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双華のディヴィーナ  作者: 賀田 希道
氷華誕生編――Birth of Flores
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ディス・イズ・マースィー

 俺の言葉を聞いて、数秒8位は状況が理解できていないようだったが、すぐに激昂した。


 「ふざけるなよぉ!お前なんかに何ができるよ!Draco・del・ventus・in・duo!」

 怒りに任せて、8位は考えなしに周囲の瘴素を消費する。結果生まれたのは二頭の翼竜。体それ自体がシュレッダーのように回転し、触れば人間の体など血しぶきにするだろう。


 「殺っちまえ!」

 8位の号令とともに、二頭の翼竜が俺めがけて飛んでくる。ただの風魔法と形質魔法の合技。威力極振り、瘴素の消費も、占術もへったくれもない、、実に愚かな魔法だ。こんなのが自分を天才だ、と豪語するだなんて世の中の万という天才に失礼だろう。


 「Pedicabo・ego・vos」

 唱えると同時に二頭の翼竜が消滅する。第九層魔法が一つ、瞬間系修正魔法。本来存在していけないもののみに限定して、存在ごと消すことができる。ただ、あくまでも俺よりもレベルの低いものに限定されて初めて効果を発揮する魔法だ。


 「は……?」

 風の翼竜が跡形もなく消え、8位は目を丸くして、間の抜けた声を漏らした。

 なんだよそれ、と言いたげな8位を尻目に、次の魔法の行使に入る。


 「Press・vos・faciem・to・terram」

 同時に、8位が地面に体を押し付けられた。別に重力を操ってるとかじゃない。相手の精神を「反抗」から「平伏」へと変更しただけのことだ。

 つまり今の8位は俺への怒りはあるものの、体が言うことを聞かない状態、というわけだ。もし、8位に強靭な精神でもあればこの魔法を覆すことができたかもしれないが……たらればの話をしても仕方ないか?


 「クソ……なんでお前に頭なんか……」

 8位の悔しそうなうめき声が聞こえる。


 「さて、と。お次は……えっと……Dicere・secret」

 これ以上こいつと無駄なお話をしても仕方ないので、手っ取り早く自白させることにした。精神干渉魔法の一種ではあるが、タブーではない。あくまで、質問に答える程度の魔法だ。


 「どこにエリス隠したの?」

 けっこう丁寧な口調で8位に質問をする。今にでもぶん殴って殴り殺したいけれど、殺してしまっては泉さんに申し訳がたたないので、我慢しているのだ。


 「『闘技場第三女性控室……そこに持続系拘束魔法で縛ってある……』」

 まるでお嬢ちゃん何歳?と警官に聞かれた少女のような、たどたどしい口調だ。さっきまでの絶叫マシンと違ってこのギャップはもう……、ひどく癪に障った。


 「じゃぁ、最後の質問。あんたはなんでこんなことをしたんだ?」

 少し間を置き、8位は口を開く。


 「『エリスへの復讐と、委信民さんが実験室で殺した学生への嫉妬。エリスが僕を馬鹿にするから……、あいつらが分不相応な研究を完成するから……、僕を抜け駆けしやがって……』」

 聞くに堪えない自分勝手な言葉の羅列が8位の口から溢れ出す。その言葉は、聞いているだけで人の醜さを他者に押し付け、不快な思いにさせる類の言葉だ。


 他人の成功を妬む。それは素晴らしい。他人に対して劣等感を覚える。それも素晴らしい。だが、それを相手に押し付けるなよ。劣るのは人として当然だし、ある分野において才能を発揮できないのは生きているうえでなんのことはない、ありふれた現実だ。


 そんなことも理解していない、自称天才が何を言うんだ。嫉妬して、同校の徒を殺して、それで何を得た?結局、女拉致って監禁して酸の海に投げ込んで、人として恥ずかしくないのか?きっと恥ずかしくないんだろう、そんな羞恥心があれば人に殺させないし、拉致るなんてバカもやらかさない。


 泉さんだって、こんなクズの相手をしたくもないだろう。それに、所詮こいつは委信民にとってトカゲのしっぽ。切り捨てられる立場の人間だ。

 だから、生かしておく価値はない。


 「『李信民さんは、星女を殺せば僕の研究をて……………』」

 「うるせーよ」

 とっさに顔面に膝蹴りをかましてた。8位は鼻血と鼻水の両方を垂らして、気絶した。


 久しぶりにクズのクズらしい一言を聞いて、感情の変化を憶えたよ。ありがとう、噛ませ犬。俺を久しぶりに怒らせてくれて、ついでを言えばストレス発散に協力してくれて。



 8位の筋肉を弛緩させ、俺はエリスを探しに出る。さっき8位が口にしていた第三女性控室というのは、闘技場の西側にある控室だ。スペースがそこそこあり、シャワーなども常備してある。


 第三女性控室の扉を開ければ、そこには8位が仕掛けたのであろう処刑装置が置かれていた。


 控室の床全体が、酸の海と化しており、容易に踏み込めない。廊下に酸があふれてこなかったのは、この控室全体を外と物理的に遮断しているからだろう。

 一朝一夕でできる芸当ではないし、多分随分前から用意してあったはずだ。


 その酸の海の真上に拘束魔法で縛られたエリスが鉄の棒にくくりつけてある。鉄の棒は酸の海に浸かっており、心なしか徐々に沈んでいるように感じられた。

 必死に拘束魔法を解こうと、エリスはもがくが、人間の筋力ではどうすることもできない。しかも容易に拘束魔法を解こうとすれば、その途端に酸の海にまっしぐらだ。魔法で空中に浮くこともままならない。


 さて、ここで酸の海を凍結させればことは終わりなのだが、それではちょっと芸がない。もう後ニ、三は邪魔が入ってもいいところだが……


 「おい、千乱!頼むから助けてくれ!助けてくれたら金でも体でもくれてやるぞ!」

 ようやく俺に気づいたのか、エリスは必死こいて俺に懇願する。そこにはもうプライド、なにそれ美味しいの、とでも言いたげなプライド投げやりな気持ちが顕になっていた。


 そしてそんな懇願をされては助けないわけにもいかないな。さっそく凍結魔法を酸の海全体に発動させる。波の動きが止まり、酸の活動も凍結される。

 水に形を与えたことで、水の上を歩けるようになった。


 持続系凍結魔法第二ステージ、部分凍結(パートフローズン)。エリスに使った可視化できる凍結魔法と違い、これは目に見えない。顕微鏡とか使えば物体の運動が止まってるってわかるとは思うけど、肉眼ではまず見えない。表面上凍っている第一ステージと違って、これは奇襲によく使う。


 「よぉ、エリス。気分はどぉ?」

 ふざけた口調で縛られているエリスに質問したら、

 「縛りプレイは好みではないのだがな……」

 という予想外の返答が返ってきた。


 その後、ちゃんと拘束魔法を解いてあげた。



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