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76.「本当の実力」

(ピコピコ~)


「ありがとうございました~」

「岬、朝刊きたからレジ頼むわ」

「はいよ」



 朝6時。

 早朝のバイトの時間。


 海外旅行の費用を貯めるためにバイトを頑張る岬れな。

 この前はフランス行ったとか言ってたかな?

 もうあんまり覚えてないや。


 岬は俺の知らない彼氏とかいるのだろうか?


 成瀬しかり、神宮司しかり。

 同級生の女の子はみんな謎な子が多い。


 

 今日は数学の小テストの結果が渡される日。

 実力で初めて挑戦したテスト。

 手ごたえは……あまりない。


 どんな結果になっても楓先輩には結果を話そう。

 女子の先輩に先に告白させといて、俺が黙っているのはフェアじゃない。

 

 俺の勝手な倫理観。

 未来ノートの所持者として。

 この世界で楓先輩だけは、俺の気持ちを分かってくれるはず。

 そんな風に、俺は勝手に思ってる……。



「朝刊で~す」

「お疲れ様で~す」



 雑誌やスポーツ新聞の朝刊を業者から受け取り、コンビニのレジ前に並べる。


 今日の東スポ。

 トップの1面。


 多目的トイレで誰か不倫した芸能人がいるらしい。

 いくら多目的とはいえ限度がある。


 子供の俺がこんなに頑張ってるのに、大人はいい加減な奴が多い。


 不倫をした1日の行動が詳細に書かれている。

 大人になったら不倫だけはしないようにしよう。

 これは1つの反面教師。


 楓先輩からの忠告。

 未来ノートの過大な使用は、いずれ自分にしっぺ返しがやってくる。


 考えてみれば当たり前の話。

 仮に英検、漢検、資格試験を高校生の俺が未来ノートの力を使って全部取ってみろ。

 

 この多目的トイレと一緒に俺も新聞のトップ記事にされてしまう。

 そうなればどうだ?


 スーパー高校生現るとか書かれてみろ。

 ヤバいだろそれ……。

 


「ボーっとしてサボるな……なに見てるっしょ?」

「えっ?あ、ああ。岬、お前結婚した旦那が不倫したらどうする?」

「殺す」

「真顔で答えるなってそれ」



 殺人事件発生。

 岬姫の旦那には、不倫イコール死が待っている。


 岬の結婚式に参列したら、旦那さんには生命保険の契約を勧めておこう。

 保険金出るのかそれ?


 そんな事より最後に雑誌の陳列しないと……。


 おっ?

 今日入荷されたのかこの兄弟……。


 成瀬に2つ取っておかないとな……。

 きっと驚くぞあいつ。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








 朝8時前。

 作新高校へ岬と一緒に登校する。


 昨日の生徒会室へのお呼び出しを思い出す。

 生徒会長、叶美香。


 結城数馬と2人で呼ばれ、俺と数馬が担った生徒会監査人としての任務を伝えられる。



『いいこと2人とも?あなたたちには、生徒会の活動が適正に運営されているか監査する義務があります』

『なるほど。僕らが何も指摘しなければ、それは生徒会が正しく運営されている証明になる。考えましたね叶会長』

『お察しの通りで数馬。ぜひ、お手柔らかに』



 俺、2人の話しボーっと聞いてたけど全然意味分からなかった。


 後で数馬に詳しく聞いた。

 生徒会で悪い事してるやつがいたら会長にチクれば良いらしい。

 

 なるほど簡単そう。

 それなら高木君にも出来る。


 引き続き岬と並んで学校へ向かう。



「今日は結果分かるっしょ」

「そうだな」



 そうだった。

 今日は俺が実力で初めて解いた数学の小テストの結果が分かる日。


 この結果いかんによって、俺の進むべき道を決めたい。

 もし……。

 もし先輩の英語と同じように、53点とか出ちゃったら……先輩にはああは言ったが、さすがに53点とか「ちょっとこの子ヤバいかも」とか言われそうな点数。


 昔、太陽と小学生の時。

 駅前の書店でなかよしを立ち読みしていた悪ガキ2人。

 

 今のコンビニのように雑誌にヒモやテープなんて貼って無かった。

 誰でも読み放題。


 店主に見つからないようにコッソリ読むには一定のテクニックが必要。

 基本ワンオペの書店。

 レジに客が並んだ時が、店内突入のチャンスだ。


 なかよしを見ていた理由はセーラー服美少女戦士が見たかったから。

 クラスの女子にバレないように、書店の隅でコッソリ見てた。


 主人公の女の子。

 あの子毎回テストで赤点取ってるのに、なんでタキシード仮面と結ばれたのか子供心に不思議に感じたあの頃。


 それでもメイクアップに大興奮。

 毎号欠かさずチェックしていた俺と太陽だけの黒歴史。


 楓先輩も本当は実力赤点女子。

 イケメン男子は完璧でない美少女に魅力を感じる生き物らしい。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








 学校の正門まで到着。


 門には『作新祭』実施を告知する横断幕がすでに掲げられていた。


 白い石畳がまっすぐ校舎まで敷かれる。

 

 数学の小テスト……。

 俺は結果が気になってしょうがない。


 数学の授業は1限目にさっそく予定される。

 今日小テストの結果が判明するはず。

 あの数学講師なら今日返してくるに違いない。


 中学時代の3年間。

 まともに勉強してこなかった俺。


 ここ半年は未来ノートの問題にしがみつき、死にもの狂いで勉強した。


 ただそれは事前に問題が分かった上での行為。


 今日の数学の結果。

 やはり楓先輩と同じ結果に至るのか?


