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召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?  作者: 島ノ松月
地球転生編第二部

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地球転生編 2-16 物部かすみ、霊媒師を始める

物部かすみ、霊媒師を始める


最神玲との降霊術師の特訓と称した賭けが行われてから1カ月ほどたった11月のある日の夕方。物部かすみは玲の下宿の玄関前で佇んでいる。正確には呼び鈴を押したものの返事が無く、手には箱状の物を持ったままそこに立ち尽くしているだけであるが。


  「まったく、あの男、

   今日がどういう日か分かってんのか」


とかなり切れ気味のかすみである。なぜこんなにかすみが切れているのか?実は今日この日は最神玲の誕生日なのである。尤も事故前の玲であれば、前日から「明日俺の誕生日だけど何くれるの?」などとかすみに催促していたりしたが、事故後の玲にそのような図々しさはなく、と言うよりも最神玲の誕生日すら分かってない可能性はある。そんな不安を口にこそせず、暫し玄関前で佇むかすみであったかが、やがて玄関扉の鍵の開く音が耳に届く。そして、開いたと思ったら間髪入れず扉を開けて、一言


  「おい、おせーよ。

   全く、どうせ寝てたんだろう、玲」


と完全にブチ切れているかすみであった。しかし、当の玲本人は、「?」という表情。実は当人も今日が自分、というか最神玲の誕生日であることは分かっており、事前にかすみからお祝いするよと言われていたのを覚えていたので、朝から片付けやら何やらで天手古舞(てんてこまい)であったのだが、そのうち疲れて寝ていた、と言うのが真相。そんなことを、頭を掻きながらかすみに謝って、一先ず矛を収めてもらうことにして、居間に案内する。へー、玲にしてはちゃんと片付けしていたんだ、と冷やかし半分で感想述べて、


  「はい、これ、誕生日ケーキ。

   それと、これはプレゼント」


と言って真ん中に[れいちゃん たんじょうびおめでとう]と書かれたチョコプレートが置かれた小さなレアチーズのホールケーキをテーブルに置き、更にカバンの中から小さな箱を取り出して玲に渡す。


  「まずはケーキにロウソクを灯して、

   それからプレゼントを開けてね」


と言って、かすみはテキパキとロウソク2本をホールケーキに無理矢理立てて火をつける。その間、玲は台所の冷蔵庫からアルコールと総菜を取り出し、総菜はレンジに入れて温めつつ、それ以外をテーブルに並べる。そしてかすみの合図で玲の誕生日会は始まった。


  「♬ハッピーバースデートゥーユー…。

   玲、誕生日おめでとう。

   ところで、玲って何歳になったの?」


と立ち上がって、玲の横に近づいて、手にマイクを持つ真似をしながらインタビューをするのであった。ロウソクが2本だから2歳か。それを言うなら、かすみと同じだろう、と答えたが、どうやら違う玲に対してのようで。


  「あー、玲ではない方は、

   こちらの日付で何時なのかは全く分からないけど、

   僕がこちらに転生したのは20歳のとき」


  「え、じゃあ、中身は後輩ってこと。

   それだったら、私のことは、

   かすみ様と呼ばないと」


じゃあ、かすみ姉さんと呼びますと玲は答えたが、その途端になぜか頭にかすみからの一撃がヒット。


  「痛。もう、姉さん何するんですか」


  「はぁ、全く君はこのツッコミが分からんのかね」


と言いながらまた頭に一発。これはどうやら、かすみの言うツッコミの一環というそうで、玲には全く分からない文化であった。


  「ただね、サモナルドの1年は

   多分地球の2年だと思うんだ。

   そうすると、地球年齢に換算すると…40歳!」


はぁ?と口を開けて絶句するかすみ。その後、なぜか嫌悪感を露わにした目で睨むのであった。


  「てことは、玲、あんた、

   見た目は若者、中身はおっさん!」


おい、おっさんは酷いだろ、と抗議するも全く聞く耳を持たずのかすみであった。しかも、漫画で似たようなセリフを加えて。


  「いやー、私おっさんは無理だわー、ゴメンね玲」


などと言いながら、ニヤニヤするかすみである。本心なのか、単に玲をいたぶっているだけなのか。



 こんなやり取りの後、玲はかすみからのプレゼントを開けることにした。


  「ほおー、指輪ですね」


  「そう、私とお揃いよ。でもなー」


と言って、自分の右手の薬指に嵌めている指輪を示しながらも、どこか玲を揶揄いたいかすみである。そんなかすみの態度はスルーして、玲はどの指に嵌るかを確かめているのであるが、結局、ううう。


  「えっ、そこしか嵌らないの?」


と言われながらサイズ的にジャストフィットしたのは小指。これって正解なのか?


  「えー、あんた、太ったんとちゃうん。もう」


と文句を言うが、玲は特に気にすることなく、かすみに有難うとお礼を言う。そんな玲に満更でもないかと答えるかすみであった。そして、総菜をつまみにアルコールを消費する二人。その後でケーキを食べて一服することに。


  「そう言えばさ、玲、

   今年免許の更新じゃなかった?」


うん、何だそれは。初耳だが。


  「あっ、そうか、分かんないか。

   何かさ警察からはがき来てなかった?」


  「え、警察から!?

   そんな、警察にお世話になることなんて

   なかった...あっあの時のか?」


  「違うわ。そっちじゃなくって、

   面倒くさい。はがきとかどこに片付けてるの?」


と言うので玲は振り向き様、勉強机の上を指さし


  「そこの、机の上に小さいケースがあるでしょ。

   大抵はそこの中に入れとくけど」


と言って、早速かすみは立ち上がって勉強机に向かい、机の上に置かれている100円ショップで買ってきたプラスチック製の整理ケースの中からはがきの束を取り出す。見るとどこかの店のDMから衣料品点の会員証更新の案内など、既に時効を過ぎている物まで出てくる始末。とりあえず、上の方に入れてあるはがきの束を調べると、探し物が見つかった。


  「これこれ、ほら、まだ少し更新の猶予があるから、

   時間があったら行ってきた方が良いよ」


そう言えば、最神玲は運転免許証を持っていたのである。しかもAT限定の普通車と二輪の両方を。二輪って?


