表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽炎  作者: 音音
一章 バーレンウォート
9/24

8.脱出

「あれ」


目の前には、驚愕した表情の兵士二人と老人がいた。耐えうるはずがない、しかも無傷などという馬鹿げたことがあるはずがない、という表情だった。


しかし、すっとんきょんな声を上げたのはエド本人(・・)だった。


「死んでない?」


完全に無理だと思った。正直諦めていた。それほどまでに強烈な魔法だった。自分の力量を超える、化物からの全く反応もできないタイミングでの攻撃だった。天地がひっくり返っても耐えることも避けることも叶わないと判断していた。

まあ、実際には天も地もひっくり返ることなく、その奇跡が果たされたわけだが。


「おねぇちゃんは弟を守るものですよ!エド。」


ミランダ・アイネ・オブ・イングリス

彼女は武才は全くと言っていいほどなかった。

彼女は超武術大国の血を色濃く残す王族でありながら1つ持ち(・・・・)だ。


神の(ふるい)と、呼ばれる現象がある。イングリス王家に現れる特異な現象で、一代に一人程度の割合で現れる。


超武術国家でも更にその血を色濃く残す王家では、武才に優れた人物が数多く排出されてきた。

現に、現国王イングリス20世やミランダの兄チャールズは伝説級と呼ばれる8つ持ち(・・・・)である。しかし、その揺りもどしとして1つ持ち(・・・・)が生まれることがあった。これが神の(ふるい)と呼ばれる現象で、今代はミラであった。真偽の程は定かでないが、王国の識者の中ではそう推測されていた。



そして、ミラの持つ唯一のスキルは【絶対吸収障壁セイクリッド・フィールド】であった。全てのMPと引き換えに一秒間、物理も魔法も絶対的に防ぎ切るスキルである。慈愛の王女にふさわしいスキルと言えよう。


「それに、貴方には使命があるはずです!しっかりと果たしなさい!」


エドはかつて彼女と交した約束を思い出し奮い立つ。


「どいつもこいつもコケにしおって」


【ストーンバレット】

【瞬歩】


エドが6つの石の塊をスキルで躱すと、突如として一人の兵士が燃え上がる。エドが密かに4つ持ち(・・・・)と推測していた方の兵士である。瞬歩と同時にエドが放った火炎玉によって絶命していた。


(後2人か…)


最初の一手で魔法使いを殺せていればと少し後悔していた。

最初に飛びかかった時点で必殺の一撃を放ってはいたが、即座に繰り出された【麻痺】の魔法を躱すため、投擲による戦力削りに切り替えていた。


(しかし、火炎玉もない。仲間を呼ばれたら即アウトだ。次の攻防で決めるしかない。)


そう心に決めると同じ5つ持ち(・・・・)の兵士に肉迫した。

【エアショット】

襲いかかるいくつもの風の矢を半身で躱す。

【刺突】

渾身の突きを姿勢を低くすることで何とか躱す。

【土割陣】

流れるように繰り出された足払いのスキルを跳躍で躱そうとした刹那、彼は気がついた。


(罠だ。)


この瞬間跳躍することに上手く誘導されていた。

左右から迫る風の矢で左右への回避を断った。

しゃがめばギリギリで躱せる高さへの突きにより後方へのバックステップを断つ。トドメの足払い、跳躍しろと言っているようなものだ。


その証拠に既に老人の腕には雷の槍が握られていた。


彼は跳躍しながら切り札を切った。


【転移】

【ボルテックランス】


魔法の雷の槍が空中の人影に突き刺さった。



珍しいスキルではあるが、その制約の多さから使いどころのないスキルだと思われていた。

しかし、エドはこの技がお気に入りだった。


ガンッ


焼け焦げ穴の空いた()が落下した。

エドの短剣は兵士の心臓を貫いていた。


そう、エドは跳躍したその刹那、兵士の鎧に触れ鎧を転移させていた。射線上に転移させた鎧により雷の槍を防ぎ、同時に兵士の防御力を無くし心臓に短剣を突き立てたのだ。


防御と武装解除を同時に行えるこのスキルはエドの切り札と言えた。


「舐めるなぁぁ」


兵士は絶命しながらも決死の一突きを放った。

心臓に深々と刺さった短剣を抜くことができず、エドは致命傷を避けるので精一杯だった。


「ぐぅっ」


脇腹に刺さった槍によりエドはその場に縫い止められる。すでに絶命した兵士はなおもその手を離さずエドを逃しはしなかった。


「死ね」

【バーンバレット】

【陽炎】


6つの火の玉に焼かれる刹那、幻影はたち消え、エドは魔道士の首を背後からへし折っていた。



皇国最強クラスの魔道士の最後であった。


ーーーー

致命傷は避けたが脇腹からの出血は抑えられず、フラフラになりながらも、エドは何とかソールを連れて町の外まで脱出していた。あのままあそこにいたら他の兵士に見つかっていた可能性があった。


しかし、そこが限界であった。

大木の木陰にたどり着くと、ふらりと倒れた。


「エド、エド!」


泣きながら自分の名を呼ぶ()の顔を見た。


(どこかで見た光景だ)


薄れ行く意識の中で、ぼんやりと考えていた。


「エド!ねぇ!エド!」


(そうか、約束か)


「○○○!!!」


エドは声にならぬ吐息を吐いて答えた。


(分かっているよ。それが約束だから)


そのままエドの意識は闇に飲まれた。

次の話で一章はラストになります。

また、今話の方が個人的に「脱出」って感じだったので1.脱出のサブタイトルを変更します。

内容は変わらないのでお気になさらず。

計画性が無くて申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