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禁忌魔術少女と異端な高校生魔法師  作者: 太郎田じゅんせー
第2章 別荘篇
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8.別荘篇⑵

 I



 ****



 真板が、予(あらかじ)めグリーン車の座席を余分に確保してくれたお陰で俺の安寧(あんねい)の時は訪れんとしていたが、それはえてして波乱と為(な)す。


 本当に苦労したのは電車に乗ってからだった。乗り換えの度に葛(つづら)と長宗(ながむね)が入ったキャリーケースを引き摺(ず)らなければならないのは当然ながら苦労した。しかし、それよりも苦労したのは座席に座れないことだった。


 真板(まいた)に座席に座るように勧められたが、荷物の正体が明るみにならないように、出来るだけ顔見知りには接触したくなかったので断った。

 勿論(もちろん)、長旅になることは重々承知の上だったし、脚が疲れる事も覚悟の上ではあった。


 しかし、

「トドヤン、座席に座ろうぜ〜。」

 と、こうしてそれを邪魔する奴が出てくる。


「座りたいのだがな、」

「じゃあ、座ればええやん。疲れるだろ?」

「お前らが何しでかすか判らん以上は座れないんよ。」

 と言うと、長宗は

「僕たちはおとなしくキャリーケースの中に丸まってるじゃないか。」


「ほら、そういう所だ。お前らは荷物という設定なのに何で喋ってんだよ!」

 特急列車のグリーン車のトイレ前は人通りが少ないから良いものの、これが座席ともなれば話は全く別なのである。

「黙っとくって、結構酷(こく)な事なんだよね〜。というより抑(そもそ)も、何でわざわざ重たい思いしてまで俺らをこんな狭い所に押し込むのか、説明して欲しいね。」


 長宗が俺にそう問う。

「陸上長距離の顧問の名を忘れたか?」

「あ、そうだったね。」

 長宗は全てを解した。


「そう、高魚(たかうお)だ。高魚は葛とか長宗みたいな補習組には人当たりがキツいからな、バレないようにお前らをキャリーケースに詰めたわけよ。もちろん、お前らは無賃乗車だからな。駅員にバレたら責任取れよ。」


「乗車券を提示して下さい。」

 突然、背後から乗務員と思しき4、50代ほどの男性の声がした。つい先程まで荷物に話しかけていた俺は取り乱し、思わず、長宗が入っているキャリーケースのファスナーを開けていた。


 その中から色白の手が覗き、指が中から出てくるのを見ると俺は我に返った。恐らく、乗務員も見ていたに違いない。指を強引に押し込み、目にも留まらぬ速さでファスナーを閉め、何も起こっていないという体(てい)を装った。


 乗務員は怪訝(けげん)な様子で再度尋ねる。

「すみません、乗車券を提示していただけますか?」


 焦った俺は今度、葛の入っているキャリーケースを開けてしまった。ケースの中からは運動で引き締まった小麦色の、左脚が現した。乗務員の眉間(みけん)には皺(しわ)が濃く刻まれ、より一層怪訝な表情が窺(うかが)える。

 無理矢理押し込むには無理がありすぎるので、俺の“本当の”荷物が入っているボストンバッグからバスタオルを取り出しキャリーケースごと包(くる)んだ。


 漸(ようや)く俺は落ち着きを取り戻し、ポケットから乗車券を取り出して乗務員に見せる。乗務員は何か少し考えた後に、確認の印を押すと次の車輌(しゃりょう)へと消えて行った。


「危なかった〜」

 一つ、安堵(あんど)した。

「痛いじゃないか、トドヤン。皮が捲(めく)れたじゃん。」

「すまん。」

「トドヤン、小便(しょんべん)したいから出してくれ。」

「あいよ。」




 II




 東堂さんに、一体何があったのでしょう。

 などと考えながら、緑が繰り返す車窓を眺めています。そこには疎(まば)らですが、農夫さんが田畑に赴(おもむ)き作物の生長を確認する姿や、小さな子どもが走り回ったり川に飛び込んだりして遊ぶ姿を見かけます。


 私は、そんな日常の姿に羨望(せんぼう)を禁じ得ません。

『隣の芝生は青い』人々はそう言います。私のこの感情はまさにそれを具体化したものです。


 それは人々が密集(シノイキスモス)した、日常と非日常が繰り返す窮屈な都市生活。それもあります。私はそれに加えて、お風呂とトイレ以外全てに護衛の方が傍(かたわら)におり、良く言えば警護、悪く言えば監視という束縛され続ける生活––––––––––。

 私はこれらの不穏や束縛を知らない彼らが妬(ねた)ましいほどに羨(うらや)ましいです。貴方達には想像もつかないことでしょう。存じております。事実、私はSPCG社長の実子で罪悪感を感じながらも、贅(ぜい)の限りを尽くす生活を営んでいます。こんなことで不満を持つ私は世界一の贅沢者だということも知っています。

 私は何を言っても嫌味にしか受け取ってもらえない存在です。良いんです。所詮......


