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86.「会議の予定」

 月曜日、早朝。

 朝から快晴。


 7月2日。

 梅雨は終わり、本格的な夏が到来する。


 朝から俺は超元気。

 昨日の日曜日は大事をとって、バイトを1日休ませてもらった。



『明日バイト休めし』

『明日には治ってるから大丈夫だよ』

『もう高木は休むって店長に連絡済みっしょ』

『マジか』



 作新祭が終わった土曜日の夕方。

 布団の上でみんなに囲まれた俺。

 

 岬からバイトは強制的にストップをかけられた。

 みんなが家に集まっていたので、それ以上何も言えなかった。



(ピコピコ~)



「ありがとうございました~」

「した~」

「おい岬、なに朝から省エネ接客してんだよ。石炭ガンガン燃やしてお客様に熱い接客しろって」

「省エネしろし」



 部下のクラスメイト、岬れな。

 月曜日朝から2人で5時からバイト。


 ローソンの準社員、いわゆるリーダーにすでに昇格している俺。

 準社員に成り上がり。

 あまり嬉しくない響き。


 店では弁当以外の発注を全て任せてもらう立場。

 そして部下の指導も担う。


 これで時給50円アップ。

 部下は相変わらず言う事をまったく聞かないが、店の売り上げは好調。


 最近岬に、レジの隣で売ってる唐揚げ君の販売ランキング首位の座を奪われた。


 岬が俺とまったく同じバイトのシフトに入るので、来店した男たちがみんな可愛い岬れなのレジに吸い込まれていく。



「あら~高木ちゃん~」

「あっおばあちゃん、おはようございます。いつものやつで良いですか?」

「お願い~」


 レジ前に置いてある、小さなおはぎセット。

 ついで買いを誘うあみあみのカゴに入ったおはぎ。

 

 以前このおばあちゃんに勧めてみたら、次の日の来て美味しかったと大喜び。

 それ以来の常連さん。

 今では高木ちゃんと呼び合う仲だ。


 俺のレジには常連のおじいちゃん、おばあちゃんばかり並ぶ。

 俺って一体……。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 バイト先から作新高校に登校する。



「おはよう高木守道君」

「おう数馬か、おはようさん」

「体調は大丈夫かい?」

「おかげ様ですっかり元気。お前にも心配かけたな」



 ルックス最高。

 爽やかイケメン湘南ボーイ。

 結城数馬が合流。



「岬さんおはよう」

「うっーす」

「お前いつまで俺のマネすんだよ」

「ひひ」



 岬は最近よく笑うようになった。

 つきまといの件が解決したのが大きいのかも知れない。

 

 学校生活も7月に入る。

 濃密過ぎてあっという間に毎日が過ぎていく毎日。


 俺の周りも大分にぎやかになってきた。


 

 正門前まで到着。


 門の前に北条郁人、桐生沙羅、そして……一ノ瀬美雪の姿があった。



「うち先に行くわ」

「おい岬」


 

 生徒会アレルギー。

 岬れなは先に校舎へと足早に消えて行った。



「おはようございます」

「ああ、おはようさん……」



 一ノ瀬美雪が挨拶してくる。

 目が朝から真剣。

 真面目過ぎるにも程がある。



「体調はどう?」

「ああ、すっかり元気」


 3人から体調を気遣われる。

 なにかあったのか?

 随分と思い込んでいる様子。



「ねえタッキー。そのおはようさんって何?」

「ああ、太陽の口癖」

「太陽?あの野球部の朝日太陽君?」

「そうそう。あいつ、名前が太陽だろ?英語でサンだから、おはようさん」

「あははは。くっだらな~い」

「うるさいよ」



 桐生がやたら俺に絡んでくる。

 距離も近いし、遠慮がないのかこの子?



「桐生、それよりあの話だろ?」

「ああ、そうだった。あのさタッキー、聞いた?会長の話」

「会長?叶美香が何かあったのか?」

「ほら美雪、良かったでしょ聞いといて。やっぱりタッキー知らなかったし」

「昨日いなかったから当然です」

 


 昨日?

 日曜日になにかあったのか?

 俺は1日家で休んでたから、なんの事か全然分からない。



「ここは僕から。高木君、折り入って君に相談がある」

「なんだよ北条」

「郁人でいいよ」

「……なんだよ郁人」



 口ごもる一ノ瀬と桐生の代わりに、北条郁人が話を始める。



「降りる?生徒会長を?」

「なるほど、そういう事」

「数馬は何か知ってたのか?」

「いや、土曜日に『作新祭』が終わった後、会長と生徒会の先輩たちが理事長室に入っていくのをたまたま見かけてね」

「理事長室……よくそんなとこいたな数馬」

「君を探していたんだよ」



 土曜日俺が家に帰ったとは知らなかったみんな。

 数馬も校舎の隅々を一度見て回ったようだ。


 理事長室に叶美香が……。

 すでに誤発注の時点で学校サイドには事態の報告をしていたという生徒会。


 責任を取って会長を辞任する。

 あの人らしいと言えばそうだろうが……そもそも今の生徒会を救おうとした俺の努力はどうなる?



