エピローグ
「なんだ、島城」
エリスは不快感を露わにしたように応える。
「あのさ、フレイアさんが『星夜祭』に出るって、マジ?」
「ああ」
島着の問いにエリスは即答した。途端に島城はポケットからペンとメモ帳を取り出し、エリスに詰め寄った。その興奮しきった顔は、オタクがアイドルのライブに行くような、あるいは限定グッズを手に入れたときのような顔だった。
「えっと、その話についても~少しだけ、詳しく聞きたいんだけどさ……」
「は、ああ……」
唐突に変わった島城の変貌に、エリスは対応できずただ頷くしかなかった。
島城は新聞部の部員だ。学園の広報だったり、学園新聞の掲載なんかをする。一ヶ月前にこいつから俺のことをデカデカと書いた夕刊を見せられたが、そんときは酷く恥ずかしかった。
あの時は序列なんかにはまるで興味はなく、ただイリアや泉さんの小間使いをしているだけだった俺が、まさかあんなに取り上げられるとは思わなかった。しかも、その後数回に渡って、島城から取材をされた時はほとほと困った。
素直に、ああ神よ、と言いたくなった。
「なるほど、なるほど。それで、なんでそこの千乱をタッグパートナーに?」
「それは……」
気を取り直して、二人に意識を向けたが、まだ取り込み中のようだった。ここはもう消えたほうがいいかな。
「なぁ、俺らもう帰っていいか?」
俺がそう言うと、島城は結構適当に応えた。もういいよー、みたいな感じで。
それを聞いて、どうでも良くなったので、俺は氷空を連れて帰ることにした。ちなみに、エリスが量に戻ってきたのはその日の夜十時頃だった。
*
「兄上は変わりましたね」
と言われたのは帰宅途中だった。正直言って、とても不快に思う言葉だった。俺が変わったとはどういうことだ。俺は変わった……かもしれないなー。
多分、少しだけ変わったと思う。少なくとも人への接し方は変わっただろうな。うん、他人に言われて気づく変化というのもあるな。不快に思ってすいませんでした。
「そうかもね」
だからそう答えた。悪意も何もなく、ただ淡々と応えた。
「前の兄上なら、自分よりも弱い存在にはまるで興味をいだきませんでした。魔法の行使権限を得た時もそんな感じでした。でも、私と離れて二年くらい、で変わりましたね」
氷空はさも不思議だ、と言いたげな目をしていた。口ぶりは俺に対する疑問がにじみ出ている。これまで自分が信じていた真実が、実は嘘だった、と気づいた時の様な口調だ。
例えば、日本最古の貨幣は和同開珎ではなく、富本銭だった、みたいな感じだ。
「何が兄上を変えたんですか?」
「さぁて、ね」
俺は適当にはぐらかす。こいつに教えても、意味のないことだ。そもそも、俺の過去をこいつに教える、ということは俺の弱みを晒すのと同義だ。
自分で自分の首を絞める馬鹿はいない。
「ひょっとして、そうこれはひょっとしてのベタな話ですよ?兄上があの国にいた頃に知り合った誰かに、恋でもしましたか?それでその人が殺されでもして、人に対する価値でも見出しましたか?うわー、兄上も単純ですねー」
少しだけ苛つく、いやかなぁり苛ついたね。全く憶えのないことだけど、無性に苛つくね。
この場で絞め殺してやろうかしらーん。
「確か、兄上はとある人のことを珍しく気にかけてましたよね。二人でした。名前は……ユリアナ・二ェアフとアーロン・アブト、でしたっけ?そういえば、あの二人とはここ最近会ってませんねー。ひょっとして、ひょっとしたりします?」
「ひょっとしたり、ひょっとしたりもしないよ。大体俺があの二人について思う所があったとして、それが理由で人格が丸ごと変わるかよ。人間、千五百年生きても変わることはないんだから」
「そうかもですね。存外、兄上の沸点も高いようで。ひょっとしたら怒るかな、と思ったんですけど」
「今日は疲れてるんだ。お前のお遊びに散々付き合ったからな」
「あははははは、兄上は冗談のセンス無いですね。疲れてるから怒らない、なんていうことがあるわけありませんよ。人は疲れていても、瀕死の状態でも怒ります。そういう感情の化物です」
随分なご高説だ。正論だし、大抵の人間に当てはまる。とある某国際的大国の特殊部隊には感情調節プログラム、みたいなのが適用されているらしいが、そういう人間にも当てはまるだろう。
でもね、
「感情なんてもので左右されるほど、俺は安くないよ」
四日前の夜の俺や、これまでの自分を否定するような言葉を、俺自身が吐いた。言っていて、すごく気持ち悪かった。
ようやく、第三章を書き終わりました!
次は第四章だ!次章の予告をすれば、多分夏休み系の章になると思います。
※水着イベントではありません。
大体、10日くらいで全部投稿できるかな?
最後まで読んでくださりありがとうございました!




