょっとね」

 顔を覗き込む明日香は、好奇心旺盛に俺の目を見つめる。大きな二重の目でまっすぐに見られると、弱い。とはいえ、話しにくい内容でもある。高校二年生の男子が今朝見た夢で元気ない、ってどうよ。俺は気持ち悪いと思うね、だから話したくはない。目をそらすと明日香の鞄が目に入った。バクのストラップがついている。こんな趣味だったっけ。

「まぁ尚哉くんは別に普段も騒がしくないもんね! ちょっと元気なくても目立たないよ!」

「失礼なことを言うのはこの口か?」

「いひゃい! いひゃいっへ!」

 柔らかいほっぺをつまんで思いっきり引っ張る。細くて白い指がその手を掴んで、引きはがそうとする。性別による力の壁は大きいもので、痛くもかゆくもない。涙目になってくるころに手を離せば、反撃として脚をおもいっきり蹴られた。赤くなった頬をさすりつつ、明日香は睨んでくる。なんと理不尽なことか。

 ぶつぶつ呪詛のように文句を言い続けているので、これ以上面倒が起こらないように、やはり事情を話すことにした。からかわれたら今度は髪でもぐしゃぐしゃにしてやればいい。

「夢見が悪くてな」

「夢?」

「その前に、明日香は今朝のニュース見たか? サラリーマンの活け造り事件」

「見た見た! 人間の刺身って想像もつかないけど、ひどい事件だよ。気持ち悪くなっちゃった」

 思い出したのか、身体を抱き寄せて震えてみせる明日香の様子は、どこか軽く他人事のようであった。当たり前か。大半の人がそうだろう。怖いとつぶやいた次の瞬間には、今日の昼ごはんとか友達との遊びの予定とか、関係ないことを考え出している。当事者でなければ真剣に考えることなんてできっこない。

「あのサラリーマンの顔がさ、見覚えあるんだ」

「知り合いだったの?」

「まさか、夢でだよ。夢で、活け造りにされて死んでた」

 猿のお面をつけた駅員が刃物をふるって捌いていく様子を直視することはできなかったけれど、アナウンスが活け造りと言っていた。単純に考えれば、あれはやはり活け造りだったのだ。よく魚の活け造りには頭が添えられている。人間の頭を切り落としても、しばらくは身体が動くと聞いたことがあるが考えるだけで想像にたやすく、そして気持ち悪い。

 明日香は黙って、先を促すように見つめてくる。残念だが、話はここまでだ。

「猿夢かなぁ」

「猿夢?」

 初めて聞く単語だ。猿夢。確かに駅員の顔は猿のお面がかぶさっていたが、そんな話はしていない。なら、独立した一つの単語なのだろう。明日香はなにか考え込むようにうつむいて、手を口元に添える。深刻そうな顔つきだ。はらりと花弁が散る。

 オカルト的な話を俺はあまり信じていないため好きではない。すべて勘違いや目の錯覚、幻聴などが起こしているし、科学で説明できるようになると思っている。しかし、明日香は対象的にオカルトなどを好んでいる。特に夢占いなどは率先して調べたり、話したり。星占いが好きとかなら女の子らしいといえるのかもしれないが、夢のことばかり具体的に調べている。端的に言って変わっている。猿夢ってのも、夢って字がつく以上十中八九その夜に寝て見る夢のことなのだろう。

 考え込むと話しかけても生返事になるから、特別声を掛けないでおく。沈黙の中明日香はたっぷりと悩み続け、俺も何も言葉を交わさずに歩く。自転車通学の人がどんどん追い越していって、三人ぐらい過ぎたころにやっと明日香は声をだした。

「今度寝るとき、私を呼んでよ!」

「なんでやねん」

「あ、似非関西弁はよくないよ! 関西の人に怒られちゃうからね!」

「いや、そうじゃなくてだな」

誤解されるような言い方をなぜ率先してやるのだろうか。異性がともに寝るだなんて、思春期で煩悩にまみれた高校生にはあることないこと吹聴されても言い訳できない。平穏に過ごしたい俺としては特にこいつとは願い下げだ。柔らかいほっぺを掴んでやろうとしたら、するりと逃げられた。小癪な。

「もし、尚哉くんがつぎ悪夢を見たら、私が起こしてあげる」

 勝ち誇った笑みで明日香は俺にそういった。

「へぇへぇ、それはありがたいなぁ。それよりも」

スマホの時計を見ると、思っていたよりも時間がたっていた。始業の鐘がもうすぐで鳴るところだ。今は学校から比較的近い横断歩道。走ればなんとか間に合うだろう。明日香の背中を軽くたたく。

「とりあえず、遅れるぞ」

「あ、ちょっと待ってよ!」

 私立百合丘高校。住宅街から程遠くなく、徒歩通学も多数いるほか、バスや自転車での通学をする人もいる。偏差値は中の上程度。部活は吹奏楽部に力を入れている。放課後になると各パートの練習で騒々しくなる。ここの学校に通うものは、半分は滑り止め、四割ほどは吹奏楽部目的、残りは家が近いなどの理由であることが多い。俺自身はその数少ない、家が近いからという理由でこの学校に通っている。

 徒歩圏内で通えるし、登下校の道は桜並木や公園もあって、景観がいい。私立とはいえ割とどこの学校と変わりもなく、金持ちがいるわけでもなければ熱心なクリスチャンがいるわけでもない。良くも悪くも中途半端という印象だ。この中途半端で、言ってしまえば選ばれたものでもない、エリートではない同士が集まっているというのは存外心地がいいものだ。価値観の相違で人は戦争を起こせるのだから、貴重だと思う。俺はこの学校が嫌いではない。その学校へ続く、桜の花弁が降り注ぐ道を、情緒もなく二人で走り出した。


猿夢。

 ネット上の掲示板で有名になった怖い話の一種。ネット上の話であることから、フィクションだとは思うが、確かに俺の見た夢と酷似していた。

 有名なものだと、その語り手はそれを夢と自覚しているらしい。薄暗い無人の駅から一人、その電車に乗る。生気のない男のアナウンス、電車が来るがそれに乗るとあなたは死ぬという警告。俺もそんな警告がほしかったわ。どうやらその人の過去の記憶から引っ張ってきている映像が多く、遊園地のアトラクションのようだという感想を抱いたようだが、あいにく俺はそんな乗り物に乗った記憶はない。三半規管も弱いから乗り物に乗ったら十中八九酔う。

被害者となる最初の男は活け造り、二人目の女は目を抉りだされ、三人目に当たる自分はアナウンス通りならばひき肉。実際その語り手がどうなったのかも、どう対処したのかも知らない。似てはいるけれど俺とは全然違う。俺は電車に最初から乗っていたし、夢を夢と自覚していなかった。それでは足掻きようがないではないか。それに、この人は現実で起こったことに言及していない。一人目も、二人目も、死んだのか生きているのか定かではない。ニュースを見ない人でない限り、おそらく猟奇的な殺人事件は起こらなかったと考えるのが妥当か。最後に、夢を見たらきっと現実では心臓麻痺とも言っている。ならば、現実の死因になることはないのだろう。あくまで夢は夢であり、影響は些細なものであってそのまま現実となることはない、似ているけれど全然違う。

授業中ずっと上の空だった。教科書を淡々と読み上げるだけの担当教諭そっちのけで、朝明日香が言っていた猿夢とやらを調べていた。おかげで充電はだいぶ減ってしまったが、かまうまい。

しかし、調べても手立ては一向に見つかりやしない。こういうのは深層心理でも何でもないのだろうし、聞き覚えがあるわけでもなく、偶然見た悪夢と考えるしかない。それに、忘れたころにまた見る可能性はあるものの、またすぐに見ることはないだろう。なら気にするのは無駄だ。ある程度調べて満足し、スマホの電源を切るころには昼の時間となっていた。

「調べ物は済んだ?」

「ん、まぁまぁ」

 穏やかな笑みを浮かべて、武田は前の席に座る。眼鏡を押し上げてから、弁当の包みを広げていく。俺も鞄から弁当を取り出す。冷めてもおいしいけれど、朝ご飯の時のようなおいしさはもうそこにはない。唐揚げだって衣に水分があって、すこしべしゃっとしている。白米の中央には申し訳程度に梅干しが埋め込まれている。シンプルなものだ。

 武田は今年初めて同じクラスになった。人好きする愛想の良さで、世渡り上手だと思う。なんでまた俺と一緒に行動しているのか、初めて会った時から不思議だ。手に持っているおにぎりだって、何の変哲もない明太子おにぎりのはずなのに、なんのマジックかお洒落な食べ物に様変わりする。イケメンはなんでもよく見せられるのだから、卑怯だ。

