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召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?  作者: 島ノ松月
地球転生編第二部

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地球転生編 2-23 最神玲と物部かすみの卒業旅行inパリ(中編)

最神玲と物部かすみの卒業旅行inパリ(中編)


最神玲と物部かすみが搭乗する飛行機は、予定通り現地時間の午前9時前に無事パリのシャルル・ド・ゴール空港に着陸し、そのままターミナル2に直行した。結構な長旅であったが、玲とかすみはファーストクラスで過ごしたためか、何時も通りの調子で絶好調である。入国審査を無事通過し、かすみのスーツケースを荷物受取場で無事確保して、いざパリの地へ向かうのである。その間、玲は少し緊張気味であるが、過去に海外旅行を経験しているかすみは、物知り顔で色々と玲に教えたりしていた。しかし、税関を抜けて到着ロビーに着いた時には、「あぁ、ここがフランス、パリか」と感慨深くなったものであった。確かに、そこら中にフランス語の案内とか広告とかがあると、そう感じるものであるのだが。そして、到着ロビーでの出迎えの人達の中に、こちらに手を振る見知った人が。そう、タチアナ本人が彼らを迎えに来ていたのであった。これには、玲もかすみも感激して、手を振りながらタチアナの所に向かった。


  「タチアナさん、お久しぶりです。

   それと、今回僕らを招待して頂いて

   有難うございます」


  「あら、いいのよ、レイ君。

   それよりも、また会えて嬉しいわ。

   そして、カスミさんも、ようこそパリへ」


  「あ、有難うございます、タチアナさん。

   また会えて嬉しいです」


お互いに久し振りの再開で興奮を抑えられないところであるが、そんな彼らに一人の男性が近づいて来るのが目に入った玲は、タチアナに


  「あの、タチアナさん、こちらの方は、

   飛行機の中で知り合った若林さんと言う方ですが、

   何やらタチアナさんのブランドの

   ロムリアと商談がしたいんだとか。

   まあ、そんなお願いされたんで、

   紹介させてもらっていますが、

   もしお気に障るようでしたら、申し訳ありません」


と玲はサモナルド語でタチアナに話すのであった。


  「あら、レイ君にそんな気を使わせちゃったのね。

   いいのよ、気にしないで。

   ただ、今日はビジネスの話は

   無しにしているので、

   そこにいる私のスタッフと

   話をしてもらうけどどうかな?」


と言うことで、玲はそのことを若林に伝えた。勿論、彼としてはロムリアと商談できることだけでも幸運だと思っているので、二つ返事でOKとなった。



 さて、玲、かすみ、タチアナの三人は、空港の外で待たせているタチアナの専用車というか、リムジンに同乗してパリ市内にある宿泊ホテルに向かった。ただし、タチアナは途中でロムリアの本社に立ち寄るためにホテルには同行せず、代わりに彼女の秘書をしているゲラルド・エクセルガーという男性が滞在中の玲とかすみをサポートするために同行することになった。実はゲラルドは、タチアナと同じロムリアからの転移者であり、しかも転移前はタチアナことセラスティナの助手を務めていたとのこと。つまり、ゲラルド自身は召喚術師なのである。これを聞いた玲ことカーンは、彼に興味津々になるのであった。しかもゲラルドは、日本語を話せるので、玲だけでなくかすみも興味津々になったのは言うまでもない。何せ、ゲラルドはモデル体型で人目を惹くようなハンサムな青年(ただし、年齢は30歳とのこと)であり、流石のかすみもイケメンにエスコートされて悪い気はしなかった。ただ残念ながら、ゲラルドは既婚者であり、子供も二人いるとのことで、かすみの淡い期待は露と消えてしまったのだが(何の期待なのか)。とろこで、ゲラルドがなぜ日本語を話せるのかと言うと、彼の地球への転移先がカーンと同じ日本であったこと、そして暫く日本で生活するうちに日本のアニメやゲームに興味を持ち、そこから日本文化を知るようになったのだとか。ところが、タチアナが自身のブランドを立ち上げてメディアに露出する機会が多くなるに従い、ゲラルドの目にも留まるようになり、自分の尊敬して止まないセラスティナに仕えたいとの一心で、フランスに来たのだとか。そう言う経緯があったため、今回タチアナは彼を玲とかすみのエスコート役に抜擢したのであった。そしてゲラルドに案内されてやって来たのが、パリ市内で最高級と謳われ、皇族や政治家、世界的な文豪や芸術家などが宿泊した歴史を持つホテル・リッツ・パリ。そのリッツ・パリのスイート・アンペリアルという最上級スイートに案内されたのである。部屋に案内された玲とかすみは、「ここって、美術館?」とか「タチアナさんの転移でベルサイユ宮殿の中に連れてこられたの?」などと意味不明な呟きを連発するのであるが、それもその筈、スイート・アンペリアルは、フランス政府の歴史的建造物の指定を受ける程の由緒ある歴史遺産であり、壁に掲げられている絵画やバスレリーフは全て一級品揃いなのである。そして、部屋の中で彼らの目を釘付けにしたのが、映画でしか見たことない天蓋付のキングサイズベッドであった。


