114 大学のこと
バックヤードで制服に着替えたあと、
蒼は七海を連れて売り場に出た。
「じゃあ、まずは基本からな」
「レジはこうやって̶̶」
バーコードを通しながら説明する。
「で、袋いるか聞いて、会計して̶̶」
手順を一通り見せる。
七海は横で、真剣な顔で見ていた。
「……こんな感じ」
「まあ、やってれば慣れる」
蒼はそう言って、軽く肩をすくめる。
「品出しは裏から持ってきて並べるだけだし」
「そんな難しくねぇよ」
一通り説明を終えて、七海の方を見る。
「……どうだ?」
「わかりそうか?」
七海は、ぱっと顔を上げた。
「はい!」
元気よく頷く。
「なんとなくは!」
「わかんないことあったら聞いてくれ」
「はいっ!」
素直な返事。
その様子に、蒼は小さく息を吐く。
「……なら大丈夫か」
少し間が空く。
店内には、レジの電子音と、
外から聞こえる車の音が混ざっていた。
ふと、蒼が口を開く。
「そういやさ」
七海の方を見て。
「どうだ?新学期」
七海は少しだけ肩をすくめる。
「もう普通に始まりましたよー」
「朝早いし、だるいしで最悪です」
「まあ、そんなもんか」
蒼は軽く笑う。
七海は続ける。
「でも友達と久しぶりに会えたのはよかったです」
「夏休み長かったですし」
「……いいなぁ」
ふと、七海が呟く。
「大学生ってまだ夏休みなんですよね?」
少し羨ましそうに。
蒼は頷く。
「まあな」
「大学生は9月も休みだから」
「いいなぁ~」
七海は大げさにため息をつく。
「毎日昼まで寝てるんですか?」
「いや、さすがに毎日は寝てねぇよ」
少しだけ笑う。
「バイトもあるしな」
「たしかに」
七海もくすっと笑った。
少し空気が柔らぐ。
蒼は何気なく、次の話を振る。
「そういや」
「お前、進路は?」
七海は一瞬きょとんとしてから、すぐに答えた。
「私、大学行きますよー」
「へぇ」
「どこ受けんの?」
七海は少しだけ得意げに言う。
「家も近いですし̶̶」
「京葉、進もうかなって思ってます」
その言葉に、蒼は目を丸くした。
「まじか!?」
思わず声が出る。
「まあ、近いしな」
「通いやすいだろうし」
七海はにやっと笑う。
少しだけ顔を近づけて。
「それに̶̶」
一瞬、間を置く。
「蒼先輩もいますしね?」
いたずらっぽい目。
完全に分かってて言っている。
蒼は小さく息を吐く。
「……はいはい」
軽く流すように答える。
でも̶̶
そのやり取りが、少しだけ心地よかった