「それで、石沢さんと一緒に登校してたけど、いつ付き合うわけ?」

「寝言は寝て言うものだぞ武田。あんなの願い下げだね」

「またまたぁ。あれでも彼女、結構人気あるんだよ?」

 ちらと黒板の目の前の席に座る明日香の方を見ると、購買で買ったであろうパンを口いっぱいにほおばっているのが見えた。周りの友達が小さい弁当で、小さな口で食べるのと比較したら随分と豪快なものだ。女子を捨てているといってもいい。

「あの、飾らない素直なところが大人気」

「武田も好きなのか?」

「僕には好きな人が別にいるからね、あいにくだけれど石沢さんは僕も願い下げ」

 武田の好きな人とは話題にはなっても詳しく教えてもらったことはない。興味がないのが半分、もう半分は話題に出す癖に武田自身がはぐらかす。俺が知っているその女の子とは、常に眠そうにしているということだ。夜しか会話することもままならないと言っていた。それもそれでめんどくさそうで、やはり俺は願い下げなのだが。そもそも恋愛に興味はなかった。

 恋愛に興味がない、というのは少し語弊がある。イメージがわかない。誰かに夢中になる自分も、誰かに好かれる自分も、抱きしめたり、キスしたり、隣を寄り添うように歩く自分がひどく滑稽に見える。それよりも例えば、隣の家の猫のミケ助と猫じゃらしで遊ぶイメージの方が鮮明に思い浮かぶ。動物と戯れる方がよっぽど癒される。

「で、何を調べていたんだ?」

「猿夢。知ってる?」

「猿夢かぁ、まぁ有名ではあるけど意外だな。そういうの好きじゃないでしょ」

「まぁちょっとな」

 再度明日香の方を見ると、たまたま目が合った。口の横に食べかすをつけていて、だらしないな。口パクで馬鹿と伝えておく。いぶかしそうな顔で首をかしげているあたり、一切伝わっていないようだ。武田はにやにやと笑ってくる。不快だ。

「なるほどね、石沢さんが猿夢の話でもして、気になっちゃったんだ?」

「はいはい、それでいいよ」

否定しても肯定しても、武田はやはりからかうのだ。ならば、適当にあしらえばいいのだ。まともに相手しなければ、からかいはすぐやめる。

武田は野菜ジュースのストローの先を噛みながら、猿夢か、とつぶやいた。

「猿夢でも見た?」

「さあ、今日初めて見た夢をそれと決めつけるには、まだ足りない」

「似たものは見たってことか。詳しく聞かせろよ」

「やめとけ、あんま気分のいい話じゃない」

 ストローから口を離して、つまらなそうにとがらせる。そんな顔しても男はかわいくない。

 一通り調べたら、なんだか眠くなってきた。次の授業は体育だったと思うけれど、寝不足ってことで休んでしまおうか。食べ終えた弁当を再び包んで鞄の奥底に入れて、あくび交じりに立ち上がる。後ろから、武田が声をかけてくる。休むなら適当に先生に言っておくと。つくづくいい友人を持ったものだ。

 武田と初めて会ったのは、去年だ。別のクラスだったし、あまり会話をしたことはないけれど、出会いは強烈なものだったからよく覚えている。昼休みの時間だった。廊下は寒かったから、冬頃だっただろうか。あまり友達は多くなかったし、それよりは一人でボーっとしている方が好きだったから、一人屋上へ向かう扉の前で昼を過ごすことが多かった。購買で買った焼きそばパンと、お茶のペットボトルをもって階段を上っていた。いつも、屋上なんて当たり前に封鎖されているものだから、用事があるやつなんて誰もいない。たまに昼寝して、五限が終わるころに起きたことだってある。

 しかしその日はいつもと違った。封鎖されている屋上の扉を開けて、この眼鏡の男は姿を現したのだ。やぁ、春日尚哉くんだよね。一方的に名前を知られているのが何とも気持ち悪くて、それが顔に出ていたのか勝手に弁解をしだす。

「ずっと話をしてみたいと思ってたんだ。いつもここでお昼ご飯を食べてるでしょ?」

 その言葉も一切安心できるものではなかった。いつもって、どこからいつもの俺を覗いていたんだ。ストーカーあるいは変質者という言葉が脳裏をよぎった。同じ制服を着ていようが不審であれば変質者と言って差し支えないだろう。俺はそう思う。不審がる俺の目を見て、苦笑気味に話し出す。

「僕は隣のクラスの武田春樹」

「はぁ、そうですか」

「やだなぁ、そんな距離を置かないでよ。キミ、自分の思っている以上に目立ってるんだよ?  人とあまり交流せずにぼーっとしてるし、気づけば教室からいなくなるものだから、不気味だって」

「俺はいつもここにいることを知っているお前の方が気持ち悪いし怖いと思う」

「ひどいなぁ」

 けらけらと笑うのを見ると、なんだか力が抜けた。そういうものなのだと受け入れるのが楽だ。ここで議論することには意味がなく、話したいというならそれに応じればいいのだ。俺は何も言い返さずに階段に座って、パンの包みをはがしていく。武田は隣に座って鍵をもてあそびながら、話しかけてくる。

「質問とかないの?」

「自意識過剰じゃないか? 誰もお前に興味はない」

「封鎖されている屋上のカギをどうやって手に入れたのか、とかさ」

「なんだかわからないけれど、お前なら先生の一人でも脅して入手してそうだと思う」

「ひどいなぁ。でもそれができたら、女子を連れ込むこともできるよね」

「真面目そうな顔して、人たらしなのか?」

 吹き出すように笑って、答えをぼかされた。それから毎日、昼の時間はここへ顔を出すようになったのだから、俺をほっといてくれない人間の一人としては希少で強烈な印象だった。どこから知りえたのかよくわからない情報を持ってくるのだから、敵に回すべきではない相手だと野生の勘が働いた。

 今は対照的に温かくなっていく春の陽気だ。窓からは温かい日差しが差して、これならぐっすり気持ちよく眠れそうだ。そう思うと大きなあくびが一つ。保健室まで歩いているが、屋上前で寝てしまうのもありかもしれない。久しぶりに硬い床と薄暗い影に差す一筋の日差しの中で寝るのも恋しい。階段を上る億劫ささえなければ屋上で寝ることを選んだ。

 実際の運動量は、階段を上るより降りる方がきついと言っている人がいたが、それでも上る方が億劫に感じる。一階にある保健室まで、ゆっくりと歩いて向かう。予鈴のチャイムが鳴っている。申し訳ない、体育の先生よ。育ち盛りの男子高校生には勉強や運動よりも大事な、惰眠をむさぼるというお仕事があるのだ。外から鳥のさえずりも聞こえて、気分がいい。平和だなぁと漠然と思う。平和は好きだ。痛いことも悲しいこともない。変化が一番恐ろしい。

 保健室の扉を開けると、保健の先生はコーヒーを飲みながら、パソコンに何かを打ち込んでいた。不登校気味の生徒や、体調不良の生徒に関する事務的な処理があるのだろうけれど、職員室でやることはできないのだろうか。眼鏡越しに俺を見ていぶかしそうに、体調不良かと質問される。素直に寝不足であると伝えると、特別何も言わずベッドを指さされる。適当に挨拶をして、早々にベッドを借りさせてもらうとそれっきり会話はない。保健室の先生とはそういうものなのだろうか、あまり多くを質問してこない。カウンセリングは好きに話をさせて、先生は相槌を打つだけとも聞いたことがある。そのテクニックをここで発揮しているのだろうか。3か所あるベッドのうち真ん中は使用済みでカーテンが閉められていた。風邪か何かだろうか。それならお大事に、サボりに来た自分とは対照的で申し訳ないな、と軽く感じる。その隣の、窓側のベッドにもぐりこんでしまうと、薬品臭いし安っぽくて硬い感触が出迎える。それでも、横になってしまえばやはり当たり前に、硬い廊下の床よりよっぽどマシだと思った。


 窓の外からは、元気な体育の女性教員の声がする。今日は何をするのだろうか、先週は持久走をしたがあれは結構しんどい。身体を動かすのが嫌いなわけではないが、持久走は読んで字のごとく走り続けるものなわけで、それよりは例えば野球とかやる方がよっぽど面白い。試合はまるで物語のように起承転結がある。マラソン選手とかには申し訳ないけれど、走るだけというものに一切の魅力を見出せない。いつの間にやら午後の授業のチャイムもなっていたらしく、寝ていた時間はわずか数分といったところだった。いまだ眠いが、どうにも眠る気にはならなかった。