  「私はこっちで寝るから、

   玲は向こうのベッドね」


と勝手にかすみはベッドを割り振るのであるが、かすみの選んだベッドのある部屋は、天井から吊るされた豪華なシャンデリアと天蓋付ベッドが印象的なルイ16世様式の寝室。一方の玲の部屋は、かすみの部屋程の豪華さはないが、金縁の巨大な鏡が特徴的な落ち着いた感じの部屋。ちなみに、かすみは部屋の窓際に置かれたカウチソファーを指さして、


  「玲、ここで寝てもいいよ」


などと挑発する始末。玲も負けじと


  「かすみ、一人で寝るのが怖いんだったら、

   傍に居てあげてもいいけど」


などと返すのであった。その後、各部屋を見て回り、8人掛けのダイニングテーブルを見てかすみは「玲と私がそれぞれこの両端に座って食事したら、何か面白くない」とか「このリビングのソファーはどれに座るか選びたい放題だね」とか言いながら(はしゃ)いでいたり、バスルームに至っては、玲曰く「僕の部屋よりも広くない?」という悲しい感想がつくのであった。そして、最後に窓の外を二人で眺めるのだが、先ず目に入るのがヴァンドーム広場に(そび)え立つアウステルリッツでの戦勝を記念してナポレオン1世によって建立された記念柱。そして、ヴァンドーム広場を囲う様に有名高級ブティックが軒を連ねており、勿論、ロムリアもその一角に店を構えている様子も伺える。更に、


  「あー、あそこがロムリアのショーの会場なのね」


と指をさすかすみ。玲もその方向を見て、「なるほどね」と答えるのだが、まだ、ファッションショーの何たるかを理解しきれていない玲であった。二人共に一頻(ひとしき)り外を眺め終えて窓を閉めたところで振り返ると、再び豪華な客室が目に飛び込んできた。


  「あー、こんな凄い所に泊まったら、

   もう他のホテルとか無理になっちゃいそう」


などと贅沢な感想を呟くかすみであった。確かに、金銭感覚が麻痺する危険性はあるのだが、一生に一度あるかないかの経験をしたという感覚でいるようにしたら、と玲にしては至極真面なアドバイスをするのであった。



 ところで、パリ・ファッションウィークという世界中から皇族や資産家や著名人、あるいは有名バイヤーがこの都市に一堂に会する時期に、パリの名門中の名門ホテルの、しかも最上級スイート・アンペリアルが空室のままと言うことはまずあり得ない。ではなぜ玲とかすみは宿泊できるのか?それはタチアナの政治力が物を言ったのだ。実はこのホテルは、中東のある国の皇族が自分たちの滞在用に抑えていたのだが、その皇族はロムリアブランドをこよなく愛するタチアナの有力なスポンサーでもあった。そこで、タチアナは、その主と妃全員にオートクチュールの品々をプレゼントしただけでなく、彼の国でのファッションショーを行うということで、快く部屋を譲ってもらったということであった。そんな裏事情は玲もかすみも知る由はなく、唯々(はしゃ)ぐばかりであった。


 さて、二人の騒がしい若者から一歩引いてこの様子を見守っていたゲラルドは、彼らが落ち着いた時を見計らって、これからのスケジュールを伝えたのであった。


  「物部様と最神様、

   こちらで滞在して頂くにあたり、幾つか…」


  「あっ、あのー、ゲラルドさん、

   僕らは、玲とかすみと呼んでください。

   何か苗字で呼ばれるのは、

   ちょっと照れ臭くって、はは」


  「これは失礼しました。

   ではカスミさんとレイさん、

   滞在中の食事に関しては、

   こちらで用意させて頂きますのでご安心ください。

   それと、早速これからロムリアの本社に

   向かって頂きます」


へー、ロムリアの本社ねー、などと能天気な呟きをするかすみである。まあ、何が待っているかは分からないけど、ここはゲラルドさんにお任せするということで、早速彼らはロムリアの本社に向かった。



