地球転生編 2-73 最神玲、物部かすみの誕生日を祝うPart2 (当日)
最神玲、物部かすみの誕生日を祝うPart2 (当日)
翌朝6時に目を覚ました最神玲が隣を見ると、そこには物部かすみの姿はなかった。「あれ、どこ行ったんだ?」と思い、客間に向かうと、自分の布団の中でスヤスヤ寝息を立てて寝ているかすみがそこに居た。「全く、困ったお嬢様だ」とぼやかずにはいられいなのだが、まあ今回の旅行はかすみの誕生日を兼ねてるから、少しくらいの我儘は我慢しようと決めていたので、玲は離れの庭に設けられている露天風呂へそのまま向かった。天城山の麓にあるからなのか、朝は霧が濃く出ており、離れの庭も何やら幻想的と言うか、玲としたらむしろ、霊界にいる錯覚を覚えそうになったりした。そんな状況だが、庭の露天風呂に浸かると、寝ぼけ眼も覚まされる程に気分をスッキリとさせてくれた。そんな感じで20分程浸かっていると、「玲、どこなん」というかすみの声が聞こえてきた。「ここだよ、露天風呂に入っているところ」と答えると、かすみがやってきて「玲さん、朝湯ですか。いい御身分です事」と何やら嫌味を言いながら、戻って行った。何なんだあいつは、と心中で叫ぶ玲であった。
玲とかすみは、朝食を摂ってからそのままチェックアウトして帰宅することにしていたので、帰り支度を整えてから手荷物を持って昨日の夕食を摂った部屋に向かうことにした。部屋に入ると直ぐに女中さんが、白木の膳に並べられた温かな朝食を運んできた。この時期の朝は気温がまだ低いため朝餉には湯豆腐が供されたが、その湯気の立つ湯豆腐の香りがふわりと漂い、また焼き魚の香ばしい匂いが食欲を誘う。かすみは土鍋の蓋を開け、その艶やかな白米の湯気に顔をほころばせてもいた。昨晩「もう無理」と嘆いていたのが嘘のようにである。そして美味しい朝食を堪能した玲とかすみは、チェックアウトして駐車場に向かい、見送りに来た従業員に手を振りながら幽篁亭を後にした。そして昨日転移して来た所で一旦停車し、周りに人がいないことを確認してから車の召喚を解除し、自宅のある美土路神社に転移していった。
昨晩の夢のような体験からいきなり現実に連れ戻された玲とかすみであるが、やはりと言うべきか、朝から心ここに在らずで、何やらぼんやりしていた。それでも何とか参道の掃除を終えて社務所に戻ってくると、宅配の配達員が厚みの薄い箱を持って社務所にやって来た。かすみが早速応対にでると、
「物部かすみ様宛にお荷物が届いております。
こちらに受け取りのサインをお願いします」
と言うことで手渡された荷物、送り主を見ると見慣れたサインが。そうタチアナからかすみへの誕生日プレゼントであった。昨年は大量にロムリアの商品が届けられ、かすみは大満足し、更にはプチファッションショーを玲に披露するまでに興奮していた。ところが今年は、何やら箱が薄いのが気になるようで。
「ねえ、玲、これタチアナさんからなんだけど、
何かさ去年のプレゼントとは違う雰囲気なんだけど」
と何やら困惑気味な様子。確かに、タチアナさんなら、大量に送ってきそうだもんね、と玲も同意するのだが、考えても仕方ないのでかすみに箱を開けてもらうことにした。すると、
「え、何これ??」
中には1枚のワンピース、1枚のブラウス、1枚のスカートだけが入っていた。しかもどれも同じ柄なのか?いや、柄と言うよりは生地そのもののようだ。見た感じはグレーか淡青色か、そんな感じ。手触りは滑らかだがナイロン生地とは違う。これは一体なんだ?とますます困惑するかすみであった。だが箱の中に封筒が同封されており、玲はかすみに断ってそれを開けて読んでみた。勿論文字はサモナルド語であった。
[カスミさん、お誕生日おめでとう。
今年で何歳になられたのかな?
