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84.第10章最終話「オクラホマミキサー」

 も、もはやこれまで……。


(バッ!)



「おい、大丈夫かシュドウ!」

「太陽」

「守道君しっかり」

「数馬」



 太陽と数馬。

 俺のところに来てくれたのか。


 15時。

 陽はまだ高い。


 気温は予報を大きく超えて30度に到達。

 着ぐるみを3時間以上着続けた俺は、意識が遠のいていた。



「数馬、シュドウのパンダの頭取ってやってくれ」

「了解」



 作新高校の正門からはるか先。

 2人が中央通りの木の下でフラついて今にも倒れそうになっていたオスパンダ1頭を発見。


 木の木蔭で座り込む。

 朝日太陽と結城数馬が俺を介抱してくれる。



「はぁはぁ……あ、暑かった~」

「シュドウ、パン研のブース大盛況だったぞ」

「マジ?売れてそうだった?」

「ああ、お前が来てから凄い人だったぞ。完売だってさ」

「マジか~良かった~」

「みんな守道君探してたんだよ。こんなところにいたなんて……太陽」

「ああ、これ熱中症だな。早く冷やそう。保健室まで歩けそうかシュドウ?」

「大丈夫、大丈夫……」

「頑張れ手を貸す。数馬そっち持て、そのボードは後でいいだろ、先にシュドウだ」

「オッケー」



 ふらつく足元。

 自力で立ち上がれない俺を、太陽と数馬が両肩を貸してくれる。


 フラフラではあるが、2人の両肩に手をかけ、全身の体重を2人が支えて一緒に歩いてくれる。


 一般来賓者の入場は16時まで。


 16時30分からイベントがあり、17時に終了。

 片付けが終わった部活から解散だ。



「太陽、野球部のブースは?」

「もうほとんど売れちまったからもう片付け始めてる。後はポテトと綿あめくらいしか残ってないしな」

「すげえなそれ、フランクフルトは?」

「お昼過ぎには完売。1本50円だろ?1人で2・3本買ってく奴がたくさんいたぜ」

「マジか」



 今日1日がもうすぐ終わろうとしている。

 あれ?

 文化祭って、こんなあっという間に終わっていくのか?



「守道君大丈夫かい?」

「ああ、でも力入んないわ。ちょっと休みてえ~」

「後で冷たい水たくさん持っていくよ。あんまりヒドイようなら病院だね」

「マジそれ勘弁。俺この前病院行ったばっかりなんだって」

「それ本当かい?どうして?」

「野獣に噛みつかれた」

「ははは、女の子?」

「ああ、飛び切り気性の荒いやつ」



 中央通りから正門まで戻ってくる。

 一般来賓者がビックリするので、人目を避け、保健室に外から校舎裏手へ回って向かう。 

 

 

(ガラガラガラ)


 

「すいませ~ん」

「は~い」



 今日は『作新祭』でたくさんの人が作新高校に訪れる日。

 保健室も急患用に先生が待機してくれている。


 見た事のない保健室の先生。

 それもそのはず。


 文化祭に合わせて今いる先生は外部の先生らしい。

 今日臨時で派遣されてきたと話す。


 日中は2・3人いたという外部の保健師。

 一般来賓客が帰宅する時間まで残り10分。

 すでに今いる先生と巡回中のいつもの先生だけ残して帰り支度を始めていた。


 それでも残っていてくれただけ助かる。


 保健室の先生が体温計を取り出す。



(ピピピピピ)



「……38.7度!?すぐ冷やさないと。ここにいつもいる先生、今巡回中で」

「先生、俺野球部にある氷取ってきます。その方が早いですから」



 野球部の球児たち。

 炎天下の練習で熱中症になる部員がよく発生する。

 朝日太陽はその事をよく知っており、体温を下げるための冷凍庫がある部室にすぐに向かう。



「経口補水液が一番良いんだけど、あいにくここには水しか無くて。ねえ、スポーツドリンクとか校内で売ってるんじゃないかしら?」

「先生、ポカリスエットなら学食前の自販機で売ってます」

「あなた偉いわ、頼める?」

「はい」



 パンダのスーツを保健室の先生に手伝ってもらって脱ぐ。

 もう全身汗びっしょり。

 早く帰ってシャワーを浴びたい。


 そうこうしていると、太陽は野球部の部室から氷を。

 数馬はポカリスエットを何本も買って保健室に戻ってくる。


 氷をタオルに包み、俺の脇の下や額に当てる先生。

 冷たいポカリスエットを、フタを開けて差し出してくれる数馬。



(ゴクゴクゴク)