 さて、ホテルを出て向かった先は、ヴァンドーム広場。そしてその先にあるロムリアの店舗。あれ、本社と言ってなかったっけ、と玲に囁くかすみであるが、ゲラルドに連れられて店の中に入ったところで、何やらゲラルドが合図した途端、従業員の方々が玲とかすみを別室に連れ込んだ。そして肩幅や胸周りと胴回り、足の長さなどを細かく採寸し、やっとのことで開放された。ん、一体何だったんだと疑問に思う玲であるが、かすみは何かを察したらしい。


  「かすみ、これって何なの?」


玲、何かわかんないかなー、と意味深なことを呟いて、そのまま知らん振りをするかすみであった。その後は、各自上階に案内されたのだが、実はそこがロムリアの本社になっていた。実際は、本社機能自体は別の場所にあるのだが、ヴァンドーム広場の店舗は、タチアナが好んでここに居ることが多いために、臨時と言うかそんな感じの本社となるに至ったのである。そして、上階の社長室には、タチアナその人が玲とかすみを出迎えた。


  「あー、いらっしゃい、ようこそロムリアへ。

   どう、ホテルは気に入った?」


  「何か、凄すぎて、映画のセットに

   迷い込んだ感じでした」


とはかすみの印象である。玲に至っては、とにかくケンタリア時代から贅沢とは無縁の生活を送っていたので、自分の下宿よりもホテルの浴室の方が広くてびっくりしました、などと訳の分からないコメントをする始末。これにはかすみもタチアナも、「あっ、そ、そうでしたか」としか返答しようがない状況。


 さて、明日以降のスケジュールの確認に加えて、玲としては先程の採寸作業は何だったのかを聞くことにした。すると、


  「ロムリアのショーは明後日になるのよ。

   なので、それまでにあなた達の衣装を

   用意しておきますね。

   楽しみに待っててね」


と言うことであった。要するにファションショーに向かう衣装をタチアナが用意していたのであるが、当然かすみは何となく気づいていた。が、玲は全く何も気づいてないようで、これにはかすみもかなり呆れていた。


 この後、二人はタチアナと暫し雑談していたが、ふと


  「ところで、レイ君とカスミさん、

   あなた達は日本の大学を卒業するのよね?」


はい、何とか無事に二人共卒業できます、とかすみが答えたのであるが、


  「それで、どこかに就職するのですか?」


と、なぜか玲とかすみの就職に興味を持つタチアナである。ただ、残念ながら彼らはどこにも就職せず(いや、一部は出来ず)。玲に関しては働くのに必要な技能が全く身についていない問題、そしてかすみに関しては内定をもらった企業が不祥事を起こしてしまい、結果新入社員全員の内定が取り消された問題があった。しかも


  「タチアナさん、僕らはどこにも

   就職しなくてですね、

   二人で降霊術師を

   やって行こうと考えているんです」


と言ったので、タチアナは予期しない返答に言葉を失って目が点になる始末。だが、玲から事情を聞くに及び、なるほどねと合点がいったのであった。


  「そういうことなの。

   カスミさんのことは

   レイ君から聞いていたけど、

   その降霊転移門を誰が設置したかは

   未だ解決されてないのね。

   それを解決するためにも、

   自分たちで降霊術師をしながら、

   その犯人と言うか原因を

   突き止めたいということね」


と彼らの事情を納得したのである。更に、


  「もしね、あなた達どこも就職先がないのであれば、

   うちで雇おうかなと考えていたのよ。

   勿論、フランスは言葉の問題とかで難しいけど、

   東京か大阪にオフィスを構えることも

   考えていたので、その時はそこのスタッフにと

   推薦する予定でいたのよね。

   でも、レイ君のその目的には、私も同感というか、

   これからの被害を考えたら

   そちらを優先すべきかと思うのよ。

   だから、差し出がましいけど、

   あなた達の降霊術師の仕事のバックアップを

   させてもらうわね」


と言って、玲とかすみに100万ユーロの小切手を渡したのである。え、100万ユーロっていくら、と玲はかすみに尋ねると、かすみはスマホを見ながら換算して、大体1億5千万円くらいよ、と返事をした。そして二人で、『えー!』と絶句したのであった。玲はタチアナに