  「あー、それはバイクの事ね。

   そう言えば、玲、って言うか事故前の玲ね、

   彼オフロード型の250ccのバイクに

   よく乗ってたな。

   その辺の情報は彼から引き継いでないの?」


いやいや、業務の引継ぎではないんで、そんなに都合よく引き継げませんよ。そうか、バイクには乗れるのか。そう言えば、僕バイクどころか自転車にも乗ったことないや。


  「えっ、うっそー、まじ!

   玲、チャリ乗られへんの?」


  「ん?チャリって、自転車の事か?

   いや、乗ったことないだけで、

   乗れないかどうかは分からないけどね」


じゃあ、私の貸してあげるからそれに乗ってみて、と強引なかすみからの申し出により、この後夜の闇の中を玲は急遽自転車に乗ることになった。何だ、この展開は!とぶつくさ文句を言いながらも、かすみに連れられて一度かすみの住むマンションまで行くことになった。そしてかすみは、自転車置き場から、シルバーのシンプルな形の、通称ママチャリを持ってきた。


  「さあ、さあ、玲さん。

   これに乗ってみそ。乗ってみそ」


とニヤニヤしながら何やら訳の分からん方言で詰め寄ってくるのである。


  「えっと、乗り方ってどうやるの?」


  「はぁー?ここに跨って、ハンドル握って、

   ペダルを漕ぐだけ。こんな感じね」


と言ってかすみはスイスイとマンションの前の道路で自転車を漕ぐのである。そして、次はいよいよ玲の番。


  「どれどれ、ここに座って、

   ハンドル握って、ペダルを漕ぐと...

   おや?」


乗れました。しっかりペダルを漕いで道路を往復してます。それを見たかすみは、かなり悔しそうに


  「えー、つまらん。何で乗れるんだ、君は!」


えっ、つまらんってどういう意味だ、と尋ねると、とたんに


  「つまらんものは、つまらん!

   本当は、ここで君は自転車に乗れなくて、

   このかすみ様に教えを乞うはずだったんだよ。

   その計画がパアー。分かる、この悔しさ」


全然分かりません、はっきりと答える玲であった。でも、何で乗れたんだろう。もしかして、運動神経みたいな物は事故前の最神玲の機能をそのまま受け継いでいるのかな?


  「うーん、分からん。

   でもさ、チャリに乗れるんだったら、

   バイクも乗れるんじゃないの。

   ところで、玲、バイクってどうした?」


いやー、知らない。


  「かすみ、どんなバイクか知ってるんだろ?」


  「うーん、何となくだけどね。

   多分玲の下宿の駐輪場かどこかにありそうだけど。

   後で見に行くか…

   おっと、忘れるところだった。

   何で私の貴重な時間を、

   あんたの自転車乗りに付き合わせなあかんのよ。

   全く」


といきなりぶつくさと文句を言い始めるかすみであったが、玲からすると別に自転車乗りを頼んだ訳ではないので怒られる筋合いはないのだが、これは黙っておくことにする。で、何か話したいことがありそうですが、かすみさん。


  「ここじゃあちょっと話しにくいから、

   うちに寄ってもらうわ。いい」


  「全然問題ないです。

   て言うか、僕かすみの部屋に行くの

   初めてじゃない?」


  「え、そうだった?

   あっ、そうか事故前の玲は何回か来てたか」


ゴメンね、事故後の玲で。


  「一応、このマンションは女性専用なの。

   だ、か、ら、あんたは大人しく

   気づかれないように、ついて来ること。

   いい?」


了解ですと敬礼する玲。そして二人揃って、抜き足差し足忍び足でかすみの部屋に向かうのであった。



 かすみの住むマンションは10階建ての女性専用マンションであり、かすみは最上階の東端の部屋に住んでいる。


  「お邪魔します」


と律儀に挨拶をする玲。ちなみに、かすみが玲の下宿に行くときは、大抵「玲、いる?」で勝手に入ってくるか、極偶に「玲、邪魔するで」である。なお、この後に、「邪魔するんだったら、帰ってや」と言わないと凄く機嫌が悪くなるのだが、玲にはその理由は未だに分からぬまま(最近は機械的に言うようになった)。さて、かすみの部屋に初めて入り込んだ玲であるが、部屋の作りはバスとトイレが別々、更に独立したカウンターのあるキッチンと10畳の広さを持つ居室の1LKと言うタイプ。一人暮らしなのに何か広くない?と尋ねるも、狭いくらいだよと言い返されてしまう。じゃあ、僕の立場は、となってしまうが黙っていよう。多分知らんがな、と返ってくるのが目に見えるから。


 奥の居室にローテーブルがあり、そこにお互いに向かい合って座ることに。そしてかすみが少し真剣な表情で話を切り出した。


  「玲、心霊サークルの後輩で

   3年の榊原加奈子って覚えてる?」


あー、確か例の事件でかすみが入院した時に色々と手配してくれた子か。そう言うと


  「そう、彼女。実は最近様子が

   変なんだって後輩の子から相談を受けてて」


単に恋愛の悩みとか、進路の問題とかそんなことでは、と思うのだが、そうではないと断言され、更にきっぱりと心霊絡みと言われてしまう。一応、かすみから詳細を聞くけど、それが原因かどうかは判断つきかねるところで。


