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双華のディヴィーナ  作者: 賀田 希道
氷華誕生編――Birth of Flores
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ザ・ウィンド・キャンノット・ウィン・アゲインスト・スティール

 とりま、瘴素を微量に使って防壁を造りつつ、さらにその場を離脱。即席の凍結魔法で傷口の動きを停滞させる。少なくともこれで血は出なくなった。

 感覚はだいぶなくなるけど。


 「Nebula!」

 俺が使える範囲内の瘴素の四分の一を使って、小規模の霧を発生させる。とはいえ、学園の校庭を覆うほどの広さだ。


 これで襲撃者は俺とエリスの居場所がわからない。無駄に風を発生させて、霧を吹き飛ばさない限りは、の話だが。そして例によってビュービューと風が吹き始めた。

 「Incrementum」

 概念を成長させる魔法を駆使し、紙幣を二メートルくらいに伸ばす。さらにそれに硬化の魔法を行使して、簡単な鉄の板(重さがない)を作り上げる。


 「Volant!」

 それを魔法で出力を上げ、勢い良く風上に投げつける。物体の重さはないが、厚さ一ミリもない鉄の板が重力に任せて落ちてくるのだ。

 頭部にでも当たればそのままスライスチーズになること間違いないだろう。


 とはいえ、それは俺も望むことではない。

 だからギリギリ当たらないように、それこそ相手が漏らすぐらいの距離に落とすよう投げた。無論向こうさんが動いて当たってしまったら、ご愁傷様としか言いようがない。


 数秒後、再び風が吹き荒れ始めた。つまり、襲撃者は鉄の板を回避した、ということだ。すぐに霧は晴れ、俺とエリスの姿は丸見えになる。

 ここで再び霧を発生させるようなことはしない。そんなの瘴素の無駄だ。瘴素は有限だし、自然生成されるとはいえ、無駄にはできない。


 いつの間にか明かりも消え、辺りは漆黒に染められた。ギリギリエリスの場所は確認できるが、それでも輪郭程度。何やってのかわからない。

 よく襲撃者はこっちの居場所わかるな。座標を読んでるのか?

 だとしたら特別な魔法が使える人間だな。


 「Canetis・ab・sonus」

 単純な音響を飛ばす魔法だが、イルカのように索敵が可能だ。もっとも耳が良くないと使えないから、あまり意味のないものだけど。


 「みつけた」

 俺より前方三十メートル。学園外の森林からの攻撃。防御結界すり抜けてきてるから、なんか裏技使ってんなぁ。あるいは、結界の質を変化させてるか、のどっちかだけど……。


 「別に問題じゃないよね。Titlus・monumenti・glacies!」

 ありったけの量の瘴素をつぎ込んで、巨大な円柱型の氷柱を作り出す。直径三メートル、総体積三十立方メートルの巨大な標柱は、魔法で出力によって撃ち放たれる。


 「Corrumpi・unum・centum!」

 後出しで、氷柱が半分ほど飛んだところにさらに魔法を行使する。氷柱は百の欠片に分解し、周囲一体に成すがままに降り注ぐ。


 さながら氷の隕石のようだった。時間が時間だからあの場所には誰もいないだろうし、死ぬのも襲撃者だけ。俺はお咎めなんてものは受けない!

 思う存分死んでくれよ、襲撃者君。


 思いがけず、笑い声が溢れる。まるで弱者を見下す貴族のような、下衆な笑い方だ。だが、今この瞬間だけは心地いい。

 久しぶりに欲求を解消できるというのはなかなかどうして素晴らしいものだ。


 「ははははははははははははははははははははははははははははははははは………」


 ズガン、ズゴンと氷片が森林に落ちる音がする。草木をなぎ倒し、地面を吹き上げさせる。瞬く間にクレーターを造り、一部で血しぶきを上げるだろう。

 生息していた虫やら兎やらも巻き添えにして、襲撃者に襲いかかるのだ。これを素晴らしいと言わずしてなんと言う?非道か?


 所詮魔法なんてものはこうやって殲滅することにだけ特化した技術だろう。それを研究だの追求だの学ぶだの、下らないことこの上ない。

 「なぁ、エリス。あんたもそう思わないか?魔法は素晴らしい殲滅技術だって、ことをさー」


 呆然と結界の中で墜落音に耳を傾けるエリスに話をふる。彼女は自分が話しかけられていることに気づくと、ゆっくりと唇を動かしだした。

 あ、そうだった遮音してるんだった。


 結界の防御だけを残したまま、遮音を解除する。よくよく考えてみれば遮音にする意味ないな。単に向こうの声が聴こえないだけだし。


 「貴様の言っていることは正しい。この音を聞いて、魔法は神の奇跡であり、尊いものだと言い張れる人間がいるとすれば、そいつはお気楽な人間だろう」

 エリスは俺の意見に同意を示す。いや、示しざるを得ないだろう。自分だって相手を傷つけるような魔法をよく行使しているし、何よりもそういった魔法の餌食になったことがあるのだから。


 「しかしそれは別問題として、心が傷つかない畜生にはなりたくないものだ」

 否定はされなかったけど、辛辣なご意見だった。ま、確かに誰かを殺して傷つかない、なんていう人間にはなりたくないわな。

 そういう奴は大抵闇落ちして修羅道を歩むもんだ。あるいは地獄道かな?


 「それで、今ので仕留めたのか?」

 「さぁてね。反撃してこないからそう信じたいけど……」

 もう一回音響を飛ばして位置を把握できれば簡単なのだが、あいにくと瘴素が枯渇している。これでは魔法なんて使えっこない。


 「多分死んでんじゃね?」

 自分でも無責任だな、と思えるくらいにてきとうな言葉がぽろりと出た。


 「無責任な男だ。それと早くこの結界を解け。窮屈で敵わん」

 結界を叩きながら不平を漏らすエリスに苦笑しつつ、結界を解除する。そんなに複雑なものではないので、すぐに解除された。


 結界を解除すると同時に、エリスは身なりを整えて、その場を立ち去ろうとした。けっこう強引に引き寄せて投げ飛ばしたせいで、土埃が制服中についている。

 「礼ぐらいいえないのかー?」

 背を向けて歩く彼女に挑発じみたことを言う。別に礼なんて期待はしていないが、いたずらごころが刺激された


 彼女は振り返ると、ちょっとだけ予想外の返答をした。

 「つい先日、貴様は自分は礼なんて言われるような人間ではない、みたいなことを言わなかったか?」


 ああ、言ったかもね。自分の言葉で刺されるとは思わなかった。



 その後、寮に戻ったら、滅茶苦茶説教されて、反省文を書かされた。



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