 せっかく電源を切ったというのに、スマホの電源をオンにした。所詮は現代っ子で、スマホなしの時間つぶしを知らなかった。自分はカーテンを閉め忘れていたはずだが、いつの間にかあの保健室の教諭が閉めてくれていたらしい。疑似的閉鎖空間には人間だれしも邪なものを抱くことがあると思う。スマホをいじっても構わないだろうという思いに拍車をかけた。真っ白な画面から宇宙の待ち受け写真へと変わったときに、スマホが震えた。連絡を入れた主の名前を確認すると、武田からだ。

『石沢さんがいないけれど、石沢さんも保健室なのかな?』

その言葉だけだったが、からかいたいだけなのがよくわかる。情報通なのか俺がうわさ話に疎いだけなのか、武田の持つ情報量には敵ったことがないが、この男が得意とする情報は人の相関図の把握だった。悪趣味なもので恋愛から、敵対しあっている女子の派閥まで知っているらしい。気持ち悪いな、と感想をつい漏らした時、相談されるのだから仕方ないだろうなんて言われた。皆もっとこいつの本性を知るべきだと思うのだが、あの甘い顔には誰もが口を開くのだろう。腹立たしいものだ。

 カラカラ、とゆっくり保健室の扉が開く。保険の担当教諭の声がない。諸事情で席を外しているのだろうが、そのわずかな時間にやってきた何者かは気の毒だ。再びゆっくり扉を閉めるのは、きっとベッドで寝ている俺や隣の人物を起こさない配慮なのだろう。あるいはこの扉を開けた人物が先生なのか、と思ったが、ひそひそ声はそれより何トーンか高い声で別人だ。隣のベッドまで歩を進め、カーテンをわずかに開く音がした。誰が来たのか、好奇心で俺は自分のベッドのカーテンから顔を覗かせた。

「ナイト、本当にこの子であってる?」

「あっているとも、わたしが嘘を吐いたことがあったかい?」

「そりゃもう、数えきれないほどにね」

 亜麻色の短い髪には、カラフルなヘアピンが何本か刺さっている。その横顔は今朝も隣で間近から見た。武田、お前凄いよ。明日香はベッドに眠る生徒――誰だか知らない男子生徒――の顔をじっと見つめている。男子生徒の顔は見えない。何をしようというのか気になって、カーテンをもう少し開く。ようやく男子生徒がうなされていることに気づいた。熱でうなされるほどならば、早く病院に連れて行けばいいのに。あるいは寝る前は微熱だったのかもしれないが、きっとこの授業が終わったらこいつは家に帰されるだろう。しかし、明日香はこいつの友人か何かだっただろうか、なぜわざわざここまで来たのか。そして、明日香以外に聞こえるもう一人の声は誰のものか。その姿は見えず、しかしよく響く低音で、いくつか年上の男性のものに聞こえる。ナイトなんて名前で、外人かキラキラネームというものか、珍しい名前だ。

 明日香はブレザーのポケットから眼鏡を取り出した。授業中でも眼鏡をつけないし、視力はいつも自慢するほどによかったと記憶している。なぜメガネなどを持ってきているのか、視力検査にコンタクトつけて嘘の申告をするほど矮小な人物とは思っていないし、奇妙としか言いようのない状況だった。明日香の影がわずかに揺れている。俺の寝ているベッドより窓から距離があり、灯といえば天井にあり均一に降り注ぐ灯のみのはずで、影が揺れ動くのもおかしいものだ。何か手品でも見ているのかもしれない。手品は見破りたいたちだが、しかし誰も見ていないのになぜ手品をしているんだろう。俺はもしかしたら何か寝ぼけているのかもしれない。目を閉じて両目を擦ってから改めて見る。

 黒い長身の影があった。長い黒髪を一つに束ねていて、服も黒い。制服ではなかった。音もなく、一瞬で現れた。明日香に寄り添うように立っている。影は元に戻っていた。

「わたしが嘘をついても、ついていなくても、君に確かめるすべはただ一つ。この子の夢に潜ることのみだ。違うかい?」

 その声には笑いが込められているような気がする。明日香は長いため息を吐く。長身の男は腰に手を当て、明日香を見下ろす。

「それに、君は困っている人はほっておけない。そうだろう?」

「そうだけど」

「そういうところをわたしは気に入っている、あまりがっかりさせないでほしいね」

 明日香は心底いやそうな顔をした。その顔を長身の男はお気に召したようで、くつくつと笑う。嫌な奴、とつぶやく明日香の顔は、あまり怒っている様子ではないもののしかめ面だった。

 長身の男は指を鳴らした。乾いた摩擦の音は狭い保健室でよく響き、一切の配慮がないことがまた腹立たしい。気づけばなんだか素性もよく知らないこの長身の男を不愉快な存在と思うようになっていた。男なら髪切れよ。指を鳴らしてきっかし三秒後、明日香の身体が崩れ落ちた。あ、とつい声が出る。長身の男は明日香の身体を支え、椅子に座らせる。上体はベッドへ倒れ込むほどに脱力している。漏れ出た声は聞かれていただろうか。左手で口を押え、カーテンに隠れるように視線を逸らす。蛇ににらまれた気分だ。明らかに不審者だろあれ、相手したくないぞ。そんな願いもむなしく、こちらへ足音が近づいてくる。カーテンを開かれたら、姿は露わだ。

「見た?」

「見てません」

「見てたよね」

 断定するなら質問をするな。そう思っても口からその言葉が出ることはなかった。不審者をまともに相手するなんて怖いじゃないか。そろりとベッドへ戻ろうとするが、背後からこの男は俺の首根っこを掴んだ。怖い怖い、離せ巨人。ゆっくり首だけで振り返れば、にっこりときれいな笑みでその男は見下ろしていた。胡散臭い顔だな。端正な顔の薄い唇が動く。

「君のことは知っているよ。春日尚哉くん」

「え、ストーカーですか? きも」

「傷つくなぁ。そういうのじゃないのはなんとなくわかるだろう?」

 妖艶な笑みは背筋が凍るほど気味が悪いものだった。日常に這い寄る非日常が、大嫌いだ。本能が訴える。関わるな、関わればろくなことにならないぞ、と。しかしここから立ち去るための退路は断たれている。

「初めまして、わたしはナイト」

「拝聴しておりましたけど……」

 明日香がそう呼んでいた。

「まぁ、そう肩に力を入れないでよ。敵ではありません」

「敵ってなんですか、敵って」

 揚げ足のようなものではあるかもしれないが、敵なんて言葉をわざわざ発するなんて普通はない。実際に敵というものがいるか、敵に映るという自覚があるかだろう。

 抵抗をやめると、ナイトは隣に立ち、背中に手を添える。そして、弱い力で押してくる。どうにも隣のベッドへ導きたいらしい。なぜこうも絡んでくるのかさっぱりわからないが、唐突に現れたナイトはやはり笑顔で有無も言わさない態度だ。自分のベッドから隣のベッドの元へ移動したら、後ろ手にカーテンを閉じられた。ある意味密室に入れられたと思うとやはり気味が悪い。

 ネクタイを緩めて、猫のように目は弧を描く。

「夢魔って信じるかい?」

「いいえ、まったく」

「残念だなぁ。わたし、夢魔なんですよ」

「冗談は存在だけにしてください」

 吹き出すように笑って、手を叩く。失礼な物言いをした自覚はあるが、それが面白いという反応されるとは思っていなかった。つくづく精神を逆なでる男だ。

「君は、夢魔というものがどんな存在か知っているかな?」

「あ、その話続けるんですね」

「古くからは淫猥なものであるように言われていたんだよ。サキュバスやインキュバスは夢魔と同義だ。夢から干渉し人の精気を奪うという、ね」

「じゃあ不審者ですね。俺が悲鳴上げたら捕まるんじゃないですか?」

「捕まらないよ、夢魔だからね」

 唸るような声が明日香からする。むずがゆそうなそれは、起床の合図かもしれない。なんだか寝起きの女性の顔を見るのは失礼にあたる気がして、動揺してしまう。大きな目をゆっくり開いた。ぼうっとした表情で、上体を起こし、腕を上げて背伸びをすると明日香は周囲を見渡した。ナイトは手をひらひらと揺らし、その隣にいる俺を見て明日香はふにゃりと笑った。

