75.「もう1つの可能性」
マックの前で解散式をする5人。
陽はもうすっかり暮れ夜を迎えている。
「こんなに遅くまで久しぶりかも」
「不良だな俺たち」
「ははは」
いつものように太陽は成瀬を家まで送る事になる。
成瀬は俺が合流する前に、ちゃんと真弓姉さんにラインで連絡を入れていたらしい。
数馬も太陽のチームと一緒に帰る。
家の方向が同じらしく、途中まで一緒に帰るらしい。
「じゃあね高木守道君。おっと、そうそう。大事な事を言い忘れるとこだったよ」
「数馬、そのまま何も言わなくて良いぞ」
「ははは」
嫌な予感しかしない。
聞かずに逃げるの一択。
「ちゃんと聞けし」
「はは、ありがとう岬さん。生徒会長からお呼び出し。明日生徒会室に出頭せよだってさ」
「ちょっとちょっと何だよそれ。やっぱり聞かなきゃ良かっただろ~夜眠れなくなるだろそれ」
「ふふっ」
言いたい事を言い終えた数馬。
笑顔の太陽と成瀬。
3人が先に家路につく。
「行こぜ俺たちも」
「うん」
ハッピーセットのおもちゃのおかげか、岬姫のご機嫌がすっかり元に戻ったようだ。
(ヒシ)
「俺の服つかむなよ」
「怖いの」
「この前元カレ、ボコられたんだろ?もう大丈夫だって」
「なんか見られてる気がする」
「ウソだろそれ」
岬の言うとおり、道行く人が俺と岬の様子をチラチラと見ている。
はたから見れば可愛い彼女が彼氏の袖をつかんで離さない。
そんなシチュエーション。
岬の言う視線とは世間のそれに違いない。
人畜無害の高木君。
俺と岬にとっての普通。
俺は勝手にそう思ってる。
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岬を送り届けて自宅に帰る。
そうだ、未来ノートチェックしないと……。
……ヤバ!
出てるよ新しいテスト……。
数学か……終わらないマラソンだな本当。
……ふと。
今日、神宮寺の家に行って。
楓先輩との話を思い出す。
『実力で試した?』
『恥ずかしいわ……』
あの時の楓先輩、超可愛いかったな……て違う。
そっちじゃない。
実力で真面目にテスト受けたって話。
どういう意味だ?
未来ノートを見ないでテストを受けたのか?
いや、新しいテストが無いかの確認は毎日必ずするはず。
それが未来のテストにおびえ続ける、未来ノート所持者特有の日々の行動。
未来の問題はアドバンテージとして見たけど、事前には解答を調べなかったって事か?
実際どうなんだろ……。
今度詳しく聞いてみよう。
楓先輩って話してみると、意外になんでも教えてくれる。
押しに弱いのかな?
違う違う。
楓先輩の事は今は関係ない。
次の迫りくる数学の小テストどうするか……。
魔が指してノートの力を過大に使用すれば、その分、自尊心や罪の意識にさいなまれ続ける。
未来ノートを俺より長く使い続けた楓先輩だからこそ、後輩の俺にその事を伝えたかった。
とても優しい楓先輩。
きっとそうに違いない。
今日は本当に葵が百人一首をやりたいだけだったのかは分からない。
俺に話したい事があると言って葵を経由してまで俺を部屋まで誘ってくれた。
もし今日の先輩の話を聞いていなければ、俺は倫理観の境界線を突破して、英検や資格試験に手を染め始めたに違いない。
それを止めてくれたのは……第1所持者である楓先輩だったのかも知れない。
そしてもう1つの可能性。
楓先輩はある光を俺に示してくれた。
―――未来ノートからの卒業―――
入試を不正まがいに合格した俺が、今さらそんな事をしてなんになる?
今さら。
全部今さらなんだよ……でも……それでも。
未来ノートからの卒業へのトライ。
先輩の実力で立ち向かった挑戦の経験。
俺は恥ずかしいと言った先輩がその時とても輝いて見えた。
一筋の救いの光にさえ感じた。
ノートはまだ捨てられない。
そんなギャンブル今さらできない。
次の数学の小テスト。
ある事は分かっている。
だがまだ問題は見ていない。
当然模範解答を調べてもいない……。
……俺も試してみるか。
楓先輩が試した、もう1つの可能性を……。
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次の日。
朝。
S2クラス。
「おはよう」
「おう……」
「どうした?いつもの元気無いじゃん……何見てる?」
「ちょっと……な」
岬からの挨拶に反応できないほど集中していた。
今俺が読んでいるのは学校で購入させられた数学の教科書。
そして数学の問題集。
その中で、直近の授業範囲、二次関数。
昨日の夜から、類似問題をしらみつぶしに演習した。
周りにいる生徒の中でも、同じ事をしている生徒は多いはず。
自習であれ、塾であれ……。
全国模試の結果もまだ分からない。
今日はさっそく数学の授業を迎える。
告知はされていないが、突然未来ノートに数学の問題が出たあたり、今日にもさっそく小テストが行われる可能性が高い。
俺はその時系列から、ある事を察した。
昨日の全国模試終了、すなわち夕方時点では未来ノートは白紙だった。
俺の所持する未来ノートを楓先輩に確認された時、俺も確かに1ページ目が白紙のノートを確認していた。
それを見て楓先輩は、俺が予習をする必要が無いと判断。
時間がある事を確認して家に招いてくれた。
その後帰宅して、夜、未来ノートを確認すると、突然数学の小テストの問題がふって湧いた。
これは昨日の夕方の時点では、数学の講師は本当に小テストを作成していなかったんだと俺は思う。
すなわち、昨日の夕方から夜に講師が突然思い付いて「明日小テスト抜き打ちでやろう」と考えてテストを作ったのではないかと推測する。
