49.賀東先輩の男運が、悪かっただけの話では?
「お待たせー」
昼前、学校近くの駅で俺は賀東先輩と、落ち合わせた。心の底から思う。どんだけ待たせんだよ、この人っ。かれこれ、二時間は待ったかんなっ。
「そこは今来たところだよって言わないとダメなんだよ」
「いや本当に、長い時間待たされたので、言えないです」
これが、カップルなら言えたのかもしれんが、俺と賀東先輩は単なる知り合いだからな。言う義理も筋合いもない。
「っていうか、デートだって言ってるのに、全然オシャレしてこなかったの?」
心底呆れたように、賀東先輩が言う。ま、そこは俺も考えたけど、賀東先輩に良く見られたいって思ってないし、神崎さんと約束したからな。モテるような行動はしないでってのが、よく分からんけど。
「無駄に背伸びしても、仕方ないなと思ったので」
俺は思った事をそのまま言う。
「ホント、悟って下心というか、隙を一切見せないね」
「隙……ですか?」
「そう。人は誰しも下心……ぶっちゃければ、性欲。気持ち良いことを求めてるの」
ん? なんか、急に哲学的なこと言い始めたぞ、この人。
「それで、その味を……快楽を知ってしまったら、人は抗えない。次を求めるものなの」
そう言われてもな。っていうか、駅の改札口そばで話すことじゃないだろう。周りに人居るんだから、そこら辺気遣ってくれよ。変な目で見られたら、どうすんだ。
「そういうの、俺一切興味無いですね」
だって俺、非モテ陰キャだからな。顔だってイケメンでも、可愛い系でもないし。それにな
「やっぱ……そういうのは、心の底から好きな人と、するものだと思うので」
俺はそう思う。もちろん相手も、俺と同じくらいの気持ちを持っていて、双方合意の上で。
幻想を抱くなって言われれば、それまでだけど。非モテ陰キャ達の理想は、大体こんな物だと思う。こう思ってんの俺だけじゃないよな……な?
「綺麗事ね。口ではいくらでも言えるよ。快楽を知ったらね、心と頭はそれだけに囚われちゃうの。今まで会った男は、皆そうだった」
それは単に……賀東先輩の男運が、悪かっただけの話では? 男全員が全員、ヤリたがりのサルとは、限らないんじゃねえか? 知らんけど。
「まあ、それは置いといて。この後、どうするんですか?」
俺はいつまでも、ここで長話するのは息が詰まるなと思って、予定を聞く。
「そうだねー。あんまり予定は決めてないけど、駅の中適当にブラついて、学校とは逆の方面に行こうよ。っていうか、デートプラン立ててこなかったの?」
なんだその、それ出来て当たり前でしょ? みたいな顔は?
いやいや、そもそも論。賀東先輩、貴女からデート誘ってきたんだよ。だったら、誘った側が予定を立てるのが普通なのでは?
なんだ俺が間違ってんのか? 女性から誘われても、デートプラン考えるのが当たり前なのか? くそっ……こんな事学校じゃ、一切習わなかったぞ。しっかりしてくれよ、先生。
「とりあえず、この駅構内の服屋へ……レッツゴー」
「ちょっ」
いきなり、賀東先輩が俺の腕に、身体を押し付けてくる。因みに賀東先輩の服装は、可愛らしい犬のイラストが入ったタンクトップに、お尻しか隠されてない黒のミニスカート。
感心したのは、胸がない方なのに、大胆なの着て大丈夫? って思ったけど、胸元に白と金のハート型のネックレスが付けられて、自然に胸元に目が行くように、工夫されている。
人間は大体、アクセサリーとか光ってる物見たら、そっちに目向くからな。ホント、上手いこと考えられてるわ。と、それどころじゃねえ。
「賀東先輩、離れてください」
「ん? どうしてかなー?」
絶対、確信犯だろ。良かった~、長袖パーカーで。これが半袖だったら、モロに肌と肌が接触して、変な気分に……それこそ、狼に強制的にならされてたわ。
「単純に歩き辛いですし、俺と賀東先輩は恋人でも、友達でもない。ただの知り合いなので」
「ホント、バッサリ言うよねー」
つまらなそうに言って、賀東先輩が離れる。よし。これでなんとか俺の中の秩序は、保たれそうだ。
「じゃ、行きましょうか」
俺はそう言って歩き出す。
「ちょっと待ってよー」
後ろから、賀東先輩の声が聞こえるけど、無視だ無視。俺はひたすら目的地へと、歩みを進める。
今日俺、絶対疲れるの確定だな。俺は内心で溜め息を吐くのであった。




