第30話 今できることを
間一髪で、アイラを守ることはできた。
だが、問題はここからだ。
アイラが150階層から出るには、この階層を踏破しゲートを使用しなければならない。
だが、アイラ一人で踏破することは不可能だ。
つまり、前回のように先に一人を逃がすといった戦略は取れない。
そしてそれは、紫冥将を討伐もしくは撃退しなければならないことを意味する。
果たして、俺一人でそれができるのか?
こればかりは、戦いながらでしか分からない。
現状まず意識しておくのは、紫冥将に遠距離攻撃を打たせないことだろう。
アイラを後ろで庇いながらの戦いになる以上、あの攻撃を打たれれば守るすべがない。
そうなると、取れる行動は一つに絞られる。
里香を逃がそうとした前回と同様、紫冥将と距離を詰めて攻撃を畳みかける。
「少しは効いてるみたいだな」
「……」
前回は軽く受け流され続けるだけだったが、今回は違った。
聖剣(仮)の力は想像以上に偉大らしい。
一度攻撃を受けると、その衝撃で僅かに紫冥将の位置が後退する。
加えて、連撃を繰り出すと、それに対する防御に余裕がない。
とりあえず、考える時間は稼げそうだな。
体力の限界が来るのは俺が先だ。
となると、状況が拮抗している間に、打開策を見つけなければ――
※※※
トップクラスの探索者の戦いを前に、アイラは圧倒されていた。
そして、里香はそんな雅人の隣に並ぼうと必死になっている。
(そっか、里香も私と同じだったんだ)
ダンジョン攻略の自粛をすれば、雅人に置いて行かれてしまう。
だから、里香は実力を伸ばし続けるためにダンジョン攻略を続けた。
これ以上、遠くに行ってほしくない。
アイラが里香に対してそう思っているように、里香も雅人に対して同じように思っていた。それもアイラの思いとは比べ物にならない程、強く。
(私、何てことを……)
自分の浅はかさに、涙が出そうになる。
だが、目の前で自分のために頑張っている人がいるのに、そんな真似はできない。
「私に、何かできることは」
元ファン:ある訳ないだろ!
瀬ノ内ファン:潔く消えたら?
一般人:↑補足:足手まといだからw
「……っ」
コメントの通り今のアイラは足手まとい。雅人が全力で戦えないのも、アイラを庇ってのこと。
その現実を前に、声にならない嗚咽を漏らす。
元メンバー:できることならある
「えっ……?」
元ファン:何言ってんの?
瀬ノ内ファン:出た元ALLメンバーw
一般人:廃人は引っ込んでろ!
雅人のことを聞きつけやって来た元メンバーの言葉に、ヤジが飛ぶ。
しかし、元メンバーのコメントは更に増える。
元メンバー:頑張れって言ってやって欲しい
元メンバー:↑学生リーダーにはそれで十分
元メンバー:↑無敵状態確定
元メンバー:↑これALLメンバー共通なw
「応援……そっか」
応援の力が、どれほど心の支えになるのか。
それは、トップアイドルとしてやって来たアイラ自身が一番分かっていることだった。
アイラはそっとカメラを地面に置き、口元に両手を当てて叫ぶ。
「野田さん。頑張って……っ!」
元メンバー:雅人と呼んでやってくれ
元メンバー:↑それヤバいなw
「頑張って、雅人くん……っ!」
声援を送った瞬間、雅人の動きが変わった。
※※※
おかしいな。俺はもう、アイラの元ファンなはずなのに。
名前を呼ばれた途端、滅茶苦茶テンションが上がった。
身体に力が漲り、自然と攻撃の速度が上がる。
これヤバい……っ。
アイラのライブの時、熱狂のあまり時間を忘れる瞬間がある。
スポーツでいうところの、ゾーン的な感覚だ。
それと同じことが今、俺の中で起きている。
探索者活動の中で、こんなことは初めてだ。
これなら行ける……っ!
畳みかけるように紫冥将に攻撃を繰りかえす。
そしてついに紫冥将が体制を極僅かに崩した。
次、いつ訪れるかも分からない小さな隙。
今の状態の俺だからこそ、見つけられた隙。
俺は迷わず剣の切っ先を紫冥将の喉元に向けて突き刺そうとする。
今までのように剣での防御は絶対にできない一撃。しかし――
「……っ!」
紫冥将は咄嗟に空いていた方の手で俺の一撃を受け、そのまま剣を掴み俺事遠くへ放り投げた。
攻撃を意図したものではないため、俺にダメージはない。
だが、これでは――
「アイラ……っ!」
紫冥将がアイラに向けて遠距離攻撃を放った。
※※※
雅人が勢いを増す中で、アイラは必死に声を張り続けた。
集中状態に入り、雅人に声が届いていなくても関係ない。
今自分にできることを精一杯続けた。だが――
「雅人くん……っ!」
手の甲に風穴を開けてまで攻撃を受け切った紫冥将が、そのまま雅人を遠くまで放り投げた。
そして、次の瞬間には自分に向かって抜刀の姿勢を見せ、そのまま一撃を放った。
「アイラ……っ!」
遠くから雅人が自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
それがこの状況に対する答えだった。
(ああ、これで私――)
瞳を閉じ、その時を待った瞬間。
「えっ……っ」
誰かに抱きかかえられるような感覚と共に、斬撃による衝撃音が辺り一帯に響き渡る。
元ファン:これ来たか……っ!
瀬ノ内ファン:ほ、本当に……っ
一般人:マジかw
衝撃音を受けて、視聴者の間に期待の渦が巻き起った。だが――
「どうやら、加勢一番乗りは俺みたいだな」
アイラを抱きかかえながら、斬撃を受けて粉々になった地面を見て、日本最強の男は小さく笑みを零すのだった。




