その三十一 スクラッチ大魔王選手権
「スクラッチ大魔王選手権?」
スクラッチって手球がポケットに落ちてしまうことだよね。
斎藤くん(彼氏ではない)が妙なビリヤードの催し情報を仕入れてきた。斎藤くんはコミュニケーションが苦手なの僕と違って社交的と言うかリア充と言うかとにかくアンテナが広い。
最近ハマり始めたと言うかどっぷり首までハマったビリヤードについても貪欲に情報収集をしてくる。他のお店にも積極的に出入りして新しいビリヤードの知り合いを増やしてくる。僕にはとても真似できない。
それはさておきスクラッチ大魔王選手権の話だ。
斎藤くんの話では知り合いの初級者と手球スクラッチが多いのを嘆いていたら、どれほど大事な場面でスクラッチしたかと言ったスクラッチ経験自慢(?)になり、あげくの果てにだったらどちらが華麗なスクラッチができるかとかスクラッチの回数では負けないなどと売り言葉に買い言葉で勝負をすることになったらしい。
どうせやるなら人数を集めて試合形式で競うことになり、めでたくスクラッチ大魔王選手権と銘打ったプライベートマッチの開催に至ったそうだ。なんだそれ。
人数はある程度居た方が楽しいと言うことで斎藤くんは僕に声を掛けてきたそうだ。
日程は次の土曜日、時間は昼過ぎから、場所はまだ行ったことのないお店らしい。
自慢じゃないが、と言うか自慢になるはずもないが、僕のスクラッチの経験数は行きつけのお店の中でも上位にいるかも知れない。回数、場面と言う質量ともにスクラッチニストと呼べるくらいの自信はある。
舞台は揃った。優勝を目指してやろうじゃないか。スクラッチ大魔王はどう考えても汚名なんだろうけど。いや単純に面白そうだし。
試合当日、いつもの駅で斎藤くんと待ち合わせして会場に向かう。斎藤くんに聞くと北の方にあるお店らしい。
会場に到着した。プライベートマッチとは言え幹事役のプレイヤーは必要だと言うことで斎藤くんも含めた言いだしっぺの二人が初回の幹事役になっている。
初回だと?これって何度もやるつもりなのか?
歴代大魔王による最強位戦まで構想にあるらしい。妙なところに凝り性な斎藤くんの性格が良く表れている。
十人ほど集まったところで今回の参加メンバーが揃ったようだ。
「ルール説明しますので集まって下さい」
斎藤くんがルール説明役らしい。ルールは表選手権用と裏選手権用があって表はもちろんスクラッチ大魔王を決める事にある。裏が普通のナインボールでの試合形式。午後からなのに十人くらいで総当たりって本気なのかしら?
【表選手権ルール】
この集まり独自のスクラッチポイントなるポイントの獲得数で順位を決めるそうだ。と言っても決めたいのはスクラッチ大魔王だけだそうだが。
<ワン・スクラッチポイント>
・プレイ中のスクラッチ
<ツー・スクラッチポイント>
・ブレイクスクラッチ
・ナインボールスクラッチ(入れても入れなくても成立)
<スリー・スクラッチポイント>
・ブレイク場外
・イリーガルブレイク(スリーポイントルール)
・バンキングスクラッチ
<その他>
・スクラッチを避けたいがあまりのチキンなプレイには周囲のプレイヤーも含めて野次あり
・華麗なスクラッチには惜しみない拍手を
ソフトブレイク禁止と言うかブレイク場外誘発のために女性の参加者以外にはスリーポイントルールが適用されるそうだ。ブレイク場外なんかしたことのない僕からしたら女性が除外されるのはありがたい。
そして栄えあるスクラッチ大魔王に輝いたプレイヤーには参加賞総取りとともに次回スクラッチ大魔王選手権の幹事に任命されるとのこと。開催場所やルールはスクラッチ大魔王の一存で決められるそうだ。
【裏選手権ルール】
USナインボール、テキサスエクスプレス、一セット先取。あとは適当だそうだ。だってこちらがメインじゃないし。しかも裏で優勝してもみんなから良かったねと言ってもらえるだけらしい。
以前参加したハウストーナメントとは雰囲気が明らかに違う。勝負は勝負なんだが名誉を得るための勝負ではなく汚名を避ける勝負の雰囲気とはこんな感じなんだね。
総当たりなので適当に空いた相手を探して空いてるテーブルで勝負する事になった。最初の相手はやっぱり君か。勝負だ。斎藤くん。




