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魔法使いにできないコト  作者: 水無雲夜斗
エピローグ
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エピローグ2

 じょきんじょきんと、ハサミが唸る。

 時刻は午後八時。俺は一人補助委員室で、ハサミを使って紙をひたすら切っている。

 それは投票用紙だった。

 これも俺が行った不正を隠すための後処理の一つ。

 目の前にあったのは投票箱で、その中には三百枚程度の紙きれがぎっしり詰まっている。

 じょきんじょきんとハサミを操り、それを細切れにしてビニール袋に捨てていく。

 そうしていると、ガチャリと補助委員室の扉が開いた。

 そこに立っている人物を見て、俺は呆れかえる。


 「まだ帰ってなかったのかよ」

 「それはこちらのセリフです」


 生徒会補助委員室長、九沙奈。

 彼女の目もまた、俺を呆れたように見つめていた。

 次いで、九は補助委員室を軽く見まわし、状況を把握する。

 その上で、こんな質問をするのだ。


 「何をしているんですか?」

 「事後処理」


 既に九もわかりきっていることだろうから、即答で最小限の答えを返してやる。

 すると九は嘆息した。


 「まったく、やはりあの選挙の結果はあなたの不正だったのですね」

 「あの時体育館にいたお前なら、俺が魔法を発動したことぐらいわかってたんだろ」


 魔法使いは、近くで発動された魔法を感知することができる。

 最初から九に隠すつもりはなかった。あのタイミングで魔法を発動すれば、俺が不正をしていることぐらい簡単に推測することができただろうから。

 九は正義感が強い。

 だから俺の計画を話すわけにはいかなかった。結月ならあるいは見逃してくれるかもしれなかったが、もし俺の計画を事前に知っていれば、真っ直ぐな性格をしている九はまず間違いなく俺を咎めただろうから。

 だが、選挙が終わり、結果が出た今となっては、九がどれだけ俺を咎めたところで結果は変わらない。俺の不正を知っている結月も、このことを黙認しているのだ。

 再び、九の嘆息。

 彼女は扉を閉め、俺の対面に座る。


 「終わってしまったことはもう構いません。ですが、あの不正はあなた一人の力では達成できなかったものでしょう。いったいどうやって成功させたのですか?」


 俺がやったことはあくまでスクリーンの映像を書き換えただけ。

 だが、体育館三階にいた俺では二階にいる司会進行役の女生徒に伝達ミスを伝えることはできなかったし、全てが終わった後にノートPCに工作をすることもできなかった。

 つまりまぁ、簡単な話。


 「協力者がいたんだよ」


 この計画を成功させるために、俺はある程度の下準備を行っていた。

 そのためにまず揃えたのが協力員だ。

 俺の計画には人手が必要であり、また協力員となる人物にはそれなりの技術が必要だった。

 運がいいことに、俺にはその心当たりがあった。


 「新聞部だよ、アイツらこういう裏工作は何故か無駄に得意だからな」


 選挙が始まる前、土日に俺が学校を訪れていたのは、情報収集と下準備をするためだ。

 まず土曜日には情報収集を行った。

 選挙当日はどのような流れで進行するのか。何が使われるのか。誰がどのような役を担当しているのか。それを生徒会という立場を使い、徹底的に調べた。

 そして次の日曜日で下準備を開始した。

 まず新聞部へ赴き、協力者の確保。高野に話せば快く承諾してくれた。曰く、俺には多少なりとも借りがあり、それ以上にこんな面白そうなことに参加できるならぜひ協力させてほしいとのことだった。

 次に新聞部の工作員を会場に乗り込ませるための手続きをした。

 といってもこれは生徒会の権限を使っただけだ。ただ「人手不足」という理由で「部会長選挙実行委員」のリストに二名の名前を加え、助っ人という扱いで潜入させることにした。

 この辺に関しての管理体制は緩く、そもそも当日に実行員ではない軽音部の面々が設営を手伝っていたことからも、一般生徒が実行委員側に潜り込むこと自体は極めて容易なことだった。学生如きが不正をできるわけがないという認識だったのだろう。もっとも新聞部の連中が特別なだけで、実際その認識は正しいわけなのだが。

 あとは簡単だ。潜入した二名はそれぞれ「伝達ミスを伝える係(これは高野)」と「選挙が終わった後にPCに細工をする係」に分かれてもらい、それぞれ工作を行ってもらった。

 また、念のため投票数がわかった場合、結果発表がされる前に俺にその結果を教えてもらうよう連絡もしておいた。それが雨桐が目を閉じた後に俺が確認したメールの内容だ。

 これは正しい投票結果を知る実行委員の疑問を最小限に抑えるためのものだ。

 幸いにして、投票結果の百の位は菅原竜太郎も相浦先輩も同じだった。あとは十の位を変えるだけだ。

 百七十七を百四十七に。百二十四を百五十四に。圧倒的な差がつかない程度の結果に。

 こうすることによって、本物の投票結果と違う数字は二つだけになる。となれば、あるいは「もしかして見間違いだったか?」という疑問をPCの操作係が抱くことがあるかもしれない。

 もちろんこれは可能性の話だ。というよりも、その疑問を持って生徒会にしつこく抗議をしてきた場合、「見間違いだったんだろ」で済ませるための布石というのが正しいか。

 そうすることで、不正は証拠をもって暴く以外になくなる。その証拠となり得る投票用紙は、現在俺がバラバラにして処分中。それも念には念を入れ、全てバラバラにするつもりだ。もはや総数を数えることは叶わない。

 明日にでも投票用紙を確認させてくれと誰かが生徒会室に飛び込んできても、既に処分してしまったと伝えれば打つ手はなくなる。

 これが俺の行った工作の全てだ。


 「そうですか」


 詳細まで語るのは面倒臭かったのでより簡潔にまとめた抽象的な言い方をした俺だったが、九も詳しく聞く気はないらしく、そこで納得した。

 

 「責めないんだな」

 「当たり前ですよ」


 逡巡の間もなく、さらっと言ってのける九。


 「今回の件は、全て折無君のおかげですから」


 じょきじょきとハサミを動かしていた手が止まる。

 九は俺の目を真っ直ぐと見つめていて、吸い込まれるように俺も彼女を真っ直ぐ見つめる。


 「これで、文化部の方々が理不尽な部会によって苦しむことはなくなりました。これから先どうなるかはわかりませんが、私はきっとこれで良かったと思います」

 「それが不正の上に成り立っていたとしてもか?」

 「納得できない部分がないと言えば嘘になりますが、それでもです」


 九沙奈は何も知らない。

 今回の件が全て折無結月の手のひらの上で行われていたことだったということ。

 実質的に部会を動かすことになるであろう雨桐が、今はまだ人の上に立つ力のない人間であるということ。


 「ありがとうございます、折無君」


 だからこそ、その感謝はきっと俺に向けられるべきではないのだ。

 全てを知った上でそういう選択をした俺は、正義を求める少女にとって正しい存在ではないはずだから。

 でも、人から感謝されるというのは決して悪い気分ではなくて。

 九は机の上に置いてあった予備のハサミを手に取る。


 「手伝いますよ」

 「……助かる」


 照れ隠しのようにそう言って、そうして二人でじょきんじょきんと投票用紙を処分していく。

 魔法使いにできないことはない。

 今まで俺はそう思っていたが、どうやらその限りではないらしい。

 魔法使いにだってできないことくらいはある。

 たとえば、それはもう夜も遅いというのに、目の前の少女に「早めに帰れ」と言うことができないことだったり。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

あとがきは活動報告の方にありますので、興味のある方はどうぞ。

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