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貧乏貴族の俺が貴族学園随一の麗しき公爵令嬢と偽装婚約したら、なぜか溺愛してくるようになった。  作者: ななよ廻る
エピローグ

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エピローグ 俺のユーリアナ

 鉱輝祭が無事に終わって……というには、騒動の大きさにいまでもめまいを起こすが、どうにか終わって3日が経つ。

 相変わらず空は白い雲に覆われ、その雲の粒がひらひらと落ちてくるように雪が降っていた。


 今日は学園も平常授業。

 鉱輝祭の片付けは学園の者が行い、生徒たちはすっかり日常に戻っていた。


「……頭痛い」


 ただ、俺はというと、離れの小屋のソファーで行儀悪くも寝転がり、青ざめていると自分でもわかるほど体調を崩していた。もともと、そう頑丈でもなかった体は、鉱輝祭の騒動で見事にやられたようで、俺を内側から蝕んでいた。


 だったら、部屋で寝ていろ、という話なのだが、そうもいかない事情がある。


「紅茶を飲むかい?」


 ユーリが額に冷たい布を乗せてくれる。

 いつかと逆に看病されていて、その上で平時通りの彼女に「水で……」と呆れ混じりに頼む。


 水差しから紅茶のカップに水を注いでくれる。

 普通のコップで、と思わなくもないが、そういえばユーリがカップ以外でなにかを飲むところを見たことがない。こだわりでもあるのだろうか。


 カップを受け取って水を飲むと、ユーリは俺の寝ているソファーの肘置きに座って、深々と雪が降り積もる窓の外を見ながら、おかしそうに笑った。


「いまごろ、学園では相変わらずの騒ぎだろうね」

「……思い出させるなよ」


 頭痛が強くなる。

 腕で目元を隠すと、暗闇の中であのあとのことがありありと思い浮かんでしまう。


 アルローズ公爵が去った大広間は、それはもう大騒ぎだった。

 俺とユーリが……まぁ、告白をして、キスをしたのだ。見ている人がいるのはわかっていたはずなのだが、あのときは頭も働かなかったし、熱に浮かされていたんだ。

 いま思い出しても、恥ずかしさで顔から火が出そうだ。


『――素晴らしい! なんて美談だ!』


 そう声を上げたのは誰だったのか。

 拍手喝采。

 涙を誘う劇の幕が下りたような賛美が飛び交い、『それでこそ男だ!』『なんて男気だろう!』『騎士に守られるお姫様みたい!』と口々に俺たちを褒め称えた。


 まさに舞台俳優さながらで、人生の最大級の決心は、人々を感動に誘う美談にされてしまった。


 その話は瞬く間に広がって、どこをどうすればそうなったのか、俺がユーリを貰い受けるためにアルローズ公爵に決闘を申し込んで勝ったという、わけのわからない話になっていたりする。


「私はすっかり物語のお姫様だね」

「俺が騎士って柄かよ」

「ふふ、似合っているよ」


 ユーリにすらこうしてからかれて、知らない生徒からはありもしない騎士像を褒められて、学園で授業を受けるどころではなかった。

 実際のところ、寝込むほど体調は悪くないのだが、いまだに夢物語にどっぷり浸かっている学園に登校する気にはならず、こうして引きこもっているわけだ。


 情けないことこの上ないが、一生分の勇気を振り絞ったんだ。

 しばらくは怠惰に過ごさせてもらいたい。


 はぁ、と熱っぽい白い吐息を出して、そのまま瞼を閉じる。

 頭は痛いし、逆上せたように熱いが、あっさり意識を手放せそうだった。そのまま眠りに落ちようとして――体の上にユーリが乗ってくる。


「……はしたないぞ」

「いいだろう? 私たちは正式に婚約者になったのだから」


 そう言って、胸元からネックレスを引っ張り出す。

 そこには告白の折に贈った黄金の指輪が通されていて、室内の明かりに照らされて揺らめく淡い光を反射していた。


「あれは、認めてくれたのか?」

「お父様の許可なんて必要ないけどね」


 ユーリはそう言うが、正式という言葉を使う時点で、多少なりとも意識はしているのだろう。指摘したら、鼻を摘まれそうだから言わないけど。


 アルローズ公爵から音沙汰はない。

 たった数日。最短で手紙を送っても、早々届く日数じゃないが、どうするんだろう? という疑問が日々心の隅で大きくなっていた。


 ユーリは放っておけというが、好きな人の家族に認めてほしい、という気持ちはある。

 ……あの人の前にまた立つのかと思うと、氷の瞳を思い出して身震いするが。


 そのときまで、まだ空っぽの勇気を溜め直さないといけない。

 でも、鉱輝祭のときは勢いだったからなー、と早くも弱気が顔を出す。


「お父様の話はどうでもいいんだよ」

「んぐ」


 むぎゅ、と鼻を摘まれる。

 結局、どうあれ俺の鼻はユーリに潰される運命だったらしい。そのままぐりぐりしたユーリは、俺の胸にそっと頬を添える。甘えるような所作に、顔が見えないことをいいことに頬が緩んでしまう。


「せっかく2人きりなんだ、大事な恋人に愛を囁くべきだろう?」

「……好きだよ?」


 照れもあるが素直に言うと、ユーリは嬉しそうに笑って頬を擦り寄せてくる。

 猫みたい。

 そう思うが、甘い花のような匂いも、女性特有の柔らかさも、まるで猫とは違い、もとから高い熱がさらに上がってしまいそうだった。


 恋人、ね。


 ここ数日は夫婦という言葉よりも、よく使う。

 意識してか無意識なのかはわからないが、恋人という関係性はユーリが喜ぶに足る甘い菓子のような響きがあるらしい。俺も俺で、その言葉を舌に乗せるときの、幸せを噛み締めるような表情が好きで、つい聞きたくなってしまう。


 駄目だなー、完全にやられている。


 熱はいつ下がるのやらと、心配になる。

 こうして抱き合っている時点で、それは心配するフリなんだろうけども、頭の隅にぐらい残しておかないと、馬鹿になりそうだった。


 とはいえ、いまはこの幸せに酔っていても許されるだろう。


「晴れたらさ」

「ん?」


 ユーリが喉を鳴らす。


「どこか出かけようか。買い物でもいいし、劇場でもいいから、どこか……2人で」

「デートだね!」


 濁した俺の言葉をハッキリ言葉にして、ユーリは喜色満面になる。

 もうちょっと奥ゆかしさを……なんて、言っても無駄だろうな。


 人の体の上でどこへ行こうかと指折り数える恋人を見て、そう思う。


「旦那様」

「ん?」


 と、今度は俺が喉を鳴らすと、ユーリは雪が溶けて咲いた花のように温かく笑った。


「大好きだよ――私の旦那様」


 釣られて笑って、俺のユーリアナ()を引き寄せた。



◆貧乏貴族の俺が貴族学園随一の麗しき公爵令嬢と偽装婚約したら、なぜか溺愛してくるようになった。_fin◆


最後までお付き合いいただきありがとうございます!

クルールとユーリアナの関係を楽しんでいただけたなら、嬉しいです!

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