53.なになに、この人達恐いんだけどっ
「じゃあね、悟」
放課後、いつもの場所で神崎さんと、お別れの挨拶をする。
いつも思うけど、また学校で会えるのに、別れ際はどうして、そんな寂しそうな表情をするんだよ? 別れず辛いじゃんかっ。
「うん、また明日ね」
「うんっ」
そして、なぜ俺がお決まりの言葉を言うと、幸せそうに微笑むんだよ? 俺だから良いけど、勘違いするからね。
「いつも思うけど、無防備な表情……あんまり人前でしない方が良いよ」
「無防備?」
不思議そうな顔をして、可愛らしくこてんと、小首を傾げる神崎さん。もう、そう言うところだぞ?
「だから、可愛らしい仕草とか、幸せそうな笑顔とか……男の子だったら、普通に胸に来て、勘違いするから」
「悟はしてくれないの?」
「……なにを?」
「勘違いだよ……ばかっ」
ん? いやいや俺はしないぞ。普通に叶わぬ恋確定だし、神崎さんとの関係ギクシャクするだけじゃん。
「大丈夫。俺は勘違いとかしないから」
そう告げると、彼女はプクッと膨らませる。
「絶対、分かってないじゃん。そこも悟の良さだけどさ」
ん? この答え、間違ってたのか……女心はマジ分からんわ。
「でも、悟は……そのままでいてね」
そう言って神崎さんは、去って行く。去り際、彼女の頬がうっすらと赤らんでいた。
そのまま? そのままってなんだ? 俺はいつも通り平常運転なんだが。それじゃ、駄目な所が有るの? よー分からん。俺は俺の思った通りにしか、行動してるだけなのに。
「デートぶりだねー、悟ー」
げ、この気怠げな声って。俺は声のした方を向く。そして、俺は驚く。
「賀東先輩どうも……その、後ろの三人は?」
賀東先輩の周りには、初めて見る顔が三人いた。多分、彼女と同学年の人達だと思うけど。
「あー、アタシの友達ー」
え、それだけ? 一人一人、名前教えたりしてくんないのか?
「この子が影野~?」
「地味だねー。非モテ陰キャって感じー」
「この子耐えられるかしらね。その前に目一杯、快楽に溺れるか」
なになに、この人達恐いんだけど。何言ってんの?
「とりあえずー、人気のない場所行こうかー?」
軽く笑って言う賀東先輩。でもその目は、獲物を狙う猛禽類のように、光っている。
「念のため確認なんですけど、なんで人気のない場所なんですか?」
「んー、楽しいこと、かなー」
いやいや答えになってねえからっ。
「そんな細かいこと良いじゃ~んっ」
「さっさと行こー」
「……ちょっ」
三人の内二人が、俺の腕を強引に掴み引っ張る。後ろから、もう一人の声が聞こえる。
「大丈夫。最初は不安かもだけど、気持ち良くなって楽しくなるからっ」
気持ち良くなって、楽しい……え、この人達もしかして、俺を襲おうとしてるのかっ?
遂に真っ当な手段じゃ、頭文字Dを取れないから、強引に来たのか。しかも仲間を引き連れてっ!!
「はー、あの俺マジで帰りたいんですけど?」
俺がそう言うと、賀東先輩はイタズラっ子のような笑みを、浮かべる。
「だめー。アンタには、一生経験できないような快楽とー、屈辱を与えるからー」
は? この人ずっと何言ってんだ?
「……付き合ってられない」
俺はそう言って、掴まれている両腕を持ち上げ、思い切り振り下げる。掴まれていた手が、どちらも離れる。
「なっ」
「えっ」
手を離された二人は、驚きの声を上げたまま、硬直する。
「俺、そういうの興味無いって言いませんでしたっけ?」
俺は、真っ直ぐに賀東先輩を見る。彼女は顔を強張らせていた。
「まあまあ。これから、いい思いさせてあげるから」
そう言って、後ろからポンと肩を叩かれる。
「触るなっ」
俺は後ろを向いて、怒鳴る。怒鳴られた人は、俺の勢いに押されて、少し後退る。
まったく、なんで俺……女の子に、怒鳴んなきゃいけないんだよ。疲れるな。
「悟、大丈夫っ!?」
遠くから、聞こえた声に驚く。え、帰ったんじゃない、の?
俺は、声の聞こえた方へ顔を向ける。そこには、神崎さんがいた。怒りと戸惑いを孕んだ表情で。