「うまっ」

「ふふ、自力で飲めるなら病院は大丈夫でしょ」

「先生、シュドウのやつ大丈夫ですか?」

「自分で水分補給できないようなら救急車だけど、この分なら体温下げて休めば自力で帰れるでしょ。まだ下校時間まで2時間あるし、もう少しここで休んで様子を見ましょう」



 保健室の先生に氷をあててもらう。

 高かった体温。

 段々と氷で体が冷やされていく。



「サンキュー太陽、数馬。なんかもう少し休んだら大丈夫っぽい」

「本当かシュドウ?」

「無理してないかい守道君?」

「大丈夫だって、ローソンで鍛えられてる。ちょっと休んだらブース戻るから、うちの部長にパンダは無事だって言っといて」



 2人の処置は的確。


 野球部の太陽が一緒にいてくれて良かった。

 こういう時、ポカリ飲むと良いんだな、さすが数馬。


 それでも4・5分は保健室から離れなかった2人。

 俺が落ち着いて話を出来ていたのを安心したのか、ようやくブースへ戻って行ってくれた。




(ほた~るの ひか~り~ まど~のゆき~ 本日は作新祭にお越しいただき まことにありがとうございました~)



 もうすぐ16時か。

 なんか文化祭感、全然無かったな。


 まあ成り行きでパンダ研究部入ったし。

 パンダの着ぐるみ着て文化祭。

 俺らしくて良いのかもな。


 太陽の話では、パンダストラップは完売したらしい。


 それだけ聞けて、俺は満足。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・









 ブースの片づけをする生徒会メンバーたち。


 桐生沙羅、そして一ノ瀬美雪。




「あれ?タッキーは?」

「すぐに来るって言ってましたけど」





 16時30分。


 『作新祭』のフィナーレ。


 校庭のグラウンド。


 オクラホマミキサーの音楽が流れ始める。





(ラランラランラン ラランララン  ラランラランラン ラランララン~)





 1年生から3年生まで。


 参加は自由。


 男女、学年、関係無く、生徒が入り乱れる。


 


 好きな男の子と踊りたい。


 好きな女の子と踊りたい。


 男女の様々な想いがあちこちで交差する。




 その生徒たちの輪の中に。


 パンダの姿をした男の姿は、どこにも見当たらない。



 熱い生徒たちの気持ちと共に、


 『作新祭』は最高のフィナーレを迎えていた。





 第10章<作新祭> ~完~



【登場人物】


《主人公 高木守道かたぎもりみち

 平均以下で生きる平凡な高校男子。あだ名はシュドウ。ある事がきっかけで未来に出題される問題が表示される不思議なノートを手に入れる。作新高校特別進学部S2クラス所属。パンダ研究部に入部。生徒会長付、生徒会監査人に就任。


高木紫穂たかぎしほ

 主人公の実の妹。現在は主人公と別れて暮らす。別居してからも兄を気遣う心優しき妹。中学2年生、美術部に所属。


朝日太陽あさひたいよう

 主人公の大親友。小学校時代からの幼馴染。スポーツ万能、成績優秀。活発で明るい性格の好青年。作新高校1年生、特別進学部SAクラスに所属。甲子園常連の名門野球部に1年生として唯一1軍に抜擢される実力者。


成瀬結衣なるせゆい

 主人公、朝日とは小学校時代からの幼馴染。秀才かつ学年でトップクラスの成績を誇る。作新高校1年生、特別進学部S1クラスに所属。野球部に所属、姉と共に女子マネージャーとなる。


岬れな(みさきれな)

 作新高校1年生、特別進学部S2クラスに所属。主人公のクラスメイトかつバイト先の同僚。パンダ研究部に入部。


結城数馬ゆうきかずま

 作新高校1年生、特別進学部S1クラスに所属。生徒会長役員選挙に立候補するも落選。主人公と同じく生徒会長付、生徒会監査人に就任。


成瀬真弓なるせまゆみ

 成瀬結衣の姉。作新高校3年生。野球部のマネージャー。幼い頃から主人公の天敵。神宮司楓の親友。


神宮司葵じんぐうじあおい

 主人公と図書館で偶然知り合う。作新高校1年生、S1クラスに所属。『源氏物語』をこよなく愛する謎の美少女。


神宮司楓じんぐうじかえで

 現代に現れた大和撫子。作新高校3年生。野球部のマネージャー。誰もが憧れる絶対的美少女。神宮司葵の姉。


南夕子みなみゆうこ

 作新高校3年生。神宮司楓、成瀬真弓の親友。作新高校パンダ研究部部長。


叶美香かのうみか

 作新高校3年生。作新高校の生徒会長、現在2期目に突入。


北条郁人ほうじょういくと

 作新高校1年生。特別進学部S1クラス所属。生徒会のメンバー。


《一ノ瀬美雪いちのせみゆき

 作新高校1年生。特別進学部S1クラス所属。生徒会副生徒会長。


桐生沙羅きりゅうさら

 作新高校1年生。特別進学部S1クラス所属。生徒会の会計担当。

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