  「いやいや、タチアナさん、

   これは受け取れません。

   僕たちは、まずは自分達の力で

   1からやって行きたいんです。

   もしこのお金があると、何だろう、

   甘えが出てしまって、

   何かしら中途半端になってしまいそうで

   怖いんです」


と胸の内を吐露した。この玲の言葉には、流石にタチアナも


  「そうね、ゴメンね、レイ君とカスミさん。

   あなた達の事を考えずに

   先走ったことをしてしまったわ。

   でもね、もし何か困ったことがあったら、

   何時でも私に相談してね。

   これでも、そこそこ影響力があるのよ」


と片目を瞑ってウィンクするタチアナである。玲もかすみも、タチアナの心遣いには深く感動しており、彼女の言葉に勇気づけられるのであった。そしてかすみは、そもそも降霊術師を仕事にする経緯を面白おかしくタチアナに説明し、二人で大笑いしていたのであった。これには真剣に考えて決めた玲としてはかなり複雑な心境なのであるが、二人が楽しいならいいかと前向きに捉えたのであった。



 さて、ロムリアのファッションショーが開催される当日を迎えた。今回玲とかすみが招待されたのは、パリファッションウィークのプレタポルテコレクションで、年4回開催されるうちの1つであり、この年の秋冬の女性用プレタポルテが中心である。そして、ロムリアのショーは今日の正午から始まるのだが、会場は玲とかすみの宿泊するホテル・リッツ・パリの正面にあるヴァンドーム広場の一角に設けられたロムリア専用の特設会場。さて、玲とかすみはと言うと、午前中に宿泊するホテルにゲラルドがやって来て、


  「カスミさん、レイさん、

   これから皆さんの準備のために

   ロムリアの本社に来て頂きたいのですが

   宜しいでしょうか?」


と伝えた。そこで、玲とかすみは、ゲラルドの先導でヴァンドーム広場にあるロムリアの店舗に向かった。すると、彼らを待っていたかのように、タチアナ以下数名のスタッフがやって来て、玲とかすみへの着付けをするために、別々の部屋に連れて行った。玲は比較的すんなりと着替えを終えたのだが、かすみの方はというと


  「えー、タチアナさん、ブラも取るんですか?

   きゃー、ノーブラで衣装を着るなんて

   したことないんですよー」


と騒ぎ立てる始末。尤もタチアナは日本語翻訳イヤホンを付けているからかすみの言葉は分かるが、他の女性スタッフは「何騒いでるんだろう、この子」みたいな感じで淡々と着替えを進めていった。そして何とか両名の着替えが無事に終わってお互いに着替えた後の姿を見ているのだが、玲はかすみの何時もの恰好とは違う何か、やはりお嬢様育ちなのか、あるいは馬子にも衣裳なのか、という印象を持つ。一方のかすみは、玲の衣装に見惚れるでもなく、ずーっと「玲にノーブラなのバレたらどうしよう」とか「うわー、これで外出るの凄く恥ずかしいんだけど」とほぼ自分の事だけを考えていた。ちなみに玲とかすみの衣装は、どちらも黒が基調のパーティードレス。ただしかすみの衣装は、腕と背中と肩回りがシースルーとなっており、前は胸の部分が深く切れ込んだ形のチュニックワンピースに見えるが、実はロングコート。下は裾がゆったりとした黒のパンツと黒のヒールで纏められている。そう、先程かすみがノーブラ云々と騒いでいたのは、このシースルーがあるためであった。そして、このシースルー部分、実はクリモアル柄の透かしが施されており、光の加減で色鮮やかなグラデーションが浮かび上がるのであった。一方の玲はと言うと、こちらも腕と背中と肩回りがシースルーとなっており、前は黒のベストと黒の短めのジャケット風にデザインされている。また、かすみと同じような黒のパンツと黒のブーツという出で立ちである。玲もかすみも、このままでステージに立っても違和感ないような衣装となっているのであった。


