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蒼色の恋に。  作者: ひろねる


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179 澪の言葉

温泉を出ると、外の空気は一段と冷えていた。

吐く息が、白く広がる。

「……あったまったな」

蒼が軽く肩を回す。

「うん」

愛菜も頷く。

身体の芯に残る熱が、外の冷たさと混ざって心地いい。

帰り道。

行きよりも少し静かになる。

雪を踏む音だけが響く。

「ここでいいや」

家の前で、澪が立ち止まる。

「じゃあ、また明日」

さらっと言う。

「おう」

蒼が頷く。

「ありがとな」

「いいよ別に」

軽く手を振る。

「じゃあね」

澪が愛菜に向かって言う。

「……はい」

愛菜も小さく頭を下げる。

「ありがとうございました」

「うん」

少しだけ笑って——

澪はそのまま自分の家の方へ歩いていく。

「……いい湯だったな」

蒼がぽつりと言う。

「だな」

軽く息を吐く。

「どうだった?」

ふと、愛菜を見る。

「澪と何話したん?」

「……え」

愛菜の肩が、ぴくっと揺れる。

(さっきの話……)

一瞬で、あの質問が蘇る。

顔が、じわっと熱くなる。

「べ、別に……普通だよ」

少し早口になる。

視線を逸らす。

「ちょっと昔の話とか」

「ふーん」

蒼が何気なく返す。

「……」

愛菜は、落ち着かない。

自分でも分かるくらい、動揺している。

「なんかあった?」

蒼が首を傾げる。

「いや、別に!」

少し強く言ってしまう。

「……」

蒼が少しだけ眉をひそめる。

「なんで怒ってんの?」

「怒ってないし!」

即座に返す。

そのとき——

「おかえりー」

玄関の方から、母の声。

「ご飯できてるよー」

「お、ちょうどいいな」

蒼が言う。

「腹減った」

「……うん」

愛菜も小さく頷く。

食卓。

温かい料理が並ぶ。

「いただきます」

二人で手を合わせる。

「どうだった、温泉」

母が聞く。

「よかったよ」

蒼が答える。

「めっちゃあったまった」

「でしょ」

母が笑う。

「愛菜ちゃんもどうだった?」

「すごくよかったです」

少し落ち着いた声で答える。

「気持ちよくて」

「それならよかった」

母が嬉しそうに言う。

会話は穏やかに続く。

でも——

愛菜の中には、さっきのことが残ったまま。

(澪ちゃんのあの言葉……)

頭の中で、何度も繰り返される。

部屋に戻る。

布団が二つ、並べられている。

「……懐かしいな、この感じ」

蒼がぽつりと言う。

「来たとき、だいたいここで寝てたし」

「そうなんだ」

愛菜が少し笑う。

布団に入る。

静かな時間。

「今日さ」

蒼が天井を見ながら言う。

「なんか色々あったな」

「……うん」

愛菜が小さく返す。

「澪とも久しぶりにちゃんと話したし」

「そうだね」

「お前も、あいつと話してたけど」

少しだけ横を見る。

「どうだった?」

「……」

愛菜は、一瞬言葉に詰まる。

(ヤったの?)

また浮かぶ。

「……普通」

なんとか言う。

「いい人だなって思った」

「だろ?」

蒼が少し笑う。

「昔からあんな感じだし」

「……うん」

愛菜も頷く。

少しだけ、間。

「ねぇ」

愛菜がぽつりと声を出す。

「……」

返事はない。

蒼を見る。

もう、寝ている。

静かな寝息。

「……はぁ」

小さくため息をつく。

天井を見る。

暗い部屋。

頭の中は、まだ落ち着かない。

(澪ちゃんのあの言葉……)

頬が、少しだけ熱くなる。

静かな夜。

その感覚だけが、残り続けていた。

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