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従者竜と転生幼女  作者: ローリー・コールマン
6/6

親子対話

※主人公出番なし

 新たなる竜護の民の名付けが終わった夜の最中。

 ムシュフシュは久方ぶりに母の声を聴いた。──それは、風の音や、せせらぎの様な、自然音。

 夜空に浮かぶ星々も、夜天に浮かぶ蒼月も、大地に生きるあらゆる生命も。

 世界に映るあらゆる物を常に見守る偉大なる海の象徴にして、世界最古の竜。

 偉大なる海、全なる母、半界の支配者、礎の竜。

 空を埋め尽くすような巨大な黒の翼を広げ、見下ろし微笑む偉大なる──「生命の母(ティアマト)」。

 基本的に海の底で眠り続けている母が、何故か里の空を支配していた。

 

〝久しぶりね、変わらないのね〟

「そういう貴女も変わらないな」


 それは親子の会話と言うのは温かみがなく、ただ他人の会話と言うのは柔らかい。

 死して神となり思い出が記録に変わった母と、思い出が苦痛として残っているムシュフシュでは既に互いに通じない。

 けれども、互いに抱いている親子の情だけは確かだ。そうじゃなければ互いに会話をしようとも思うまい。

 けれども今回の話はその親子の情とは別の所にあると、ムシュフシュはなんとなく理解していた。

 何故ならティアマトは、記録した母としての顔ではなく、世界の礎たる竜神としての顔をしているのだから。

 

〝本当は巻き込むべきではないのだけど──適任は貴方しかいない〟

「成程、アリスの事か」


 ええ、と母親である神は頷く。

 それは悲しげである無機質な、何処までも神であろうとする母の姿だ。

 彼女にとって、アリスと言う少女もまた、自らの子と感じているのだろう。


〝──欠けているの、あの子は〟

「欠けている? それは一体どういう意味だ」

〝あの子は、本来この世界の存在ではなかったわ。我々の住まう世界よりも尚上位の世界の魂、その片割れ。

 あの世界の神々によって送られた男性の魂が、何者かの介入によって半分に分かたれたもの。それが今代の竜護の民──アリス・ハーゲンティの正体よ〟

 

 上位世界からの転生者、片割れを亡くした少女。

 それは予想以上に異常な、何処までも埒外な現実だ。人間の書くエピソード集のような、いっその事笑えるほどに現実味のない現実。

 現実は小説よりも奇なりとはよく言った物だと薄ら笑う。ふざけるなと、奥歯を噛んだ。

 魂の欠落、それも半分だ。とてもではないが、それは生き物が生きれるような状態ではない。

 生物は基本的に三つの要素で構成されている。肉体、精神、魂の三要素だ。

 肉体は魂を入れる器であり、外界に干渉する為の触覚である。精神は魂と肉体を繋げる帯にして、堅牢なる防壁そのものだ。

 対して、魂は生命そのものだ。器を十全に満たさなければ肉体は次第に衰弱し、そして最終的には死に至る。

 肉体も精神も魔法が存在する世界ではいくらでも修復が可能だ。だが、魂だけは修繕不可能な一点物。それが半分欠けている、──想像も出来ない程に恐ろしい。

 

〝本題はここから、問題はこれから。

 アリス・ハーゲンティの片割れ、これは現在<銀>と呼ばれる存在としてこの世界に存在しているの。存在しているだけなら、私達が回収してアリス・ハーゲンティに渡そうと思っていたのだけど、それを不用意に刺激して世界中に拡散させた輩がいるわ。そのせいで現在一部の魔物が<銀>に憑り付かれて暴れ狂っている。それこそ、上位世界の魂は一部でも濃度、──純度が違うから非常に危うい状態になっているわ〟

「なら対処をするなりすれば」

〝出来ないのよ、曲がりなりにも上位世界の神々に保護を受けていた魂だもの。下位世界の存在である私達では干渉する事すら出来ないの〟

「最悪だな。──それで、つまりどうしてほしい?」


 最早問うまでもない。けれど問わねばならない。

 それは既に決定されているからこそ、この女神は里の空へと舞い降りたのだ。

 

〝【命令よ】アリス・ハーゲンティを連れて世界を旅しなさい。

 安全は保障できない。路銀も渡す事はできない。アリス・ハーゲンティに負担を強いるのも分かっているし、貴方が里から出たくない事も百も承知。

 それでも、──貴方はアリス・ハーゲンティを連れて12体の<銀>を討伐しなさい〟

 

 どれだけ気に食わなくとも、それは始祖である王の命令である。

 どれだけ莫迦らしかろうが、それは被創造物であるムシュフシュは拒否する権利を有してはいなかった。

 ──最早、この女神は母ではない。そんな事を分かっていたが、しかし、辛いものだ。

 気に食わないと、背中で語りながらムシュフシュはその場を離れていく。

 既にこれは決まっている。おそらくアリスにも神々から干渉があっただろう。

 世界一周の内容を語らず、食い道中とでも言われればあの少女は二つ返事で了承しかねない。

 その場合、守れるのは自分だけで、そして、守るべきが自分の使命だろう。

 


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