「おはよう尚哉くん」

「お、おお」

 まともな返事をするにはあまりにも奇妙な空間だった。ナイトは明日香へ顔を近づけて、眼鏡をはずし、ブレザーのポケットへ入れる。明日香はだんだんと覚醒してきたようで、顔が赤く染まったり、青ざめたりと忙しそうだった。口をパクパクさせているが、どれも言葉になっていない。

 自分より動揺している人を見ると、人は逆に冷静になるものだ。とりあえずこの状況をしっかり把握しているナイトを見る。肩をすくめてナイトは明日香の肩へ手を添える。汚いものを見るようにして、明日香はその手を払いのけた。この二人の関係がどうにもわからない。

「明日香。大好きな尚哉くんを前にして戸惑うのはわかるが」

「ちょ、ちょっとナイト⁉ うるさいよ!」

「殴るのはよしてくれ、わたしは武力派ではないからね」

 椅子から立ち上がって明日香はぽかぽかという擬音が適切なほどナイトを殴る。ナイトは痛くはなさそうだった。へらりとやはり笑っている。貼り付けたような笑顔しか見せない。

「それより、優先すべきことがあるだろう?」

「うぅ……。この子の悪夢の根源は追い出したよ。結構弱かったみたいで、私が殴るだけで悲鳴上げながら尻尾巻いて逃げていったよ」

 それを聞いて、ナイトは満足そうにうなずく。明日香の頭を撫でて、そうしてやっと置いてけぼりになっていた俺の方を見る。

「そういえば君も悪夢に悩まされていると言っていたね?」

 笑顔からは何も読み取れない。読み取れないが、誰から聞いたのかは明白だ。その話をしたのは明日香と武田だけで、そしてこいつは明日香の知り合いなのだから。明日香の顔を見ると、強く首を振っている。

「違う、違うから!」

「じゃあ誰が話すんだよ。夢なんて誰も興味ないものだろうし」

「違くて、聞いていたんだよ、本当に!」

 手を振って否定の意思表示を明日香はしている。聞いていたと言われて、はいそうですかと納得はできない。あの場には俺と明日香の二人しかいなかったはずだ。

「わたしもいたんだよ。明日香の影の中に、ね」

 俺の疑問に答えるように、ナイトはそう口にする。しかしそれはどうにも非科学的で、例えばマジックでならわかる。そうでないなら受け入れられるものでもない。俺はリアリストだ。自称だけど。

「猿夢、君も調べたならわかるだろう? それは、タイムリミットがある時限爆弾のようなものだ。そのまま放っておくつもりかな?」

 放っておくつもりか。そう問われても、何も言えない。調べた。そのうえで対策がないことを知った。放っておくのではない、対抗策がないのだ。それに、所詮夢だろう。

ナイトはどこか演技をしているように大げさに頭を下げる。

「わたしたちなら、君のその悪夢を取り除けると思うのだが、どうだろう?」

 握手を求めるように、手を差し出された。俺はその言葉で、安心や信頼とかより、なぜ知っているのかという不信感の方が強かった。やはり俺のストーカーか何かなのではないか。その手を取るべきではないのではないか。自分の右手をじっと見つめると、その手を白く細い指がからめとった。明日香だった。

「ナイトはすごく胡散臭いけど、私たちを信じてほしいの! どうかな⁉」

 その顔があまりにも必死なものだから、ついうなずいた。右手に力を込めて握り返す。ナイトは差し出していた手をぶらりと振る。

「それじゃぁ、尚哉くんにはこのまま早退してもらおっか」


 夢魔。

 古代ローマ神話とキリスト教の悪魔の一つで、淫魔ともいう。夢の中にあらわれて、劣情を誘って精気を摂取する下級悪魔とされている。男性型はインクブスまたはインキュバス、女性はスクブスまたはサキュバスと呼ばれている。標的となった人物の寝室へ蝙蝠に化けて侵入するとされている。

 ネットではそれ以降、人間にいかに害をなす悪魔であるかという記述しかなかった。明日香は、それを信じないほうがいいという。ナイトは明日香の影に潜むように姿を消していた。早退なんてしたくなかったが、明日香が俺を無理やりベッドに寝かせ、保健室にやっと戻ってきた先生に対し交渉をしていた。昼から腹痛で、やっと保健室に来たら先生はいないし、尚哉くんはうなされていました。家で安静にさせるべきだし私も家でゆっくりしたいです。すらすらと嘘が出てくることに、意外だと感心した。石沢明日香という人物を知る者の多くが、どんな人間かという問いに対して、恐ろしく素直と回答するだろう。嘘とは無縁な人物だった。

 先生がそれを信じたのかは知らないが、結果としては帰宅が許された。武田にそのままサボって帰ることを報告すると、笑顔を表す顔文字を添えてごゆっくりときた。もう否定をするのも面倒だから、スタンプで親指を上げたものを送っといた。勝手に憶測してればいい。

 どこへ連れていくのかと思っていたら、登校時とは逆の道へ案内される。家ではないらしい。登校する時の道は細く、車道は一方通行だが、今歩いている道は大通りで車の通りも激しい。寄り道もせずまっすぐ帰ることが多いから、この道は新鮮だった。

「で、無理やり早退させてどこに連れて行こうと?」

「いやだなぁ、嫌みっぽく言わないでよ。私は尚哉くんの味方だよ?」

「質問の答えにはなってないな」

 隣を歩く明日香は、無責任に信じろとか大丈夫とか、そんな台詞ばかりだ。信じるも何も具体的に言ってほしい。適当に公約する政治家ではないのだから。日本語が通じないというのは不便だ。

 質問を変えることにする。

「ナイト、だっけか。なんなんだあいつ」

「夢魔だよ。ネットで言われてるものとは少し違うけどね」

 あくまで夢魔だと言い張るらしい。いまだ高い位置にある太陽に照らされ、対になるように出来上がる色濃い影が揺れる。それが返事のようで、昼間から怪奇を見たように不気味で仕方ない。

「私から説明するより、もっと適任がいるんだけど……。夢魔っていうのはあるとき人の中に憑りつくんだって」

 一切こちらに顔を向けず、だんだん明日香は歩を速めていく。細い道へと入ってもその速度は下がることがない。日差しが強いからか、細道にはくっきりと影が落ちている。暗い。ただ明日香の後ろをついていく。よく躊躇いもなく歩いていけるものだ。

「尚哉くんは、私たちが今いる世界とは別の世界があるといって、信じてくれる?」

「その別の世界ってのは、例えば天国のような死後のモノか?」

「あとは、ゲームとかに出てくる、魔界とかかな」

 あまり昼間に日が当たらないのか、じめっとしている。体感温度もぐんと下がったようだ。少し寒い。いつの間にか不気味に揺れていた影も、暗いからか目立たなくなっていた。

 本当に、いったいどういう経緯でこの道を知ったのだろうか。少なくとも俺はここのように暗く不気味で、先の道が逆光でよく見えない道を通りたいとは思わない。転がる酒瓶やたばこの吸い殻が、まるで治安が悪いと暗に示しているようにすら思う。大半の人がここを好んで通りたいとは思わないだろう。

「夢魔は、夢に巣食う悪魔っていうことなの」

 それでも明日香は、そのまま先へと歩いていく。何があるんだろう。どこに連れていく気なのだろうか。

「読んで字のごとくだな」

「夢は誰もが見る。その夢の端に夢魔は住んでるの」

 ローファーの音が止まる。明日香はくるりと振り返った。ニッコリ笑顔を浮かべる。

「ようこそ、睡眠研究所へ!」

 特別大きい建物でもなく、目立つわけでもない。看板には無機質にゴシック体の文字で秋生睡眠研究所と書いてある。聞いたこともないし、なんでこんなところを明日香が知っているのかわからなかったが、夢魔や夢と関連しているのだろうと推測するのは容易だった。

 自動ドアは左右に開き、ひんやりとした空気が流れ出てくる。明日香は中へ入っていくし、置いていかれたら何もわからないままだ。仕方ないから先へ入る。

 見た目よりは広い空間だった。壁紙は白や青みがかったもので寒色に統一されている。受付のところにいる眼鏡にスーツの女性は、明日香を見つけてにっこり笑う。シャツのボタンがはちきれそうになっているのを見なかったことにする。凝視しては失礼だろう。明日香は駆け寄って、上半身を乗り出して話しかける。