  「まあ、とりあえず、

   本人に会ってみる必要はあるだろうね」


と言うことで、かすみと明日にでもサークルの部室に向かう約束をするのであった。



 そして、翌日の午前、かすみと待合わせて心霊サークルの部室へ直行する。そこで、かすみに相談を持ち掛けた3年生の西脇まど香と部長の稲垣と合流し、榊原加奈子の住むマンションへ向かうことにした。途中、西脇まど香から経緯を聞くも、やはり原因らしきものには思い当たらず。念のため、稲垣に部として心霊スポット絡みの活動があったかを尋ねるも、夏休みの合宿以降全くないとのこと。場合によって、榊原本人が友人と肝試しに行くことはあったかもしれないが、現時点でそれを確認することは出来ない。


 そうこう話しているうちに、榊原加奈子の住むマンションに到着。ここはかすみの女性専用マンションとは異なり、白い外壁の1ルーム主体の一般的なマンション。ここの3階の305号室が目的の部屋。玄関はオートロックではないので、そのまま一同エレベーターで3階に上がり305号室前に到着する。すると、玲とかすみは、なにやら嫌な空気を部屋の中から感じとる。


  「ねぇ、玲、何か感じない?」


  「うん、凄く嫌な感じ。何だろうこれ」


と言いつつ、チャイムを押す。数回押すも何の応答もなくドアには鍵が掛かっているので、一見留守にしているように感じるが、しかし確実に本人が在室していることを二人は確信している。そうなると、どうやって中に入るか?そのとき、西脇まど香が、自分のバッグの中から鍵を取り出した。


  「先輩方、これ加奈子の部屋の鍵です。

   彼女から、もし万が一のことがあったら、

   これで開けて入って、と言われてたんです」


そこで、玲は鍵を受け取り、扉を開けて中に入ろうとするが、


  「部長と西脇さん、念のためここで

   待っていてもらえますか?

   僕とかすみで、先ずは様子を確認してきます」


と言い置いて、二人で部屋の扉を開けて中に入ることにした。ところが、扉を開けた途端に酷い腐臭が彼らの鼻を突いてきた。玄関に入って直ぐ短い廊下が前方に伸びているが、廊下はゴミが散乱する有様。そして彼らを襲った腐臭の正体は、廊下に散乱するゴミやキッチンの生ゴミから発生したものであった。こんな過酷な状況にもめげず、取りあえずハンカチで鼻を覆って廊下の先の居室に向かう二人であった。そして、


  「玲、あれって、霊体よね?」


とかすみが、口元をハンカチで覆ったせいで声をくぐもらせながら、そう問いかけてくる。壁際に設置されたベッドの上で両膝を抱えた状態で座る榊原加奈子の姿がそこにあった。そして、いま彼女は、俯いたまま体を震わせているが、その背後に更に異質な何かが蠢いているのを認める。ただしその異質な何かは、加奈子の背中と壁の間に隙間が無いにも拘らずそこに存在していることから、この世の物でないことは明白である。


  「なんか、憑依されているのかな?」


正直、玲には憑依どうこうは分からない。ただ、少なくとも、そこに霊体が存在しており、かつ生体である榊原加奈子に何かしら影響を与えていることは分かるので、とりあえず、かすみに降霊召喚を提案する。


  「召喚!!」


のかすみの宣言で降霊召喚門が呼び出されるが、加奈子に憑依している霊体はビクともせず。こんな状況を体験したことのない二人、特にかすみは、かなりパニックに陥いりつつある。


  「えっ、れ、れ、霊界に、

   し、し、召喚されないの?」


そのようだ。こういう場合どうすべきか?実は、降霊召喚に関するマニュアルというか、そんな物を召喚リストに保存している玲ことカーンであるが、早速マニュアルを召喚してこの状況に関する調査を行うことに。そして、暫くしてから、


  「そう言うことか。かすみ。

   要するに、加奈子に取り憑いている

   霊体だけど、どうやら加奈子に縁(ゆかり)の

   あるものらしいんだよね」


と言うことは、どういう事?とその目は霊体に向いたまま玲に尋ねるかすみであるが、まだパニック状態進行中。


  「まず、霊体との対話をして、

   どうして憑依しているかを突き止めること。

   それから、その霊が要求する事や物が

   何かを知ること。

   後はそれを使って霊体を霊界に送り届ける。

   以上」


こういう時は、簡潔に命令するに限ることは、サモナルドでも経験済み。なので、そのようにかすみに指令を出すことにした。


  「う、うん、分かった。

   やってみるけど、あっ、でも、どうやって?」


まだかなり焦っているな。仕方ない、助け船をだすか。


  「憑依関係の場合、降霊召喚では、霊体ではなく、

   憑依されている人間に対し対話をすること。

   分かった?」


  「うん、分かった!」


よし、落ち着きを取り戻したな。では、お手並み拝見といこうか。


  「降霊召喚門設定。対象者榊原加奈子。召喚!」


すると、かすみの術式に反応して、霊体の代わりに榊原加奈子が会話を始めることに。先ずはかすみが問いかける。


  「あなたは誰ですか?」


  「・・・わ、た、し、は

   ・・・、わ、か、ら、な、い」


  「では、なぜ榊原さんに取り憑いているの?」


  「・・・こ、の、ひ、と、は

   ・・・に、て、い、る」


うん?似ているって、何だろうと疑問に思う玲とかすみである。


  「似ているとは、あなたの家族ですか、

   あるいは姉妹ですか。

   それとも、友達ですか?」


  「・・・い、も、う、と」


妹?かすみに小声で「榊原さんにお姉さんっているの?」と尋ねるも、お手上げポーズ。この時玲はある質問をした。


  「あなたは、どこに住んでいましたか?」


  「・・・わ、か、ら、な、い

   ・・・や、ま、お、く、」


どこかの山奥ということか。ちょっと待ってて、とかすみに言い置いて、玲は部屋の外に出る。後ろから、「えー、一人にしないで!」とのかすみの叫び声が聞こえるもここは無視した。そして、外で待機していた部長の稲垣に榊原さんの親族かまたは榊原さん自身がどこか山奥に住んでいたかどうかわかるか、と尋ねた。流石に直ぐには答えられないので、稲垣は後で部員名簿を探して調べることに。ただ、そんな個人情報が載っている可能性はかなり低いと思われるが。と、そのとき、同行していた西脇まど香が「あのー」とおずおずと手を挙げた。そして彼女の言うには、榊原加奈子の実家は確か○○県の中ほどにあり、結構山が多いと聞いたことがある、とのこと。そうすると、彼女の実家に関係する何かと言うことになる。何れにしても、今直ぐ解決は出来ないので、少し時間が必要だということを部長に伝え、そのまま部屋に戻ることにした玲である。


