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双華のディヴィーナ  作者: 賀田 希道
白夜来日編――Nebula ,she is
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アフター・デュエル

 夕刻、氷空はゆっくりと目を覚ました。彼女は白いベッドの上で、体全体を覆う大きさのシーツにくるまれていた。白い肌と白いシーツはその同色から、氷空自体がベッドに寝ていることすら時々忘れてしまいそうだ。


 彼女が今いるのは闘技場備え付けの医務室だ。俺に窒息状態にさせられて、担架で担ぎ込まれたわけだが、それから今に至るまでずっと寝ていた。


 氷空は目を覚まして、周囲に視線を送った。

 とは言っても、今この医務室には俺以外の人間はいない。ので、すぐに氷空の視線は俺に向けられた。とびっきりの怒りしか感じない眼だった。


 「ようやく、起きたか」

 俺はぶっきらぼうな口調で、氷空の健康状態を確かめる。基本的には脈を図るだけだが、氷空の場合──というか俺が不安だから──魔法や呪術の行使権限も念入りにチェックをする。

 氷空の眉間にペンを当て、脳内の権限が正常化を確認する。


 氷空の魔法行使権限は、少しだけ異常だ。

 彼女はこの肌の色になってすぐは髪が黒かった。でも魔導師に、第九層魔導師になってから、すぐに髪の毛の色が変色したのだ。というか、脱色した。


 これは自分の器以上の権限をその身に宿した副作用だ。本来なら、氷空の才能では頑張っても第八層魔導師が関の山だった。にも関わらず、彼女が第九層魔導師となれたのは、輝夜の遺伝子情報があったからだろう。それが第八の園谷にいた時に作用して、氷空は第九層魔導師になれることができた。


 今いる第九層魔導師の殆どはそんな感じだ。大抵は誰か偉大な先駆者の遺伝子情報を取り込むことで、第九層という魔導師の中で最高位の階位にしがみついている。

 とはいえ、氷空みたいに脱色するだけならまだいい。中には両足が不自由になったり、視覚を失ったり、魔法を行使する度に体が劣化する、といった副作用を背負っている魔導師もいる。


 つまり、俺のように純粋な才だけで、この階位まで上り詰めた人間は稀有だといえる。ひれ伏せ、愚民どもよ!


 「よし、行使権限には問題ないみたいだな」

 「そうですか。でも、定期的にチェックしてますから、別に確認する必要はないんですけどね」

 「それでも、いつの間にか権限を失っていました、なんていうのは嫌だろ?」

 「それは、そうですけど……」


 氷空は難しい顔をして、俺から視線をそらした。そして、ベッドから起き上がった。起き上がった彼女はワイシャツとスカートだけの状態だった。

 多分、医務室の人間が治療をする際に、服を脱がしたのだろう。銃痕なんかは服越しだと治しにくいしね。


 氷空はまだ左肩が痛むのか、軽くなでた。

 「あの、銃痕だったりは残っていないんですよね?」

 「ああ、ちゃんと傷跡が残らないように治療した、らしい。俺にそれ以上のことを聞かれても困る」


 おれは大げさにホールドアップをしてみせた。実際に俺に治療のことを聞かれても困る。俺は治療系統の魔法は使えない。基本傷を負っても、事象そのものを凍結させてしまえばいいかな、みたいな考え方だしね。


 氷空は呆れたようにため息を付いて見せ、ベッドから降りた。ベッドの下に置いてあった靴を履き、俺に視線を向けた。

 「そういえば、私のブレザーは?」


 問われて、俺はこう応える。

 「ブレザーならクリーニングに出しちまったよ。だって、いつまでも血が付いたままってのは流石に嫌だろ?」

 それに、血っていうのは白布についたままだと、取れにくくなる。早めに落としておくに限る。


 「そうですか。まぁ、替えのブレザーはまだ数セットあるからいいんですけどね。空いた穴は適当に裁縫すればいいか……」

 氷空は俺を置きっぱなしにして、独り言を紡ぎ始める。ほんと、失礼な人間だなぁ。


 「で、貴様ら兄弟のバカ話は終わったか?」

 唐突に高いが、男らしい声が飛んできた。いや、まさか俺が気配を察知できないとは、ただただ驚いた。

 「いや、4位様。久しぶりの兄弟の再開なんだから、バカ話の一つくらいは許容してあげなよ」

 さらに茶々を入れる人物がいた。こっちは男で、軽薄そうな人間の声だ。気配だけは気づいてたけど、色々とめんどくさいからむーし!


 「で、お二人さんは何しに来たのさ」

 俺は二人の声がした方角、医務室の入り口に視線を送った。

 立っていたのは、紺色の髪の女とボッサとした黒髪の男だった。ちなみに、男の言葉の何かが、女の気に障ったのか、男は胸ぐらを掴まれて睨まれていた。


 「あのさ、何してんの?」

 俺は人前で惜しげもなく喧嘩しているエリスと島城に呆れたような視線を向けた。


 「いや、なんでもない。それよりも、貴様らの話は終わったのか?」

 エリスは手を島城から離すと、俺に向き直った。さすがに人様の目の前で羞恥を晒したのは恥ずかしいらしく、頬が薄く紅葉していた。


 「ああ。それでお二人さんが俺に何の用?」

 「そうだな、主に私が貴様に用があるんだな。そこの阿呆は単なる補足説明者だ」


 なるほど、つまりエリスが俺に聞きたいことっていうのは、

 「呪術についてか?」

 「そうだ」


 即答だった。エリスがそれだけ呪術についての情報を欲している証拠だろう。別に隠すようなことでもないし、教えてもかまわないかな。

 その前に……


 「なぁ、島城」

 「ん?」

 「ここでの内容を口外するの禁止な」

 「えー……」


 軽く島城の口を封じておく。こいつに俺についての情報を流布されたら堪ったもんじゃない。これから参加するであろう『星夜祭』で不利になりかねない。

 島城の口止めも済んだところで、俺はエリスに呪術について掻い摘んで教えてやった。前に一度だけ呪術については仄めかしたことがあったので、彼女はすぐに俺の言っている内容を理解した。


 ので、俺の呪術についての説明は思いの外早く終わった。大体十五分くらいかな?

 その間、俺の補足説明として、氷空も参加してきていた。存外氷空も乗り気で、最後の方は俺が補足説明に回っていた。


 「なるほど、それはひょっとしたら『星夜祭』で相手の意表を突くことができるかもしれないな」

 エリスは納得したように数度頷いた。

 「そんな都合のいいもんじゃないよ?決闘中にそこの島城が言ってたけど、魂を使う度に汚染されるんだ。あんま長い時間は使えない」


 「だとしても、余りある力ではあるがな」

 エリスは吐き捨てるような口調でそう言った。嫉妬ですか?嫉妬ですかー?


 「えっとさ、そろそろ割って入っていいか?」

 今まで気まずそうに黙っていた島城が声を上げた。

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