「本田さん! 秋生先生は、起きてる?」

「あのエロ親父なら、奥の部屋でグラフを眺めていましたよ。そちらの方はお客様ですか?」

「そうだよ、春日尚哉くん。前に話しませんでしたっけ?」

「男性の名前を覚えるのは苦手でして、ごめんなさいね石沢さん」

 しれっと謝罪する本田さんとやらは、頭を下げる。綺麗な人だ。スタイルもよくて、理知的で、明日香とは正反対だ。しかし、俺の話をしているとはなんだろう。

本田さんは受付から出てきて、奥の扉へと先導していく。早くおいでなどと明日香に急かされたが、ここはいったい何を研究している場所なのか皆目見当もつかなかった。

 扉の先はまるで病院の待合室のようにベンチが並んでいたが、病院ではないから当たり前に患者の姿はない。その隣の部屋はといえば、機械が並んでいて、定期的になにか折れ線を使ったグラフが更新されていた。それが心電図のようにも見えて、だれの何を示したものなのだろうか気になった。コードを目で追うと、奥のベッドの枕元へと延びているのが確認できた。ヒールを鳴らして本田さんは近づいていく。

 ベッドの上には、天然パーマのように無造作に跳ねた髪と無精ひげの白衣を着た男が横たわっていた。大きないびきが聞こえる。本田さんはこの男の元へ近寄り、胸ぐらをつかんで前後に揺り動かした。

「秋生先生、お客様ですよ」

「あで、あででででで、本田くん本田くん、頭ぶつけて痛いよ⁉」

 目を開け、男は本田さんの手を掴み、起き上がる。ベッドから脚を下ろし、大きなあくびをした後、近くの機械へ目を向ける。

「凄いよ本田くん、僕は熟睡していたようだ! 推定睡眠時間三時間といったところかな?」

「昼間から寝ていてはニートと変わりませんよ、誇れることではありません」

「まぁそういうつれないこと言わないでよ」

 そういってこの男は本田さんの隣に立ち腰を引き寄せようとする。本田さんは顔色一つ変えずに足をヒールで思い切り踏みつけた。悲鳴を上げてしゃがみ込み、それを撫でている。なんて情けない人なんだろう。

 明日香はこの男に目線を合わせるようにしゃがむ。

「秋生先生、おはようございます」

「お、おお、石沢くんじゃないか! 今日はどうしたのかい?」

 眉尻を下げて笑うその顔は、なんとも情けなく、気が弱そうに見えた。

「今日はね、秋生先生にお話をお願いしたくてきたんだよ」

「おお、どんな話かな?」

「夢魔の話」

 へらへらと笑っていた顔が固まった。明日香の後ろに立っていた俺を見上げて、値踏みするような目つきへと変わっていく。空気が変わり、肌がひりつくような緊張感に襲われる。

「本田さん、コーヒーの用意をお願いするよ」

「はい」

「初めまして、僕は秋生貴久だ。なんとなくだけど、君とは長い付き合いになる気がするよ」

「はぁ……春日尚哉です」

 差し出された手をとって、握手をする。なんだか、パーソナルスペースの狭い人のようだ。横に立つ明日香を見ると、いつものヒマワリのような笑顔で目が合った。俺が渦中の人物のはずなのにおいていきぼりになっているのが不服だ。

 秋生と名乗るこの白衣の男は、頭を掻きながら別室へと案内していく。入り口に近い廊下には病院のような清潔な印象を抱くが、奥の部屋は機械とグラフが並び、研究室らしい様相となっている。足場もコードが絡まるようにあちこちにあり、引っこ抜いたり踏んだりしては大事になるかもしれないと思うと慎重になってしまう。秋生さんはひょいひょいと軽くまたがっていく。

 先にコーヒーの準備をしていた本田さんは、どこからかスーパーでも買える安いクッキーの用意もしていて、部屋のテーブルの上に並べてあった。秋生さんは椅子に座って、前を指さし、座るよう俺に促す。明日香が俺の手を引いていくから、もう疑うのも慎重になることもやめることにした。不審者ではないらしいし。

 秋生さんはクッキーを手に取って、一枚食べる。食べかすがテーブルに落ちるのを、本田さんは一言、汚らしいと罵っていた。それを気にも留めず、コーヒーを、音を立てて飲み、やっと話し出す。

「寝起きのコーヒーは格別だと思わないかい?」

「寝起きのクッキーは口内の水分を奪っていくので私は嫌ですね」

「糖分は疲れた頭には必要な要素だよ。春日くん、彼女は本田さんだよ。僕の秘書だ」

「不本意ながら、ここで秘書をやっています本田です。以後お見知りおきを、春日さん」

 口元には笑みがあったが、目は一切笑っていない。本当にここで、というか秋生さんのもとで働きたくないのだろう。今もお尻へと伸ばされる手を叩き落している。

「まず、どこから説明するのがいいだろうね」

「じゃ、質問します」

「どうぞ」

「ここは何を研究するところなんですか? 睡眠とかいって、グラフも出てますけど」

 いい質問だ、そう一言つぶやいて、秋生は腕を組む。

「人の脳は睡眠中にも働いているんだ。有名な話だと、記憶の整理をしているとかだね。疲労が原因ともいわれている金縛りとかも睡眠中だ。あれは意識が覚醒していても体が寝ているとか、夢とかいろいろ説明があるけれどね。どれも興味深い現象で、幅広く調べているのがここだ。でも、一番成果を出しているのは今言ったようなものじゃない。夢についてだよ」

 夢。隣に座る明日香を見ると、クッキーをおいしそうに食べていた。鼻歌が聞こえそうなほど機嫌がよさそうだ。夢がメインの研究対象というのは、明日香がここの人たちと顔見知りであることを考えれば、納得の答えだ。

「夢って、なんだと思うかい? 深層心理ともいわれているよね。あるいは、脳が整理している記憶を映像として見せているのかもしれない。たくさん予想を立てられると思うんだけど」

 ここで区切り、長い息を吐く。

「夢魔を君は信じるかな?」

「いえまったく」

「尚哉くんって、アーサー王伝説とか興味ある?」

 マーリンについて詳しくは知らないが、アプリでよく題材とされる大魔術師の名前であることは知っている。たしか、ああ、そうか。明日香の質問の意図を理解する。

「夢魔と人のハーフ、でしたっけ」

「そう、その通り。フィクションの存在だとする説が今は有力なようだけど、彼を実在するようにもとは語られていたんだよ」

「つまり、夢魔はいると言いたいんですよね。いるとして、それがどうしたんですか?」

 これは、おそらく信じる信じないの話ではないのだ。俺自身が信じるかは別として、夢魔が存在することを前提としなければ話が進まないのだろう。苦笑いを浮かべながら、秋生さんはコーヒーを飲み干す。本田さんは優秀で、気配り上手だ。空となったカップにコーヒーを注ぎ入れた。明日香もそれを見て急いで飲み干す。意地汚い。

「夢魔の定義の話をしよう。ここでは、夢魔は夢に巣食う悪魔、とだけ定義する。なぜ夢に生きるのだと思う?」

「そこでしか生きられないか、そこですごすのが居心地いいのでは?」

「そう、優秀だね」

 明日香はコーヒーにミルクを入れる。マーブル柄になるそれをスプーンでかき混ぜて、色を薄めていく。俺もカップを手に取る。香りがとてもいい。

「夢魔は、ずっとインキュバスやサキュバスのように、人の精気を奪って生きていると思われてきたけど、それは彼らの一側面でしかないんだ。彼らは、人の夢の端に住んで、その夢を食べて生きている」

 夢を食べるといえば、バクのような生き物だと思う。白と黒の四つ足の動物。間抜けな表情だが、例えばバクをかわいいという女子高生は少ないだろう。特別人気な動物とかではない。

「春日くん、君は好きな食べ物は何かな?」

「はぁ、とんこつラーメンですかね」

「夢魔も同じように、好みの味があってね。淫猥な夢を好むものもいれば、幸せな夢を好むものもいる。そして、悪夢を好むものもいる。つまりだね、深層心理のような理屈で説明できない夢を見たらそれは夢魔の仕業ではないか、と僕は思ったんだ」

「イメージはしやすいですが、好みの夢だどうのって、想像の域を超えないじゃないですか」

 夢魔がいるならば、成立するだろう。この論の最大の穴は言うまでもない、夢魔の存在証明がなされていないことだ。いないものの好みなど、ゼロに何を掛けてもゼロであるのと同じで、何の意味もない。

「僕は夢を研究した。どれぐらいの眠りの深さで見るのか、脳のどの分野が反応するのか。そして、映像にして他者がそれを追体験できないのか。音波を使って、ある程度再現できるものを僕は作り上げた。まだ試作で発表していないから、この研究所以外誰も知らないと思うけれど。その映像にね、映っていたんだよ――――夢魔が」