  「かすみ、状況は分かったが、

   今直ぐの解決は難しい。

   一旦ここで切り上げて、

   急ぎ彼女の実家に急ごう!」


と提案し、かすみもただ頷くだけで同意した。そこで一旦術式を解除し、元の状態に戻すことに。ただし、榊原加奈子は相変わらず放心状態のままだが。とりあえず、再び外に出て、玲は稲垣に伝える。


  「今回は一旦ここで終わりますが、

   僕らはこれから榊原さんの実家に

   向かうことにします。

   すいません、実家の正確な場所とかは

   分からないでしょうか?」


  「そう言えば、緊急連絡先の電話番号を

   書いてもらっていたから、

   住所は分からないけど、

   電話番号なら分かるぞ」


と言って、スマホの電話帳に登録してある榊原加奈子のメモ欄を見て、緊急連絡先の電話番号を玲に教えた。念のため、稲垣が市外局番をネットで検索したところ、やはり○○県の中部にある池山町というところにヒットした。これで、大体の目的地は分かった。


  「最神、物部、何とか頼む。

   あと、彼女のことはこちらに任せてくれ」


一旦、そこで解散し、玲とかすみは現地に向かうため、その準備をするのであった。



 さて、今回現地に向かうにあたり、以前の卒論調査のように車で行くことも考えたが、ここは折角なので、玲の転移術を使っていくことにした。勿論、長距離転移は初めてであるが。そこで、かすみには準備を整えたらうちに来てと伝えておいた。ただし今回は転移するので、日帰り荷物でも十分なため、何時も使う肩掛けカバンで行くことにしていた玲である。午後1時少し前に、玄関チャイムの音が鳴り響く。ドアを開けると、そこにはかすみが立っているのだが、その脇にはピンク色の小ぶりのスーツケースが。いや、それよりも、何だその恰好は!危うくスルーするところだった。とにかく、かすみの格好が…

黒のロングコートに黒のパンツ、中は白い襟付きブラウスとその上に赤いベストを着用した、何かのアニメか漫画に出てきそうな衣装。勿論足元も黒の短ブーツ。そんな衣装でこの顔は、本当何かコスプレイベントで撮影しているのですか、と勘違いされること間違いない。


  「かすみさん、なんでしょうか、その恰好は?」


一応丁寧に尋ねたが、一瞬ジロっと睨み返され、何か問題でもございますかしら?と聞こえてきそうで一瞬恐怖を感じた玲である。そして


  「ねぇ、ちょっと、早く部屋に入れさせてよ!」


と言いつつ、その恰好でスーツケースと共に入って来た。


  「かすみ、その恰好とそのスーツケースで行くの?」


はぁ?何を分かり切ったことを聞くんですか、あ、な、た、は。と呆れ返られた玲であるが、今日は転移で行くから日帰り荷物位でいいよ、と言われた途端、


  「はあ?何でそれを早く言ってくれないのよ。

   何持っていこうか、着替えどうするかで、

   準備するのに時間掛かったんだぞ!

   わしの時間を返せ!」


と叫んで、玲の首を絞めてくるかすみである。まあ、怒るのは当然だろう。これは玲に問題あり。


  「ゴメン、ゴメン、

   別に悪気はなかったんだけど、

   ちょっと伝え忘れてた」


  「はあ?そんな大事なことを伝え忘れますかね?

   玲、ついにあんた、

   アホになったんとちゃいますの」


うー、酷い言われようだが、これも玲の自業自得というもの。唯々、黙ってゴメン、ゴメンと謝って、かすみの怒りが収まるのを待つしかないようで。とりあえず、一通り怒り倒したかすみは漸く落ち着いて、スーツケースを台所の隅に置いておき、背中に背負っている小ぶりのおしゃれリュックのみで向かうことになった。いや、それよりも、絶対スルー出来ない問題が解決してません。


  「ところで、かすみさん、

   その恰好はどういうことでしょうか?」


  「あー、これ、ちょっとね。

   ほら、美少女降霊術師としてやっていくには、

   それなりの恰好が大事だと思うんで、

   まあ色々と試してみまして、

   私的にはこれが一番しっくり来たんで、

   これを正式な制服とすることにしました」


ヘー、ソウナンダ。いや、もうこれ以上何か言うのは止めようと、思考を放棄した玲であった。



 そしていよいよ転移を行うことに。先ずは転移門を設置するが、今回はシンプルなアニュラス型を空間に設置。なお、大人数での移動の場合は、アニュラス型を地面に設置して転移するのが一般的であるが、今回は二人だけなので、先ずはこのスタイルで移動することに。次に転移先に転移門を設置することになるが、当然どこに設置しても良い訳ではない。森の中だと、帰るときに転移門を探す必要があるだろうし、人の家の中は当然NG。見ず知らずの人間がいきなり家の中に現れれば、そく警察行きが確定。そこで転移先を注意して探す必要があるが、今回は町の外れにある神社の近くに設置することを決める。転移門にサーチの術式を入れて転移開始。すると玲は自分の部屋に居たまま、召喚門から映し出される目的地に設定した神社の境内付近の映像を眺める。すると横からかすみがのぞき込んで、


