地球転生編 2-80 タチアナの帰還(その後2)
タチアナの帰還(その後2)
セラスティナはエンペラールとの再会の余韻が残る中、少し落ち着いたところで、先ずは地球からの帰還組の処遇についてエンペラールにお願いした。すると早速手配するとして、セラスティナの先導の元、救援隊を現地に向かわせた。
マーベラの町でセラスティナの帰りを今か今かと待つ帰還組は、待つ間に何人かずつ分かれて食料の確保などを行わせていた。そのとき、あるグループから何やら物々しい雰囲気の一団がこちらに向かってくるという情報が齎された。そこで一同は警戒をしつつ、家の窓からじっとその様子を見守ることにしたが、その一団の先頭にセラスティナの姿を確認したとき、これでロムリアに戻れると皆一様に安堵した。そしてこれまでの緊張状態から一気に解放された途端に、何人かはその場で泣き崩れた。勿論それは悲しみからではなく、嬉しさからくるものだった。
その後、救援隊から食料の配給を受け、彼らに連れられてロムリアの医療センターにて暫し検査入院することになった。そしてセラスティナはと言うと、やはり検査入院するのだが、エンペラールが居ても立ってもいられず、ほぼエンペラールがつきっきりで対応することになってしまった。これにはセラスティナは恐縮してしまい、「先生、仕事の方を優先してください」と懇願するも、「そっちは、いいの。こちらが優先よ」と言ってこちらの言うことを聞かない有様。とは言え、この性格は昔からであり、その懐かしい振る舞いを見るだけで、セラスティナは胸が熱くなるのだった。そこで折角なので、これまでの経緯をエンペラールに語った。まず自分がどこに転移したのか、そこはどういう惑星なのかから始まり、その星の文明や文化、そして科学に至る話をエンペラールに語り続けた。特にエンペラールは地球の科学に興味が沸いたようで、セラスティナの説明から、今まで謎だった宇宙のことを漸く理解した。ちなみに、エンペラールを始めロムリアの科学者は、宇宙はネオエベレスト以上に空気が薄い場所と言う認識だった。ところがそうではなく、何もない、真空であり、しかも重力がないという。そんな所へ不用意に転移しようものなら即死は免れなかったと思うと、背筋が凍る思いをした。そして地球では、宇宙空間に人が住むようになりつつあるという、驚愕の事実が伝えられた。しかも彼らは転移ではなく、ロケットと言う乗り物で宇宙に向かうということも知った。
ロムリアは、全体的な文明の程度は恐らく地球の文明をはるかに越えていてるだろう。例えばロムリアでも電気を使う。ただし、その電力は火力でもなく原子力でもなく、ロムリアの地下に設置されている熱核融合炉による発電で得られる。ところが、こと移動手段に関しては、ロムリアは地球の足元にも及ばない。なぜか?その必要が無いからである。ロムリアの人々がどこかに移動する場合は、転移すれば済むからである。そして、その延長上に、宇宙も転移すれば済むだろうという楽観的な見方があったのは事実であろう。勿論、ロムリアにも運搬手段としての乗り物は存在する。それがないと、転移門から自分の店に商品を運ぶことも、あるいは客が買った商品を届けるにも不便極まりないからである。ちなみに、街中の移動については、無人タクシーのようなものは存在する。これは転移門から自宅への移動が主であるが、転移を自由にできるアーティファクトを持っていたり、召喚術師であれば転移門から自宅へも転移出来るので、どちらかと言うとこの無人タクシーは社会的弱者のための福祉目的に存在するとみて良いだろう。それと、空に関しては一応熱気球はロムリアにも存在する。これは主に遊覧目的と観測用と大きく用途が分かれるが、何れにしても空を飛んでどこかに移動する概念が全くないことだけは確かだ。従って、ロムリア人が宇宙に乗り物で移動するという発想は、端から存在しないのであった。
さて、セラスティナはエンペラールとこのような話を一日中していたが、なぜか疲れることはなかった。それよりも、エンペラールと再び語り合えることの喜びを味わえることの方が遥かに勝っていた。そして、検査の結果、体調は問題ないことが確認できたため、翌日にはセラスティナは退院した。ただ、退院してもどこに住むかが決まってないため、暫くはホテル暮らしかと考えたりした。そう言えば地球に転移したときも、住むところがないため、空き家を見つけてそこで暫く住んでいたな、と昔を思い出したりしたが、そこには既に辛い過去が蘇ることはなく、ちょっとした話のネタ位に今は感じている。それ位、故郷に帰って来たことが如何に自分にとって有難いことかということだ。
退院の準備をしていた時に、再びエンペラールがやって来た。そして、
「セラちゃん、住むところ無いでしょうから、
暫く私の所に居て頂戴ね」