 校舎に向かって歩いていくと、なにやらたくさんの人だかりが見えてきた。


 道行く生徒たちが次々と、俺と岬に視線を向けてヒソヒソ話をする。


 これは一体なんだ‥‥。


 校舎前には、横1列に並ぶ大きな掲示板が掲げられていた。

 1年生だけでなく、2年生や3年生も、その周囲に入り乱れる。



 

「いた!シュドウ君いた!うっすうっす!」

「ぴょんぴょん跳ねるな光源氏。どうした?」

「こっちこっち」

「うわ!引っ張るなよ」

「お姉ちゃんと一緒、凄い凄い!」

「お姉ちゃんと?」




 神宮寺に連れられて、群衆入り乱れる掲示板の前までたどり着く。










【全国模試 校内成績 順位表】



 1位…… 960点 神宮司楓  3年生  S1クラス

 1位…… 960点 高木守道  1年生  S2クラス 

 3位…… 902点 ――――  3年生  S1クラス

 4位…… 894点 ――――  3年生  S1クラス

 5位……―――――――――  3年生  S1クラス

 6位……―――――――――  3年生  S1クラス

 7位……―――――――――  3年生  S1クラス

 8位……―――――――――  2年生  S1クラス

 9位…… 856点 神宮司葵  1年生  S1クラス

10位……―――――――――  3年生  S1クラス


 










 ……












 

 ………













 ……………忘れよう。










「シュドウ君凄い凄い!」

「お前の方がもっと凄いよ」

「あっお姉ちゃん」

「楓先輩……」



 そうだった。

 今日は全国模試結果発表の日でもあった。


 事前に解答を調べず臨んだ数学の小テストがあまりにも気になって忘れていた。

 掲示板に張り出される自分の名前。

 これはもう……俺自身ではない。

 

 全国模試校内成績1位の2人。

 楓先輩と俺に周囲の視線が注がれる。


 妹の葵と3人並んでその場を離れる。

 岬はいつの間にか姿を消していた。


 俺は神宮司姉妹に挟まれる。

 1年生、学年実質1位の実力を持つ神宮司葵。

 この子は無邪気に俺と楓お姉ちゃんが同着1位を取った事を喜んでいる。


 楓先輩が、俺の耳元でささやくように語りかける。



「ちょっと失敗」

「ですね」



 楓先輩の言う失敗とは、事前に2人で答え合わせをして試験に臨んだ事。

 お互いに未来ノートの全国模試の問題を修正し合い、全国模試に臨んだ。

 

 そしてお互いに同じところを間違い、お互い答え合わせをしていた問題をすべて解答する事が出来ていた。


 先輩もずっと感じてきたであろう、この虚無感。

 周囲は幻の全国模試1位の生徒の幻想を目で追っているに過ぎない。


 それを知っているのは俺と楓先輩だけ。

 本当の自分は……もうここにはいない。


 全国模試の結果。

 過去の自分たちの行いと結果を如実に映す鏡。


 テストの結果が努力の結果。

 本当の努力の結果とは、当然未来ノートに頼る結果ではないはず。

 

 俺は楓先輩に伝えたい事があった。

 校舎に入る前に伝える事にした。



「楓先輩」

「なに守道君?」

「実は先輩の挑戦……僕も試しちゃいました」

「本当?」



 楓先輩の話を聞いて、実力でテストに挑戦した俺。

 その話を聞いて、先輩はとても驚いていた。



「そう……頑張ったわね、偉いわ守道君」

「結果が分かったらまた知らせます」



 全国模試の結果は、俺の本当の力じゃない未来ノートの力を使った結果。

 



 ―――今の学校生活を維持したい―――




 かりそめの夢にしがみついた結果に過ぎない。


 あの数字は俺にとって、意味がまるで無い数字。

 あの数字を見て、頭が良いと言われても嬉しく感じる事はない。


 だが、周囲はそうは思わない。

 全国模試の結果に驚く周囲の視線は痛いほど感じる。


 俺はその周囲の目から、目を背けるように、S2クラスへと向かった。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








「それでは昨日の小テストを返します。大門圭介君」

「はい」



 次々とS2のクラスメイト達が呼ばれていく。

 どうなった?

 俺の実力。


 やっぱりダメ?

 そこそこいける?

 早く結果が知りたい。


 全国模試の結果なんてどうでも良い。

 実力を知りたい。

 俺の今の本当の実力を。




「高木守道君」

「はい」




 俺の順番がやってくる。


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