 その後かすみはヘアセットとメイクを施してもらい、玲もヘアセットだけしてもらって、二人共に準備は整った。


  「わあ、二人共お似合いよ。

   素敵なカップルだことね。

   一層の事、ここで結婚式を挙げたらどう?」


などと一人盛り上がるタチアナであった。これを聞いたかすみは、顔を真っ赤にして


  「れ、玲との結婚なんて全然考えてませんから」


と否定するのであった。ちなみに玲は、「かすみとの結婚もありなのか?」などと考えていたとかいなかったとか。



 さて、会場へは徒歩数分、いや徒歩数十歩という距離のため、正午少し前に二人で歩いて行くことにした。そして特設会場に入る時、玲はかすみをエスコートすべく腕を組んで入場した。そう言えば、かすみとはこうして腕を組むの初めてだな、と冗談ぽく話す玲に対し、かすみは少し緊張しているのか俯き加減で一言「もう」とだけ発した。実はファッションショーの開演時刻は12時であるが、実際は更に30分程遅れて始まるのがお約束だとタチアナから教えてもらったため、自分たちが座る席にて暫し待つことにした。ちなみに、玲とかすみの座席はランウェイを正面に見沿えるその先端部から3列目のところ。そして、会場内をキョロキョロ見渡すかすみに一人の日本人が目に留まった。それは、かすみ曰くおっさんと呼んでいた若林であった。


  「ねえ、玲、あそこにいる人、

   飛行機の中で会ったおっさん、

   じゃなくて若林さんじゃない?」


とかすみに聞かれて、ん?とかすみの見ている方に目を移すと、丁度若林も玲とかすみに気づいたのか、早速こちらに足を運んでくるのであった。


  「あー、最神さんと物部さん。

   今回は本当に有難うございました。

   お陰様でロムリアとの商談も上手くいきまして、

   更にファッションショーにまでご招待頂いて

   感激しております。

   それもこれも、お二方のお力添えのお陰です。

   本当に有難うございます」


と何かこちらが恥ずかしくなる位に丁寧な感謝の言葉をもらう玲とかすみであった。更に


  「こちらから、何かお二人のために

   お礼をしたいのですが」


と言われたところで、物やお金は結構ですと断った。ただしそれでは気の毒なので、帰国したらどこかで食事をご馳走して頂ければそれで結構ですよ、と答えて了承してもらい、玲の連絡先を伝えておいた。


  「なんか、こうして見ると結構良い人なのかな」


と感想を漏らすかすみであるが、実は玲はそこまでの良い印象を持つことは無かった。だが、決して悪い印象を持ったとかではなく、流石はやり手のビジネスマンと言うか、こうして人心を掌握するのかな、という印象を持った程度である。これは、ケンタリアで若くして召喚技術研究所の主席研究員になったカーンフェルトが行く先々で若林のような人物を相手にしてきた経験から来るものであった。


 さて、玲とかすみが到着した時には1/3程の空席が目立ったが、今はほぼ満席になった。そして、再び周囲をキョロキョロ見渡すかすみであるが、そのうち「あっ、あの人ハリウッドの映画で主演していた俳優さんじゃない」とか「あっ、あの女優さん、直に見ると凄く肌が綺麗ね」とか「ねえねえ、あの女性歌手の人、この間友達が彼女のコンサートに行ったんだけど、後ろの方の座席だったんで殆ど本人が見えなかったんだって」などなど、色々な情報を玲にご丁寧に伝えるのであった。そして、いよいよロムリアのファションショーが始まった。


       ~~~~~~~~~~~~


 ロムリアのファッションショーは大盛況のうちに終わりを迎えた。最後にタチアナがショーを支えたモデルたちと一緒にランウェーに姿を現すと、盛大な拍手とスタンディングオベーションが沸き起こった。それくらい感動的なショーだったのであった。流石にファッションに興味を持たない玲ことカーンも、タチアナの登場にはお疲れ様の意味を込めて盛大な拍手をしたのであるが、終始「わあ、こんなの着てみたい」とか「えー、露出が多くない。私無理」とか色々なコメントを玲に呟いていたかすみは、最後のタチアナ登場で感激のあまり目に涙を溜めていた。そして帰り際に出口のところで一人一人の招待客と握手やハグを交わすタチアナに二人でお礼をしてその場を後にした。こうして、玲とかすみによるフランス旅行最大のイベントは幕を下ろしたのであった。



 さてその夜、タチアナ以下ロムリアの経営者やデザイナーはVIPへの接待を、それ以外のスタッフはショーの成功を祝したパーティーをするため、玲とかすみは久し振りに二人きりでの食事となった。ただし、勝手知らないパリの夜に、どこで何を食べようか迷うのである。結局、自分達に最も馴染み深いファストフードのハンバーガー店(かすみ曰くマ〇ド)に向かうことにした。ここ最近と言うか、機内食のフルコースを始め高級料理ばかり食べて来た玲とかすみにとって、庶民の味であるハンバーガーを食べた途端なぜか懐かしさがこみ上げてきた。


  「あー、ハンバーガーって

   こんなに美味しかったんかな」


とはかすみの感想であるが、玲もそれには同感。


 とりあえず、お腹を満たした二人は、本当なら夜のパリ市内を見て回りたいのだが、日本とは違い治安が良くないから出歩かない方が良いよとの忠告をタチアナとゲラルドから受けていたので、そのままホテルに帰ることにした。ところが、道を間違えてしまい人通りの少ない道を進む羽目に陥ってしまった。そして


  「きゃー、泥棒!!