 後ろに控えていた本田さんの手にはいつの間にか茶封筒があった。秋生さんはそれを受け取り、何枚か取り出した。それは白黒で画質も荒く、古い写真のようであった。遊園地のように、大きな乗り物が写っている。全体に薄い色があって、まるで水に沈んでいるようだった。その写真の端に、長い髪の毛が写っている。これは、心霊写真とはまた違うのだろうか。

「それ、私の夢の写真だよ」

 なつかしいなぁ、なんてあっけらかんと明日香は言う。そう思えば、この長い髪も見覚えがあるもののように見えてきた。

「これ、ナイトなのか?」

「そうだよ。変人だから、こんなわけのわからない夢が好きなんだってさ」

 現実的ではない光景に知っている人物の体の一部が共存している。それは合成ではないとするなら、秋生さんや明日香が言う通り、本物なのだろう。

「夢の世界に住む彼らは、基本僕たちと共存している。しかし、時に支配し、僕たちの世界へと侵攻をしてくる。その夢は悪夢として形を成すんだ」

「ずいぶん壮大な話ですね」

「まぁ、存在を証明する上でこれ以上は、体験するのがはやいと思う。百聞は一見に如かず、だ」

 秋生さんは、俺のその後ろをじっと見る。そこには誰もいない。明日香はうなずいて、秋生さんに話しかける、

「秋生先生、尚哉くんは今朝、猿夢を見たみたいなんです」

「へぇ、猿夢か。ネットの作り話と言われているけれど、実際見たって人がいるのはとても興味深いね」

「ですが、妙なんです。死んだ人が、現実でも同じ目に合っていて……今朝の、猟奇殺人事件の報道がどうやらそれのようで」

 そのあとは明日香でも口にするのがためらわれるらしい。口をつぐむ。いや、ここまで言えたならまだいいかもしれない。察しのいい大人ならば、事情をすぐ理解するのだろう。深く秋生先生はうなずく。

「丁度、君も悩んでいるようだしね。潜るのは……明日香くんにお願いしようか」

「ラジャー! 尚哉くん、保健室でぐっすり寝れなかった分ここで寝ていこうね!」

 明日香は俺の手を握って、にっと笑う。とんとん拍子で話が進んでいき、頭がパンクしそうだった。もうどうにでもなればいい。考えるのを放棄して、あるがままを受け入れるのが楽だと思った。思考を放棄するべきではないと誰かが言っていたが、そんな高尚な人物になりたいわけでもない。

 椅子の音を鳴らしながら秋生さんは立ち上がった。本田さんはやはり命令がなくても意図を察したようで、一足先に外へと出ていく。秋生さんもまた棚の引き出しから袋を取り出し、それを渡してくる。

「睡眠薬だよ。本田さんが今ベッドメイクしてるから」

 水も差しだされ、二人の飲めという圧に耐え切れなかった。水で一気に飲み干し、本田さんが準備できたと知らせてきた後は、あまり良く覚えていない。もともと眠かったのもあるけれど、薬がよく効いたようで、うつらうつら歩いてベッドに倒れ込んだら、そのまま眠りこけた。


 目を開くと、電車の中だった。ガタガタと揺れ、硬い座席に座っていた。窓の外はやはり闇一色で、灯は明滅している。今度ははっきりとこれを夢と認識することができた。さっきまで明日香や秋生さんに見守られて、少し硬いベッドの上で寝ていたはずなのだから、電車にいるのはおかしい。しかしまさか今朝の夢の続きをすぐにも見ることになるだなんて思ってもいなかった。これもあの研究所によるものなのだろうか?

猿夢。駅員はブーツの音を鳴らして、ゆっくりと近づいてくる。前に座る女の人は、後ろからではどんな顔をしているかさっぱりわからないけれど、うつむいて微動だにしない。危ないですよ、と声を出そうとしたのだが、声にはならなかった。口がパクパクと魚のように動くだけで、そこに音の振動はなかった。

 なにかないかと、車内を見渡すもむなしく、無常にアナウンスは機械的に次の処刑を告げていく。

「次は抉りだし、抉りだし」

 猿面は、女の横で立ち止まり、ポケットから銀製のスプーンを取り出した。薄暗い車内の明滅する灯を反射している。白い手袋をはめた左手は女の長い黒髪を掴み、頭を固定させる。右手に握られたスプーンはまっすぐ、目元に下される。

「あ、アアアアアアアア――――――――‼」

 苦痛からか女は叫び声を上げる。腕をバタバタと振り回して首を振るも、髪を掴んでしっかりと固定されていては逃れることもできない。先ほどまでうつむいて、精気すら失っていたかのような姿からは想像もつかない暴れようだった。緊張からかのどが渇く。とても非現実的だ。夢だから当たり前だろうが、しかし質感が妙にリアルで、やはり夢と自覚しても夢と思い込むことができそうにない。

 床には黒い眼球が落ちていて、赤い血だまりが徐々にこちらに伸びてくる。吐き気すら催す。思い出せ、次は俺の番だ。回避しなければならない。次は何が来る。思い出せ、思い出せ。ひき肉、そうだ、ひき肉だ。動け、動け、俺の足。

 椅子から転げ落ちるように、もつれながらも脚は動き出す。血だまりの中に落ちて、ぬるぬるした感触に小さく悲鳴が出る。なんでこんなことに。なりふり構わず進行方向に逆らうように電車の中を駆け出す。

「次はひき肉、ひき肉」

 猿面は、まっすぐ俺の方へ歩み寄っていく。恐怖でうまく足が動かない。夢なら早く覚めてくれ。痛いのは嫌だ、苦しいのはいやだ。血で滑る床を踏ん張って、後方車両へ行く。ちょっとは順番があとに回ったりしないものか。その代わり誰かが死ぬということだとしても、自分の身に危険が降りかかっているとなればどうでもいいことだ。誰もが皆自分が可愛い。

「尚哉くん!」

 電車の窓から、明日香が飛び込んできた。窓の破片は猿面へふりそそぎ、窓を蹴り破ったらしいことを理解する。細い脚は、ブーツで守られていて、怪我はなさそうだった。奇妙な服装だったが、そんなことより、手に持っている大きな機械に目が奪われた。それは銃のようにも見える。明日香の身体の半分くらいの大きさで、とどめを刺すように猿面へ銃弾を撃ち込む。乾いた破裂音と火薬の匂いが五感を刺激してくる。

 鮮やかだった。猿面は動かなくなった。血は出ていない。身体が消えていた。服と仮面が落ちている。

「危なかったね、尚哉くん」

「なんで、お前……」

「夢魔は夢に干渉できる。それは、誰の夢でも同じだ」

 重低音な声は、明日香の手に握られていた銃から聞こえた。明日香はそれを放り投げる。瞬きするとそこには銃が落ちていることもなく、髪の長いシルエットがそこに立ち尽くしていた。ナイトだ。

「やぁ尚哉くん。さっきぶりだね」

「もう驚く元気もないな」

 明日香は、保健室の時と同じ眼鏡をかけていた。服もローファーではなくブーツに、プリーツスカートから覗く脚には膝当てがあり、身軽に動けるよう最低限の防具を身に着けていた。

 車内は騒然としていた。乗客は蒸発するように誰もいなくなり、サイレンが鳴っている。そのやかましい中アナウンスが流れだす。

「侵入者が現れました。排除します」

 蟻のように小人が湧き出してきた。小人の手には刀のようなものが握られている。明日香はナイトの腕をつかむ。ナイトは身体を光らせ、変形し、再び銃へと姿を変えた。理屈では説明できないこの現象はまさしく『夢』ならではだ。夢の中で好きに行動できる、という意味では、たしかに夢魔という存在といえるのかもしれない。ナイトの存在を認めるなら、夢魔の存在を認めざるを得ない。

 足で踏みつぶせそうな小人だが、手に持っている凶器は画鋲のようにも見える。靴を貫通することはないと思うけれど、踏みつけるのはためらわれた。明日香は牽制するように床に何発か弾丸を打ち込む。小人の隊列は乱れ、道を開けていくのを確認し、明日香は俺の手を取って走り出した。進行方向に向かって。うまく聞き取れないが、なにやら小人が騒ぎ立てている。

