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ビリヤードな日常  作者: 田渕才造
ビリヤードな日常編
32/51

その三十二 スクラッチ大魔王選手権その二

 初戦の相手は斎藤くん。今回開催のスクラッチ大魔王選手権の幹事役だ。何が君をスクラッチ大魔王選手権に駆り立てたのか知らないが対戦する以上は勝たせてもらうよ。

 

「それでは一斉ブレイクです。構えて。てー!」


 幹事の開始の合図が響いた。後で聞いたんだけど、もう一人の幹事は海上自衛隊の砲術士だそうだ。何だよ。「てー」って。


 一斉ブレイクの音が会場に鳴り響く。初級者ばかりだからパキャって感じの締まらない音なんだけどな。しかも全然揃ってないし。

 おっと、集中集中。今回はスクラッチ大魔王の汚名を受けなければ上出来である。勝ち負けは既に眼中似ない。とは言っても負けず嫌いばかりのプレイヤーが集まっているらしく僕も含めて攻め攻めな球ばかりであちこちで「ぎゃー」とか「うわー」とかの悲鳴が聞こえる。どうやら順調にスクラッチポイントを蓄積している奴等がいるらしい。

 

「むぅ」

 僕は中途半端に意識したネクストの影響で今日一回目のスクラッチポイントを獲得してしまった。

 ポケットに吸い込まれる僕の手球を見つめる斎藤くんのニヤニヤした顔を殴り飛ばしたい。

 一セット先取りの結果は斎藤くんの勝利に終わった。スクラッチポイントは斎藤くんがゼロ。僕は一だ。裏選手権も斎藤くんが一、僕がゼロだ。そっちはどうでも良いんだけど。

 対戦が終わると勝敗結果と一緒にスクラッチポイントの申告に幹事テーブルに向かう。

 

 小さい店とは言えこのビリヤード場に要るのはスクラッチ大魔王選手権参加者だけだ。貸切みたいになってる。

 

「このお店は昼間はお客さんが少ないって聞いたのでお願いしてお店を貸切にしたよ」


 わずか十人くらいの参加者で半日くらいはかかるスクラッチ大魔王選手権で貸切に出来るのか。この店は早晩潰れるんじゃないのかな?

 

 お店の心配はともかく、順調に試合が消化されていく。まだ開始から三時間くらいだけど幹事テーブルにある対戦表は半分以上が埋まってきている。試合消化のペースは幹事の想定の範囲らしい。

 

「ぎゃー!!!」


 前のゲームでスリーポイントルールのイリーガルブレイクで三スクラッチポイントを獲得したとある男性プレイヤーが今度はとばかりにフルブレイクした結果ブレイク場外で更に三スクラッチポイントを獲得したらしい。ぶっちぎりだな。幹事役の斎藤くん見かけの涼やかな容姿に相反する君の性格の悪さはこのルールの体験したプレやー全員がきっと感じていると思うぞ。そのルールで自爆してるのも君らしい。

 

 試合は順調に消化されていく。あちこちから悲鳴や楽しそうな笑い声が響く中で対戦表は埋まっていく。

 

「あー、スクラッチポイントが多いプレイヤーの方からすると気になると思いますが対戦表は最後のお楽しみにして頂いて途中で確認するのは幹事役に任せて頂けますか?」


 一試合平均で一スクラッチポイントを稼いでいるプレイヤーとフルブレイクでスクラッチポイントを荒稼ぎしているプレイヤーの二人に幹事役から注意の声が飛ぶ。そりゃ気になるよね。きっとスクラッチポイント上位三人くらいで大熱戦が繰り広げられているようだから。

 

 夕食の時刻くらいになってスクラッチ大魔王選手権の対戦が滞り無く終了した。

 

「まずは裏選手権の結果から」


 たぶん誰も興味ないと思うぞ。

 

「篠原さんおめでとうございます!」


 どうやら空気の読めない篠原って奴が裏選手権を制したらしい。まばらな拍手が響く。裏選手権なんて参加者のだれも興味が無い。表だ表。

 

「それでは栄えある第一回スクラッチ大魔王は。」


 ドルルルルル。たぶん参加者全員の脳内でドラムロールが響いている事だろう。

 

「第一回スクラッチ大魔王選手権の幹事でもある斎藤さんです!!!」


 斎藤くん、ご愁傷様。どんだけスクラッチ大魔王になりたく無かったのかは知らないけどブッチギリの優勝らしいね。表で。

 しばらくは僕のホームでは斎藤くんの話題で楽しめそうだ。ありがとう。

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