とセラスティナに伝えた。流石に先生のご自宅にはちょっと、と遠慮がちに断りを入れたが、既にエンペラールはセラスティナのために部屋を用意したという。ところで、エンペラールの家と言うか屋敷は、ロムリアの中心部に近い一角にある広大な敷地を有する。ちなみに、この屋敷から召喚術師管理センターまでは数十キロの距離があるが、転移するので全く問題はないことを付け加えておこう。そしてエンペラールの屋敷であるが、地球でいえば、セラスティナが馴染みのあるリュクサンブール宮殿とその周囲にある公園のような感じに似ている。ただし、建物はリュクサンブール宮殿のような歴史的な趣はないのだが。そんな宮殿に似た屋敷に、今はエンペラールと使用人が10人程住んでいるだけである。そのため、未使用の部屋は数多くあり、セラスティナがそこで生活しても、エンペラールが全く困ることはなかった。だが、流石に上司の家で寝泊まりするのはどうしても気が引けるのだが、そんなセラスティナの心情を顧みることなく、エンペラールは勝手に決めてしまった。セラスティナは、結局エンペラールの屋敷に暫く滞在することになった。そして、エンペラールの屋敷内にあるエンペラールの仕事部屋で、最も重要な今回の帰還に関する説明を行った。この部屋であれば、転移対策も施されており、しかも外部からの監視を受けない仕組みが整えられている。そこでセラスティナは、事の詳細を語ったのだ。
エンペラールは、セラスティナがどうやってロムリアに戻って来れたのかという、実はその詳細を直ぐにでも知りたいと思い、セラスティナを自宅に住まわせることにしたのだが、その話を彼女から聞いたとき、エンペラール程の知識が豊富で古今東西の召喚術に精通する人物でも全く理解が及ばなかった。それは、余りにも自分たちの常識からかけ離れたことであり、突拍子もない考えだからである。そしてセラスティナが言うには、この考えを思いついたのは地球に住む一人の青年であるという。名前はレイ・モカミと言うが、実は彼はサモナルドからの転生者であり、しかも今のロムリアの時代よりも千年以上後のサモナルドから転生してきたと聞かされた時には、エンペラールの思考は停止しかけていた。自分たちからすると遥か彼方の未来人がどうしてそのような事を思いつくのか、一層のこと降霊術で過去の偉人から聞きましたの方がまだ分かり易い、セラスティナが語ったことはそれ位に奇妙な話だった。更に、セラスティナは、そのレイ・モカミなる青年も召喚術師であること、しかも彼の召喚エネルギーは、先生をはるかに超えます、と断言した。そして、もし叶うことなら自分は彼に師事していただろうと、衝撃的な告白をするのであった。この言葉にはかなりの疑念と少なくない嫉妬を持ったエンペラールはセラスティナの目をじっと見つめたが、彼女の目から訴える言葉に嘘偽りはなく、しっかりとエンペラールの目を見つめ返していた。そして、エンペラールは伏し目がちに一言「そう、そんな凄い召喚術師なら会ってみたかったな」と呟いた。この呟きを聞き逃さなかったセラスティナは、更にエンペラールが驚くことを口にした。
「先生、近いうちに彼に会えますよ」
全くセラちゃんは地球に行って冗談を覚えてきたの、と笑いながら答えたが、セラスティナの真剣な眼差しを見て、え、冗談でしょ、と驚きながら言葉を返した。しかし、
「いいえ、先生、彼と契約召喚を結んだんです」
と言って、その方法をエンペラールに伝えた。実はこの時にエンペラールは、セラスティナを呼び戻すために通常の契約召喚を行ったが、何も反応はなかったことを教えた。それに対してセラスティナは、その方法がそもそも召喚術師には使えなかったんです、と言うことを説明し、セラスティナが最神玲と行った実験の様子をエンペラールに説明した。そして、
「召喚術師を召喚する唯一の方法は、
この降霊転移門を使うことだったんです。
しかも契約媒体は本人の血液だけです。
これ以外は一切受け付けませんでした」
と言って、セラスティナは、エンペラールの仕事部屋の中にバレル型の降霊転移門を設置した。これには、エンペラールも今日何度目かの思考停止状態に陥ってしまった。なお余談だが、後日エンペラールの屋敷内で、実際にセラスティナを呼び出す召喚術を降霊転移門を使ってエンペラールが体験すると、確かにセラスティナが契約召喚されてきたことを確認した。流石のエンペラールもこの降霊転移門を使った契約召喚術をそのまま公表することには躊躇し、結局この術式はエンペラールとセラスティナのみが知る召喚術として封印されるのだった。
さて、漸く気を取り直して、セラスティナが設置した召喚門を具に観察し出したエンペラールだが、早速
「セラちゃん、これって本当に召喚門なの?」
多分そこからの説明になるだろうと予想していた通りの展開で、セラスティナは降霊転移門は恐らくロムリアよりもかなり古い召喚門ではないかと言う推測と共に、その発見からそれを使った応用までをエンペラールに語った。そして、
「ちなみに、先生。
そこから中を覗くと霊界が見えます。
なんでしたら、これから一緒に
行きませんか?」
