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ビリヤードな日常  作者: 田渕才造
ビリヤードな日常編
44/51

その四十四 真価球

「師匠」

「はい。何でしょう」

「最近悩んでる球教えて」

「はい。高橋さんのその質問嬉しいです」


 ビリヤードでは以前から冗談の様に師匠が言っていた「真価球」が最近気になっている。

 こないだ初めて出来たマスワリ(ブレイクランアウト)が少しづつ頻度が高くなって出来る様になってきて難易度が高い球を入れた後に、それよりも難易度が低い球を飛ばす(外す)のが最近どうしても納得がいかない。


 かなり薄い球やら、出しの難しい厚めの球からのピンポイント出し。それをめちゃめちゃ集中して何とか入れ繋いで「そこそこ上手く」出来た出しからの「これをしのいだらマスワリ確定」のはずからのシュートミス。


 さっきの球に比べたら十分の一くらいの難易度なのにシュートミス。ああシュートミス。意味が分からない。普段なら、その球で回ってきたら九割以上入れれる球なのにシュートミス。師匠~!


「そこでセーフティは考えなかったんですか?」

「入れ倒す美学!」

「高橋さん素敵です」


 師匠は僕の美学を受け入れてくれるらしい。と言うか師匠と同じ感覚かも知れない。「真価球」を撞く時に当然セーフティは考えた。でも、セーフティは相手に撞き順を譲る事になる。入れてしまえば僕が撞き続けられる。今ならシュート力もそこそこになったから入れ倒すプレースタイルを選びたい。


「高橋さん、初心に帰りましょう」

「師匠?」

「高橋さんはどうしてビリヤードが楽しいんですか?今の高橋さんは修行僧の様な球を撞いてますけど」

「入れ倒したい」

「なるほど。相手に撞かせずに入れ倒すのが楽しいんですね」

「もちろん」


 僕がビリヤード始めた頃から師匠はずっと僕の球を見ている。だからきっと僕の撞きたい球を理解してくれている。そんな感覚が師匠にはあった。それが理解して貰えてるのが嬉しい。


「だから入れ倒したいんですね」

「うん」

「だから、真価球を飛ばすのが悔しいんですね」

「うん!」


「そんなのはみんな通ってきた道なんですよ。『ここ一番』の球を外して相手に取り切られて惨めな気持ちになる。『あの一球を入れてたら勝ってたのに』って経験はクラスが上になるほど嫌になるくらい経験しているんです」

「うん」

「高橋さんはいつの間にか目の前の球を全部『今相手から回ってきたチャンス球』と思えたらかなりの確率で入れれる様になりましたよね。だからこそ『真価球』です」

「ん?」

「高橋さんの言う『真価球』が今回ってきたチャンス球なら頑張ってかなりの高い確率で入れれる様になったんですよね。ならどうして目の前の球に全神経を傾けて撞けないんでしょうか」

「せっかく全精力を傾けて入れ繋いで難易度を下げて、これを入れたら取り切りが見えてくる。そんな球だから」



「欲ですよね」

「え?」

「以前なら入れただけで満足してた球を入れて自分でポジションした球が微妙に難しいのが満足なのに満足できない、フラフラした感覚のまま集中力を欠いた状態で撞いて外して『真価球』って言ってるだけですよね」

「師匠、厳しすぎ!」


「高橋さん、ビリヤードに限らずスポーツってすべからくメンタルが大切らしいですよ。ビリヤードみたいな個人競技もサッカーみたいな集団競技も、試合の中でメンタルをコントロール出来ないと負けにつながる確率が増大するらしいです。だから経験を積んで日常ではない試合と言う環境でメンタルを保ち『真価球』を入れて更に撞き続けるメンタルを保持できるかがプレイヤーの技量なんじゃないかと思います」


「師匠!高度すぎ!高みの意見は僕じゃ理解不能!」


「まぁ高橋さんもすぐに分かりますよ。同じ高みを角度の違いこそあれ見ている高橋さんと私ですから」


 結局メンタルかよ。そんなの言われなくても十分に理解している。メンタルを鍛えるメソドロジー(方法論)なんてインターネッツでいくらでも知識は得られる。でも、実践の場で得難い実践の場を経験した師匠ならば僕にも分かりやすい話が聞けるかと思ったけど言葉じゃなかったんだね。師匠、ごめんね


「実際に経験しないと分からない事がたくさんありますから」


 ありがとう。師匠。次の「真価球」は入れて繋ぐから。僕ビリヤードが好きだから。


読んで頂いてありがとうございます。

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