地球転生編 2-15 最神玲の一日
最神玲の一日
ところで、普段最神玲はどのような生活をしているのか。まぁ、野郎の生活に密着しても面白くはなく、むしろ物部かすみの方に密着しろとのお叱りを受けそうだが、そこは彼女からNGが出たので、何とか交渉して次回OKとなるように鋭意努力中である。と言うことで、最神玲の一日を追ってみる。なお、最神玲となっているが、その実態はカーンフェルトであることを、ここにお断りしておく。
さて、玲の朝は意外と早く大抵6時には起床する。別にラジオ体操をする訳ではないが、早起きすると何となく得した気分になるからだとか。ちなみに、この時間かすみは爆睡中。玲は起きて直ぐにテレビをつけて、ニュースをチェックするのがほぼ日課となっている。その後朝食を取るのであるが、意外と自炊する方である。と言っても、朝はパンと卵とベーコンを焼いて、序にコーヒーを淹れるという、ちょっとしたホテルの朝食メニューみたいな食事をするのである。ただし、その作り方は独特というか、反則的ではあるが。そこには、玲というよりもカーンの召喚術師と言う職業と深く関係しているのである。召喚術師は、日常で使う大抵の物を買わずに召喚して済ますという反則技を持っている。カーンも例外ではなく、ケンタリアに住んでいた頃は、パンを焼く、卵とベーコンを焼く、コーヒーを淹れる、これらをそれぞれ専用の機械で済ませることが出来たのである。ただし、電気ではなくサモナルド独自のエネルギー源を使って。しかし、地球ではそれらを使うことは出来ないため、別の手段を講じることに。それは電化製品の召喚。ここで使用する電化製品は、家電量販店に行けば幾らでも召喚対象が存在するので、彼は何の遠慮も会釈もなく、勝手に召喚対象リストに加えて行ったのである。もしこんなことを定員が耳にすれば、万引きするな!と激怒され警察を呼ばれるかもしれないが、カーン本人はそれを盗むわけではないので、何ら罪の意識は発生しない。まぁ、ある意味、召喚術師と言う職業の特権みたいな感覚なのかもしれない。
ところで、召喚術師は基本的に何でも召喚することは可能である。それこそ、今の例にあるように家電や日用品はたまた自動車や家なども召喚することは可能である。ただし、触れた対象物上に召喚用の術式が表示される場合に限るが。一方、召喚術師が絶対に召喚していけない物が2種類ある。それは、生きた人間と飲食物。まず、生きた人間に触れても、そもそも召喚術式が表示されないため召喚対象には成り得ない。ただし、一つだけ例外がある。それは召喚対象との契約召喚をした場合である。例えば、恋人や家族のための用心棒として契約するなどは、倫理的にも問題はないので可能である。ただし、呼び出される方は、何時呼び出されるか分からないため、場合によってはトラブルになりかねないリスクはあるが(過去には、入浴中の召喚対象が呼び出されたケースがある)。また、契約召喚でも無理強いした隷属契約での召喚は絶対禁止されているが、これを破った場合召喚術師は極刑に処される。
一方、飲食物は実は召喚対象となり得る。ではなぜ絶対に召喚してはいけないのか。それは相手を騙す、または苦痛を与えるなどの、どちらかと言うと倫理的な問題に絡めて禁止されている。例えば、ここに玲の大好きな塩ラーメンがあるとしよう。この塩ラーメン、実は召喚して出てきたものである。もしこの事実を知らず、玲はラーメン屋で塩ラーメンを食べたとき、店主が召喚解除したらどうなるか。もし胃の中にある状況で解除されたら、それは玲のお腹の中から消えてしまい、結果として何も食べてないことと同じになり、空腹は満たされないままとなる。これは完全なる詐欺行為そのもの。一方、もし完全に消化されて残りかすが排出されたときに召喚解除したらどうなるか?この場合、ラーメンから得られた栄養分が消えるのは勿論、他の酵素やたんぱく質と反応を起こしている場合、それらが異常をきたし、最悪癌化することがある。つまり苦痛を与えるのである。従って、召喚術師は学院時代からこの点は徹底的に頭に叩き込まれるのであるが、時に相手に苦痛を与えるために故意にする場合も出てくる。この場合、もしこの事実が発覚したら、その召喚術師は大概死刑となる。これはケンタリアだけでなく、ジンギスタ帝国も同様であり、召喚術師にとっては最も重い罪となる。