 そういえば、東堂さんとは駅の休憩室以来姿を拝見していませんでした。電車に乗り遅れていなければ良いのですが。


 窓際の座席に座っている西開地(にしかいち)鰆(さわら)さんは私に訊(たず)ねます。

「天音(あまね)、どこ行くの?」


「新入部員の方を探しに行ってきます。」

「そういえば部員が増えるかも、とか言ってたな~。しかも男子だって。変態じゃなきゃいいんだが。そこんとこどうよ、部長さん。」

 と、2つ隣に座っている上小林(かみこばやし)莉恵子(りえこ)さんが思案顔で腕組みしながら言います。

「それは失礼ですよ。そのようなお方ではありません。過去に何度も勧誘を断っていましたから。」


 高魚先生を伴って東堂さんを探しますが、一向に見当たりません。あの時忙(せわ)しなく動き回っていらっしゃったので乗り遅れたのでしょうか。


「……なんだってな、笑えるよな、アハハハハ」

「アハハハハ、あぁ、腹痛ぇ。もう一生分くらい笑うたわ。」


 なんか、トイレの個室の方から東堂さんと思しき声ともう一人誰でしょう、男の人の笑い声がします。

 いろいろ、気になることはありますが、出て来るのを待ちます。待つ間も無く東堂さんが出てきました。


「げっ、さっき○%〒☆£♨︎仝#♭」

「え、何のことでしょう?」

「あ、いやぁ何でもない、何でもなくてだな、、あ!そうそう、何か妹とかその他がどうしても行きたい言うもんやから、ええかぁ?」


 東堂さんは急に何処かの方言のような口調で言いました。トイレが詰まったのか、動揺している様にも見受けられます。

「ええ、構いませんけど。私としても、お顔を拝見できないかと……」


「あぁ、それがなんだけどな、まぁ俺の不注意なんだが、見失ってしまったみたいなんだよな。写真でも良いならあるぞ。」

「是非是非、見せて下さい!」

 東堂さんは何かを考え、画面をスクロールすると、

「これが妹の沙耶乃(さやの)だ。ほんで、これがえっと……居候のディメノだ。」

 なんと可愛らしいお方でしょう。東堂さんにこんな可愛らしい妹さんと居候さんがいるとは。


「ありがとうございます。」

「いいのか?飛び入りで。」

「ええ。部屋にまだ余裕がありますので。」

「そうか、良かった。なんか済まんな。」

 東堂さんは微笑して返した。


「いえいえ。それより、東堂さんは座席に座らないのですか?これだけ大荷物だと、さぞ管理が大変でしょう。」

「あぁ、良いんだ。」


 ここで高魚先生が口を開き、

「東堂、さっき葛の声が聞こえたんだが、どういうことか、詳しく本当のことを教えて貰おうではないか。」

 と訊ねると、東堂さんの顔色は一気に青褪(あおざ)め、額には汗粒がびっしりと埋め尽くされていきました。


「あぁ、それはですね、トイレで電話していたんですよ。そしたら盛り上がってしまって、」

「そうか。次電話掛かってきた時は勉強しろとだけ伝えろ。いいか。」

「はっ、@◎¥*☎︎◆%℃गش!」


 今日ずっと東堂さんの様子がおかしいです。一体何があったのか、気になるところです。


「おっす、部長さん。新入部員はどうよ?」

 と私が戻ってきたと同時に上小林さんが尋ねました。

「ちゃんと乗ってますよ。」

「そうじゃなくて、外見の特徴だよ。」

「身長は高校生男子の平均くらいで細身という印象を受けました。」

「そうか。」


「イケメン君だといいね!」

 と、鰆さんは期待に胸を膨らませ、張り切って言いました。

「そうですね。」



 **



 とうとう目的地まで目と鼻の先の距離ほどになってきた。今日、あれだけの大荷物を担(かつ)ぎあれだけの距離を移動しても疲れに愉(たの)しさを覚える俺が恐ろしい。(俺はマゾヒストではないぞ。)


 さて、腹を括(くく)りまだ知らぬ部員たちのもとへ一歩踏み出す。

「新しく陸上長距離に入ることになりました、東堂梁也です–––––––––––」

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