↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双華のディヴィーナ  作者: 賀田 希道
白夜来日編――Nebula ,she is
82/546

エブリシング・ダイス、イーブン・フォー・ズィ・アース

 「Ut・in・abyssum・irent」


 氷空は俺に聞こえるくらい大きな声で唱えた。

 あれも、領域魔法か?


 すぐに『コキュートス』が進撃を開始した。ステージのみにとどまっていた『コキュートス』の氷湖が観客席にまで押し寄せてきたのだ。

 一瞬だけ障壁が『コキュートス』の進撃を止めるが、ものの数秒で障壁は氷湖の一部へと飲み込まれた。氷湖は倒れている学生たちを器用に避け、闘技場全体を飲み込んでいく。


 『コキュートス』に堕ちる咎人は皆全てが『裏切り者』だ。

 そして、その特性もあり、『コキュートス』は色々なものを裏切った俺に襲い掛かってきた。とっさに炎を生成して氷湖を溶かそうとするが、『永劫不溶』の特性を持っているため、溶けることはない。せいぜいがアレの侵食の糧になるのが関の山だ。


 「Selenium!」


 壁に追い詰められると、俺は闘技場の反対側に転移をする。しかして、そこもまた『コキュートス』が侵食をしている場所。

 言ってしまえば、どのみち窮地であることに変わりはなかった。

 そして、何よりもこの氷湖に捕まれば俺も咎人と同じになる。永劫氷湖に囚われるだなんてゾッとする話だ。


 ただ二つだけ、この侵食を止める手段がある。

 一つは氷空を気絶させること。そもそも領域の再現者である氷空が意識を保てなくなれば、自然と『コキュートス』は消滅する。


 もう一つは、さらにこのステージを書き換えることだ。

 ただし、ごっそりと瘴素を消費するため、今は使えない。消去法で最初の案になるわけだ。


 「Stab・ad・mortem!」


 俺は氷湖をかわしながら、氷空に対して、複数の鉄線を投げつけた。どれも第八層魔導師の障壁くらいなら簡単に破れるくらいの貫通性がある。

 人間に刺されば、抵抗すらなく骨ごと体を貫通する。


 が、氷空は第九層魔導師だ。

 その程度の攻撃は簡易的な障壁を張ることで防ぐことができる。事実、厚さ一ミリもない障壁で、俺が投げた鉄線はすべて叩き落された。


 こいつは想定内。

 続く第二射が本命だ。


 「Morietur」


 一瞬、そう一瞬だけだが、『コキュートス』の侵食が止まった。しかし、その一瞬が必要不可欠なものなのだ。

 あえて言うならば、それは一瞬だけ『コキュートス』という領域が死んだことの象徴だ。死ぬ、ということはそれ以上の活動はしない、ということだ。


 しかし、『コキュートス』は地獄の領域であるがために、一瞬しか死なない。すぐにまた蘇る。でも、そこは別に問題じゃぁない。


 俺が今回狙ったのは接続回路だ。

 氷空と『コキュートス』をつなぐ接続回路。それは『コキュートス』が一旦死んだことで解除された。つまり、


 繋ぎ手のいない領域は、この場には顕現できない。

 端的に言ってしまえば、ヘリウムガス風船みたいにちゃんと持ってなければ、どこかに飛んでいってしまう、みたいなものだ。


 事実として、一瞬だけの死を経て、氷湖は姿を消した。跡形もなく、一切の体温さもなく、だ。

 ふと氷空に視線を送れば、少しだけの敵意を俺に向けていた。

 俺は恨まれるようなことをしたっけなー?


 「兄上、随分なことをやってくれましたね。正直、ここまでのことをされるとは思いませんでした」

 「へー、そうかい。随分とお優しい脳みそだ。俺がお前の切り札、とまではいかないか。まぁ、とにかく強力な手の一つを殺さない、とでも?」


 俺の言葉に氷空は眉をひそめる。あ、少しだけ怒ってます?うふふふふふ。


 「私があの領域一つを使役するのに何ヶ月かかったと思っているんですか!十ヶ月はかかったんですよ?それを無駄にしてくれて……」

 「バーカ。元来そういうものでしょ、戦いっていうのはさー。相手の長所を潰してナンボのもんでしょうが」

 「それは……」


 俺に否定されて、氷空は言葉に詰まる。

 言い返そうと思えばいくらでも言い返すことはできる。だけど、それは許されない。今の氷空は文字通り無力だ。


 俺が殺そうと思えば瞬きしている間に殺せるし、事実俺はこいつが何か問題を起こすようなら強制退場してもらうつもりだ。

 まぁ、闘技場を氷漬けにしかけといて言うセリフでもないけどね。


 「えっと、俺は一応執行委員として、お前を拘束する必要があるんだよ。だから、まぁ、あれだ。大人しく拘束されたまえ」


 氷空は抵抗することなく、その言葉に従った。

 すでに瘴素が枯渇しているステージにいる自分よりも、まだ観客席にいる俺の方が有利だ、と知っているからだ。


 「あ、そうだエリス!雫李のことお願い!俺はこの阿呆をイリアんとこ連れてくから」

 雫李は緊張が解けて落ち着いたのか、ヘニャリとステージ上で倒れ込んでいた。

 エリスが頷いたのを確認して、俺は氷空を連れて闘技場から学園校門前まで一気に転移した。


 一瞬魂が飛ぶような感覚がして、瞬きするヒマもないまま、校門前に到着した。できればイリアの執務室の前に転移したかったが、残念ながら学園内には結界の影響で転移ができない。

 しようと思えばできるのだが、結界に傷が入るため、そんなことはしない。何よりもこれから待っているであろう御小言を前にして、これ以上の面倒は起こしたくなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。