地球転生編 2-74 M&M心霊ファイル6: レオナルドのケース
M&M心霊ファイル6: レオナルドのケース
「これだよね?」
「うん、まさか、こんな所にあるとは」
物部かすみと最神玲が目の前で見ているもの、それは降霊転移門。そう、また見つかったのだった。ただし彼らが今居るところは日本ではなく、ドイツとポーランドの国境に近いドイツの町リンデンハインから延びる遊歩道の途中にある森林地帯のある場所。なぜ彼らが遠いドイツの田舎町にいるのか?それは
「まさか、本当にこんな所で見つかるとはね」
とはタチアナの呟き。そう、玲とかすみは、タチアナに連れられてここにやって来たのだった。
時は少し遡り、今から数時間前の午後2時のパリ、タチアナがロムリアのオフィスにて副社長のエレナ・ニールバウムと秘書のゲラルド・エクセルガーの3人で打ち合わせをしているとき、タチアナのスマホからある音楽が流れた。その音楽はロムアリの誰もが知る童謡であり、あるロムリアからの転移者が電子ピアノで演奏したものを自身のパソコンに取り込んでロムリアからの転移者に配布した物だった。そして、タチアナはその童謡を同胞からの電話連絡用に登録していたのだが、同胞のうちの誰かが連絡をしてきたようである。そこで、一時打ち合わせを中断してそのまま電話に出ることにした。ちなみに、エレナもゲラルドもタチアナと同じロムリアからの転移者なので、電話の内容を聞かれても問題はない人物たちである。
「もしもし、タチアナです。
レオン、どうしたの?」
「タチアナさん、実はあなたから以前送られて来た
通知の件なんですが...」
とレオンと言う名の男が口にした「通知の件」、その言葉を聞いた途端、タチアナはその場にいる誰もが分かるくらいに緊張した。そして思わず「え、まさか、本当にヨーロッパにも現れたの、あれが?」と呟いた。レオンことレオナルドが語ったのは、バレル型の降霊転移門、まさにそれを自分の住んでいるドイツの田舎町で目撃したという。ちなみに、レオンはロムリアの召喚術師の一人であり、タチアナことセラスティナの弟子の一人でもある。そのため、肉眼でも召喚門を見分けることは問題なく、況してタチアナの弟子である以上、召喚術に関して高い技能と知識を有する。そんな彼が見間違いとかをすることは考えられないため、タチアナはレオンからその場所の詳細を教えてもらった。そしてレオンとの通話後、直ちに最神玲にメールを送った。
「タチアナさん、もしかしてあの門が
ヨーロッパでも見つかったのですか?」
とゲラルドは恐る恐るタチアナに尋ねた。そしてタチアナは、
「ええ、ゲラルド、エレナ。そのまさかよ。
あれがヨーロッパで見つかるとは
思っても見なかったわね。
てっきり、日本での話に限られていると思ってたけど、
そもそも転移門を組み込む召喚術師であれば、
どこにでも転移出来て当たり前よね」
と、なぜこんな簡単なことに思い至らなかったのだろうかとその言葉には悔しさが滲み出ており、だが行き場のないこの感情は結局、両手で自分の髪をクシャクシャにかき回すことしかできなかった。やがて頭を抱えた状態のまま両肘をテーブルに置いてそのまま考え込んでしまった。それから数分後に玲からの返信が送られてきた。そこでタチアナは居ても立ってもいられず、直接玲とかすみに状況を伝えるために、彼らの住む日本に転移していった。
丁度その頃、玲とかすみは夕食後の一時を各々の部屋で過ごしていた。玲は相変わらず召喚術の研究を、かすみはと言うと、こちらも何やら召喚術をやっていた。実はかすみは、タチアナから今年の誕生日に贈られた特殊な素材の衣服に対し、創成召喚術で好きなデザインの衣服を毎日作っていた。最初は自分の手持ちのブラウスとスカートをそのままコピーすることから始めて、それらはかすみの技術でも問題なく出来たのだが、それに飽き足らず遂には自分でデザインを始めた。ただし、デザインした物をそのまま創成できるまでの技量がないため(只今絶賛召喚言語の習得中)、最後は玲にお願いして召喚術式を作成してもらっていた。そんなかすみの部屋に、眉間にしわを寄せ口元が硬く結ばれた表情の玲がタチアナを伴って現れた。そのタチアナは、何時もの明るさは一欠けらもなく、ぼさぼさの髪のままただ無表情に佇んでいた。そんな何時もとは雰囲気が全く異なる玲とタチアナをみたかすみは、思わず唾をごくりと飲み込んで、
