14.天へありがとう
「咲也、読み終えた?」
「うん、ちょうど昨日の夜に一気読み。英人は?」
「オレも一緒」
例の木下先生の新刊。ようやく、自分たちの〝体〟で二人は読み終えた。
今回もピュアで切ない青春ラブストーリー。定番だけど、それゆえに安定していた。ただ一つ、
「何で、バッドエンドにしたの、ママー!」
一花が嘆く。
体が入れ替わった二人の少年は、同時にタイムリープをしていて、相手が事故で死ぬと分かった主人公は過去を変えようとしたものの、運命には逆らえず――という内容だ。
「殺すって、担当編集が決めんの?」
舞愛が一花から借りた新刊をつまんなそうに流し読みをしながら聞く。
「分かんないけど、打ち合わせはするんじゃないかな? 今回は切なすぎる……でも、来世で会おうとか期待させて終わって、ヒキョー!」
「それ、一花のことじゃん。来世で会おうって、約束したんでしょ? 元カレと」
「だから元カレじゃ……御加世さん、まさかこの作品を盗作したんですか?」
四人が放課後の屋上で集まる中、御加世が椅子に座っているかのような姿勢で宙に浮いたまま、仕事の合間の休憩とやらをとっていた。
「盗作って、それ何なのよ。ホモの本なんて、読んだことないわよぅ」
「ホモって言い方しないで! BLはちゃんとした確固たるジャンルの一つなの!」
スッと舞愛が無言でBL本を御加世に差し出す。仕方なく受け取った御加世はページをパラパラめくっていった。
「でも、御加世さん。僕らは、本当に〝自然界〟の仕業で助かっただけ?」
それは都合良すぎると一花も思っていた。が、
「死ぬのは決まっていたわ、こちらのデータでは。ただ、一回目の衝突ではなく、二回目があるはずだったのよ。そこに風が……ってワケよ。でもそれ以前に、私が強制的にソウル・キャンセレーションしたのが運命を変えてしまった要因かもしれないわ。まっ、そこら辺は私が分析して調査する事であって、あなたたちはこれ以上、何も関係はないわ。でも、あぁ……報告書が……勝手にソウル・キャンセレーションなんかしちゃって、閻魔大王様に大目玉くらったわ。しばらくテンション下げ下げで立ち直れなーい……」
いつものミス連発の御加世は健在だった。一花はもちろん、その場の全員も、もはやため息をつくしかなかった。
「そういえば、英人くんの〝能力〟は?」
「あれから、目に色が付いた人がいないんだよな、何で? 御加世さん」
「なんでもかんでも、私は解説者じゃあないのよ? でも、そうねぇ……おそらく、あの能力は〝自分への警告〟だったんじゃないかしら? もう、命が助かったから必要なくなったというワケね」
「え、オレってこの先、死なないの? 不死身?」
「んなワケないわよ。普通に迎える寿命はあるでしょうよ。しかし、あぁー惜しいわ。いい能力だったのにぃー」
「惜しいって、オレをどうするつもりだったワケ? あの世にご招待されて、働かせられるのはゴメンなんだけど?」
「ジョークよ、ジョーク」
おほほ、と笑った御加世の顔がギクシャクしていた。何を考えていたのか恐ろしくて一花はツッコめない。
「で、犯人は地獄に落ちんの?」
舞愛が容赦ない一言を放つ。
会社を首になってむしゃくしゃした。というのが供述のようだが、何とも迷惑極まりない。重軽傷のケガ人が英人を含めて五名も出したが、あれだけの事件で死者が一人も出なかったのは奇跡と言える。
「まだ死んでないわよ。それに、この世で刑を償ったならば、必ずしも地獄行きとは言えないのよねぇ」
「そんな……英人は二週間も入院する大けがだったのに……」
咲也は納得がいかない顔をする。
英人は全身の打撲に加え、肋骨が一本折れていた。そのせいでお正月はもちろん、冬休みはずっと病院で過ごすハメになってしまったのだった。
「咲也、オレは誰も恨んでないよ。憎しみからは何も生まれないって言うじゃん?」
すっかり二人は下の名前で呼び合っていた。
「ねぇ、お節介な質問だけど、お二人はすでに付き合っちゃってるの? この本より、あなたたちの結末の方が、おばさん気になっちゃうわぁ」
咲也の顔が一気に紅潮する。一花にとっては、推しのそんな姿を拝めるのは嬉しいが、やや英人に嫉妬する。文句なしの相手だが、学年トップの座だけでなく、推しまで奪われるとは不覚である。
「とりあえず、受験が終わるまでは告白はなしだってさ。本来の元の姿でも、お互いの気持ちを確かめ合いたいって。そうだろ?」
コクンと咲也は頷く。
「えらい慎重に慎重を重ねるのねぇ。そうね、人間には受験ってのがあるのよね。でも、あなたたちの偏差値なら余裕でしょうけど。まっ、がんばんなさーい」
「あっ、待って!」
いつものように去って行こうとした御加世を一花が引き止める。
「……はじめちゃんは、元気? って、ヘンな質問だけど」
「あぁ、その本と一緒だったわね、来世で会えたら結婚しようって。それなら、吉報よ。この間、来世へと旅立ったところよ」
「えっ」
「ただし、魂は浄化されてるから前世の記憶はないわ。それに、今から生を受けたとして、はじめちゃんが成人するのは二十年後。一花ちゃんは四十ねぇ……だから、私みたいに魅力ある美魔女になって待ってることね、うふふ。ってことで、それも含めてがんばりなさぁい。じゃね、バイビーン!」
今度こそ、御加世は消え去った。御加世とはもう会えないだろうと、心のどこかで思いながら、そしてこの世にも奇妙な半年を一花は思い返す。
「じゃっ、あたしもパート行ってくるー」
舞愛が立ち上がり、
「オレらも、行こっか」
「うん」
英人と咲也がさり気なく手を繋いだのを一花の鋭い目は見逃さなかった。
一人になった屋上で手すり壁にもたれ、一花は空を見上げる。
あの頃とは違う清らかに澄み切った景色が、そこには広がっていた。
「ありがとう」
誰にともなく、一花は天へと届くよう小さくささやいた。
〈了〉
最後まで読んで頂きありがとうございます!
一花たちに、
明日の希望がありますように…
また、
次作でお会いしましょう('ω')ノ