   私のバッグを返せーー」


と叫ぶかすみが地面に両手と両膝をついて叫んでいた。その叫びは、かすみの後ろからバイクで近付いてきた2人組の引ったくり犯がかすみのハンドバッグを手にしてそのまま逃走した時にかすみが(つまず)いて転んでしまった結果である。だがそんな状況でも一人慌てずにいる男がいた。最神玲である。そして、直ちに一言「召喚」と呟くと、そこには久々の登場である白猫のにくたま軍団が現れる...ことは無く、玲の右手側の通りを挟んだ向かいの石造りの建物の壁に激しい衝突音が響いたのである。突然の衝撃音に驚いたかすみがそちらに振り向くと、丁度玲がかすみのハンドバッグを手に戻ってくるところであった。玲は瞬時に転移門をバイクの前方と玲の真横の道路上に設置し、転移術を使って引ったくり犯を呼び戻したのであるが、ただ呼び戻しただけでなく進行方向を壁に向けたのである。そのため、引ったくり犯は突然目の前に壁が現れてそのまま激突したのであった。幸い死ぬ程の重傷ではないものの骨折とかはしていそうであるが、面倒なことに巻き込まれたくない玲としては、かすみを連れてその場から立ち去った。その頃には、近所の住人が何事か、と見に現れて、交通事故が発生したと警察に連絡するに至るのであるが。


 玲とかすみは、暫く道を進んで人通りの多い場所に出たところでかすみの様子を確認するために立ち止まった。履いていたデニムの膝部分が少し汚れた以外、見たところ特に怪我をしている状況にはないので玲も一安心したのであるが、かすみはまだ興奮状態にあったので、それを宥めるのに一苦労であった。漸く落ち着いたところで、


  「玲、バッグを取り戻してくれて有難うね。

   でもまさか転移で取り返すとはね、はは」


と何とかかすみの笑顔が戻って来て一安心の玲である。


  「うん、何時こういう事が起きるか分からないから、

   何時も事前に用意しているんだ。

   僕の場合、ショートカットキーみたいなものを使って

   簡単に出来るんで、それで迷わず的確に

   処理が出来たんだよ」


さも簡単なことだ、みたいに語る玲である。かすみも、自分も転移術出来たらいいなー、と感想を漏らすのであった。こんなちょっとしたアクシデントがあったが、その後は何事もなく、無事ホテルに辿り着いた。



 夜の9時を少し回った頃、玲は2泊程度の用意しかしていないため、一旦下宿に戻ることをかすみに告げて、転移していった。一方のかすみであるが、今回は1週間程度の旅行であり、基本的には4日分程度の準備だけしておいて、下着はホテルで洗って乾かせば良いかと当初は考えていた。ところが、宿泊ホテルがパリ市内でも最高級ホテルのスイート、しかも浴室は、玲の言葉ではないが下宿の部屋以上の広さというかすみの想像する浴室を越えた規模であるため、どうしてもそこで自分の下着を干すことに強い抵抗を覚えてしまった。そのため、結局予定していた洗濯が全く出来ず、このままだと下着のストックが無くなりそうでどうしようと心配になるのであった。そんなときに、呑気に玲は自宅に転移していったため、何だか自分だけ不利じゃね、などと憤慨するのである。ただ、玲には転移することに文句を言ったり、挙句の果てに、自分の家まで転移用マーカーを勝手に設置したことで玲を問い詰めたりしたが、今まさにそのかすみの家に設置した転移マーカーが役に立つことになると、かすみにとっては凄く敗北感というか腹立たしさがこみ上げてくるのであった。そして30分程して玲が転移で戻って来たとき、かすみは恥を忍んで玲に転移で自宅に連れて行ってとお願いした。勿論、玲はかすみに対し嫌味を言ったりすることは一切なく、1時間後に迎えに行くと伝えて、快くかすみを自宅に転移させた。この時かすみは、今までの玲に対する自分の行動の狭量さに呆れつつ、玲には感謝の気持ちを強く抱くのであった。持つべきものは良き友かな。


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