さて、何れにしても、そのような反則的な技で召喚対象をゲットして、いざ自宅で初めてそれを使った時、そこで大きな落とし穴が待ち受けていた。それは電力の消費問題。玲の下宿は2階建て軽量鉄骨造りの一般的なアパートである。そして、大概そう言ったアパートで使用できる電力の上限は知れている訳だが、カーンにはそのような概念が全くないため、一度にこれらの電化製品を使った時、案の定ブレーカーが落ちて停電する羽目に陥った。ここで、一般的な我々日本人は、ブレーカーが落ちたら使っていた電気器具のスイッチを切って、ブレーカーを上げるという電源回復を行うが、カーンにはそれすら分からない。そのため、あたふたするのだが、こんな時に便利なのが、「カスミもん」。早速相手が夢の中だろうがお構いなしに電話をすることに。そうすると、当然のことながら、かすみからの文句、文句、文句。一頻りかすみの苦情が続き、漸く落ち着いたころで本題に入る玲。この辺は、かすみの扱いになれたものである。そして、またかすみの文句が続くのであるが、最終的には玄関の天井付近に箱があり、そこを開けると[OFF]となっているスイッチがあるから、それを[ON]にしろと教えてもらい、無事問題解決。でその日は無事朝食をゲットしたのであったが、実は悲劇はこれからが本番。卒論の準備で調べ事をした結果をパソコンに纏めているのだが、いつもの癖でそのままにして就寝。そして今からノートパソコンのスリープモードを解除してログインしようとしたところ、画面は真っ暗なまま。あれ、どうしたんだ、と呑気な声を出して調べると、どうも電源が落ちていたことに気づく。えっ、何で電源落ちるの、これってバッテリーで動いてるはずだよね、と思ったのだが、実はそこにはひとつ大きな罠が。それはバッテリーの劣化問題。玲のノートパソコンは大学に入学した時に購入しているのだが、それから3年以上経過しており、しかも事故前の玲は結構雑に扱っていたことも有り、結果としてバッテリーの劣化が進行してしまった。それを知らずに使い続けた事故後の玲は、先程のブレーカー落ちによる停電でノートパソコンも電源が落ちてしまったことを思い知る羽目になる。ある意味、自分の蒔いた種を狩ることになったのだが。
と言う酷い体験が過去にあって、それがトラウマになっている今の玲ことカーンは、一つずつ電化製品を使って朝食の準備をするのであった。そして、無事朝食を済ませた後は、平日であれば着替えて大学に向かうのである。ただし、必須単位の授業に出ないといけないとかはなく、ほぼ図書館に直行する日々である。卒論の性質上、文献調査も重要ではあるものの、実はそれ以上に玲ことカーンは、この地球にある様々な書物を吸収することに明け暮れているのであった。彼はそんなに読書家なのか、と疑われる方もおられるだろうが、そうではなく、文字通り「吸収する」のである。つまり、彼の得意な召喚術による吸収を。大抵の書物は召喚対象となるため、大学にある書籍は全て召喚可能である。そこで、まずは興味のある書籍を中心に「吸収する」のである。ちなみに、吸収した書籍は、何時でも召喚して読むことが可能であり、その点では今流行りの電子書籍みたいな感覚に近いだろう。ちなみに、今の彼の興味の対象は軍事関係。やはり元居た世界との関連か癖になっているのか、その分野には大いに興味があるのだが、それも元の世界に戻れなければ宝の持ち腐れとなる。ちなみに、ちょっと前までは料理関係の本などと言う、こんな書物も大学の図書館にあるのか、というものを吸収していた。更にそれ以前は、少し真面目にこの世界の科学、特に物理と化学関係の書籍を吸収していた。とにかく、図書館は玲ことカーンにとっては宝の山なのであった。
