地球転生編 2-19 最神玲、年越しの準備をする
最神玲、年越しの準備をする
12月31日の大晦日。街は新年を迎える飾りで華やぎ、東洛中央商店街では今年最後の大売り出しと銘打った割引セールを開催してどこも賑わっている。そんな商店街を一人歩く青年、最神玲。実は彼は、帰省せずにここ東洛市に居残っている。玲の実家からは当然の如く、早く帰省しろとの催促が届くのであるが、何しろ移動手段がない。いや、転移すれば済むのだが、それよりもやはり玲ことカーンにとっては、赤の他人の家なのである。そのため、どうしても玲の実家には自ずと足が向くことは無く、結局卒論の仕上げ作業が滞っているとの理由で帰省できないことを伝えていたのである(ただし、かすみに確認されるとちょっとやばいが)。一方、何時も大体一緒に行動している物部かすみはと言うと、数日前には実家に帰省したのであった。そして、玲である。特に何か買いたい物があるとかではなく、何となく一人で居るのが寂しいから、賑やかなところに出て来たということである。ところで、カーンの住んでいたケンタリアでも、新年を迎えるという行事は存在する。勿論、この商店街のような歳末大売り出しみたいな企画で盛り上がったりするし、街中ではそこかしこで音楽祭が行われたり様々な種類の屋台が沢山出て、一晩中盛り上がったりもする。従って、この年末特有の喧噪感には親近感が湧いてくるのであった。そんな商店街をブラブラ独り歩きしていると、「最神先輩!」と声がかかる。声の方向を見ると、そこには榊原加奈子と西脇まど香の二人が手を振っているのが見て取れた。そう、彼女たちは、以前玲とかすみが除霊を行った加奈子とその友人。そこで玲は、その後の彼女たちの様子を確認するために、そちらに合流することにした
「久しぶり。榊原さん、どう体の調子は?」
「お気遣い有難うございます。
最神先輩と物部先輩のお陰で、
あれから何事もなく、全然大丈夫です」
「そうか、うん、見たところ顔色も良いし、
体重も戻った感じで、
以前の榊原さんの感じに戻ったようで何よりだよ」
あっ、体重とかは女性に対して言わない方が良かったのかな、と不安になる玲であるが、当人達は全く気にする様子はない。これがもしかすみであったら、女性に体重が戻ったとか言うんじゃない、と鉄拳制裁ならぬ肘鉄を食らっていたかもしれない。それよりも、二人共帰省はしないの?とそう尋ねると
「帰省してもすることが無いし、
向こうでこの間みたいなことがあったりしたので、
ちょっと行きそびれてます」
とは加奈子のこと。そしてまど香は
「私は、東洛が地元なので、
帰省の必要も無くって。
なので、今日は加奈子と
商店街をブラブラしてます」
となると、ここに居る三人は、することもなくブラブラしているだけか、と笑いながら答える玲である。そこで三人であっちの店をみたり、こっちの店を見たりと街歩きをして、お腹が空いたので、商店街にある蕎麦屋に入ることにした。今日は大晦日、そして大晦日と言えば年越し蕎麦、ということで三人で早速味わうことにしたのである。暖簾をくぐって中に入ると、丁度ピーク時を過ぎたのか少し空席があったので、奥の4人掛けのテーブルに向かった。ちなみに、カーンは蕎麦は数回食べたことがあるが、ラーメン程の魅力を感じることは無かった。そこで早速席に着いてオーダーをし、暫し歓談することに。そこで、まど香は無難な会話を進めようと、
「ところで、最神先輩は、
どこに就職するんですか?」
と尋ねた。当然4年生ならこの時期には就職先は決まっているだろうし、別に聞いても問題はないよね、と言う本当に何気ない軽い気持ちで尋ねたのであった。それに対し、あー、そう言えば、4年生は卒業後どこかに就職するんだったよな、と他人事のように忘れていた玲である。まぁ、玲ことカーンは、召喚術師養成学院を飛び級で卒業後、即召喚術研究所に着任したから、就職活動は全くの未経験であるのだが。
「いや、何も決まってません。
うーん、どうしようかなー」
と何やらやる気のない返事が返ってきたため、加奈子とまど香は二人して唖然とする。いやいや、4年生で今この段階で就職先決まってないのは流石にまずいでしょう、と思うも決して口にはしない二人である。そして質問したまど香に至っては、いや、こんな空気になるような会話ではなかったんだけど、と慌てだす始末だが、そこで加奈子はふっとある考えを口にした。
「あっ、も、最神先輩なら、例えば霊媒師とか、
あるいは物部先輩が仰っていた心霊探偵とか、
そんな謎に満ちた職業とかはどうですか?」
「おー、何かそれ面白そうだね。
ちょっと考えて見ようかな」
えっ、何か本気ですか?ともとれる玲の返事に対し、加奈子は動揺する。加奈子からすると、決して本気でそう言ったのではなく、少しでも場の空気を明るくしようとして口から出ただけなのであるが、まさか玲が本気にするとは思ってもおらず。そのため、加奈子もまど香同様慌てだすに至るのであるが、丁度そこに注文した蕎麦が届いたので、三人はその話題から離れて年越し蕎麦を堪能することに。
その後、店を出た三人は、これ以上何か気まずい思いをしそうだと少し警戒し始めた加奈子とまど香が、何かしら理由を付けて玲と別行動することになり、「ごちそうさまでした」と言ってその場で別れた。そして、玲であるが、実は彼女たちの言葉を真剣に検討していたのである。勿論、霊媒師やら心霊探偵やらになりたいということではなく、実は一つ懸念していることがあった。それは、かすみを霊界に送った例の降霊転移門、あれを一体誰が何の目的で設置したのかと言うこと。普通一般人であれば、自然発生したのではと思うかもしれないが、召喚術師であるカーンは、その自然発生説は完全に否定している。そして、自然発生ではない以上、誰かが故意か事故か偶然かあるいはそれ以外か、今の段階では結論は出ないが、何れにしても召喚術師が絡んでいることはほぼ間違いない。そのため、誰が何でそんなものを設置したのか、その目的を知りたいと思うカーンである。その序に、除霊なり降霊術なりをするのも悪くはないと思っているため、少し真剣に検討していたのであった。
「まあ、この件はかすみにも相談しないとな」
と呟く玲であるが、もしかすみに黙ってことを進めようものなら、大暴れして口を聞いてくれなくなることは間違いない。今かすみにそっぽを向かれるのは玲にとってはマイナスでしかないのである。
そんなことを考えながらも、結局商店街では正月用のお餅数個と一人前のお節セットを購入して、お餅を買ったのはいいけどどうやって食べるんだ、と考えながら何時もの下宿に帰って来たのである。