 駆け込むように乗り込んだ前方車両はもぬけの殻だった。明日香はさっきまでいた車両につながる扉を背に黒の手袋をはめなおす。

「夢魔がこの夢を作り出しているなら、安全なところで楽しんでいると思うの。だから、まずは車掌室に行こうと思う」

「運転席に……それって、あの猿面も」

「いると思う」

 はっきり言い切るのは、経験則だろうか。明日香が歩くのに合わせて、こつこつと木の板でできた床は音を鳴らす。

 思えば、保健室の時も明日香は眼鏡をかけてベッドに寝ていた生徒と共に寝ていた。言い換えれば夢の世界にいた。今回のように、夢の中にもぐりこんでいたのかもしれない。物好きに人助けをしていたのだろうか。

 明滅する灯を、金のヘアピンが反射する。

「尚哉くん、大丈夫。私が守るから」

 その言葉は男が言うならかっこいいんだろうけれど。無力な自分が仕方ないこととはいえ嫌になる。だからちょっとした抵抗だ。

「女に守られるのも情けないんだけど」

「いひゃい、いひゃいよなほやくん!」

 柔らかい頬を思い切り引っ張る。うん、こうしてしまえば勇ましい姿はどこへやら、普段通りの明日香だ。涙目で頬を抑えるのを見るのは幾分か気分がいい。

 夢だというのに、随分と現実に近い錯覚を抱き始めている。思うように動かせなかったはずの身体も、思考回路も、思うがままだ。そういう錯覚と言われたらそれまでかもしれないけれど、今この瞬間はやはり俺のモノだ。誰かにあやつられたり、自分の管理下から離れたものではない。握ろうと思えば手を握れるし、走ろうと思えば足を素早く動かせる。

 次の車両に移っても誰もいなくて、なんとも緊張感に欠ける。さっきまでの殺戮劇はなんだったというのだろうか。一人ではないということは心強いが、緊張感を失うのは生命の危機に直結しかねない。気を引き締めなければと理解はしているが、しかし警戒のしようもないんじゃないか。本来なら、前後の車両をつなげる扉以外奇襲をかけるような道はないはず。

 ……いや、明日香は窓からやってきた。

「お前、どうやって俺の夢に入ってきたんだ?」

「わたしの力だよ」

 声は答える。

「夢魔なのだから、夢に潜るのは簡単さ」

「なんで協力しているんだよ」

「契約しているからさ」

 さらに次の車両へと移る。左右に銃を向けて、クリアリングをしながら明日香も続けて言う。

「夢魔は人の夢に住むって話したよね」

「ああ、そうだったな」

「人に恩恵をもたらす報酬として夢に住まわせてもらう。悪夢を見せることはできないけれど、他の夢魔の手によって追い出されることなくなるし、ウィンウィンな関係になるんだよ」

 その恩恵の一つが、夢に潜る能力のこと。

 明日香は敵が潜んでいないことを確認して銃を下ろした。クリアリングなんてサバイバルゲーム以外では見たこともない。

「お前らは、いつからその契約? を、してるんだ?」

「いつからだろう、秋生先生にあの写真撮ってもらってからだよね?」

 銃に問いかける姿はひどく滑稽で、夢見がちな女の子といえばまだ響きはいいが、高校生ともなれば痛々しい。しかしその問いかけに答えるように銃はわずかに震える。その非現実的な光景といったら、夢を見ているのはむしろ俺のようだった。

「ひどい話さ。わたしは特別悪夢を見せていないのに、ちょっと芸術的なものを見せたらすぐあの女狐がやってきて、ここで殺されるか契約するか選べって言われ迫られたら、契約するしかないと思わないかい?」

 その言葉は、今にも唾を吐き出しそうなほどの怒気を含んだものだった。遊園地を沈めるのを芸術というにはずいぶんな感性をお持ちなようだが、悪夢とは確かに言い難い。よくわからない夢としか言いようがないだろう。

 あの研究室にもともと出入りしていたらしい明日香は、秋生さんが作ったその機械の被検体となって夢を映像化した際、ナイトを見つけたのだという。愉悦で口角が上がり、恍惚としたさまは変態のようだったと語る。なんだか想像できそうだ。いつもにやにやと気味悪い笑顔なのに、遊園地沈めて笑うって何事だよ。

「まぁ、私が被検体になる前から、秋生先生は何度か自分で試してたみたい。そこで先生も夢魔と契約してたから、ナイトと接触できたって言ってた」

ナイトの言う女狐が誰のことかわからなかったが、明日香の言葉で合点する。秋生さんと契約する夢魔なのだろう。無理やり夢から引きずり出されて選択を迫られたらしい。

「秋生さんはどうやって契約したんだよ」

「んー、聞いてないけど、あの人は夢に関して最先端の研究をしてるんだし、それでじゃないかな」

「さっぱりわからんな」

「夢の中でも現実のようにふるまって、夢魔探しや話しかけるとかしたってことだよ、たぶん」

 時折明日香に対して不安というか、心配というか、そういった感情を抱くことがある。素直な性格であるがゆえに、人にいつかだまされるのではないか。高額のツボを買わされても俺は一切一円たりとも、貸し与える気はないからな。

 憶測で勝手に納得して、肝心なところを聞かずじまいでは、物事の本質を理解することができない。夢の中でも現実のように、ということは夢と認識して身体を動かせるということだろうが、それだけで夢魔に会えるというならネットにはそんな情報が拡散されているはずだ。人知れずに巣食うから現代のエクソシストも西洋で奮闘しているはずなのだ。そんなに簡単でたまるか。

 それを指摘すべきか悩んでいたとき、右側の窓が割れた。黒い影が中に飛び込んでくる。明日香は俺を背後に隠すように立ち、銃を構える。窓の破片が降り注ぐが、腕で頭を押さえれば無傷だ。影は俺たちめがけて飛び込んでくる。明日香はグリップでその影を殴る。唸るようにその影が飛び退き、毛を逆立てるのを見て、この影の正体を認識する。

 大きな犬だった。犬歯が鋭く、あれに噛まれたら深い傷を負うこともあるかもしれない。明日香は銃口をその犬に向けた。犬はとびかかってくる。普通の犬ではなかった。身軽に高くジャンプする様は、猫の跳躍力を持っているようだ。顔に影がさす。俺を狙っているのか?

 ――――ダァン。

 破裂音がした。火薬のにおいが車両に広がる。その一発が命中し、犬は床に倒れる。それを容赦なく明日香は二発撃ちこんだ。なんだか、意外というか、ショックに近いものを抱いた。聖人君子とは思っていないが、小動物相手にそこまでやるとは思っていなかった。犬はもう動かない。

「ふぅー……。びっくりしたね」

「あ、ああ。うん」

「わざわざけしかけるってことは、近いのかなぁ?」

 夢だから。夢なのだから、現実とは違う。そう考えないと、トラウマになるかもしれないと感じた。見慣れた生き物を撃ち殺した当の本人は、平然とした顔をしている。それでもなんとなく、その犬を放置するのは良心が痛んだ。ガラス片があまり載っていない座席にどかして、三秒ほど黙祷をささげる。その間も明日香は先へと進んでいた。

 まるで日常の延長のようにふるまって見せることに、強い抵抗や違和感を感じる。

 あるいは、これも知らなかっただけで彼女の日常なのかもしれない。何度も夢に潜っていたなら。

「尚哉くん、いこう」

「……ああ」

 小走りで後を追いかける。距離を置けば、鉄の臭いは薄くなっていった。

 次の車両に入ると、明日香は銃で俺を制した。視線の先を追うと、猿面がいた。それと、足元に小人も。小人の顔にも猿のお面がかぶせられていた。手には、何か機械があった。筒状の道具で、肉を入れて押し出すとひき肉になるものだ。

 車内に無機質なアナウンスが流れる。なんといっているのか、雑音交じりでよく聞こえなかった。しかし、それにこたえるように小人は腕を上げて足を鳴らす。雄たけびを上げているようにも見えたが、あいにく声は聞き取れない。床をどんどん踏み鳴らす音だけだ。

「おさるさん、私たちを先へ通してくれたりはしないかな?」

 うつむき気味だった猿面は、刀を手に取って、それを構える。切っ先はまっすぐ俺の首へと向いているようだった。唾液を飲み込む。こんな明確に殺意を向けられた事は、あいにくだがない。

「交渉は決裂したようだよ、明日香」

「残念だね、ナイト」

 銃と言葉を交わし、明日香は俺を座席の影になるように押し込む。戦闘に巻き込まないためなのだろうが、自分に関係することなのに、目を背けることもできなかった。

 明日香は銃を構えて、猿面に向けて発砲する。猿面はしゃがんで、避ける。猿面の後ろにある扉に銃弾はあたり、硬質な音が響く。小人は機械を座席において、明日香に近寄ろうとするが牽制で撃たれる弾丸に怯み、前に出られない。猿面は身体をゆらりと起こして、突進してくる。明日香は身体を横にずらし、その銃の先端で猿面の手首を叩く。刀は床に落ち、腹部にグリップをたたき込む。猿面は身体を折ってその場に崩れ落ちるが、小人たちは勇敢に突撃してくる。明日香は足払いの要領で気持ちいいほどに小人を遠くへ吹き飛ばす。一匹飛んできたけど、ピクリとも動きはしなかった。

