サモナルド編1-1 召喚の理
召喚の理
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召喚術師を召喚する方法に関する研究の経過報告
ケンタリア国防部召喚技術研究所第一研究部上席研究員
カーンフェルト・ミスラエル
第一研究部における研究の主眼は、召喚術師の戦術面での運用における2つの問題
1.召喚技術による兵力の増強
2.召喚対象を長時間維持
を解決するのが目標となる。特に、我がケンタリア軍は、専守防衛の理念の元に敵からの攻撃を防ぐことに主眼を置くため、防衛戦力の確保は喫緊の課題である。残念ながら、国力としての人口増加も見込めなくなる現状において、早急なる兵力の増強には召喚術師による兵力の召喚が切望されている。ところが、召喚術師により召喚される兵力には、質と量ともに大きなばらつきが発生し易い。しかも召喚に伴う召喚エネルギーの消費問題、つまり召喚エネルギーが召喚時よりも召喚対象を維持し続けることに多く消費される問題もあり、質量共に充実した兵力を長時間維持し続けるには克服すべき問題が山積していると言わざるを得ない。現在、当研究所においてこれらの問題を解決すべく各部で研究が進められており、今回はそのうちの第一研究部で研究中の研究内容、特に問題点1に絞った研究を報告する。
召喚技術による兵力増強において、最も簡単な方法は複数人の召喚術師を招集することである。しかし、前述の通り召喚術師の技量により兵力や兵数のばらつきが発生するなど、運用面で多くの課題が残されている。そこで、この問題を解決する方法の一つとして、我々は一人の召喚術師に召喚術師を召喚させて運用する方法に注目した。この方法では、召喚された召喚術師の技量は、元の召喚術師の技量と同じため、兵力のばらつき等は起きない。しかし、現状一人の召喚術師が召喚できる召喚術師は召喚エネルギーの消費量の関係で一人が限度とされているため、現状では運用の目途はたっていない(召喚エネルギーの問題は研究2で解決可能)。ところが、最近の研究で召喚術師Aが召喚術師Bを召喚した場合、召喚術師Bが何かを召喚するのに消費される召喚エネルギーは召喚術師Aとは関係なくBからのみ消費されるという研究が報告されている[資料1]。この研究結果に基づいて、召喚術師Aが召喚術師Bを召喚術師Bが召喚術師Cを…と召喚術師が次の召喚術師を召喚し、元の召喚術師も含めてそれぞれが兵士を召喚すれば、少ない負担で多数の兵士を確保できる可能性が示されている(これを直列召喚と呼ぶ)。なお、召喚された召喚術師のエネルギー量は元の召喚士の技量に依存するが、高い技量の召喚術師であれば当人の90%以上のエネルギーを持つ召喚体を召喚できることは、我々の予備実験で確認済みである。そして、召喚エネルギーの消費問題が解決されれば、一人の召喚術師が複数の召喚術師を召喚し、彼らが兵士の召喚を行うことも可能になるため、より大規模な兵力の運用が可能になると思われる(試算では数万は可能)。
そこで、先ずは直列召喚に関する実用試験を下記の日程で実施する予定である。
日時: 14旬20日
場所: ケンタリア国防軍付属演習場
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追記: 研究2を更に進めるにあたり、現在第5研究部から出向中のサリベリーナ・ツェルペスを、本プロジェクトに選任させるべく、正式に第一研究部所属に配置転換して頂きたくお願いいたします。
第一部主席研究員カーンフェルト・ミスラエル
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「カーン、起きてください!
そんなところで寝ていると風邪をひきますよ!」
「......う、うーん............あっ、あれ?
い、いつの間にか寝てたのか!?」
執務机に頭突きをする状態でそのまま爆睡していたカーン。何とか気合で起き上がったものの、額にはしっかりと丸く赤みを帯びた跡が残っている。
「徹夜で実験のまとめをしていて、
何とか経過報告書を仕上げたけど、ふぁ~、
出来たと安心したら一気に眠気に襲われたんだね。
いやー、起こしてくれてありがとう、サリ。
そう言えばもう一旬しないうちに冬が来るんだね」
ふぁ~、と両手を上げて体を伸ばしながらもう一度大きな欠伸をして答えるカーン。ここは、ケンタリア国国防部召喚技術研究所第一研究部のカーンフェルト上席研究員の執務室。特にこれと言った特徴のない殺風景な部屋の中には、必要最低限に置かれた机と椅子、来客用のソファーとテーブル、そして壁際に召喚術関係の本でぎっしりと詰まった本棚が置かれているだけ。観葉植物や絵画の類は一切なし、至ってシンプルな部屋だ。ただし、この部屋の主の性格なのか、机やテーブルには書類が散らかっており、ソファーの上には脱ぎっぱなしの制服が皺になるのも構わず雑に置かれたまま。こんなプチカオスな部屋に今、研究助手兼幼馴染であるサリベリーナが最新の実験報告書やその他の報告書を携えて入ってきたのだが、この書類の乱雑ぶりと相変わらずの仕事中毒状態に陥って机に突っ伏していたカーンを交互に見て、半ば呆れつつ書類や制服を片付けながら、ついつい心配になって声をかけてしまったのである。
「何呑気なこと言っているんですか!
