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48.「十二ひとえ」

 国立博物館、特別展示場。

 企画展の最終日である今日。

 鳥獣戯画展はたくさんの人で溢れていた。



「凄い~」

「神宮司、あんまり離れるなよ」

「うん。わ~」



 展示場内は薄暗く、ライトアップされた展示物が幻想的に展示されている。

 

 メインの展示物である鳥獣戯画は、天井まで届く大きなガラスのケースに入る。

 進路に従って進みながら見る。

 大昔に作られた漫画と言えるだろうか?

 ウサギやカエルが擬人化されて、狩りに出たり食事をしている。



「あのカエル、シュドウ君にそっくりだよ」

「あのビックリした顔のやつ?」

「マジかって言ってるよ」

「マジか」

 


 餌を盗まれたのか、鳥獣戯画のカエルが驚いた表情を浮かべる。

 今日の神宮寺は終始ご機嫌。

 笑顔一杯で展示物を眺める。



「これ漢文だよシュドウ君」

「え?なにそれ」

「う~ん、授業に出るやつ。そろそろかな」

「お前読めるのかこれ?」

「ちょっとだけ」

「マジか」


 色々な展示物が混じる特別展。

 漢文……確かに授業もテストも今後範囲に入ってくる科目。

 中学校の国語と違い、高校では古文と漢文、そして現代文へと科目は派生する。


 テストに出る科目しか勉強していない俺と違い、この子は未来ノートの存在という先入観がない。


 だから興味のあるものは何でも調べるし、テスト範囲でない科目もすでに勉強している。


 以前地球儀を見て首都の名前を調べた事があると言っていた神宮寺。

 結果彼女は実力テストで正しい解答を導いた。

 俺とは違う方法だが、彼女の方が秀才かつ利口であり俺の方が異常と言える。



「見て見てシュドウ君。凄い凄いよ」

「源氏物語絵巻……マジか」



 特別展の展示物に、まさかの源氏物語絵巻のコーナーが設けられていた。

 鳥獣戯画と関連して、平安時代に描かれた犬や猫を展示しているらしい。



「ここから『源氏物語』の第1巻だな」

「そうだねそうだね」

「興奮するなって」



 大好きな『源氏物語』を発見し、テンションが最高調に上がる神宮寺。


 源氏物語絵巻には、俺が読んだ古典の風景が描かれていた。

 平安時代の建物、中には十二単を着た女性たちの姿。

 弓を装備した兵士の姿も見える。

 この辺はさっき見た鳥獣戯画のウサギたちに共通するものを感じる。




 ……あれ。


 どこ行った神宮寺?


 ちょっと目を放した隙に俺の視界からいなくなる。

 夢中で勝手に歩き回るから、まったくあいつは。




 ……いた。


 何かの絵巻の前でジっと絵を見ている。


 ふいに彼女が振り向く。


 彼女の小さな顔と白い肌が薄暗い展示室で際立って見えドキリとさせられる。

 後ろに見える絵巻に、十二単を着た女性の姿が描かれている。



「シュドウ君?」

「お、おう」

「迎えに来てくれたの?」

「そうだよ。お前すぐ迷子になるんだから離れるなよ」

「うん……分かった」



 そう言うと神宮寺は俺の服の袖を掴んできた。



「掴むなよ」

「離れるなって言った」

「ああそうだよ。変なやつだな」

「えへへ」



 残りの展示物を見る間、終始彼女は俺から離れる事はなかった。

 日曜日にパンダを見に来て、なぜこの子と2人きりになったのか未だにまったく分からない。


 展示物を見終わる頃には時間は15時を回っていた。

 スマホに岬からのラインは入っていない。

 まだ部長と2人でパンダを眺めているに違いない。


 展示場の最後。

 お土産コーナーの隣に記念撮影のエリア。

 撮影用の着物までご丁寧に用意されている。



「十二ひとえ」

「そうだな」

「えへへ」

「まさか着る気か?」

「ちょっと待ってね」



 展示場最後の記念撮影場所。

 撮影用であろう十二ひとえを着始める神宮司。

 今さら引き留められない。 


 白い肌に着物が恐ろしいほどよく似合う。

 楓お姉さんに良く似て、この子は間違いなく美人の女の子だ。


 当然カメラマンは俺しかいない。

 十二ひとえを身に纏う彼女を撮影するため、スマホを彼女に向けて撮影を始める。


 顎を引いてジッとこちらを見つめられる。

 とても気恥ずかしい気持ちになる。

 単に展示物を見に来るものだとばかり思っていた。

 本当に何をやってるんだ俺は?


 彼女の大きな瞳がスマホを通して俺に向けられる。

 あまりに美しいその姿に、胸がドキドキする。

 ここまで見たどの展示物よりも刺激的な光景。

 今日この時が、俺の貴重な思い出の1ページになりそうだ。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「後輩君、こっちこっち」



 夕方16時。

 上野動物園閉園時間まで結局バンダの観察を続けた南先輩と岬の2人。


 動物園の入り口前にあるお土産物を売る店を物色しながら待っていた。


 一緒に国立博物館を出た神宮寺も混じり、女子たちがキリンやバンダのお土産を見ている。

 中には明らかに動物園と関係ない、ゴリラの鼻くそや豚のヒズメも混ざっている。



「では今年度のパン研部員共通ストラップをここで買います」

「わ~い」

「ちょっと先輩。金どうするんですか?」

「もちろん部費から出すよ」

「あったんですか部費」

「部費」



 先輩の話では、部員×5千円の活動費が毎年このパンダ研究部にも振り込まれるらしい。



「このパンダストラップに決定しま~す」

「わ~い」



 部長の独断で全員分のパンダストラップが購入される。

 ストラップと化したバンダはどっしり座り、両手に持つ竹をむしゃむしゃ食べている。

 幽霊部員の真弓姉さんと楓先輩の分まで購入する部長。

 スマホに良し、カバンに良し。

 これで校内でも一発でパン研部員とバレてしまう。


「先輩。そう言えば上野動物園の年間パス持ってましたよね。あれって」

「部費だよ」

「昼間のポテトは?」

「部費だよ。おごるわけないでしょ私が?」



 先輩がこの部をあんなに必死になって守ろうとした理由が段々と分かってきた。

 完全に私物化されたこのパン研は、早々に廃部になった方がこの学校のためだろう。



「今日は最後にメリーゴーランド乗って帰りま~す」

「わ~い」

「わ~いじゃないだろ、岬お前も何とか言えって」

「私は別に」

「良いのかよ」



 夕日に空が赤く染まる。

 女子3人に無理やり馬に乗せられ、俺も部費を使い込んだ共犯者にされる。


 普段無表情の神宮寺。

 ツンとした表情が多い岬も背の低い南先輩とハシュギながらメリーゴーランドを楽しんでいる。


 女子たちの笑顔輝くパンダ研究部。

 俺の想像と大分違う部活動。

 これはこれで……悪くない。




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