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双華のディヴィーナ  作者: 賀田 希道
氷華誕生編――Birth of Flores
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事後報告

 放課後、事の次第を泉さんに報告するため、俺は執務室に足を運んだ。理由は不明だが、その席にエリスも同席していた。


 「では、今回の件はグレイ・ガリアスの隙間に付け込んだ李信民という魔導師の手によるものだと?」

 「ええ、李信民なら()()実験室であれだけの破壊行為はできます。あいつを知る俺がそれを保証します」

 「保証されても困るんですけど……まぁ、わかりました。とにかく座って下さい」


 ひとしきり報告が終わったところで、俺はソファーに座る。


 「その李信民という魔導師は?」

 これは隣にいつも直立しているアリア先輩への言葉だ。アリア先輩は手元の資料に目を通しつつ抑揚のない声で応える。


 「先程、転移魔法陣が勝手に発動した、という報告がありました。恐らくはそれで本土に逃げてますね」

 そうですか、とアリア先輩の報告を聞いて、泉さんがつぶやく。その声は、とても残念そうに聞こえた。多分そう感じただけだろうが。


 「その李信民という魔導師がエリスさんを、星女(Stella・myu)、と呼んだ。それは事実ですか?」

 「ええ、確かにそう言っていましたよ」

 今度は俺への質問だった。


 そこでこれまで平静を保っていたエリスが割って入ってきた。

 「ちょっと待って欲しい。さっきも出てきたが、その星女とはなんだ?」


 その言葉に泉さんに目配せして、俺が応えることにした。

 「星女っていうのは、言ってしまえば星の加護を受けた人間だよ。一定の時間間隔で地球に出現して、最悪をもたらしたり、幸いをもたらしたりする。いい例としては……ジャンヌ・ダルクとかかな?大体、たかが神程度が世界に干渉できるわけもないしね。あれは世界そのものに選ばれた女性だ。」


 「最後のジャンヌ云々はさておき、なるほど。非常に興味深い存在だな。私がそうでなければ会ってみたいものだ」


 まるで他人事の様なエリスの物言いに半ば呆れながら、俺は泉さんに話を続けるよう促した。


 「エリス、茨木君の報告では、貴女は六限目が終わって教室を出ようとした時に、第一闘技場に飛ばされた、と聞いていますが、事実ですか?そしてすぐに気絶させられた、と」

 「ああ、そうだ。しかしすぐにと言うのは語弊がある。数度魔法を撃ち合った後に、恐らくはグレイが予め用意していたのであろう遅発系魔法で気絶させられた、が正しいな」


 「すぐにと記録しておきますね」

 エリスの口弁をまるで無視した泉さんの有り様に、ちょっとだけ笑ってしまった。その態度に、エリスは反論しようと腰を上げたが、それを俺が制した。


 ここで喧嘩しても仕方がない。もう終わったことなのだから。


 「話すことはまだ何かありましたっけ?」

 「いえ、こちらから言及すべきことはもうないかと……。強いていうなら、茨木二年生と委信民の因縁について知りたいところですが……」


 アリア先輩は鷲獅子(グリフォン)のような鋭い眼光を俺に向ける。物凄く怖い。


 「その辺については黙秘権を行使させていただきまーす!」

 「ふざけたことを……。まぁ、そこまでの内容ではありませんし、構いませんが……」


 じゃぁ、話題に出すなよ。


 「さて、ここから先はちょっと統括委員会の私事になりますので……茨木君、エリスさん。退出してくださいね?」

 回りくどく言われるより、直接出てけ、と言われたほうが案外傷つかないんだなー、と生まれて初めて実感できる一言だった。辛辣な言葉であることに変わりはないけど。



 執務室から出、エリスと別れると、俺は一人思案にふける。

 まず、委信民が星女であるエリスを殺そうとした理由。委信民ならその気になれば学園、というか飛鳥島ごとエリスを消せたはずだ。なのにそれをしなかった。

 それが殺そうとする理由と関係あるかないか、と考えると、整合性がない。むしろないとすら言えるかもしれない。


 殺そうとするのだから、李信民にとってエリスが邪魔な存在であることは確かだけど、それはなんなのだろうか。例えば将来的に李信民が地上を魔界に変えようとして、それをエリスが阻止する、とかいう筋書きがあればいいんだけどな。


 それと、その後の8位の処理。報告したところ、退学は確実だろう、と泉さんは言っていた。8位の生家であるガリアス家は魔導師世界では中位に当たる家だ。その長男坊である8位が退学になるとすれば……。は、可哀想に。


 最悪8位は永久監獄と謳われる『ベアトリーチェ』行きだろう。現在の魔導師の祖であるダンテ・アリギエーリ自らが作り上げた巨大な海中の監獄。

 噂では地中海の奥底に眠っているとかなんとか。逃げようとすれば外部の力を借りなければならないし。何より、監獄の牢屋の中では魔法が使えないらしい。曰く、多重の瘴素分散結界が埋め込まれているからだとか。


 魔導師は瘴素がなきゃ魔法が使えないからね。瘴素はいわば神の奇跡を起こす媒体だ。万能の元素といってもいいね。

 これが非魔導師の連中にも見れたらいいんだけど。


 残る問題は……やっぱり星女であるエリスかな?これは最初の疑問と被るが、そもそもエリスはどういった星女なのだろう。

 星女と言っても、色々と種類がある。救国の星女(ジャンヌ・ダルク)鉄血の星女(マリア・テレジア)血塗れの星女(エリザベス1世)、といった具合にね。


 ゆえにこう思う。エリスは一体どんな星女になるのか、と。

 単純にマリア・テレジアのようになるなら好ましい限りだ。だが、過去最悪の星女、蠱毒の星女(楊貴妃)のようになるのなら、俺が殺さなければいけない。


 さしずめ、今のエリスの星女としての名称は、『隷属の星女』といったところだろうか。生家の呪縛に隷属する彼女にふさわしい名称だ。



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