それよりも、この状態を何とかした方が
良いと思いますけどね」
「あー、サリ、書類に触らないで!
って、あーあ、片付けちゃった。
乱雑に置いてあるようで、
実は自分なりの法則に従って
置いているだけなんだけどなー、はぁ」
「はい?片付けるのが苦手な人たちはよくそんな
屁理屈をこねるようですが、
綺麗にするのに何か問題でも?」
切れる寸前のサリを見ていたカーンは、
「いいえ、ありません!サリベリーナさん」
と答えるのが精一杯。ちなみに、これはほぼ何時もの光景である。毎度同じことの繰り返しをどうしてするのか理解できない、と言った雰囲気を隠すことなくサリは部屋を整頓しながら、淡々と話しを進めるのである。
「まあ、相変わらず上の方たちは
無茶振りしてきますよね。
今日中に報告書を出せとはね。
これだけ無茶振りする割には、
予算はケチるんだから、頭にくるわよ!」
「仕方ないよ。ここのところ実験も失敗続きで、
良いところ見せてないし。
まっ、予算ケチるくらいで済んでいるのを
よしとしないと。
そのうち、人を削るか、
ここを追い出されかねないからね」
「まあね、みんな何だかんだと
あなたに期待しているしね。
これが成功すれば国防に関しては
大きな進展に繋がるわけだし。
あっ、これ最新の実験報告書よ。
そこに置いておくわね」
「あー、有難う。あっそうだ、
何か飲み物持ってきてもらえると嬉しいな」
「はぁー?私はあなたの召使ではありませけど。
そういう事はご自分でおやりくださいね」
「あっはっは、ごもっともです」
カオス的な部屋の状況に若干切れ気味のサリを見て、かなり怖気づくカーンであるが、実はこれも何時もの光景。サリも別に本気で切れている訳ではなく、ただカーンの仕事中毒が気になって、一言二言嫌味らしきものを言ってみたかっただけに過ぎない。
「ところで、約束したこと覚えてる?」
「うん?約束?あっ、あー、勿論覚えているよ。
いやだなー、ははは」
"えーっと、何だったっけ。やばい思い出せない"
何かこいつ絶対忘れてるぞ、という女の直感が働くサリ。仕方がない、少しヒントを出すか。
「明日は、午後6時に中央公園の
噴水前で待ち合わせだけど、
忘れてないよね?」
「うん、勿論」
"あっ、そうだった、明日サリの誕生日に
二人で最近話題の舞台を見に行くんだった"
今思い出したんかい、と心の中で突っ込むサリ。尤も、突っ込みという表現がこの世界に存在する訳ではないのだが、自然と身についていたのは何とも不思議な話。それよりも久々のデート、少し気合を入れて準備しますか。
「さて、眠気が取れたので、
少し気晴らしに散歩でもしてきます」
「それなら、少し暖かい恰好した方が良いわよ。
この時期、朝は少し冷え込むからね。
それと、散歩から帰ってからでいいので、
こちらの実験報告書と
術式の改良に関する報告書にも
目を通して頂けますか?
特に術式関係の方は、
直ちに結果を知らせて欲しいと
せっつかれておりますので」
「ん?それくらいなら今見るよ。
どれどれ、あー、これとこれとこれはダメ。
これは問題ないけど、既に存在が知られている物。
これも、うーん、ここんところを
もう少し工夫すれば行けると思うけどね。
あ、これとこれもダメね。
はい、お終い。残念だけど
今回は殆どダメだったね」
「はぁー、相変わらず早いわね。
適当に見てそうで全部完璧なんだから、
何かむかつくは」
「へ?なんでムカつかれるんでしょうか?」
「知らんがな」
「それ、どこの方言ですか、サリ様」
本当に相変わらず適当に見ているようで全て完璧に処理するカーンである。これは常人の召喚術師には全く真似できるものではく、実は彼の能力に由来するものであるため、サリも流石にため息交じりの諦めモード。そのために、カーンから書類を受け取りながら一言毒づいたのであった。とりあえず、サリからの報告書に目を通し終わったカーンは、両の頬を手で叩いて自分に気合を入れ、そのまま椅子から立ち上がったところで、
「あっ、それと、散歩にはちゃんと
報告書だしてからにしてね。
そうしないと、あなたのことだから、
絶対忘れるわよ」
「はいはい、ごもっともです」
そう言いつつ、机の上にある報告書を封筒に入れ、使っていたタイプライターを召喚解除して、カーンはサリと共に朝の陽光が窓から差し込む部屋を出るのであった。
「そう言えば、明日はサリの誕生日なんだよな。
何をプレゼントしようか」
