消えた記憶と愛する人の嘘 75 遠く感じる笑顔
朝食を終えると、まいは食器を片付けながら「何時ごろ会社に行くの?」と聞いてきた。
「1時くらいにここを出ようかな」
俺がそう答えると、まいは明るい声で「りよぉ〜かぁ〜い!」と言いながら、シンクへと向かう。
その様子を見て、少しだけ安心した。いつものまいだからだ
俺はソファに座り、ぼんやりとまいの後ろ姿を眺めていた。そんな俺の視線に気づいたのか、まいがくるりと振り返り、じろっとした目を向けてくる。
「謙、何エッチな目で見てるの! お尻ばっかりジロジロ見て!」
突然の口撃に、俺は思わず目を瞬かせる。
「はぁ? 何が?」
まいはますますムッとして、腕を組んだ。
「今、見てたでしょ!! 謙!! ちゃんと白状しなさい!!」
見ていたのは確かだけど、別にやましい意味じゃない。ただぼーっとしていただけだ。
「いや、見てたのは確かだけど、お尻をガン見してたわけじゃなくて、ただ何となく考え事しながら眺めてただけだって」
そう言っても、まいはまるで信用してくれない。
「久しぶりの電車なんだから、変なこと考えちゃダメだからねぇ!」
「俺、そんなに変態じゃないから」
呆れながらそう返すと、まいは「ふんっ」とそっぽを向く。
「俺はまいしか見てないから、安心しな」
そう言うと、まいがちらりと俺を見る。
俺はふと思った……
「……もしかして、まい?」
「なぁに?」
「俺が会社に行くのが気に入らないとか? もしかして、職場に気になる女の子がいるとか思ってヤキモチ焼いてる?」
まいは一瞬目を丸くしたあと、慌てて顔を背けた。
「な、なぁわけない! 絶対、絶対ない!」
そう言いながらも、どこかそわそわした様子で食器を洗い始める。
その仕草を見て、自然と笑みがこぼれた。
何となく、いつもの雰囲気が戻ってきた気がして、俺の胸の中に広がっていた不安も少しずつ薄れていった。




