知らなくていいことは、知った時に知るものだ。
「今、泉が抱えてるのは、学園のゴタゴタ。ま、執行委員会には全くカンケーのないことなんだけどさー。泉から要請があったから助けないわけにはいかないんだよねー、飲み友だし」
高校生が飲み友持つって、どういう状況だよ。
「学園のゴタゴタってことは……統括委員会かな?」
「ピンポーン!いわゆる権力闘争ってやつだねー」
争っているのは会長である泉さんと、副会長のイービス・トレンドだろう。副会長であるイービスは、去年の十月の会長選で、泉さんに圧倒的差で落選した残念な三年生だ。序列は2位。階位はエリスと同じ第七だ。
イリアに比べると階位は劣るのに序列2位なのは、一重に彼の実績が大きいだろう。二つ名、『白夜の奏者』は伊達ではない。
そのイービス先輩が今、泉さんと権力闘争中、ね。確かイービス先輩は今年の六月で卒業だから、自分が去った後に泉さんの権力の増長防ぐのが目的かな?
人間としての視点からすれば、俺はイービス先輩を押したけど、どうもあの人は好かない。なんていうか、理想のためならなんでも犠牲にするような人のように見えるからだ。
対して泉さんも似たような性格の人間ではあるものの、あの人はまだ信用ができる。あの人は他人と交わした約束をできるだけ守ろうとする。それは危ういものがあるが、信頼を得るにはもっとも最適化されているやり方だ。
イービス先輩はよく人を騙すし、何よりも自意識過剰に過ぎる。つい先日、あの人が下級生に行っている仕打ちを見たときは、目を疑いたくなった。
下級生に対して魔法での体罰を敢行していたのだ。
止めようかと思ったが、そのときは別の用事で忙しかったので放置した。今思えばあの時あの人を止めていればよかったな、と思う。
「それで、確認だけど争ってるのは泉さんと、イービス先輩?」
思索をやめ、イリアに向き直る。返答次第では、また思索のやり直しだ。
「……」
イリアは無言だったが、片目を一回閉じた動作をした。これはイエス、ということだ。うわー、知りたくねーこと知っちまったなー。
しかし、ちょっと待ち給え。
それだけなら伏せる必要なんてなくね?知られて困るような話でもないし、何よりも俺が関与したところで事態が面白くわけでもないだろう。
「まだ、何かあるな?」
その言葉にイリアの表情が固くなる。さっきまでのおちゃらけた雰囲気とは打って変わって、しごく真剣そうな顔立ちだ。
「うーん、あんたになら言ってもいいかな……」
意外とあっさり教えてくれるものだなー。一応秘め事のはずでしょ。もし、俺がそういうのを学園中に言いふらしたらどうすんの?
「今回の件だけどね、実はエリスが関わってるんだ……」
突然出てきたエリスの名前は、多少俺を動揺させた。なんで、そこにエリスの名前が出てくるんだよ。あいつは学園の権力に興味はなかったはずだ。
「なんで、エリス?あの4位様が今回の件にどんな関係が?」
思わず質問する。
「イービスの奴が、自分の後釜として指名したのがエリスだった、それだけの話だよ」
絶句する。
あの野郎、随分と面倒なことを……
「で、当のエリスはなんて?」
「自分はそんなものに参加する気はない、てさ。でも……」
「ああ、イービス先輩は諦めないだろうな……」
イービス先輩はすごく汚いし、しつこい。一度や二度勧誘を断ったくらいじゃ音を上げないし、どんな手を使ってでも自分の要求を通そうとする。
今回、どんな手を使ってエリスを抱き込むかは不明だが、ロクな手ではないだろう。相手の弱みには付け込めるだけ付け込んでくるアレを、果たしてエリスは対処できるだろうか?
「ま、いざとなれば俺が動くけどさ。正直この前の元8位みたいなイージーキャラじゃないからキツイんだよねー」
「まぁ、ただの勧誘って感じであたしらが悪者にされかねないしねー」
頭での喧嘩はあまり得意じゃない。別に頭脳戦が苦手という意味ではない。暗に、相手の精神を残しながらの頭の喧嘩が苦手なだけだ。
ま、その点に関しては泉さんに負けるけど。
人の精神を圧し折るような頭脳戦は大好きだけど、それをされて正常な人間に人生で一度しか会ったことがないから、加減がわからない。
「とりあえずエリスにはそれとなくイービス先輩には注意しろって言っとくわ」
「お願いねー。ある意味じゃ泉サイドのあたしは動きづらいからねー」
なるほど、理にかなっている。
俺も似たような立場ではあるし、監視の対象にはなっているだろう。でも、俺には監視魔法は通じないから、見張るならスタンドアローン、バイマンに限る。
つまり、泉さんサイドで自由に動ける数少ない人物、ということだ。イリアが俺にこの話をしたのは、そんな打算も含まれてのことかもしれない。
「じゃあ、俺はこれで」
「ん、詳しいことがわかったら、あんたの部屋いくから」
寮の部屋が隣って、けっこう便利ですよねー。
俺は立場上一礼して、イリアの執務室を後にした。
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