と独り言ちながら旧市街を散歩するカーン。収穫の時期は既に終わり、あと一旬もすると本格的な冬に入るが、今日はことの他少し肌寒い。サリの忠告通りもう少し着込んで来れば良かったかな、などと少し後悔を残しつつ、出来るだけ日向を選びながら街中をぶらぶら歩いている。あるいは、暖かくなるまでどこかで少し暖でも取りたいな、などと呑気に思ったりしているが、残念ながら朝も早い時間のため、お店はどこも開いておらず。この時間だと、新市街にあるトレジャーハンター相手の飲み屋が営業を続けているくらい。もっとも、この時間から酒を飲みたいとは思わないし、そもそもここから新市街の飲み屋街までは1時間近く歩かないとならないので、今はそちらに行くことはないが。そんなこんなで、あちこちに足を向けての気ままな散歩を続けており、気が付けば明日の待ち合わせ場所となる中央公園にやって来たのであった。
「へー、朝市かな?」
見たところ、十数台の屋台が公園の石畳の両側に並べられており、そこかしこに、混雑するほど多くはないがそこそこの数の観光客で賑わっているのを見ると、のどかで平和なひと時に浸って心地が良い。
"そう言えば、上層部からの極秘資料の回覧に、
遥か東の方では戦争が始まったとの
情報があったよな"
ケンタリアから遥か東に位置する大国、ジンギスタ帝国。元はケンタリアと同程度の規模と国力の専制君主国であったが、周辺国を武力で制圧し、帝国を名乗るようになったのが10年ほど前。現在の皇帝は、パメラドール10世。一見すると暴君による圧政を想像するのだが、実は真逆で国民から信頼されているらしい。理由は農業や工業の生産性と技術力が高く、税金は他国と比べて低く、一般市民には比較的生活しやすい環境にあるためだとか。もしそれが本当なら、僕もそこに住んでみたいけどね、と思うカーンである。でも、侵攻を受けた国はそんな気になんて到底ならないだろう。そんな豊かな国でもあるジンギスタがなぜ周辺国に侵攻しているのか?しかも、かなり速いペースで。残念ながら当事者以外にその理由を知る由はないのだが、何れはこの地ケンタリアにもその災害級の嵐が来る危険性はあるわけだ。
「でも暫くこの地へ来ることはなさそうかな」
と呟くカーン。一見能天気な呟きではあるが、実はこの認識に対する明確な根拠がカーンだけでなく、ケンタリア人全てに共通している。それは、[クレーター]と呼ばれる巨大な穴の存在。この穴がかの地とこの地の間に何物をも拒絶する存在として横たわっていることこそ、能天気な呟きの根拠でもあったのである。このクレーターと呼ばれる穴は、実のところ途轍もなくスケールがでかい。その直径は数百キロ以上(場所によってはその倍はあるとの噂も)、深さはよくわかってないが数キロ以上と言われている。しかもクレーターの縁は断崖絶壁となっているため、底が見えず、普通に降りて調査するのが不可能ときている。そして、このクレータの存在が、ケンタリア東部における自然の要害として機能しているのである。
さて、何かこの場に相応しくない話題で物思いに耽りつつ、特に何の当てもなく朝市を見て回るのであるが、ふとアクセサリーや雑貨の類を売る屋台に目を止めることに。特に売っている物が高い訳ではなく(と言っても観光客相手なのでそれなりに高くはあるが)、珍しい物でもないものの、無意識のうちに何かが目に入って足を止めた。それは、小粒の赤い石をはめ込んだ金のネックレス。この惑星サモナルドでは金という金属はごく普通に採掘されるものであるが、金属による肌荒れを引き起こすことはないため装飾品として一般的に使われたりする。従って特に目立つものではないのだが、気になったのはそこに嵌められている小ぶりの涙型に加工された赤い石。多分ルビーとかいう石で、これが本物なら結構な値段がつきそう、という男にはあまり必要のない知識をなぜか持つカーンである。大きさと言い値段といい、本物っぽい気がするのだが、何分ここは朝市の屋台。うーん、買うかどうか悩むなー。
「ねー、おじさん、
このネックレスにある石って、ルビーですか?」
「そりゃ当然。本物の天然ルビーですよ、お客さん。
彼女さんへのプレゼントにどうです?」
手持ち資金はそれなりにあるので、買うこと自体は問題ない(カーンの場合、お金を使うことは飲食以外になく、衣服は軍からの支給品で賄っているので貯まる一方)。それに、明日はサリの誕生日だし、今後の予定を考えると何か買いに来る時間は取れそうにないし。よし、決めた。
「そのネックレスをください。
あ、あと、プレゼント用に包んでもらえますか?」
「あー、いいよ。もっとも包装代は別料金なんだが、
ネックレスを購入してくれたんで、まけとくよ」
「有難うございます。では、お金はこちらに」
「確かに、毎度あり、では包装しておくね。
はい、どうぞ。彼女さん、きっと喜びますよ」
「いえいえ、彼女ではなくて、友人なんですが。はは」
「別にここで照れることではないけどな。
まっ、いいや、しっかり頑張りな」
いやいや、何を頑張れというのか。そう言えば、サリとは男女の仲みたいに意識したことはないんだよな。元々僕も彼女も同じ召喚術師養成学校の同級生で、ただ僕は別の町から転入してきたんだけどね。あっ、そう言えば何か昔の事を色々思い出してきた。はは。