「生徒会の監査人である君たちには、僕ら生徒会を断罪する根拠がある」

「そんな風に思っちゃいないよ。なあ数馬」

「守道君の言う通りだよ」



 叶美香は口外していないのだろうが、北条郁人たちは生徒会を降りようとする生徒会長の動きを察して、どうやら俺のところに相談にきたらしい。




「2人とも、わたしらのために凄い頑張ってくれたでしょ?」

「あなたたちに頼るのはダメな事だって分かってるの。でも……私たちの話、会長は聞いてくれなくて」

「結城数馬君、高木守道君」

「郁人」

「恥をしのんでお願いしたい。どうか君たちにも会長がこの件で降りないように協力して欲しいんだ」

「そんな事になってたなんて知らなかったよ……」



 『作新祭』が終わった後の、土曜日に行われた学校サイドとの話し合い。


 さらに昨日の日曜日、なにか生徒会内で話し合いがあったようだ。


 詳細は分からないが、叶会長が責任を取って生徒会長を降りると言っているのは間違いなさそうだ。



「高木君、君の話なら叶会長も話を聞いてくれるはずだ」

「俺の話?」

「郁人君、仮に会長を説得したところで、学校サイドにはどう説明するつもりだい?」

「それは……数馬君の言う通りだ。100万円もの欠損金を発生させる危険な事態を招いた。結果すべて売れたから良かったが、誤発注の件は学校の理事会にも言い訳できない」



 郁人と数馬が話をするが、段々話についていけなくなる俺。

 随分と暗い話になってきた。

 今回の事態の責任を感じてか、一ノ瀬美雪も下を向いている。



「だそうだよ、どうする守道君?」

「へ?」

「高木さん……」

「ちょっとタッキー、今の話ちゃんと分かってたの?」

「わ、分かってるよちゃんと。あれだろ?会長が辞表出すの止めれば良いんだろ?」

「も~やっぱり分かってない~学校の理事会に問題視されたら、会長も責任感じて辞めちゃうの」

「じゃあ学校の理事会から止めさせれば良いだろ?」

「そんな事できるわけないの。だから困ってるのよ~」



 『作新祭』ではあれだけ苦労した。

 俺なりに努力した。


 俺の青春のすべてをかけて。

 パンダになって。

 死にかけて。


 これで叶美香に生徒会長、降りられたら。

 俺の努力がすべて無駄になる。


 今の生徒会の体制を気に入ってたから、良いやつらばっかだって、横浜行って、生徒会メンバーの人となりに気づいて。


 良いなって思って。

 会長、思ったより悪い人じゃないって分かって。


 だから助けてやりたいと思ったのに。

 勝手に辞められたら。

 嫌に、決まってる。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 学校の理事会。

 学校の理事会。

 

 理事会って、そもそもなんだ?

 俺、頭が悪いから、数馬や郁人たちのやりとりが全然理解し切れなかった。


 朝、正門で待っていた生徒会のメンバー。

 北条郁人、桐生沙羅、そして一ノ瀬美雪。


 彼らから聞かされたのは、土日の生徒会長の動き。

 どうやら会長を辞める気のようだし。


 その学校の理事会とやらが、現体制の生徒会を問題視しているかも知れない。

 事の事態がどうなっているのか、まだなにも分からない。


 叶美香に辞めないよう言うだけでは、事は簡単に収まらないと話す3人。

 数馬とも相談したが、生徒会でありながら、生徒会を監査する監査人である俺と数馬。


 役職は生徒会長付生徒会監査人。

 生徒会長の叶美香がいなくなったら、俺たちもどうなる?



『まずは会長から話すかい?』

『いや……怖いから先にそっちはやめとく』

『怖い?』



 あの女王を目の前にして、辞めないで下さいなんて言う自信がない。

 いや嘘。

 本当は1対1で会うのが怖いだけ。



『生徒会監査人として、僕らが学校の理事会側に、事の次第を説明出来れば一番良いんだけど』

『なあ数馬。その理事会って何?』

『はは、僕ら生徒がおいそれと立ち入る事ができない、偉い人の集まりかな』



 ふ~ん。

 分かるような。

 分からんような。


 叶美香が辞めるのを止めさせる。

 叶美香は学校サイドに対して責任を取ろうとしている。


 学校が悪くないって言えば辞めなくていい?

 その学校って誰の事?

 それが理事会らしい。


 じゃあ理事会が辞めなくて良いって言えば、叶美香の辞める理由はなくなる?