  「うわー、すごいね、転移って。こうやって、向こうの景色とかが見れるんだ。でも、まだ行けないんだよね」


と感動していたが、どうも境内には人が多そうなので、少し移動することに。転移門に記述される座標を少し変えて、再度サーチする。今度は神社の裏手にある山に少しだけ上った所。木々の生い茂る雑木林の中だが、ほぼ目の前に神社の拝殿の裏側が見えるので、迷う心配はない。と言うことで、ここに設置することに決めた。そして、いよいよ初の長距離転移を始めることに。二人とも靴を履いていざ転移門の前に集まる。


  「かすみ、用意はいいかい?」


  「うん、大丈夫だけど、転移って一人ずつするの?」


  「それでもいいけど、不安なら手を繋いで一緒に行ってもいいよ」


  「うへー、おっさんと手を繋ぐのーー。何かー、キーモーイー!」


と嫌々する子供のように駄々をこねだすかすみに対し、軽く頭に手刀を叩き込む玲。痛っと頭を押さえて叫ぶも、「何がキモイだ!」と注意して、無理矢理手を繋ぎ、いざ転移門を潜った。キーンとか、ヒュイーン、とかの効果音が発生することは無く、二人は瞬時に目的地に到着。いきなり目の前の景色が玲の下宿の台所から晩秋の気配を色濃く感じる雑木林に変わったので、感動する時間は遅れてやってきた。


  「ねえ、何かさ、ドラちゃんの

   どこでもドアってこんな感じになるのかな、

   と思ったんだけど」


と国民的アニメドラ〇もんを使って感想を述べるかすみである。


 さて、今は午後1時を少し過ぎた時間。そう言えば、昼飯何も食べてないな、と言うことでかすみと近くの飲食店に向かうことに。ただし、ここは町から少し離れた神社なので歩くには少しきつそう。そして案の定、かすみはこの衣装で歩くのは大変だから嫌だとか駄々をこねる。じゃあ着てくるなよ!とは口が裂けても言えない玲である。そして、今日は本当によく駄々をこねるかすみであるが、かく言う玲も歩くのはちょっとと遠慮したくなる。そこで、再びドラちゃんならぬレイちゃんが登場し、召喚門からある物を召喚する。それを見たかすみは目を丸くして、


  「えっ、これうちのチャリじゃないの?」


そう、かすみ愛用のチャリンコ。実は玲はかすみの自転車を召喚登録していたのである。そこで、かすみ愛用チャリを2台召喚して、いざ飲食店へ。


 さて、街のメイン通りに到着した時、丁度行く手に見える大衆食堂が開いていたので、そこで昼食を済ませることに決定。店内はピークを過ぎたのか客が少なかったので、空いている席に着いてかすみはカレーライス、玲はラーメンはあったが好物の塩ラーメンではなかったので、最近ちょこちょこ食べているカツ丼を注文した。ただし、ここでも、かすみの衣装は注目の的となってしまった(が、これと言った嫌がらせなどはなかった)。さて注文した品物が届くまで、どこに向かうかを決める作戦会議をすることに。ただし、小さな町とはいえ、闇雲に走り回っても埒が明かないので、榊原と言う家があるかどうかを探すことにする。丁度かすみの頼んだカレーライスを年配の女性店員が持ってきたので、榊原さんの家を探しているが心当たりはないか聞いてみることに。だが、残念、知らないとのこと。それから、玲のカツ丼も来たので二人で少し遅いランチを堪能し、会計をする時にレジにいた年配の男性、多分店主だろう人にも聞いてみた。すると、店から南の方に行った信号の少し先に1件あるよ、と教えてくれた。どうやら、飲み友達のようだが、そこには店主と同年代の男性とその奥さんが住んでいることも教えてくれた。そこで、お礼を言って、教えてもらった場所に向かうのであった。



 信号を越えた先を一軒一軒調べていると、表札には[榊原]と書いてある平屋の一軒家を見つけた。そこで、早速呼び鈴を押す。暫く待つと、年配の女性が出てきたので、かすみから来訪の目的を告げてもらうことに。一瞬きょとんとするが、


  「ああ、加奈ちゃんな、その子やったら、

   確かうちの親戚にいたなあ。

   うーん、確か、上池山ってとこに

   住んでんでねぇかな。

   ちょっと待っててくれな。おーい、爺さん」


と言って奥さんは旦那を呼びに奥に戻っていった。暫く待つと、夫婦で玄関口までやって来たので、旦那に来訪の目的を告げる。そして


  「うん、確かに加奈ちゃんなら、

   あっこに住んでたな。

   今はどっかの大学に通ってんでねぇかな」


では、やはり上池山の榊原家が加奈子の実家なんだと確信する二人。そこで、加奈子の実家の場所を教えてもらい、スマホの地図で確認してから目的地を設定する。そして、こちらの榊原夫妻にお礼を言って、出発するのである。ちなみに、上池山の加奈子の実家へは、今来た道を戻って更にその先の方向になる。しかも距離としては3km程。なかなかの距離であるが、そこはかすみのチャリのお陰で移動は比較的楽。しかも天気が良く、11月にしては暖かい気候のため、ちょっとしたサイクリング気分になるのである。


  「♬サイクリング、サイクリング、

   ヤッホーヤッホー」


と若干調子はずれな音程でも気にせずに歌うかすみである。一体何しに来ているのやら。


  「かすみ、そんなに呑気にしてて大丈夫か?

