プロローグ
「おい、狙撃班、奴をしっかり向こうに追いたてろ」
「わかってるよ。ボス。
おい、カーサ、足元に一発かませ!」
獲物を狙う矢が狙撃班から一斉に放たれた。だが、全て命中せずに獲物の足元に刺さった。全部外れたのか?いいや、これが正解。彼らハンターは獲物を狩るためにここに居るが、獲物を殺すためではなく生け捕ることが目的。そして、生け捕るために、獲物をある方向に追いたてるのが、彼らハンターの役目である。
「剣術班、こっちに来させないように
しっかり持ちこたえて追い返せ。
とにかく、奴を捕獲班の所に追いたてろ」
「うっ」
「どうした狙撃班?」
大勢のハンターたちを纏めるのは、このチームのリーダーであるナイゼルという大柄な男であり、今は高台に上って眼下で繰り広げられている狩りの様子を双眼鏡を通して見守っている。そして狩の対象は、体長10m程、背中に鋸刃のようなプレートを持つ4足歩行の猛獣ドラベルン。もしここに地球人がいたら絶滅した恐竜ステゴサウルスを想像するであろう猛獣である。さて、ナイゼルの手元には一台のトランシーバーがあり、このトランシーバーから配下の持つトランシーバーへと次々に指示が飛ばされていく。
「あの野郎、火炎を吐いてきやがった。
そんなの聞いてないぞ」
「火炎を吐いただと?
てことは、こいつは幻獣クラスだぞ。
おいおい、とんだ大物だぞ、みんな!
とにかく火炎を警戒しつつ包囲して、
何とか捕獲班の所に追いたてろよ。
成功したら莫大な報酬が待ってるぞ」
「くそ、簡単に言いやがるぜ、うちのリーダーはよ。
おいしい話には用心しろって言ってたじゃねーか」
「おっ、何か知らんが、あいつ、
捕獲班の方に走っていくぞ。
チャンスだ。必ず捕獲するぞ」
ここは、サモナルドという名の惑星のある国の近郊にある森林地帯。そして、この森林地帯を含む惑星全域には地球の恐竜に似た数多くの野獣や猛獣という獣が存在する。更に、これら猛獣と呼ばれる強力な獣を捕獲し、その地を支配する王侯貴族や有力商人、あるいは召喚術師と言った猛獣を欲しがる連中に高値で売ることで生計を立るハンターと言う者達もいる。そして、今回彼らが狙った獲物は、予想以上の大物、いわゆる幻獣に属する獣であった。これを生け捕れば、今後数年か10年位は働かなくても生活できるだけの報酬が約束されている。そのため、彼らは命がけでこれを捕獲せんと奮闘しているのである。そして、
「よーし、捕獲成功!
みんなご苦労。これを帝国に持っていけば、
高値で買い取ってくれるぞ!」
ヨッシャー!、オー!、今夜は宴会だ!と雄叫びをあげるハンター達。こうして、また猛獣が捕獲されたのである。
「召喚獣の準備は出来たか?」
「申し訳ありません。
現在、予定数の8割ほどになります。
ですが先程火炎を吐くドラベルンを
捕獲したとの報告を受けまして、
これを含めて幾つか予定外の大物を
とらえておりますので、
今のところ戦力としては申し分ないかと」
「いいや、予定外のものはあくまでも
イレギュラーとして扱え。
予定通りの数を全て整えるように。
それと今回試験的に運用している
双眼鏡と通信機はどうだ、使えそうか?」
「はい。遠方の様子を確認するのに双眼鏡は
必要不可欠との報告が上がっております。
また、トランシーバーと言う通信機ですか、
あれも意思疎通において見事に
機能しているとの報告です。
今後、これらの装備を各隊に持たせると、
戦術面で飛躍的な向上が期待できるかと」
「そうか。期待通りで何よりだ。
あれらは創成召喚で作り出したものだから、
機密が流出する心配はないしな。
では、召喚獣の件は予定通りの数を
全て整えるように進めてくれ」
「はい。必ずや早急に揃えて見せます。失礼しました」
部下が扉を閉めたと同時に男は立ち上がって窓辺に歩を進める。
「予定より少し遅れるが、
万全を期するに越したことはない。
これで漸くあそこに行けるな」
この呟きは手に持った葉巻の紫煙と共に上空に消えていった。もうじき始まる。