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消えた記憶と愛する人の嘘 47 【名刺と、次の一歩、そして再会の約束】



家に着くと、まいは忘れないうちにと、名刺を差し出してくれた。

「はい、これ。橘純一って人の名刺だよ」と、まいの声には気遣いが込められていた。


俺は名刺を手に取り、じっとその文字を眺めた。

「橘純一…でも、全然記憶にないなぁ」と呟くと、まいはにっこりと笑って、「やっぱりね。でも、仕方ないから気にしなくていいんじゃない?」と、軽い口調で返してくれた。


そのやり取りは、まるで日常の何気ない一コマのように流れていった。

まいの穏やかな笑顔に、俺は少しだけ安心しながらも、心の奥ではこの先どうなるのか、少しだけ不安も感じていた。


しばらく静かな時間が流れた後、俺はふと思い出したように、

「とりあえず、この名刺のとこ、電話してみるよ」とまいに伝えた。


まいも、「うんわかった」と微笑んだ


携帯の番号を打ち込み、発信ボタンを押すと、すぐに呼び出し音が鳴り始めた。

しばらくすると、相手の携帯から何かの音楽が流れ、それが数秒続いた後、ようやく電話がつながる。


「ハイ」


低く落ち着いた男の声が聞こえた。


「高木ですが、橘さんの電話でよろしいですか?」


俺が丁寧に確認すると、相手は少し驚いたような間を置いた後、


「あぁ、謙か? 俺、純一。わかるか?」


と、親しげな口調で言ってきた。


俺は申し訳なさそうに答える。

「すみません。何も覚えてなくて……」


すると、純一は「あぁ、奥さんから聞いてるよ」と言いながらも、気遣うように尋ねてきた。


「で、どうなんだ? 体の方は大丈夫か?」


「はい、体は大丈夫なんですが……記憶が全然戻らなくて……」


俺がそう答えると、純一は少し考えるような間を挟んでから、


「電話だとらちあかねぇな。これから会わないか?」


と、はっきりした口調で提案してきた。


「……ちょっと待ってください」


俺はそう言って、一旦通話を置いて、隣の部屋にいたまいに声をかける。


「まい、これから橘さんを呼んでも大丈夫か?」


すると、まいはピクリと反応し、俺の方を振り向いた。


「……仕方ないなぁ〜」


少しムッとした表情でため息をつきながらも、最終的には了承してくれた。


「いいよ」


ちょっと拗ねたような声だったが、許可はもらえた。


俺は再び電話に戻り、


「大丈夫です」


と純一に伝えると、彼は安心したように笑いながら、


「よし、じゃあ1時間後に行くわ。見せたいものもあるからなぁ」


と、軽く約束を取り付けた。


そのまま電話を切ろうとしたが、ふと気になったことがあったので付け加える。


「あの、橘さん……それと、まだ結婚していないので、“奥さん” ではないです」


俺がそう言うと、純一は一瞬沈黙した後、電話越しに豪快に笑い出した。


「あー、そうだったな! ごめんごめん! つい勘違いしちまった」


そして、軽く咳払いをした後、おどけたような声で続ける。


「でもさ、謙の彼女、めちゃくちゃ綺麗な人だよな。羨ましいわ」


俺は一瞬返答に詰まり、


「……そんなことないですよ。普通です。」


と、とりあえず謙遜するように返した。


だが、その言葉とは裏腹に、心のどこかで少しだけ嬉しく思っている自分がいた。


ふと気配を感じて横を向くと、まいが腕を組みながらニヤニヤしてこちらを見ていた。


「……何?」


俺が不思議そうに尋ねると、まいは口角を上げたまま首を傾げて、


「別にぃ〜?」


と、わざとらしくそっぽを向いた。


どうやら、俺と純一のやり取りを最初から聞いていたらしい。


少し気まずさを感じつつも、俺は「じゃあ、1時間後に」と言って、純一との電話を切った。

時間は今3時。


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