   僕らは榊原さんに取り憑く霊の

   除霊をするために来たこと忘れてないよな」


  「ふん、ふーん、当然分かってますよー。

   でもね、こんなに気持ちのいい日に

   サイクリングするんだから、

   少しは楽しませてよね」


まあ、目的を忘れてなければ、取りあえず大丈夫だろうと、かすみに対する不安を抱えつつも、先を急ぐのであった。



 およそ30分程自転車を走らせて、何とか目的地である上池山の榊原家に到着した。加奈子の実家は、二階建ての和風の一軒家。広い敷地の周囲を生垣で囲い、庭には楢(なら)の巨木が聳(そび)える、旧家を思わせる雰囲気が漂う。玄関口に掲げられている表札には家族全員の名前が書かれており、その中に「加奈子」の文字を発見し、この家が加奈子の実家であることを確信する二人である。そこで、呼び鈴を押して、玲が外から「ごめんください」と声を掛けてみる。暫くすると、「はーい」と若い女性の声が二人の耳に届く。そして、玄関の引き戸が開けられると、そこには高校の学生服に身を包んだ女性が立っていた。そこで、二人は自己紹介をして、榊原加奈子の様子を学生服の女性に伝えることにした。すると、その女性、加奈子の妹の恵(めぐみ)、が驚きで目を見開き、口を両手で覆って唖然と立ち尽くすのである。恵の突然の驚きの表情に戸惑いをみせるかすみ。


  「え、えっと、恵ちゃん、大丈夫?」


かすみの問いかけで我に返る恵であるが、なぜそんなにも唖然と立ち尽くすのか玲とかすみには知る由もなかったが、恵には何かしら思い当たることがあるようで、後でその理由が明らかにされるのである。


  「どうやら、ビンゴね」


と玲の耳元で囁くかすみである。恵は、お茶の準備してきます、と言い置いて一旦台所に下がっており、二人は恵に案内された応接室に二人きりでソファーに腰掛けて控えている。やがて、お茶を載せた盆を持って恵が入ってきてお茶と茶菓子をテーブルに置き、彼らの正面のソファーに腰掛ける。さて、どう切り出すか?


  「ねえ、恵さん。お姉さんの加奈子さんが

   霊体に憑依されている件だけど、

   何か心当たりがあるのであれば、

   教えて欲しいの。

   信じてもらえないかもしれないけど、

   私たちは、これでも霊体を見ることが

   出来る能力があるの」


かすみはストレートに用件を切り出したが、この問い掛けが良かったのか、恵は落ち着きを取り戻した感じになって話し始めるのである。


  「皆さんの事は姉から聞いています。

   何でも、夏休みに大変な目に合われたとか。

   それで皆さんが霊能力を持つようになったと

   興奮しながら姉が話しておりました」


あらら、そんな風に伝わってましたか、とかすみの弁。


  「それで、今の姉の状況ですが、

   どうなんでしょうか?」


と言うことで、榊原加奈子の自宅での様子と、霊体に憑依されている加奈子の言葉を伝えた。すると、


  「実は、何となく関係あると思うようなことが、

   少し前にあったんです」


と言い置いてから、恵が語るのであった。ちなみに、この話は恵が加奈子から直接聞いた話ということでよく覚えているのだとか。



 さて、この話は、加奈子が子供の頃、丁度小学校に行き始めた頃から始まる。まだその時は、ここからもう少し山に近いところに家があった。そして、その近所に母と娘の二人で暮らす家もあった。その家の娘は、中学1年位だったようで、加奈子はよくお姉さんと呼んで遊んでもらったりしていた。当時、その近辺の子供は彼女達二人だけだったため、加奈子はお姉さんと一緒に少し山を下りたところにある小学校までよく登校時に連れて行ってもらっていたという(帰りは一人の時もあれば一緒に帰って来るときもあったとか)。そんな環境のためか、加奈子にとっては本当のお姉さんのように親しんでいたが、ある時加奈子は今のこの家の所に引っ越すことになったという。そして、それから何年か経ったある日(詳細な年月日は不明)、何台ものパトカーが当時住んでいた山の方に向かうことがあったという。当時の加奈子には分からなかったが、実はその時、お姉さんの居る家で一家惨殺事件があり、母親とお姉さんがめった刺しの状態で発見されたという。犯人は、当時お姉さんが付き合っていた年上の男子大学生だったらしく、痴情の縺(もつ)れからの怨恨で犯行が行われたという。そんな凄惨な現場になったお姉さんの家は誰も住む人がいなくなって廃屋となり、その後幽霊が出ると噂が立ち、肝試しに来る学生らの多さに地元の人は大層困り果てていたという。そして、その事件に関しては、流石に加奈子の両親もそのお姉さんが娘を妹のように可愛がっていたことを知っていたため、加奈子には一切黙っていたという。ところが、今年の10月の連休中に加奈子が地元に戻ってきた時、地元の友人から心霊スポットに行こうと誘われたと言う。心霊マニアで大学の心霊サークルに入っている加奈子は、ちょっとワクワクした体験ができると期待して、友人について行くことを決めた。しかし、幽霊屋敷と言われる廃屋に近づくに従い、そこがかつてお姉ちゃんが住んでいた家だと思いだし、ビックリして怖気づく。当然、加奈子はそこがなぜ心霊スポットになっているのか理解できないため、友人に訪ねたところ、先の事件の話をしたのであった。そのため、加奈子は更にパニック状態になり、うっかりその家の方に走って行ってしまったという。そのため、一緒に居た友人は慌てて加奈子を探すも見つからず、急ぎ山を下りて加奈子の両親や警察に連絡して、廃屋がある一帯を捜索したのだそうだが、その日は何も見つからず。しかし、翌朝には加奈子は何事もなかったように家に戻って来たのだが、その廃屋で自分がどうなったのか、どうやってこの家に戻れたのか全く記憶が無いという。そしてその時に、どうやらお姉さんらしき霊体と遭遇し、憑依されたのではないかと推測されたのである。


