99 花火大会行くの?
週末、土曜日。
夕方のスタジアムは、すでに多くの観客で賑わっていた。
照明が灯り始めた球場。
グラウンドでは、試合前の練習が行われている。
蒼はスタンドの入口付近で、軽く中を見渡した。
(やっぱり……いいな)
そのとき。
「お待たせ」
後ろから声がした。
振り返ると、小夜が立っていた。
落ち着いた私服。
シンプルなのに、自然と目を引く。
蒼は軽く頭を下げる。
「全然っす」
小夜は少しだけ笑う。
「ほんとに?」
「はい」
二人はそのまま並んで歩き、席へ向かった。
座席に座ると、グラウンドが一望できる。
ちょうど選手紹介が始まるところだった。
試合が始まり、数イニング。
鋭い打球音。
歓声。
応援のリズム。
そのすべてが重なり合う。
蒼は自然と前のめりになっていた。
「……やっぱすごいっすね」
ぽつりと呟く。
小夜も頷く。
「ね」
「やっぱりプロ野球っていいよね」
少しだけ視線をグラウンドに向けたまま、続ける。
「高校野球とはまた違う感じ」
蒼も同意する。
「そうっすね」
「高校野球は、どっちかっていうと“必死さ”っていうか……」
「こっちは、完成されてる感じします」
「分かる」
小夜は小さく笑った。
「どっちもいいんだけどね」
そのまま二人は、しばらく試合に見入る。
打席ごとの駆け引き。
ピッチャーの配球。
細かいプレー一つ一つに反応しながら。
数回が過ぎた頃。
小夜がふと思い出したように口を開いた。
「そういえばさ」
蒼が視線を向ける。
「はい?」
「幕張の花火大会、行くの?」
不意の質問。
蒼は一瞬だけ言葉を止める。
頭に浮かぶのは、あの日の約束。
少し考えてから答える。
「……行きますよ」
小夜は「ふーん」と軽く返す。
そして、ほんの少しだけ間を置いて̶̶
「凛ちゃんと?」
さらっとした口調。
けれど、核心を突く一言だった。
蒼はわずかに目を逸らす。
「……まあ」
完全には否定しない。
小夜はその反応を見て、少しだけ口元を緩める。
「そっか」
それ以上は追及しない。
また視線をグラウンドに戻す。
ちょうどそのとき。
鋭い打球が外野を抜けた。
スタンドが一気に沸く。
蒼と小夜は同時に立ち上がりかける。
「うわ、今の̶̶」
「完璧に捉えたね」
言葉が少し重なる。
一瞬、顔を見合わせる。
小夜がふっと笑う。
「……楽しそうだね、蒼くん」
蒼は少しだけ照れたように笑った。
「そりゃあ、まあ」
その横顔を、小夜はほんの少しだけ見つめる。
何も言わずに、またグラウンドへ視線を戻した。