そんな夢のような時間を図書館で過ごしつつ、昼には大学にある学食でランチを取ることに。この時は偶にかすみと待合せたり、後は心霊サークルの後輩たちとばったり会ってランチをしたりするが、ここで玲ことカーンが食べるのは、大抵ラーメン。それも塩ラーメン。なぜかこれに嵌る玲である。ただし、何時も塩ラーメンがある訳ではなく、醤油や豚骨、味噌ラーメンがメニューに出ることがあるが、玲は殆どスルーする。それくらい、なぜか塩ラーメンに嵌っているのである。では、塩ラーメン以外の時は何を食べているのか?それは、大抵の男子大学生が好きな肉系の定食。でも、塩ラーメンと焼肉とどっちが好きかと玲ことカーンに尋ねると、迷わず塩ラーメンと答えるだろう。なぜそこまで塩ラーメンに拘るのか?実はサモナルドというかケンタリアの特殊事情と関係している。サモナルドには南方にサモナレイクと言う塩湖があるが、そこ以外でも岩塩として北のネオヒマラヤ付近では豊富に採掘される。ただし、ケンタリア近郊では残念ながら岩塩鉱は見つかっていないため、ネオヒマラヤ付近で採掘したものを商人たちが長大なキャラバンを組んで運んでくることになる。そのため、採掘と運搬のコストがかかり、ケンタリアでは塩は結構貴重な素材となったりする。勿論、サモナルド人も塩分摂取は必須であるため、ケンタリア人も塩を使った料理をするものの、貴重な素材感で使用量を抑える傾向にある。そのため、ケンタリア人には高血圧で苦しむということは無く(一部上流階級を除く)、意外と健康な人たちなのである。カーンも例外ではないが、塩の貴重さからその接種を抑えていた反動で、地球に転生してから、塩分の多い塩ラーメンに嵌ったのであった。何と罪な食事であるか。
さて、ランチの後はまた図書館に籠って只管吸収に励む。これを大体午後6時くらいまで行い、その後帰宅する。ちなみに、一般的な大学生はこの時間からバイトに励むのであるが、玲にバイトする意思は無い。何故ならバイトで必要なスキルが無いまたは有っても使えないためであるが、実は当面の生活には困らない生活資金があるためである。その資金とは玲の交通事故による保険金であり、現在でも数百万円が口座に残っている。そして、玲ことカーンは贅沢をする性格ではないため、一月の生活費は家賃と光熱費と食費を合わせても10万もいかないのである。
大学から帰宅する時、大抵は夕飯の準備を兼ねてスーパーによるのだが、そこでは専ら酒とそれに合うつまみを買うだけ。ただ最近はかすみから野菜を取れとしつこく言われるので、サラダセットみたいな物を購入することも有る。ところで、玲ことカーンは、実は米は殆ど食べない。決して嫌いではなく、でも進んで食べることは無い。どうしてかと尋ねても、何かね、と言う返事しか来ないだろう。これに関しては、彼の好みに嵌らないからとしか言いようがない模様。尤も、チャーハンとかカレーとかは好んで食べるので、全く嫌いではなさそうだが。
帰宅後は一人で晩酌しながら、テレビを見て、風呂に入って後は寝る。それが只管繰り返されるのであった。ちなみに、この生活はかすみの妨害がある、ではなくかすみが居ない場合の話。かすみが一緒の場合は少し違ってくるが、でも基本は変わらず。なので、まぁ、毎日恙なく平和に暮らしているのである。