 話を聞き終わっても、玲とかすみは、お互いに腕組みをしたまま、暫く声を出さずに沈思黙考することになった。そして玲とかすみは、徐(おもむろ)にお互いを見つめて、一言『そこに行ってみようか』と声を同時に発した。


 恵からその現場となった廃墟のある場所を教えてもらい自転車で行こうとしたが、意外と坂道がきついため、自転車を押して歩くことに。


  「あっ、そうか、自転車押さずに

   召喚解除すればいいんだよ」


と言って、玲が召喚解除すると、自転車は綺麗になくなった。すると、かすみは透かさず


  「おい、玲、もっと早く解除しろよーーー。

   ここまで押してくるのも大変だったんだぞーーー」


と暴れ出す始末。いや、確かにこれは玲が悪い。そこで、玲はかすみに平謝りするのであった。異様な話のあった舞台に向かおうとするのに、この二人には一切の緊張感はない。そして、1km程の山道を登りきったところで、道路が平らになり、その道路に沿って何軒か家が建っているのを確認した(ただし、住民の気配はなさそう)。そして、問題の廃屋はその道路の一番奥にあった。玲とかすみは、その廃屋の周囲を捜索したが、召喚門は見つからず。また、廃屋の内部にも召喚が行われたとか、召喚門の痕跡なども一切認められなかった。


  「そうすると、かすみの時の降霊転移門が

   絡む事件とかではなさそうだね」


玲とかすみは、加奈子の行方不明をかすみの時のように召喚門が関係しているのではないかと推測したのである。だがこうして現場にいると、その痕跡はなく、杞憂に終わったのであった。


  「そうなると、お姉さんの霊体は、

   亡くなってからもずっとここに

   留まっていたのかな」


そして、昔一緒に遊んだりしていた妹みたいな加奈子が現れたことで、つい懐かしさから接近してきたのだろうか。ただ、そうすると、何をもって加奈子からその霊体を引き離せばいいのだろうか?そこで、玲は


  「とりあえず、廃屋の中も含めて

   この付近を調査してみよう」


と提案し、この近辺を手分けして調査することにした。まず、かすみは廃屋内に入るが、天井が所々崩れており、その破片が床に散乱していることで下に何が隠れているか調べるのに結構苦労している。一方の玲は、外回りを中心に、そこから藪の中まで探索範囲を広げるも、特にこれと言った物はない感じ。


  「ねぇ、玲、ちょっと来て!」


突然かすみの大声が聞こえて来たので、急ぎかすみのいる廃屋内部に向かうことに。


  「この落ちて来た天井板の下に何か…

   アルバム?みたいな物が見えるんだけど」


と言って指さしたところを確認すると、アルバムでよく見かける分厚いページの束が確認できた。


  「じゃあ、この板の塊、

   少し持ち上げてみるから、

   そのアルバムを引っ張り出して」


と言って、全力で持ち上げようとするもビクともせず。そりゃ、非力で筋肉もない最神玲の肉体では到底無理。どうしようと途方に暮れるかすみであるが、玲は直ぐにあることを思いつく。


  「召喚!!」


と突然叫んで召喚したのは、ケンタリアの革鎧に身を包んだマッチョな兵隊5名。そして彼らに天井板を持ち上げてもらうと、簡単にどかすことが出来た。しゃがんでいたかすみは、上を見上げながら口をあんぐり開けて、ただその作業を見守るだけだった。


  「かすみ、そのアルバムを確保して!」


と玲がお願いするも、まだ見惚れたまま動こうとしないかすみ。全く、


  「おーい、かすみさん、

   き、こ、え、ま、す、か?」


  「あっ、ご、ごめん、

   急にこの人たちが現れたんだもん、

   ビックリしたわよ、もう!」


と謝罪しつつ、何か急に腹が立ったのか、玲に八つ当たりするかすみである。決してマッチョに見惚れていたのではないと念押ししつつ。これ以上かすみを刺激して制御不能にしないためにも、彼らの召喚を解除する。


 さて、アルバムを無事確保して早速中を確認すると、そこには目当てのものが見て取れた。


  「これだね。これが加奈子と

   お姉さんを繋ぐ絆かな」


絆ね、うん、そうかもね。そこにあった写真には、凶行により命を失った女性の中学生の頃の姿と、その手前には小学校低学年の頃の加奈子の姿が映されていた。しかも奇跡的に破れや汚れなどもなく。撮った場所は、この家の玄関前か。そして、他に数枚ほど、その女性と加奈子が遊ぶ姿などが写真に収められていたが、こちらは雨水などで変色したりふやけて所々破れたりしていた。とりあえず、二人が並んで移されている写真をアルバムから綺麗に剥し、それをかすみが持ち歩いてるノートに挟んでおくことにした。


  「じゃあ、これを持って一旦戻るとしようか」


そう言って、この場を離れることにした二人であった。その後、使い捨ての短距離転移門で神社に移動し、そこから設置していた長距離転移門で玲の下宿に無事戻って来て、転移門の解除をする。


  『あー、疲れた』


と二人の口から同じ言葉が同時に発せられた。だが、まだ終わっていない。ただし、今直ぐに榊原加奈子の所に向かうと、何でこんなに早いんだ?と稲垣らに疑念を持たれて突っ込まれることは確定なので、明日の昼頃に向かうことでかすみと合意した。


  「本当は今すぐ向かいたいけど、

   確かに要らぬ詮索は避けた方が無難よね」


  「うん、そう思うよ。

   それに、もう夜だから、

   どこかに何か食べにでも行く?」


それよりも、まだその恰好のままでしょうか、かすみさん。


  「分かったわよ。

   向こうの部屋で着替えるから、覗くなよ!」


誰がそんな変態なことするか!とかすみの後ろ姿に向かって、ぴしゃりと言ってやるのであった。



 さて、翌日の昼前、玲はかすみの住むマンションへ向かった。なお、稲垣悟と西脇まど香には、今朝連絡して、今日の昼12時に榊原加奈子の部屋の前に集合するように伝えておいた。そして加奈子の住むマンションに向かう途中でかすみを迎えに来たのであった。


  「おーい、かすみ、下で待ってるよ」


とマンション玄関に設置されているオートロック解除パネルで、かすみからの返事が聞こえたのでそれに答えた玲である。10分程すると、かすみがエレベーターから出て来た。今日は、まともな服装だ、となぜか内心ホッとする玲である。


  「お待たせ。じゃあ、行こうか」


  「写真は持ってるよね?」


  「当然でしょ。私を誰だと思ってるの。

   美少女降霊召喚術師の物部かすみ様よ。

   えーい、頭が高――い」


ちょっと、何やら変なセリフが混ざってますが、美少女って江戸時代のですか?