「え、タチアナさん、
急にやって来てどうしたんですか?」
とタチアナを見つめながら問いかけた。すると
「実はね、緊急事態が発生したので
あなたたちを呼びに来たのよ」
緊急事態と聞いた途端、かすみの心中では最大級の警報が鳴り響いた。一体何が起きたのか、あるいは起きようとしているのか。それを今からタチアナはかすみに告げるのだが、まだ心の準備が整っていない中でタチアナは、降霊転移門がヨーロッパに出現したことをかすみに話した。するとかすみは、驚きで口をパクパクしながら、
「れ、玲、あ、あれって、
に、日本だけじゃなかったの?」
「うん、僕も日本だけだと思ってたけどね。
何分日本で既に4カ所見つけたしね」
そう、実は昨年の東洛総合大学心霊サークルの夏合宿で降霊転移門をかすみが発見して以降、玲とかすみは国内で更に2カ所の降霊転移門を発見していた。彼らは過去に遡って神隠しや行方不明の多い地域をリストアップし、更に過去2回の遭遇状況、つまりかすみと近衛亜寿沙の彼氏、三上裕樹の霊界への失踪状況を考えた結果、どうも心霊スポットと関係しているのでは、と当りをつけて探した。その結果、実際に2カ所の心霊スポットで降霊転移門を発見した。ところで、玲とかすみは、どうも降霊転移門は人が多いところには設置されないのではないか、との結論にも至っていた。理由はまだはっきりとは分からないが、もし多人数を霊界に送る目的があれば、むしろ都会に設置した方が効率が良いように思われた。ところがこれを設置している者(達)は、心霊スポットの近くに設置していたのだ。この理由として考えられるのは、心霊スポットで行方不明になっても、「あー、あそこは出るからね。それで道連れになったのでは?」とか「あそこは神隠しが起きる所だから」で片づけられるからではないかと思ったのだが。要するに、数人が行方不明になっても全て霊的なあるいは神隠しで片づけられるからではないか、と言うことだ。それはさておき、タチアナの件である。まずは状況を確認するために、玲、かすみ、タチアナの3人はタチアナの転移門を使って問題の場所に転移していった。
そして冒頭にあるように、3人は目の前に現れた降霊転移門を見ていた。早速現場の状況を見て異質さに気づいたのは玲である。その降霊転移門が設置されていたのは、遊歩道の脇から1m程外側に遊歩道と平行する形で設置されていた。しかも、その真後ろには木製の柵があり、更にその後ろには高さ数m程の崖になっていた。そして崖下には川が流れている、そんな状況で設置されていたのだ。ところで、通常、というか玲とかすみが日本で見つけた降霊転移門は、獣道に近いような脇道の真ん中とかに設置されていた。実はかすみが霊界に迷い込んだ時も、廃村内の探索で先行する玲と心霊サークル部員の佐伯えりに追いつこうと先回りするためにわき道にそれてしまい、その結果運悪く引っかかったのだった。そして近衛亜寿沙の彼氏である三上裕樹についても、後日近衛亜寿沙に確認してもらったところでは、彼は亜寿沙を驚かそうとして先回りする目的でわき道にそれたことが分かった。つまり、何らかの偶然を装って行方不明にさせられていた、と言う認識だったのだ。ところが、目の前の降霊転移門は、脇道の途中どころか、どう見ても降霊転移門に向かって進むことは絶対に有り得ない。まるで道案内板が遊歩道脇に設置されているようにしか見えないのだ。
ところでレオナルドがどうしてこの降霊転移門を見つけるに至ったのかというと、彼は隣町に住む友人の所に向かうのだったが、普段は車で10分程走らせれば到着する。ところが彼の車は今修理中と言うことで使えず、そこで自転車に乗ってこの遊歩道を通ることにした。ちなみに、その隣り町へは、この遊歩道を使うのが一番近道なので、彼としては当然の選択をしただけであった。そして暫く進んだ途中で、これを見つけたということだった。そして玲はレオナルドにサモナルド語で幾つか質問した。
「レオナルドさん、この辺りで行方不明になる事件