俺は今日の小テストの発生を予見した。
他の生徒より大きなアドバンテージを得た。
その昨日の時点で。
小テストがあると分かっていて……あえてノートを閉じた。
問題を見ずに。
実力でテストに挑む初のこころみを試してみる事にした。
理由は当然……未来ノートからの卒業という救いの道を模索するため。
初めてのこの試みに際して、この数学という科目に挑戦する根拠があった。
数学の小テストをこれまで4・5・6月の3カ月をこなし、俺は数学講師のある傾向を把握していた。
普通ではあり、当たり前ではあるが、数学の先生は直近授業の範囲内でのみ小テストを実施する。
この経験則が俺の数学小テストを実力で試させる根拠になった。
S2クラスの他の生徒が当たり前にやっている小テスト対策。
塾に通う生徒なら、なおさら作新高校の小テストの過去問を調べ尽くした塾講師が教えている過去問の類似問題を何度も演習させる行為。
明日の範囲はすでに分かっていた。
それは二次関数。
二次関数とだけ聞いて、4月の俺なら当然のように数学の問題集を読みあさったり、インターネットのユーチューブで検索して塾講師の解説動画を確認していた。
実は最近……未来ノートの問題を見て、解答を導き出す時間が以前に比しとても短くなっていたのを感じていた。
単に検索に慣れてきたとだけ感じていたこの感覚。
当然英語のように通用しない科目もまだまだ多い。
ことこの数学という科目に関しては、また同じ問題かよって……思うようにさえなっていた。
「それでは今日は小テストを実施します」
「え~~」
S2クラスのみんなにとっては予見していなかった、まさかの全国模試翌日の小テスト。
数学講師にしては、してやったりの展開のはず。
俺は未来ノートで小テストの発生を予見していた。
そして問題は事前に調べる事なくこれから望む事を決めていた。
これはテストを受ける前の心の準備に対してアドバンテージがあるだけかも知れない。
テスト用紙が配布される。
テスト用紙が配られた瞬間、塾に通う周りの生徒たちと俺は条件が同じではないだろうか?
俺は経済的な事情で塾に毎月多額の授業料を払う余裕はない。
塾に通う。
家庭教師をつける。
他人の力は頼れない。
自分自身の力でやりきるしかない……。
「それでは始めて下さい」
……数学の小テストが終了する。
とても……疲れた。
正直いつも通り自信は全くない。
でもなんだ?
この達成感みたいな感覚……。
作新高校に来てから、初めて味わう達成感……。
その後の授業も終わる。
岬が俺の席までやってきた。
「アホヅラ」
「……」
「なんか言えし」
「えっ?ああ、岬か」
「……あんたならあんな小テスト楽勝っしょ?」
「はは、そうでも……ないかも」
「……自信無いのは本当みたいね」
岬はそう言って窓側の自分の席へと戻っていく。
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数学の小テストの結果が気になって、昼間どう過ごしたかあまり覚えていない。
数学の講師はとにかく真面目。
だからこそ出題パターンも学習範囲内で律儀に作るし、学校の方針なのか抜き打ちテストも必ず実施する。
そして小テストの結果は、決まって必ず次の授業で返してくる。
小テストの結果は明日判明する。
たまたまだが、全国模試の結果と同じ日。
気になってしょうがない。
全国模試の結果じゅない。
実力で初めて挑戦した。
数学の小テストの結果が……。
今日の授業がすべて終了する。
アホヅラで机に座っていると、黄泉の国から俺の事を迎えに来る1人の男の影。
「やあ高木守道君」
「げっ!?数馬、俺のクラス来るんじゃないよ」
「ははは」
超爽やかイケメンボーイ、S1クラスからやってきた星の王子様。
結城数馬の登場に沸き立つS2クラスのガリ勉女子たち。
なんで数馬がここにくる?
なんで?
遊びに来た?
そんなわけないよな……。
……
………
…………やっちまった!?逃げ損ねた!
会長だよ会長!
生徒会長!
ユーアーザ・クイーン、叶美香に呼び出しくらってたのすっかり忘れてた!
「どうしたんだい守道君?」
笑顔の数馬。
俺にとっては地獄の使者。
迫りくる破滅の危機。
この笑顔は破滅の笑顔。
結城数馬。
こいつはサードインパクトを引き起こす最後のシ者だ。
「時が来たね」
「数馬、俺は箱根に行ったと会長に伝えてくれ」
「元気少ないね、どうしたんだい?」
「あるわけないだろ元気なんか!」
「希望は残っているよ、どんな時にもね」
「うーっす」
「おい岬、俺を1人にしないでくれ!」
「し・ね」
俺と数馬の脇をスルーして1人で消えて行く岬れな。
結城数馬の登場に、生徒会の気配を察知して先に逃げたのは岬。
数学の小テストに気を取られ、すっかり逃げ遅れた俺。
生徒会はノーセンキュ―という彼女の意志。
気づいていたなら教えておくれ。
俺と岬のシンクロ率は常にゼロパーセント。
「岬さんは良いのかい?」
「……セントラルドグマには俺たち2人で行く」
「どこだいそこ?」
第1種戦闘配置。
対地迎撃戦用意。
竹やり1本でラストダンジョンに挑む。
数馬と一緒に3年生が入る校舎に到達。
セントラルドグマは目の前だ。
3階の一番奥、突き当りの部屋。
うるし塗りテッカテカの「作新高校生徒会」の看板が俺を地獄へといざなう。
「さあ、行こうか守道君」
「ああ……」
数馬と2人でガフの扉を開く。
(ガチャ)
「おーほっほっほ」
パターン青、使徒だ。