 約束の時間に榊原加奈子の部屋の前で稲垣悟と西脇まど香と合流し、まど香に鍵を開けてもらい、先ずは玲とかすみの二人だけで中に入ることにした。部屋の中は昨日と比べて少し片づけられているようで、どうやらまど香が頑張って片付けていたようだ。加奈子に取っては有り難い友達だ。そして、加奈子はベッドに眠るでもなく、目を見開いた状態で横になっていた。


  「加奈子。私が分かる?」


かすみが問いかけるが、加奈子からの返事はない。


  「かすみ、召喚門を展開して!」


うん、と頷いて、早速降霊召喚門を展開する。もうかなり慣れたようで、一連の動作に無駄がなくなって来た。そう言って褒めると


  「もう、煩いわね。集中できないでしょ!」


と怒られる玲である。いや、これは照れ隠しじゃないの、と推察する玲である。降霊召喚門が加奈子の居室で展開されると、加奈子の背後に霊体が佇む光景が見られる。さて、ここからが本番だ。かすみに写真を見せるように促すと、


  「加奈子。この写真だけど見覚えある?」


と言って寝ている加奈子の正面に写真を掲げる。と、その時、加奈子の目が何かに驚くような反応を示して大きく見開かれた。そして、加奈子の口からある言葉がかすれた声で吐き出された。


  「・・・お、ね、え、ちゃ、ん

   ・・・み、ち、こ、お、ね、え、ちゃ、ん」


その時、背後で揺蕩っていた霊体が突然暴れだして左右に大きく揺れ出した。そして、自らその名前を反芻する


  「・・・み、ち、こ

   ・・・み、ち、こ

   ・・・わ、た、し、は、み、ち、こ」


その声が聞こえたのかどうか、加奈子は突然起き上がり、じっと壁の上方を見つめるのである。玲とかすみには、確かに、その方向に霊体の顔らしき部分を見て取るのだが。


  「お姉ちゃん、お姉ちゃん、

   みちこお姉ちゃん!!」


と声高に叫ぶ加奈子。そして加奈子の瞳からは、大粒の涙が溢れだす。


  「お姉ちゃん、お姉ちゃん、

   会いたかった、お姉ちゃん・・・」


加奈子はお姉ちゃんにしがみ付こうとするも、その手は虚しく空を切るだけだった。だが、


  「・・・か、な、ちゃ、ん

   ・・・か、な、ちゃ、ん」


と抑揚はないが優しさの籠った言葉で加奈子に呼びかけつつ、その手で優しく加奈子の頭を撫でるのである。本当に仲の良かった姉妹だったんだなと、思わずにいられないかすみであった。そして、かすみもその目に涙を浮かべているのであった。だが、かすみには悪いが、ここは降霊召喚術師として仕事をしてもらわないと。


  「かすみ、感情に流されるのもいいが、

   君は降霊召喚術師なんだよ。

   これから自分の仕事をしなくてはならない。

   覚悟はいいかい?」


厳しくも何となく優しさの籠る玲の言葉がかすみに通じたのか、かすみは意を決して霊体を霊界に送りこむ術式を展開し


  「召喚!」


と叫ぶ。そして、何時もの如く、霊体は降霊召喚門を通じて霊界に送られたのであった。


 加奈子に取り憑いていた霊体は無事(?)霊界に送られた。そして当の加奈子は、本当に憑き物が落ちたためだろう、すっきりした表情を取り戻しつつあった。これで、一応は任務完了かな。それから、外で待っている稲垣とまど香に声を掛けて、無事除霊は終わって、今はすっきりした表情を取り戻したことを報告すると、まど香は一目散に加奈子の部屋へ駈け込んでいった。そして、安堵したのか、泣き笑いの表情を浮かべたまま力が抜けて加奈子の傍でへたり込んでしまった。それを見てかすみは、まど香の横に一緒にしゃがんで彼女の肩に手を回し、


  「まど香、あんたのお陰で加奈子は助かったんだよ。

   加奈子を見捨てずによく頑張ったね。

   私からも有難うを言わせて」


と声を掛けた。そして加奈子も、声をかすれさせながら、かすみとまど香に声を掛けた。


  「物部先輩、助けて頂いて有難うございました。

   まど香、心配かけてゴメンね」


かすみのこういう優しさが、後輩から親しまれ信頼されているんだな、としみじみ思う玲であった。玲は外で待っている稲垣の所に向かう。


  「さて、では、後のことは

   部長達に任せてもいいですか?」


  「ああ、取りあえず後のことは

   こちらで何とかするよ。

   君達には、本当に世話になったな。

   有難う。しかし、マジな霊能力者なんだな、

   君らは!」


最神玲ことカーンには、霊能力者とは何ぞや?という疑問符が湧いて出てくるのであるが、うーん、どうなんでしょうかね、と曖昧に答えるに留めた。地球人は霊体に何か特別な思いみたいなものがあるのだろうか、と感じる最神玲ことカーンであった。

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