とかってありませんでしたか?」
「いいえ、この辺で行方不明事件は
聞いたことないですね。
尤も、町に寄らないハイカーとか
バックパッカーは一定数いるので、
もしかしたら行方不明者はいる可能性はあります」
「そうですか。それともう一つ。
この辺りに心霊スポットとかはありませんか?」
「いいえ、そのような場所もないですね」
となると、ごく普通の場所に、ただしどう見ても絶対にそこに足を踏み入れそうにないようなところに、この降霊転移門は設置されているのだった。
「タチアナさん、僕ちょっと中を見てきますね」
「レイ君、気を付けてね」
と言って玲が降霊転移門に近寄ったとその時、「うわー」と叫んだかと思ったのも束の間、玲は降霊転移門に、文字通り吸い込まれて消えていった。この様子を見ていたかすみとタチアナは、玲の絶叫と共に、彼の姿が降霊転移門に入る前に視界から消えた様子を目の当たりにした。「え…?」と声にもならない声が喉の奥でかすれ、何が起こったのか理解できず、玲が消えていった降霊転移門をただ目を凝らして動けずにいた。
かすみとタチアナが漸く事態を飲み込んだ時、全身から血の気が引いているのがわかった。その時、
「あー、ビックリした」
と空中に頭だけ出す玲がそこに現れた。これには流石のかすみも、「キャー!」と絶叫したが、そのお陰か漸く何時ものかすみに戻ることが出来、と同時に玲の悪ふざけに頭に来て、鬼の形相で彼の両頬を思いっきり抓った。これには流石の玲も溜まらず、
「か、かしゅみ、ぎょ、ぎょめんよ」
とよく分からない言葉で謝罪するしかなかった。
「全く、玲、1度ならず2度もビックリさせて、
こちらは寿命が縮んだわ。私の寿命を返せ!」
と再び玲の両頬を抓りだした。これには流石の玲もたまらず自分の両手を外に出して何とかかすみを引き剥がした。その間タチアナとレオナルドは、ただ唖然としてこの2人のやり取りを見ているだけだった。
その後少し経ってから、赤く腫れあがった両頬を摩りながら玲が霊界から戻って来た。ここで普段なら、かすみが「玲どうだった?」と聞いてくるのだが、今はかすみはおろかタチアナもなぜか黙り込んだまま。余りにも予期せぬ状況を目の当たりにしたためなのか、口を開こうとする行為自体忘れてるかのように、ただ玲を見つめたままなのだ。そんな沈黙に耐え切れなくなったのか、玲から皆にこう切り出した。
「この降霊転移門だけど、
近くの人を強制的に吸い込むようなんだ」
つまり、掃除機のような、あるいはブラックホールみたいな感じというべきか。そんな感想を玲は語ったのだが、すると、
「え、い、今何て言ったの、レイ君。
掃除機ってどういうこと?」
と漸く口から声を出すことが出来たタチアナだった。そこで玲は、降霊転移門の横に立って、右腕をその前に突き出した。すると、玲は
「あ、痛てててて、腕が千切れそうだよ」
と叫びながら慌てて右腕を引っ込めた。もしこの降霊転移門の目の前を通り過ぎようとした人がいたら、たちどころにその人は吸い込まれて確実にあの世に行ってしまう。つまり、この降霊転移門がこんな形で設置されていたのは、吸い込めば問題無いからであった。玲は、かすみ、タチアナ、レオナルドと順番に見ながらそのように説明した。そして、「レオナルドさん、これに近づかなかったのは正解ですね」とレオナルドが不用意に近づかなかったことを称えたのだ。ところがレオナルドとしては、やはりタチアナことセラスティナの弟子である以上、このような未知な召喚門には当然興味が沸いていた。そのため、一度近くでじっくり見てやろうと思って近づこうとした時、前方からサイクリングを楽しむ若者集団がやってきたため、諦めて道端で休んでいるフリをしたのだという。それから、やはりタチアナに連絡しておこうということで、そのままにして今に至ったということなのだ。
「レオン、不用意に近づいちゃダメよ。
それこそ...」
好奇心は猫をも殺すと言うけれど、好奇心はレオンをも殺すになっちゃうわよ、と笑いながらレオナルドを諭すのであった。これにはレオナルドも、「先生の仰る通りです。以後十分に気を付けます」と直立不動の姿勢になって答えた。
