腹いせ、というか怒りの矛先
「それはどういう意味だ?」
エリスは少しだけ目を細め、イービス先輩を睨みつけた。せっかく決心をした人間に対して失礼ではないか、と言っている目をしていた。
「そこの茨木君から彼の計画を聞きました。で、例え君を会長にしてもどうにもならない、と結論づけたので、もう君が会長になる必要はありません」
「それは随分と失礼な話だな。他人を脅しておいて、いらないからもういいや、というのはないだろう?」
要約すると、落とし前をつけてもらおうか、という意味だ。
自分の怒りの矛先になれ、と言っているエリスの気持ちは理解できなくはないが、直球すぎるでしょ。普通、そういう風に言われてオーケー出す人いないよ?
「ふむ、君は私をどうしたいのかな?」
イービス先輩はどちらにも取れる言葉を吐く。話次第では別に怒りの矛先になってやってもいい、ということだ。
「私の雷を百発、障壁なしで受けろ」
エリスは青筋を覗かせ、臨戦態勢を取る。今のエリスなら、俺が魔法を行使する前に俺を狩ることができるかもしれない。
くわばらくわばら。
「雷を百発ね……」
イービス先輩は少しだけ考え込むようにうつむく。そして、数秒後に顔をあげた。
「いいだろう。それで君の気持ちが収まるならね……」
イービス先輩は手を大きく広げると、無防備アピールをしてみせた。イービス先輩の周囲の瘴素は特に変化はない。
例えあの先輩がエリスが雷を撃った後に、障壁を張ろうとしても間に合わない。
「Tuono・casuale・ut・cento!」
エリスの周囲に数を数えるのがバカバカしくなる量の雷が生成された。そのすべてが杭のような形をしていて、一斉にイービス先輩に襲いかかった。
その見るだけで恐ろしい光景を、間近にしてイービス先輩は眉一つ動かさない。そして、一瞬の内に雷の杭はイービス先輩に無造作に直撃した。
ある杭は足を、ある杭は喉を、ある杭は胸を貫通していた。しかし、それらは決してイービス先輩から血を流してはいなかった。
エリスの雷に人肌を裂くような効果はない。
彼女の雷はせいぜいがかすっただけでも気絶する程度の威力しかない。大量に雷の杭を生成する、ということはそれだけ瘴素を消費する。ので、彼女の放った杭には前文で語ったような威力すらない。
とはいえ、そんなものを受ければタダではすまない。多連式高電圧のせいで意識は飛ぶし、しばらくはまともに体が動かせないだろう。
場合によっては体の一部が麻痺するかもしれない。
最も、そうなったとしても超一流の医者に看せれば、万時解決するのだから、気にすることではない。いや、多少の気遣いは必要かもしれないが、重度ではない、といううことだ。
イービス先輩の制服から焦げ臭い匂いがし、さらには体のあちこちの皮膚が膨れていた。頭髪なんかはパンチパーマーみたいになっていた。
そこだけは素直に笑えた。
「Causa」
いつまでも気絶されたままだと、話が前に進まないので、手っ取り早く魔法で意識の覚醒を促した。ちなみに、これをやっても起きない場合は、二重に行使すれば基本は起きる。
悪夢でも見たように、イービス先輩は即座に開眼し、上体を起こした。
その顔は阿呆のそれで、顔の各パーツがゲーム廃人みたいに、ポケーと空いていた。写真に撮って、永久保存してやりたかったが、生憎とカメラがなかった。
「はぁ……はぁ……」
イービス先輩は脱力したように、息を整える。自分の制服の状態すら確認せず、生きているかだけを確認していた。
エリスが自分を殺すわけはない、と考えていたようだが、その見通しは少しだけ甘かったようだ。今のは確実に殺す気だった、と思う。
でなければ、集中砲火なんてしない。
今、イービス先輩が生きているのは、この空間にあった瘴素が少なかったからかな?
「えー、エリス?これで満足?」
俺はエリスの顔色を伺いながら、彼女のご意見をうかがう。俺としてはこれ以上やったら本当にイービス先輩が死んじゃうから困るところだが、エリスからすれば死んだほうがいいのだろう。
難しいところですなー。
返ってきたエリスの言葉はシンプルなものだった。
「ああ、多少はな」
「そいつはよござんした」
とは言えなかった。
全然よくない。つまり、ストレスとして溜まっている、ということだ。まぁ、寮に帰って一晩くらい訓練室に篭もれば発散されるんだろうだけどね。
*
エリスを帰し、俺はイービス先輩に向き直る。
「イービス先輩、そろそろ出頭しますか?」
しばらく沈黙が流れた。
もう、終わりにしようぜ?あんたはこれ以上は永らえないよ。
「ああ。じゃぁ、君が私を連れて行ってくれ」
俺は介護士じゃないんだけどなー、と言いたかったが、言ってもあんまり意味は無いだろう。俺は渋々未だに体が麻痺しているイービス先輩を立たせて、イリアの執務室を訪れた。
部屋に入ると、イリアは待ち構えていたのような鋭い視線を俺に向けてきた。未だに喧嘩状態演技を継続しているらしい。
俺は身振り手振りでなんとかもう演技の必要はもうない、と伝えようとしたが、全く相手にされなかった。




