消えた記憶と愛する人の嘘 49 【慌てるまい、新妻気取り?】
しばらく甘い時間を過ごした後、まいがふと何かを思い出したように、突然バッと立ち上がった。
「そうだ! おもてなしの用意、全然できてないじゃん!」
「あ?」
俺がきょとんとしていると、まいは一人でオロオロと部屋の中を見回し始めた。
「やばいやばい、こんなんじゃ、橘さんに”だらしない女” だって思われちゃう! 何かお茶請けとか用意しないと!」
バタバタと動き回るまいを見ていると、どう考えても“新妻”を意識しているのがバレバレだった。
きっと橘に「良い奥さん」的な印象を持たれたいんだろう。
その健気な姿が微笑ましくて、思わず俺は口元を緩めた。
すると――
「……なに笑ってるの?」
まいが俺をじっと見つめながら、ぷくっと頬を膨らませてきた。
「いや、別に」
「いやいや、今絶対 ‘可愛いなコイツ’ って思ってたでしょ!」
図星を突かれた俺は、なんとなく視線をそらす。
「ほら~! やっぱり! ちょっと~、真面目にやってよ! これは大事な ‘おもてなし’ なんだから!」
まいは軽く腕を組み、得意げに言った。
「はいはい」
適当に流すと、まいは不満そうに眉をひそめながら、少し考え込み――
「……よし、ちょっと茶菓子買ってくる! すぐ帰ってくるから!」
そう言って、小さなバッグを掴むと玄関へ向かう。
「え、わざわざ行くのか?」
「だって、何もないのはさすがにマズいでしょ? 友達来るのに!」
「そこまで気にしなくても……」
「ダメ! これは ‘大切なおもてなし’ なの!」
頑固そうな表情でピシャリと言い放つと、まいはサンダルをつっかけて、勢いよく玄関のドアを開けた。
「すぐ戻るからね!」
そう言い残し、さっそうと出て行ったまい。
俺はため息混じりに微笑みながら、その後ろ姿を見送った。