 理事会って人がこの学校にいるのか?


 理事会。

 理事会。


 俺、なんか理事会って名前の人、知ってるような……。

 

 ボーっと1日を過ごしていると、あっという間に昼休憩の時間になる。

 未来ノート、昨日もおとといも全然見てない。

 

 色々あり過ぎて予習全然してないよ俺。

 昨日の日曜日も1日、家で休んでたし。

 

 ついに予習をする余裕がまったく無くなってきた?

 午前の授業で小テストが無かった事は幸い……。


 今日落ち着いたら未来ノートをちゃんとチェックしておきたい。

 そろそろ出てるだろうな、期末テストの問題……。



「シュドウ君、うっす」

「うお!?いきなり現れるなよ神宮司」

「えへへ、熱下がった?」

「ああ、おかげさまでな」



 土曜日ヒートアップした俺の熱は、神宮寺帰宅と共にヒートダウン。


 パンダストラップ完売で、潰れそうで潰れないパン研の部室に向かおうとした矢先。

 昼休憩開始直後、S2クラスに隣のS1から神宮司葵が目の前に突然現れる。


 理事会。

 理事会……。


 ……あっ。

 そうそう。

 思い出した。

 パパ。

 この子の。



「おい神宮司、暇か?」

「う~ん……うん」

「優等生様、お昼ご飯は?」

「岬、俺と神宮司は今後について大事な話があるから行ってくる」

「大事な話?」



 なんだ。

 楽勝じゃん。


 理事会ってところがどこにあって、どんな人がいるのかモブ男の俺にはまったく分からない。

 

 いるじゃん、いるじゃん。

 理事長の娘。


 ここ、ここ。

 俺の目の前に。


 不思議ちゃんだが、学力実質学年トップの才女、神宮司葵。


 パパのところに連れてけって行ったら、嬉しそうにこっちこっちと俺を誘導してくれる。

 理事長の部屋におやつでもあるのか?

 謎のセンサー搭載型美少女、神宮司葵。


 3年生の入る校舎の1階。

 

 一番奥のつきあたり。


 うわ。

 なんか漆塗り、テッカテカのデカくて重厚なドア。


 神宮司葵が勝手にドアを開けて中に入るようにあっちあっちと指差す。

 入って大丈夫かこれ?


 ドアの上に、高級そうな木に彫刻彫り。

 『理事長室』ってめっちゃ掲げてある。


 偉い人います~みたいなオーラばんばん。

 

 ドア開けちゃってなんだけど、俺、なにしに来たんだっけ?

 なんかパニクってきた。


 神宮司がドアを開けたまま俺を中へと入るように誘導する。

 もういいや、入っちゃえ。



「どちら様でしょうか?」



 うわ。

 スーツのお姉さん。

 秘書?


 嘘だろ。

 2人もいる。


 あれ?

 神宮司のやつ、ドアの外からこっちをニヤニヤしながら見てやがる。

 俺だけ美人秘書2人の前。

 

 ハメられた。

 神宮司のやつ、俺がどう対応するか隠れて見てる。

 


「あなた、生徒さん?」

「えっと、その……生徒会のものです」

「理事長とお約束でも」

「いえ、なにも。あっ、でも用があって」

「……理事長はこの後、会議があります。お引き取り願います」



 理事長は忙しいらしい。

 残念だが俺の冒険はここまで。



「こんにちは」

「あら、お嬢様」



 お嬢様?

 誰の事だよ?



「理事長ですね?」

「うん」



 めっちゃ知り合いな感じ。

 そういえばこの前、学校で楓先輩と一緒にパパと食事したとか言ってたな。


 当然パパ、ここにいるはずだし。

 ここ通るという事は、秘書とも知り合い。


 スーツのお姉さんが何やら電話をかけてる。

 内線で理事長に連絡してる?



(プルプル……ガチャ!)



「もしもし理事長、矢吹です」



 この秘書さん、矢吹さんと言うらしい。

 大人の女性。

 ちょっとドキドキ。



「お嬢様が……はい、葵お嬢様です」



 神宮司のやつ。

 本当にお嬢様なんだな。


 お嬢様って言葉、初めて聞いた。

 すげぇ。

 なんか凄い金持ちな感じの響き。

 


「はい、ええ……はい?」



 ん?

 様子がおかしい。

 この後大事な会議じゃないのパパ?



「一応スケジュールは確認しますが、ええ、え?お待ちください理事長、そういうわけには」



 なんかメチャメチャもめてる。


 秘書困ってるよ。 

 なにやってるんだよ理事長。



「……かしこまりました、ではそのように……」




(ガチャン!)




「お父様、なんて?」

「葵お嬢様、どうぞお入り下さい」

「は~い」



 大事な会議はどこへ消えた?



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