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プロローグ


ゴトン、ゴトン――。


馬車が石畳をゆっくりと進んでいく。

窓の外には、見慣れたはずの草原が広がっていた。

孤児院を出発してから、もう一時間ほど経っただろうか。

今日から私は、憧れだった教会でシスター見習いとして暮らす。

胸は期待でいっぱいだった。


「シーナ、大丈夫かい? もうすぐ着くよ。」

御者のおじさんが優しく声をかける。


「はい! 大丈夫です!」

笑顔で返事をした、その瞬間だった。


――ズキッ。

突然、頭の奥を鋭い痛みが貫いた。

「っ……!」

思わず頭を抱える。


すると次の瞬間、見たこともない景色が脳裏へ流れ込んできた。


高くそびえる建物。


夜でも昼のように明るい街。


四角い板を見つめながら歩く人々。


耳元で鳴る電子音。


そして――。


『お疲れ様です。』


『今日も残業?』


『また明日ね。』


『明日までにこれやっておいてね』


知らない人たちの声。

知らないはずの生活。

知らないはずなのに、全部知っている。


「な……に、これ……。」

私は、この世界で十年間生きてきた。

孤児院で育ち、シスターになることだけを夢見てきた。

なのに、頭の中にはもう一人の記憶がある。

日本という国で暮らし、会社員として働いていた、一人の女性。


まるで昨日まで自分だったかのように、過去の記憶が鮮明によみがえってくる。


「私……。」


私は、シーナ。


それとも――。


「着いたよ。」

御者の声で我に返る。


目の前には、白く大きな教会が静かにそびえ立っていた。

胸の鼓動だけが、いつまでも収まらない。


この日を境に、私の運命は大きく動き始めることになるなんて――。


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