と言って、セラスティナは一瞬不安と躊躇いの表情を見せたエンペラールを連れて霊界に入って行った。セラスティナはもう何度も霊界に足を踏み入れており、またロムリアから入る霊界も地球の時と感じ方が同じであることに気づいたりと、何時も通り冷静に対応していた。一方エンペラールはと言うと、初めての体験であるだけでなく、霧がかかって遠くは見えないし、加えて何も聞こえないという不思議な体験に驚きを隠せなかった。それから、セラスティナは最神玲がよく召喚していたホワイトボードとマーカーを召喚し、セラスティナに[先生、ここで降霊転移門を作ってみてください]とお願いした。エンペラールは何が何だか分からないまま、先程セラスティナが作った降霊転移門をセラスティナが指定した場所に作った。そして[じゃあ、そこから外を覗いてみてください]と言われたので外を覗くと、そこは先程の自分の仕事部屋であることを確認した。セラスティナもそこから外を確認したところでニコニコしながら頷き、[じゃあ、先生、戻りましょう]と言って、エンペラールの手を掴んで一緒に元の世界に戻って来た。
「すいません、先生、突然驚かせてしまいまして。
でもこの体験は重要でして...」
一度霊界に足を踏み入れないと、降霊転移門による召喚は全く出来ないことをセラスティナはエンペラールに語った。そして注意事項として、もし迂闊に霊界に入ってしまっても、その場を動かずにその場で降霊転移門を設置してください、そうすると元の場所に戻れますよ、と言うことを伝えた。元の場所に戻るためにはなぜそうしないといけないかと言うと、霊界の中で降霊転移門をどこにでも設置できるが、その場合どこに繋がっているかは分からないこと、言い換えるとこの宇宙のどこにでも行けてしまうことをまず教えた。更に、魂であればどの時代にも転生できるが、生体のままだと残念ながら時代は限定されて今自分が生活している時間の制約を受けるという、過去や未来への転移も条件付きで可能であるというエンペラールが驚愕する事実も教えた。そして
「この降霊転移門を応用すると、
我々が長年追い求めてきた
召喚エネルギーの消費問題が解決するんです。
ちなみに、この問題解決は、
レイ君の彼女である地球人の
カスミ・モノベさんがもたらしたんですよ」
と言って、最神玲に教えてもらった自律型の創成召喚物をエンペラールに披露した。まずは通常の創成召喚で召喚してもらったところ、
「これって、召喚エネルギーを
かなり消費するようね。
動かすたびに少しずつ召喚エネルギーが
吸い取られる気がするわ」
そう、玲が作り出した自律型の召喚物は、普通の召喚術師が通常の創成召喚で召喚すると、恐らく数分位しかもたない。それ位に複雑かつ大量の召喚エネルギーを消費するのだ。次に、エンペラールにバレル型の降霊転移門による術式の詳細を伝えて実際にやってもらったところ、
「これって・・・
本当に創成召喚でも召喚門の設置で
召喚エネルギーが使われるようね。
しかも設置自体は全然楽。
そして召喚後は通常の創成召喚と比べても、
確かに何も消費されないわ。
セラちゃん、何で?」
「すいません、先生、
それは私にも分かりません。
もしかしたら、レイ君に聞いてください」
と答えるのが精一杯のセラスティナであった。
「セラちゃん、お願いだから、
早く彼に会わせて!」
とセラスティナに最神玲との早期の対面を懇願した。だがこれは無理な話で、彼とは地球の時間で1年後、サモナルドだと半年後になります、と丁寧に説明した。こうして最神玲との対面を首を長くして待つことになるエンペラールとセラスティナであった。
そして、恐らく降霊転移門の話以上に衝撃的な事実、最神玲から聞いたクレーターの話をエンペラールに伝えなければならならい。千年後にはロムリアは存在しない、しかもロムリアと言う都市国家があったという事実すら伝わっておらず、更にロムリアがあった場所には巨大なクレーターが存在するという。これをどう解釈すべきかエンペラールだけでは判断できないため、さらに上の判断を仰ぐ必要を感じた。ただし、セラスティナの言葉だけでは信憑性が乏しいため、何かしら客観的な事実が欲しい所であるのだが。もしこれが自分たちの世代で起きるのであれば何かしら対策を講じる必要はあるが、何世代も後の話となると、そこまで責任持てるかと言われると耳を塞ぐであろう。とりあえず、この話は、エンペラールとセラスティナの胸の内にしまわれることになった。
さて、10年近くの間行方不明となっていたセラスティナとその仲間達がロムリアに突然現れたというニュースは、瞬く間にロムリア全域に報道されて大きな反響を齎した。だが、今までどこに居てどうやって戻ってこれたのかという詳細について語られることはなかった。なぜなら、彼らの知る知識は、この世界に大きな変革をもたらす危険があると判断され、中央政府の意向で箝口令が敷かれたためである。だからと言って、帰還組の自由が束縛されることはなく、召喚術師以外の者については、発言はほぼ自由に使われたりした。