 猿面は落ちていた刀を手に取り、振り上げた。明日香は姿勢を低くしていた為、よけきれず、頬をかすめた。つう、と血が流れる。後ろに転がるように下がり、袖で頬を拭き、銃口を猿面の額に合わせた。猿面は脱力したようにゆらりゆらりと近づいてくる。それは操り人形のようでもあった。足を動かすために糸を操っているようだ。

「面を割るんだ、そうすれば力をなくす」

「わかってる」

明日香は発砲した。火薬のにおいが届いてくる。破裂音は一度だけ。そして、それは見事猿面を割った。そうしてやはり、先ほどと同じように体は残らず服だけがそこにある。

「明日香、怪我が」

「これくらい平気だよ。それより」

 俺が頬に触れようと手を伸ばすと、それを払われた。

「この先、たぶんいるよ」

 視線の先は猿面がとおせんぼしていた扉。銃弾が当たった跡が残っている。思っていたより少ない車両の電車だったのか、あるいは前方車両に乗っていたのかもしれない。なんにせよ、悪夢の元凶がいるかもしれないといわれ、身体が硬直する。

「尚哉くん、無理にこの先に付き合うことはないよ。話が通じる夢魔ならいいけど、そうじゃなかったら巻き込まれちゃうかもしれない」

「はぁ、それすっごい今更じゃね?」

 すでに犬といい二人の猿面といい、命の危機には何度か襲われていた。巻き込むも何も、夢魔が本当にいるなら、既に俺は当事者であって、巻き込む可能性を考える必要はないんじゃないか。

「俺の夢なら、最後まで一緒に行くよ。というか、ここで放置されて小人がまた来たら、本当にひき肉にされそうだ」

 瞬きを二度して、俺の顔をじっと見る。意外だといいそうなほど驚いた顔をしていた。何か変なことを言っただろうか。そっか、と明日香はつぶやく。ナイトはやはり銃のままだったが、くすくす笑っている声が聞こえた。

「うん、尚哉くんはそういう人だったよね」

「お前、一年ちょっとしか付き合いないのに勝手に知った気になるなよ」

「わかるよ、ずっと見てたんだから」

 明日香は引き戸を思い切りあけた。先頭車両と車掌室をつなぐ扉の前に、女が立っている。長い髪は緩く波ができていた。口は紅をさしているようで、煙草を咥えている。煙たい。せき込む声に気づいて、女はこっちを振り返る。細い釣り目は、まっすぐ睨みつけてくる。

 動きにくそうな豪奢な服装で浮世離れしていた。見た目は人なのに、威圧感がなんだか同じ人間とは思えない。保健室で見たナイトと同様の存在にも見える。

 チカチカと明滅していたはずの灯は、ここだけはしっかりと車内を照らしていた。薄暗かったのにここだけ眩しいほどだ。大きく車体は揺れる。

「なんだい、ここまできちまったのかい」

 艶のある声で、女は言う。

「同種がいるねぇ、恥さらしが」

「わたしはわたしの住みやすい環境があればそれ以上の望みがないからね」

 忌々しい、と女は吐き出すように言う。そんなこともナイトは特に気にしていないようだった。

「理解できないねぇ。住みやすくするならのっとってしまえばいい」

「わたしの台詞だね。ある程度の制限があってこそ自由を謳歌できるものさ」

 女は深く息を吸い、煙を吐き出す。紫煙はゆらゆらと揺れている。一歩こちらに歩み寄る。明日香は後ろに下がる。女は鞘から刀を抜く。灯を反射するのがまぶしい。明日香も銃を構えた。

 刀を一度横薙ぎにふるうと、風が起こる。その風に一瞬怯んで目を閉じる間に、女は迫った。一歩、二歩と大きく飛び、瞬時に目の前に現れて、刀を大きく振りかざす。明日香は銃を頭より高く持ち、横にすることで防ぐ。ガン、と大きな音が鳴る。女はペロリと唇を舐める。余裕がうかがえた。強い。特別な技巧もなく、力技一辺倒なそれは、しかし明日香を翻弄するには十分だ。

 しゃがみ、力を受け流す。刃先は床の木板に刺さる。深く刺さったのか、引き抜こうとするほど隙が生じる。明日香は腹部を銃のグリップで殴る。女は刀を手放し後ろに下がる。明日香はこれを好機と考えたか、追うように前に数歩出て、銃を構える。脚を狙って数発打ち込み、それを女はよけきれず太ももに一発当たる。つう、と血が垂れる。

「脚を怪我すると、動きにくいでしょ」

 明日香はにっこり笑う。

「降参、してくれません?」

 勝負あり、といった様子だった。女は煙草を吹き出し、踏みつけて火を消す。唇を強く噛んで、屈辱という色が強く出ている顔だった。俺は床に刺さっている刀が気になった。近寄り、それを手に取る。ずしりと重たいが、手になじむようだった。なんだか景色が白ばんでいく。眩しい。……目覚めの時間か。やさしい声が呼びかけてくる。

――――おはよう、春日くん。


保健室のベッドよりは、生活臭がする。臭いというわけではない。保健室のベッドの方がむしろ薬臭い。そのくせ不特定多数の病人を寝させているベッドと考えれば、保健室のベッドが清潔とは言えないのかもしれない。洗濯してもその不快感はあるもので、例えば潔癖症だったら寝たくないものとなるかもしれない。

身体を起こすと、少し頭が痛んだ。頭を押さえると、秋生さんが背中を支えてくれた。本田さんが水を差し出してくる。受け取って一口飲む。口の中が潤う。

「潔く降参してもらえて助かるよ」

「別に。無駄に体力を使うより待つ方がいいのさね」

 煙たい臭いの出所を調べたら、ナイトとあの女がそこに立っていた。女の手にはやはり煙草があった。そばでは明日香がまだ眠っていた。ナイトは明日香のメガネを外して、その枕元に置く。二度も夢に潜って疲れているようだ、と秋生さんは俺に説明をする。ほっとした。ほほの傷はすでに絆創膏がはられてあった。

「待つとは、誰か仲間がいるような言い方だね。わたしに教えてもらえないかな」

「人間と契約するような腑抜けた夢魔に話すことなどないね。あたしらの考えを一生理解もできないだろうよ」

 ナイトに煙を吹きかけて、女はくすりと笑う。

「まあ、話したくないなら僕はそれでもいけれど、名前くらいは聞かせてもらえないかな?」

「メアでいいよ」

 話す気はないといいつつ、名前はあっさり明かした。メア、か。

「さて、メアさん。選択肢は二つのみだ。捕虜となるか、この春日君から出て行って夢魔の世界に帰るか」

「ふん、とりあえずもう、そのガキの夢にはもう手を出せないんだから。それ以上を望みたいのかい?」

「秋生さん、彼女は『待つ』と言ったのだから、捕虜にして一網打尽しかないでしょう?」

 ナイトの進言を受けてメアは睨みつける。人の支配下に置かれるのが納得いかない様だった。

 鐘の音が聞こえる。外からだ。時計は五時を指している。そろそろ帰らねば。鞄を手に取る。

「明日香は起こさなくて平気ですか?」

「ああ、そうだね。ここで寝るよりは家の方がずっといいだろう。石沢くん、おきなさい」

 秋生さんは明日香の身体を揺り動かす。身じろぎをしたあと、ゆっくり体を起こして、明日香は目を擦る。覚醒していないのか、目がすこし潤んでいる。眠そうだ。

「帰るぞ、明日香」

「へ? ……あ、まってよ尚哉くん!」

 右手を引いて立たせる。左手のメガネを手に取って、明日香はやっと帰る準備を始める。ナイトは明日香の影に潜むようにして消えていった。たぶん俺は背後霊と聞いても疑問に思わなかったかもしれない。秋生さんは俺に話しかけてくる。

「どうだい、夢魔を信じてくれるかな?」

「大がかりな手品、と疑うにはあまりにも突然のことだし、見たものを疑う趣味はないですね」

「なら、また今度くるといい。春日くんなら歓迎だ」

 くたびれた白衣のポケットに手を突っ込んで、左手で秋生さんは手を振る。

「帰ろう、尚哉くん」


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