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89.「金色の髪の乙女」

 7月4日。

 太陽の挑戦。

 一発勝負の地方大会初戦の日。


 今日は快晴。

 太陽の登板にピッタリな天気。

 熱い日差しが大地に注ぐ。


 対して作新高校は朝から静まり返る。

 それもそのはず。


 野球部はおろか。

 応援団に吹奏学部。

 たくさんの生徒はすでに朝から球場に向かう。

 

 S2クラスも空席が目立つ。


 部活動として出席単位が認められる特別な7月。

 


「野球部どうなってる?」

「速報だと3回まで終わって0対0らしいよ」

「SAクラスの朝日君投げてるんでしょ?カッコいい~」



 S2のクラスメイトたちが噂話。

 休憩時間には、ほぼ全員がスマホをチェック。


 そのクラスメイトの噂話に紛れて気になる情報を耳にする。



「毎年地方大会始まったら抜き打ちテスト無くなるんだって、先輩に教えてもらっちゃった」

「みんないないから当然よね」



 なるほど。

 ほぼ毎年、地方大会は決勝戦までコマを進める作新高校。


 初戦の第一試合にして、空席が目立つ教室。


 野球部の成瀬姉妹、神宮寺姉妹。

 今日先発の朝日太陽は当然不在。


 試合開始は9時スタート。

 午後から全員学校に戻って授業を受ける。


 どうやら小テストは7月実施回数が少ないらしい。

 もし未来ノートを開いたらならば、1ページ目には7月中旬にある期末テストの問題が表記されているはず。



 5月・6月、小テストの嵐を思い出す。

 7月は授業を抜けて球場に向かう生徒が多い。


 S1クラスへの昇格。

 S2クラスの残留。

 総合普通科への降格。


 たくさんのテストの先。

 俺の未来には、3つの未来が待っている。


 全国模試が終われば、期末テストが未来に向けた、上期最後の登竜門になりそうだ。


 実力テストに始まり。

 長かった昇格、降格を決めるテストの毎日。


 その先に待っている未来。


 9月1日。


 俺はどの教室で未来を迎えているだろうか?

 


 




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






(ピンポンパンポ~ン 作新高校生徒会より報告致します。作新高校対佐野高校の試合は、7対1で作新高校が勝ちました)



「やったー!」

「凄い~!」



 午前中、最後の授業中。

 校内放送で作新高校野球部の勝利が伝えられる。


 S2クラスに残るクラスメイトは歓喜に沸く。

 隣のS1クラス、S2クラスはおろか、学校全体から拍手が沸き起こっている。


 誰もが喜んでいた。

 みんなが作新高校という一体感を持てる瞬間。


 俺もその一員と感じられる瞬間。

 何より太陽が大事な初戦で勝利した。

 とても嬉しい。


 やったんだなあいつ。

 学校に残った俺には球場の様子は分からない。


 だがベンチに記録員として入る楓先輩。

 アルプススタンドで見守る成瀬。


 今頃きっと作新高校の勝利を喜んでいるに違いない。


 昼休憩の時間になる。

 岬が俺の席に近づく。

 ピタリと止まると、教室の入り口を見つめている。



(ザワザワ)



 S2クラスがざわつく。



「あんたに客」

「客?」

「ちょっと宜しいかしら?」

「生徒会長!?」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 球場にいる生徒たちがまだ戻らない時間。

 昼休憩。


 俺は叶美香の直接来訪を受け、生徒会室に3人で向かう。


 俺のいるS2クラスの隣。

 S1クラスにいた結城数馬だけが会長に呼ばれた。


 S1クラスには他にも、北条郁人、一ノ瀬美雪、桐生沙羅の姿があった。



『叶会長』

『あなたたち。悪いんだけど、席を外してもらえないかしら?』



 一ノ瀬を引き留める北条郁人の姿が目に入る。

 数馬は叶美香の話を受ける。


 いつもの高笑いが無い、寂しそうな叶美香の後ろ姿。

 孤独感を漂わせる。

 いつもの力強いあの人の姿ではなかった。


 数馬と並んで生徒会室に向かう。


 楓先輩や真弓姉さんたちは球場にいる時間。

 俺たち2人に話したい事でもあるのだろうか?


 生徒会室に到着。

 中に入る。


 無人の生徒会室。

 叶美香はこちらに振り向く。

 腕を組んで、真剣な眼差し。



「あなたたちのどちらかしら?わたしを生徒会長に引き留めたのは?」



 ギクッ。

 

 いきなり核心をつく発言。


 引き留めと言ってる時点で、やはり叶美香は生徒会長を降りる気だった様子。


 責任の取り方が大人過ぎる。

 不祥事起こした時の銀行のトップみたいだ。


 ちょっとと言うか、かなり心当たりがあるような、ないような。



「僕は心当たりなんて何も。守道君はどうだい?」

「全然、なにも、さっぱり」


「理事長から直接引き留められました」



 ギクッギクッ。


 違うよね俺?


 全然関係ないはず。

 理事長の部屋行ったけど、神宮寺は大暴れ。

 俺はネクターご馳走になっただけ。


 叶美香が俺の眼前まで歩み寄る。

 吐息を感じる距離。


 近すぎる。

 直視される俺。


 大丈夫。

 俺はなにもしてない。

 俺の話を、理事長とか言う偉い人が聞く耳を持つはずがない。

 叶美香が口を開く。



「まあ良いわ。あなたたちには、一つだけ聞きたい事があったの」



 数馬と顔を見合わせる。

 再び視線を叶美香に向ける。


 腕を組み、晴れ晴れとした表情。

 いつもの力強い眼差し。

 

 ほくそ笑む叶美香。

 年上の女性にドキリとさせられる。



「あなたたち。わたしを生かしてどうするつもり?」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 はぁ~。

 心臓止まるかと思った。


 普段立場が違う女性から、親しく話しかけられるのは心臓に悪過ぎる。


 今後の身の振りを、生徒会室で数馬と話し込む叶美香。


 生徒会メンバーに対するキタンのない意見。

 生徒会監査人。

 

 肩書きの頭には生徒会長付がつく。

 生徒会長とは運命共同体。

 

 話についていけない俺は、パン研に用があると、あるような、無いような嘘をついて先に生徒会室を後にする。


 3年生の校舎を後にする。

 校舎1階。

 下駄箱が並ぶ校舎入り口。

 

 キョロキョロと辺りを見回す女性の後ろ姿。




―――髪の色に衝撃を受ける。




―――サラサラした金色の長い髪。




―――こちらを振り向く。




―――青い瞳。




―――そのあまりの美しい姿に絶句する。




 作新高校の制服を着ている。


 金色の髪の女性。


 視線が合うなり。


 俺の目の前まで近づいてくる。

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