第31話 共闘
自分の手の甲に風穴を開けてのカウンター。全くの予想外だった。
「アイラ……っ!」
紫冥将の斬撃によって起こった粉塵に向かって叫ぶ。
答えは返ってこない。
「嘘だ……っ」
その場に膝をつきそうになる。
しかし、その前に紫冥将の様子がおかしいことに気づく。
紫冥将は俺の方ではなく、アイラが元居た方角に向けて殺気を放っている。
同じ方向へ視線を向け、粉塵が消えて視界が開ける。
「あれは、まさか……っ!?」
開けた視界の先に、アイラをお姫様だっこした上さんが立っていた。
アイラに主だった外傷はない、あの攻撃から上さんが守ってくれたのだ。
俺は地面を蹴って瞬時に上さんの隣に並ぶ。
「上さん。来てくれてありがとうございます!」
「当然のことをしたまでだ。特に怪我はなさそうですが、大丈夫ですか?」
「は、はい。ありがとうございます!」
アイラの無事を確認すると、上さんがそっとアイラを下ろす。
助けてもらって何だが、お姫様だっことは……
「野田くん。どうかしたか?」
「い、いえ何でも」
「そうか。それで、これからどうする?」
この状況で考えられる選択肢は二つ。
一つは、このまま二人で戦うこと。
もう一つは、一人が紫冥将と戦い残った一人がアイラを逃がすというもの。
「ちなみに君の仲間たちもここに向かっている」
「なるほど。なら共闘の一択ですね」
仮に一人がアイラを逃がすために動いたとして、もう一人だけで紫冥将を抑えられるとは限らない。仮に抑えられなければ、状況は逆戻りだ。
ALL元幹部の皆が来てくれるまで二人で粘ることができれば、抑える側に十分な人員を与えることができる。
問題はどう粘るかだ。
「野田くん。何か作戦はあるかい?」
「いえ、特にはまだ」
「なら、一つ試したいことがある」
「試したいこと?」
「俺が紫冥将と打ち合っている隙に、関節部のうちどれか一つを切断して欲しい」
上さんの言葉に、紫冥将の関節部を見る。
関節部からは青白い微炎が噴き出ていて、実際にどうなっているか分からない。
「溶けたりしませんかね?」
「不安なら鎧の上から切断してもらって構わない。その剣ならできるだろ?」
紫冥将の手の甲にできた風穴は聖剣(仮)の一撃によるものだ。
やろうと思えばできるかもしれない。
「分かりました。ただ、やる以上は責任を持って抑えてくださいね?」
「善処するよ」
はっきりいって、作戦の理由は分からない。
ただ、上さんが言う以上は何かあるのだろう。
「それじゃ、行きましょうか」
「ああ」
先陣を切る形で、俺は紫冥将に距離を詰めて攻撃を仕掛ける。
まずは様子見。二対一の状況で、紫冥将がどのように立ち振る舞うのか確かめる。
俺の攻撃を紫冥将が剣で受け止めると同時に、上さんが攻撃を仕掛ける。しかし――
「くそ……っ」
「そう簡単に行かせてくれないか……っ」
俺の剣を無理やり紫冥将は押し返し、あっさりと上さんの一撃を受け止めてしまう。
「今のを普通にさばかれるなんて」
「全く困ったものだ」
俺と同じように押し返された上さんと一緒に嘆息する。
今のでダメなら、二人の攻撃間隔を短くするしかない。
互いに一度頷き合ってから、すぐに攻撃を再開する。
そして、攻撃を繰り出し防がれるという形を何度も繰り返す。
「野田くん。分かるかい?」
「はい。はっきりと」
二人の連携の練度が上がるにつれて、紫冥将の防御に余裕がなくなってきている。
その証拠に、紫冥将の鎧にいくつかのかすり傷ができていた。
「このままなら」
「行ける……っ!」
勢いづいた俺たちはさらに攻撃を加速させていき、ついに剣が紫冥将の鎧をはっきりと捉えた。
紫冥将の左の二の腕あたりに刃が食い込み、そのまま凄まじい切れ味で切断した。
切断された腕が宙を舞い、同時に紫冥将が大きく俺たちから距離を取る。
「上さん」
「切断した腕をよく見るんだ」
「腕を……っ!?」
言われるがまま切り落とした腕を見ると、断面から青白い炎が噴き出し、その炎が本体の切断面へと延びていく。そして――
「嘘、だろ……っ」
何事もなかったかのように、切断した腕がくっついた。
鎧の傷はそのままだが、動き自体に問題はなさそうだ。
この状況、どう考えても絶望でしかない。
「上さん。どうすれば……って、上さん?」
絶望的な状況なのに、上さんは悲観的な顔をするどころか、小さく笑みを浮かべていた。
「野田くん。紫冥将の倒し方が分かったぞ」
「えっ……?」
「今の再生で確信した。紫冥将はゴーストだ」
「ゴースト……?」
「ゴーストは小規模ダンジョンで稀に出る魔物だ。野田くんが知らないのも無理はない。普通は人魂みたいな感じだがな」
初めて聞く言葉に対して疑問符を浮かべる俺に、上さんは続ける。
「ゴーストだが、紫冥将と同じように攻撃しても傷が再生する」
「なら、どうやって」
「ゴーストは魔核と呼ばれる鉱石を持っている。それを破壊すれば倒せる」
「なるほど、なら紫冥将も同じように」
「そのはずだ。問題はその核がある場所だが」
上さんの話が本当なら、魔核は恐らく鎧で隠されている部分にあると見て間違いない。
「中々、これは骨が折れそうですね」
「ああ。二人なら、だがな」
そう言って上さんが後ろを振り向くと、そこには――
「よお、待たせたな雅人」
「無事で何よりね」
「雅人くん、ナイスファイト!」
待ちわびた仲間たちがいた。