やはり永遠の18歳のままですか?
それよりも今回のプレゼントだけど
恐らくビックリされているでしょうね。
でも、これがどう言う物か知った途端に、
カスミさん、腰抜かすはよ、きっと。
これはね..]
召喚術でデザインをする衣装なのだという。どういうことか?まず召喚術師は自分の衣服を除いて衣服を創成召喚する行為が禁止されている。正確には衣服を構成する生地であるが。もしこの禁止行為を破れば、そのまま刑務所行きと言うくらいに重い罰を受ける。これは玲ことカーンが居たケンタリアしかり、タチアナの居たロムリアしかり。だが、タチアナがかすみにプレゼントした洋服、これは特殊な生地で作られており、後はデザインを創成召喚すると、その洋服になるのだという。平たく言うと、洋服版のプロジェクションマッピングというところか。ただし、洋服版は洋服の形や生地の肌触りまでも再現するため、ほぼ実際の洋服になるようだ。ちなみに、この特殊な衣装の本来の目的は、洋服のデザインにおいて、自分で実際に縫製する代わりに、召喚術を使うことで具体的なイメージの確認ができるようにするものであった。これを使うと短い時間で確認作業ができるため、忙しい時間を削りながらデザイナーを務めるタチアナとしたら、まさになくてはならない必須アイテムであった。さて、物は試しと言うことで、早速玲はブラウスを取り出して床に置き、そこに創成召喚門を展開してかすみが今着ている作務衣を召喚した。すると、かすみは
「わっ、うそー、まじ。私の作務衣!!」
と驚きの声を上げた。見た目もそうだが、着心地も確認してもらったところ、今着ている作務衣そのものだという。ただし唯一違う点は、作務衣は着物と同じように体に巻いて紐で縛って着るのだが、召喚した作務衣はボタン式になっていた。これは召喚前の衣装がボタンを使うブラウスだったことが影響しているようだ。そのとき、玲は悪戯心が芽生えたのか、突然召喚解除した。すると、
「ちょっと、玲、何すんのよ。もう!!」
とかすみは急に裸にさせらたが如く恥ずかしさを覚えつつ、だがなぜこんな仕打ちをされるのかと思うと急激に腹が立ってきた。だが着ている物は最初にタチアナから送られてきた謎の衣装になるだけであったので、怒るべきかどうか分からず不思議な表情になったりした。一方で玲は、ほー、これは凄い、と何やらタチアナ特性のアーティファクトに興味津々となった。それを見たかすみはと言うと、勝手に召喚しておいて、勝手に召喚解除して、何なんこいつ、と益々腹が立つのだが、それ以上にこの謎の衣装がどうにも気になるようで、自分でも作務衣を使って同じように試したところ、作務衣そのものになった。と言うことは
「私の持っているブラウスはこれ一つで
足りちゃうということなの?
え、それって、何か凄くない、まじで」
と今更ながら驚くかすみであった。そう、かすみが持つ数十着のブラウスを(殆どは実家にあるが) これ1着で済ませられるのだ。なんて経済的なんだろうか。そんなことを考えていた時、パンツとかジャケットはどうするんだろうと、更に欲が出るかすみだが、その時、玲が
「かすみ、何かねこの生地だけど、
タチアナさんの別荘の地下に大量にあるってさ。
だから、作りたいものがあれば作っていいよだって。
ただし、縫製に使う糸やボタンも特殊なので、
そのつもりで作ってね、と書いてあったよ」
ほー、と言うことは、私の衣装はほぼ無限にあるとみて良い訳だ。と思った途端、顔のニヤつきが止まらなくなり、遂には喜びに溢れて雄叫びを上げたのだった。
こうしてかすみの誕生日は、タチアナによる思いもかけないプレゼントで幕を閉じた。ちなみに、かすみの中では、前日までの旅行の余韻よりも、このプレゼントの方に完全に心が占められていたのは言うまでもない。