さて、玲とタチアナは、吸い込まれないように用心しながら(と言っても、この2人は直ぐに戻ることは出来るのだが)、問題の降霊転移門を調査していた。が、今回は調査らしい調査は、実は不要であった。と言うのは、降霊転移門自体に既にその書き込みが見て取れたからだ。まあ、確かに調査しようとした途端、いきなり玲が吸い込まれるアクシデントに見舞われて、それどころではなかったのは否定できない。何れにしても、リスクを背負わずに原因が分かったのは幸運だったのだろうか。そして、玲とタチアナは、その術式には全く心当たりはなく、
「多分、これが吸引の元だと思うのですが、
タチアナさんこの術式に
心当たりとかありますか?」
「いいえ、全く無いわね、レイ君。
ただ何となくだけど、これって何かを開ける術式
じゃなかったかと思うんだけど。
レオン、あなた見たことない?」
「うーん、私も分かりませんが、言われてみると、
召喚対象を分割するとかで似たような術式が
あったように思うんですが」
「!」
と何やら思い出したタチアナである。すると、
「そう、そうよ、レオン、よく覚えてたわね。
私はすっかり忘れてたわよ。
全く、自分自身に困ったものだわ」
と言って、少し離れたところである物を召喚した。玲は良くわからずに傍に近寄った。すると、
「おー、これって自動ドアですか?
でも、こんな物をどうして召喚したんですか、
タチアナさん」
と当然誰でも思う疑問を呈した玲である。すると、
「うーん、これはね、ロムリアに居た頃に、
何かのイベントだったか、
その時にねこんなのがあったら良いよねと
エンペラール先生に頼まれて作ったものなのよ。
私もすっかり忘れてたわ。
そう、それで、これに使う術式が...」
まさに、降霊転移門で使われている術式と似ているのだという。確かに両者を比較すると細かい点で異なる部分があるものの、発音する分には同じようになるのだった。となると、降霊転移門に設定されているのは、この門を開閉する術式、と言うことなのだろうか?そして、玲が吸引されたのは、霊界の圧力がこちらの世界よりも凄く低いため、と言うことなのだろうか。確か映画で見た、宇宙船が事故か何かを起こして穴が開いたとき、そこから勢いよく船内の物が外に飛び出していったが、まさにあれと同じことが目の前で起きたのだろうか。だが、もしそうであれば、仮に霊界の門が「物理的に」開かれたとしても、そこから霊体がこちらの世界に溢れ出す危険性は、実は物凄く小さい、またはゼロに近いということになるのではないか。尤も、今はそんなことはどうでも良いことなのだが。
「自動ドアのように勝手に開いて、
吸い込まれるのは適わないから」
と言うことで、タチアナの同意の元、玲は自身の降霊転移門を上書きして、消去した。ちなみに、玲ことカーンの頭の中では、既にこの術式の応用が始まっていた。それはさておき、
「とりあえず、タチアナさん、
もし降霊転移門を発見したら、
うかつに近寄らない様に
サモパラを通じてお願いできますか?」
勿論、早速そう伝えておくわね、と言ってタチアナは請け負った。
「ところで、玲、
この中には何人くらいの人が倒れていたの?」
「うん、10人位かな。
ハイカーとかバックパッカーの恰好の人
ばかりだったね」
その人たちは、たまたまこの降霊転移門の前を通過したというだけで、吸い込まれてしまった。しかし、これを設置した人物は、とことん人を霊界に招き入れたいようだが、その目的が未だにはっきりと分からないことに苛立つ玲とかすみであった。
「それじゃあ、タチアナさんと
レオナルドさん、僕らは一旦戻ります」
「えー、私も一旦オフィスに戻るわね。
レオン、色々と有難うね」
と言って、それぞれ自分の元居た場所に戻って行った。
さて、自宅について早々、玲はかすみに不平をぶつけた。
「おい、かすみ、
頬っぺたが痛くてかなわないんだが」
「はあ?そもそもはあんたの
悪ふざけが原因でしょうが。
何をほざいてらっしゃるのかなー、玲さんは」
と再度玲の頬を抓ろうとするパフォーマンスで玲を威嚇し始めるかすみであった。こういう時は、かすみの方が一枚も二枚も上手であることを、そろそろ理解すべきではないかと思うのだが。




