199 決意
「よし、今日はここまで」
宮本の声がグラウンドに響く。
一気に張り詰めていた空気が、少しだけ緩む。
「集合」
その一言で、全員がベンチ前に集まる。
蒼もタオルで汗を拭きながら、その輪に入る。
「さっきも言ったけど」
宮本が全体を見渡す。
「今年は一部リーグ、本気で狙う」
「……」
静かに、全員が聞いている。
「その分、練習もキツくなる」
「中途半端なやつはいらねぇ」
「……」
少しだけ間。
「今日みたいな練習が、基準だと思え」
「……」
「以上」
短く言い切る。
「各自、ダウンして解散」
全員が動き出す。
ストレッチを始めるやつ、水を飲みに行くやつ。
少しずつ、空気が日常に戻っていく。
「おつかれー」
「ナイスバッティングっす」
そんな声が飛び交う。
蒼は少しだけ戸惑いながら、軽く頭を下げる。
「……あざっす」
まだ少し距離がある。
でも、完全に外じゃない。
そんな感覚。
「柏木」
声がかかる。
振り向くと、見知らぬ先輩が立っていた。
「……はい」
「さっきのバッティング、やばかったな」
少し笑いながら言う。
「……いや、たまたまっす」
蒼が少しだけ苦笑する。
「いやいや」
もう一人が会話に入ってくる。
「木製であれは普通にえぐいって」
「……」
蒼は言葉に困る。
その様子を見て、二人が笑う。
「まあ、これからよろしくな」
「……はい、お願いします」
軽く頭を下げる。
「ポジション、ファーストでいく感じ?」
「……多分」
「そっか」
軽く頷く。
「まあ、ファーストも競争あるからな」
「……」
少しだけ空気が変わる。
「まあでも」
もう一人が笑う。
「今日の感じなら、普通に食い込んできそうだけどな」
「……」
蒼は何も言わず、軽く笑うだけ。
(……競争、か)
グローブを見つめる。
「おー柏木」
流夜が近づいてくる。
「ナイスホームラン量産マン」
「……なんすかそれ」
少し呆れたように返す。
「いやだって」
流夜が笑う。
「あれはちょっとやりすぎだろ」
「……たまたまっす」
「出た出た」
軽く肩を叩く。
「そういうやつに限って普通に打つんだよな」
「……」
蒼は少しだけ笑う。
「……」
軽く息を吐く。
周りを見る。
さっきまで他人だったやつら。
でも今は——
同じグラウンドに立っている。
同じ方向を見ている。
「……」
タオルで汗を拭く。
夕方の風が、少しだけ気持ちいい。
(……ここで、やる)
静かに、そう思った。




