九騎士決闘
『天使と悪魔』、俗に『九騎士決闘』と呼ばれるこのゲームは魔導師世界で最も親しまれているボードゲームだ。チェスに似ているが、その中身はまるで違う。
断言しよう。チェスが強ければ強いほど、このゲームで勝つことは難しくなる、と。
このゲームに使用されるのは、正方形縦九マス横九マスの大盤と、計八つある、縦七マス横七マスの小盤だ。小盤の方は大盤のから伸びたアームによって支えられ、大盤から斜めに十五センチ離れた位置にある。八つの小盤は大盤の脇に四つずつ配置されている。
大盤は縦をAからIの文字、横を1から9までの数字で管理している。小盤は縦をAからGの文字、横を1から7までの数字で管理している。
『天使と悪魔』においては、天使側を正位置としている。
ゲームに使われる駒は全部で六十六個。内三十三個が天使で、残りが悪魔を象っている。まずは小盤に使われる駒から説明していく。
小盤に使われる駒の中で一番多いのは、前列に並べられる駒は、それぞれ小天使、小悪魔、と呼ばれる駒で、それぞれ七個ずつある。これらは一マスずつの直進しかできない。将棋の歩と同じ動きしかできないわけだ。歩と違って、相手陣地に入っても「と」にはならないけどね。
続いて第二列の説明に移る。
第二列最端にあるのがそれぞれ、狂天使、狂悪魔、呼ばれる駒で、これらは基本は縦横どこまでも動けるが、それ以外にも味方の駒を飛び越えて進むことができる、という特性がある。ちなみにそれぞれ二つずつある。
その隣、同じく二個ずつ弓天使、弓悪魔という駒が位置し、縦横ななめの二マス先まで味方を乗り越えて移動できる。その隣には小盤の要とも言える、守護天使、守護悪魔という駒が二個ずつ置いてある。こいつらは全方位に一マスずつ動くことができる。
最後に、それぞれに一個ずつしかないのが、聖天使、堕悪魔、と呼ばれている駒だ。これらは全方位に二マスずつ進むことができる。ちなみにこの駒が盗られると、小盤の戦いは終わりだ。
次に、大盤の説明を行う。とは言っても、基本は小盤と似たようなものだ。全二列の最前列に配置されているのは小天使、小悪魔だ。
続く第二列も、最端とその隣は同じ駒である。
しかし、そこから先が少しだけ違ってくる。まず、大盤には守護天使、守護悪魔がいない。ただし、それに似た駒が二種類ずつ存在している。
その一つが、弓の隣に位置する、双槍天使と双刃悪魔だ。これらはナイトと香車を合わせたような動きをし、攻撃に適している。ちなみにそれぞれ二個ずつ存在する。
もう一つは、その隣に位置する上位聖天使と上位堕悪魔だ。これらは全方位に好きなだけ進むことができる。しかも、例によって二個ずつ存在し、味方を飛び越えることができる。
最後に、それぞれ一個ずつしかないのが、天上天使と悪魔王だ。これらは上位聖天使、上位堕悪魔と同じ動きをする他、ゲーム中一回しか使えない『転移』という手段を取ることのできる駒だ。無論、この駒を失うと、負である。
さて、残る二個の駒、これは特定条件を満たすことで出すことができる最上級の駒だ。
その駒の名は、至高天と夜だ。もし、天使側が小盤三つを制覇し、尚且つ上位聖天使がいない時に限って、出すことができる駒だ。悪魔側も似たような条件である。
この駒の利点は、まず四マス分の大きさがあることだ。つまり、この駒が四マス分を取ることで、密集している敵の駒を根こそぎ壊滅させることができるわけだ。ちなみに移動した先に自分の駒がいた場合、巻き添えを食らう。あと、この駒で天上天使と悪魔王は盗れない。
その他の利点として、全方位への移動と天上天使と悪魔王以外のコマに盗られない、という利点がある。そのどちらかの駒で盗った場合、空いた四マスのどこかにその駒を置くことになる。両駒にのみ許され『転移』を使って速攻で四マス駒を潰すのがセオリーだ。
さて、ここまで説明しただけでもかなり面倒なルールのゲームではあるが、このゲームの面倒な点はそれだけでは終わらない。
このゲームの最大の難点。それは小盤の駒が勝手に動くことと、ターンという概念がないことだ。
つまり、常時駒を動かさなくては勝てない。それでいて、その他の小盤にも注意を払わなくてはいけないので、戦術どころではない。
複数の戦闘地帯を同時に指揮する、という芸当はかなり厳しいものがあると思う。まして、味方の兵が自由意志で動くなんて堪ったものではない。
まさに戦場そのものを表したボードゲームだ。
このゲームの勝利方法は実にシンプル、全部で九つある盤の内、五つで勝利すればいい。しかし、駒が好き勝手動くため、大抵は小盤の戦いは放置され、実質大盤にプレイヤーは集中してしまう。
ので、大盤で勝っても、小盤が落とされていました、なんていう話はよくある。中には、大盤の勝ちにこだわらず、小盤での勝利にこだわる人間もいる。大盤は壊滅的だけど、小盤では勝利している、というパターンだ。
そんな難易度の高いゲームをやろう、というイービス先輩の神経を疑いたかった。しかし、そんなことをしている間にイービス先輩は着々と準備を進める。
「Svegliarsi」
イービス先輩の呼びかけによって、突如として何もない空間に巨大な大盤とアームで繋がった八つの小盤が出現した。それは真下にあったソファーを踏み砕き、重量感あふれる音を立てて着地した。
「さぁ、準備は整った……。ゲームを始めよう」
断ることはできなかった。
*




